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13 紙同会 礼節を持って勧誘に失敗するのこと

前回までのあらすじ


雪村ゆきは田舎の高校一年生。

ある日出会った半透明の神様に教えられ、超人的な能力を身に付けました。

そして神様に命じられ小国紙同好会を作り、同じ能力をもつ仲間を集め始めます。

先日は、みんなで九人の会員候補を引き入れる計画を練りました。

さて、それから物語は一体どうなるでしょうか?

 その日は午後六時を過ぎ、やっと会員一同が揃った。たった今入ってきた小国沢おぐにさわ明が言った。


「だめだ。博行には断られた。」


「そう。博行君もだめだったということは、今日の話し合い作戦は全滅ね。」


雪村ゆきは肩を落として言った。そして、黒板の島屋敷しまやしき博行の下に×を書いて続けた。


「話し合いで勧誘かんゆうするっていうのは、案外難しいみたいね。こうぞ刈りの時期も押し迫っていることだし。やっぱり、私たちの力を見せつけて引き込むしかないのかな。みんなはどう思う?」


明は間髪を入れずに言った。


「だから話し合いは危険だと言ったんだ。[共鳴者]にわざわざ目覚めるきっかけを与えているようなもんだからな。博行も自分の超能力には無自覚だった。だが俺がさっきそれを教えてやった。半信半疑だったが、あいつは頭が切れる。これから面倒なことになりそうだ。」


「待って明君。他の人は入会はしなかったけど、手ごたえはあった。話を聞いてくれただけ、話し合いは無駄じゃなかった。というより、やっぱりいきなり力ずくで仲間に引き込むっていうのは、乱暴だと思う。」


「明よ、相手を敵として叩き潰すだけなら、力だけでどうにかなる。だが相手を味方に引き入れるなら、まず礼節を重んじるべきだ。」


「仲良、そういうお前は叩き潰された側じゃないのか。」


「ちょっと明君。」


「明よ、まあ冷静になれ。そうカッカするな。お主はもっとのんびりしたやつと思っていたんだがな。」


仲良なかよし、俺はいつでも冷静だ。」


「そうか。じゃあ聞くが、博行に雪村のことでなにか言われたんじゃないか?」


「なに?何も言われてない!ただ断られただけだ!」


上岩田かみいわた仲良は腕を組んで静かに明を見ていた。明は少し分が悪いと思い、席についてそっぽを向いた。山野田やまのた直実なおみはそれをじっと見つめていた。


「なに?どういうこと?」


ゆきは明と仲良を交互に見たが、二人とも返事はなかった。

 少しの休憩をはさみ、一同は九人の会員候補への対応を、改めて協議し始めた。


「じゃあ全員揃ったところで、改めて状況の確認をします。法末ほうすえ鎮生しずお君担当の山野田会員。報告をお願いします。」


「はい。法末君には放課後正面玄関で話しました。一応順序立てて説明しました。法末君は畑仕事があると言って帰ってしまいました。申込書は持って行ってくれました。私の話を信用してくれたかどうかは分かりませんでした。その間大体十五分くらいだったと思います。」


「申込書は渡せたということですね。ありがとう、山野田会員。次に諏訪井すわい泉ちゃん担当の森光もりみつ会員。」


「オス。あ、朝、廊下で泉に紙を渡しました。俺は話が、苦手だから、放課後にここに、来てくれと、頼みました。雪村会長が、話をすると言いました。オス。」


「四郎君、苦手なことをお願いしたわね。ご苦労様でした。今まだ泉ちゃんは来ていませんが、申込書は渡してくれたということです。次は、島屋敷博行君担当の小国沢書記、報告をお願いします。」


明はすばやく板書をしてから発言し始めた。


「・・・ああ、朝と昼に博行を見かけなかったから、ついさっき一階の美術部室に行って話してきた。で、申込書はここにある。あいつはこれを受け取らなかった。俺の話にも半信半疑だった。ここからは俺の勘だが、あいつは何をするか分からない所がある。ひょっとすると面倒なことになるかもしれない。」


「現時点では断られたということですね。あと、今後の対応が重要だということですね。ありがとうございました。次に野球部の六名、朝雄あさお君、良平君、友成ともなり君、清君、頼三よりみ君、慶次よしつぐ君を担当してくれた上岩田会員、お願いします。」


「オス。さっき言った通り、放課後に野球部六人が集まっているところで申込書は渡してきた。返事はまだだ。」


「ありがとうございました。すばらしいです。一度に野球部六人に申込書を渡してくれたとのことです。・・・それで、候補者九人のうち今のところ入会希望者はいないということですが、」


「ちといいかな。実はまだ話してないことがあるんだ。野球部六人以外にも、そこには鎮生がいたんだ。驚くな。まだいた。上小国の不良グループ[渋蛇会ジューダス]の一〇人だ。」


「シブヘビの先輩おっさんたちが!」


明が驚いて言った。


「名前が恥ずかしくて解散したと聞いていたが、まだ生きていたのか。ダサい名前付けやがって。」


明は渋蛇会と書いてジューダスと読ませる田舎の不良的言語感覚への嫌悪感を隠さなかった。


「ジューダス?」


「雪村は他校だから知らないか。上小国かみおぐにの三年ばかりの不良グループだ。うるさい単車を乗り回したり、知力がない分体力があるという奴らさ。ここらじゃあちょっと幅を利かせている。」


「いや明よ、奴らはもう解散同然だ、俺がさっき見た様子ではな。この夏に、悪平あくへいひとりにやられて一〇人とも再起不能になったようだ。」


「悪平が[渋蛇会]全員をやったって?一年生が三年生一〇人を。とんでもないな、奴はもう超能力に目覚めてるんじゃないのか。」


「悪平って誰?明君。」


「ああ、三桶みおけ良平りょうへいのことさ。ガキの頃からのあだ名らしい。」


「確かにやつもとんでもないが、本当の化け物はやはり鎮生よ。まあ聞いてくれ、ほんのさっきの話だ。俺は放課後グラウンドのはずれの野球部の部室にいった。そこには誰もいなかったが、裏で何やら声がした。行ってみるとそこにいたのが、鎮生と野球部六人と渋蛇会の一〇人だった。どうやら鎮生と悪平がタイマンをやるらしかった。他の奴らは二人を囲んでいた。」


「タイマン?」


「一対一の喧嘩のことだ。俺は何で元の仲間同士がやりあうのかが分からなかった。それで、他の奴らにその理由を聞いてみたんだ。あんまり話したくなかったがな。それでやっと分かった。みんな、春の