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15 紙同会 法末鎮生を求めて諏訪井泉を得るのこと

前回までのあらすじ


雪村ゆきは田舎の高校一年生。

ある日出会った半透明の神様に教えられ、超人的な能力を身に付けました。

それから神様に命じられ小国紙同好会を作り、同じ能力をもつ仲間を集め始めます。

そして先日は、彫刻の天才である博行を誘って断られてしまいました。

さて、それから物語は一体どうなるでしょうか?

 数日後、法末ほうすえ村から上小国かみおぐに高校に通じる峠を走る一台の軽規格のワンボックスカーがあった。吉田六郎りくろうの愛車『スズキアトレー』であった。運転席には六郎、助手席には雪村ゆき、後部座席には小国沢おぐにさわ明と上岩田かみいわた仲良なかよしが座っていた。

 周囲の木々は八割くらい紅葉していて、正面にきれいな夕焼け空が見えていた。秋の空気が冷たくて気持ちいい。


「今日はせっかく吉田顧問に車出してもらったのにな、鎮生しずおのやつ。」


「でもなんか、楽しそうだったわ。畑仕事。」


「あいつじゃなくてもだれでもできる。勿体無い。」


「それはそうかもしれないけど、私は彼らしい仕事だと思った、不良グループなんかに入るよりはよっぽどね。それに彼にはつらいことが多かったんだから。」


「んん、まあな。でも雪村も鎮生をあきらめたわけじゃないんだろう?」


「もちろん。紙同会かみどうかい小国紙おぐにがみ同好会)には彼が必要だし、彼にも紙同会が必要なはずよ。ただ、今は時間をかけなければならないみたいね。」


「お主たちは気付いたと思うが、鎮生はまだ自身の能力に目覚めてはいない。能力を高める[憑神つきがみ]もいていない。その状態であれだ。建設重機並みのパワー。それでいて迅速、正確無比。最強とは、奴のことよ。」


「なんだ。でもおまえは剣術最強なんだろ?剣道三倍段っていうじゃないか。」


「無論、真剣を持てば負ける気はしない。だがこっちが真剣持ち、奴が素手というありえない条件でだ。馬鹿馬鹿しい。」


「剣道三倍段?」


「例えば初段の剣道家が真剣を持つと、三段の柔道家や空手家に匹敵するという意味の言葉だ。」


「へえ、そんなのあるんだ。」


「まあ、いろんな説がある。」


「仲良は今何段?」


「二段だ。インターハイで優勝した後、二段をもらった。」


「柔道家で言うと六段の実力!」


「やめてくれ。剣道家がただの卑怯者に聞こえる。」


「ふっ、お前は良い奴だな。だが今後紙同会の戦いは激しくなる。敵は世界を支配する正体不明の組織だ。コミンテルンやソビエト・ボルシェビキの陰謀なんて目じゃないほどのな。素手の相手を真剣でぶった切る必要も出てくるだろう。その覚悟がないとお前、死ぬぞ。」


「お主、ふざけているのか?正体不明の組織だと?幼稚すぎて面白くもない。」


「仲良君、この人確かにふざけているけど、あながち嘘をついているわけでもないのよ。紙同会の目標、知っているよね。」


「ああ、あれか。いい目標だと思う。少し漠然としてはいるが。」


「あれは実は[最終目標]なの。その他に[中間目標]が三つあってね、もう少し具体的なのよ。ちょっと会に慣れてからの方が良いと思って、あなたと四郎君にはまだ言ってなかったけど。」


「そうか。どういうんだ?」


「くれぐれも他言無用よ。」


スズキアトレーは谷間を抜けて小国沢おぐにさわ村、続いて太郎丸たろうまる村に入った。上小国かみおぐに高校のある諏訪井すわい村はすぐそこだった。


 日はすっかり落ち、上小国高校の紙同会室には、ゆき、明、山野田やまのた直実なおみ、仲良、森光もりみつ四郎、六郎の合計六名が揃った。

 せまい会室の中ほどに集められた机には、ティーカップや茶菓子などがにぎやかに並んでいた。そしていつものように雑談に花が咲いていた。話題は様々で、テレビ番組の『きんどこ』からはじまり、『たのきんトリオ』、『聖子』、『明菜』、『チェッカーズ』、『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』、『E・T』、『ブレードランナー』、『ガンダム』、『週刊少年チャンピオン』、『大甲子園』、『池田高校』、『PL学園』、ファッション、茶菓子、クラスメイト、勉強、部活動、紙同会、家族、畑仕事、旅行、集落、祭り、雪など、尽きも切らなかった。その時一番盛り上がった話題は、荷物満載で満員のスズキアトレーの、どこにミヤさんと大将軍様と蓮胤様の三柱の神様が乗っていたか、ということだった。

 顧問の六郎は、しゃべり疲れる気配を見せない彼らを放置しているようにも見えた。しかし、このようなたわいもない楽しみは、今後厳しい運命にさらされるであろう彼らにとって束の間の休息なのだ、必要な過程なのだ、と六郎は考えていた。ただ、束の間にしては毎日大層な時間を潰しているようではあったが。そして彼は会員たちの雑談をよそに、ある一点を凝視していた。それは小さな棚に置かれた、あの白い裸婦像であった。ふいに六郎はこう呟いた。

「神が生れた、かな。」


 大きな笑い声が響く中、そっと会室の木戸が開いた。そこには女子の不良、いわゆるスケバンが立っていた。よく見ると諏訪井すわい泉であった。


「泉ちゃん!」


最初に泉に気付いたゆきが言った。

 泉は、スリッパをはき、足首まである変形ロングスカートをはいて、金髪のアフロヘアーに近いパーマをあてている。その大きな髪を入れると、ゆきの背とちょうど同じくらいだった。

 泉は諏訪井村に住んでいて、ゆき、明、仲良と同じ結城野ゆうきの中学出身だった。中学から有名な競泳の選手で、この夏のインターハイでは一年生ながら百メートル自由形二位に輝いていた。そして彼女をさらに有名にしているのが、その容姿の美しさであった。


「来てくれたんだ。ありがとう。」


「ユキユキ、久しぶり。」


泉は小声で答え、ほんの少し微笑んだ。会員一同はあたたかく泉を迎えた。泉は促されるままに用意された椅子に座った。そしてこう言った。


「今日はお願いがあってきたの。」


まだ慣れていないせいか、幼馴染み同士だからか、スケバン風の言葉使いではなかった。彼女の声も未だ幼さを残していた。

 泉の願いとは、鎮生を紙同会に勧誘しないでほしい、できればあと半年くらい放っておいてほしい、その代りに泉が入会する、ということだった。

 泉と鎮生が恋仲であることは小国郷の中高生の中で有名な話だった。会員一同は泉の気持ちを理解した。彼女は想いを寄せている鎮生を守ろうというのだった。妖しい噂のある紙同会に狙われている鎮生を、彼女自身の体を張って。

 仲良は静かに泉を見据えて言った。


「泉よ、鎮生はあのままでは宝の持ち腐れだぜ。」


「うん。鎮生君も分かってる。そのうちまた、何か始めると思う。彼はスーパーマンみたいなもんだから。・・・ここの活動がちゃんとしてたら、入ってもいいのかもしれない。あ、ごめんなさいね。そういう意味じゃなく。でも今は無理なのよ。彼をそっとしておいてほしいの。」


 春に、鎮生は打ち込んでいた野球を取り上げられた。夢と居場所を同時に失ったのだ。そしてその埋め合わせに入った不良グループもまた、崩壊寸前になった。彼の怒り、不安、失望、あるいは絶望は、余人には計り知れなかった。一同は鎮生がそれほど深く傷付いているとは思っていなかった。紙同会に入ればすぐに気持ちも切り替わるだろうなどと軽く考えていた。だが泉は、彼の気持ちが収まるのをただ待つのが一番だと判断しているようだった。水泳部を辞め、同じ不良にまでなって鎮生のそばにいる泉が言うことには、説得力があった。


「泉ちゃん、分かった。鎮生君はしばらく諦める。あなたの言う通りにする。でも、あなたまで不良の真似なんかして傷つくことはないのよ。いくら鎮生君のことが好きだからって。」


「え?な、なな、なんのことかしら?私は全然鎮生君のことなんか気にしてないですよ!好きとかじゃないですよ!ユキユキは何を勘違いしているのかな!」


なぜ泉が鎮生と恋人であることを隠しているのか、だれも知らなかった。


「そう。分かったよ。その反応はちょっと意外だったけど。正直に言うとちょっと面白い。ごめんね。・・・で、その代りあなたが入会してくれるのね。ありがとう。歓迎します。どんなひどい噂を聞いているか分からないけど、私たちは真面目よ。あなたはきっとすぐに気に入るわ。とっても楽しいんだから。」


そう言ってゆきは両手で泉の手を取った。

 その日の議題は、緊急性のないこうぞ刈りや工房見学、レクリエーションの計画立案などであった。そのためか、あるいは、目下最優先の課題とされた鎮生の勧誘が棚上げになり、さらに泉の入会にも成功して気が緩んだためか、午後七時過ぎに解散するまで会議はほぼ横道の雑談に終始した。

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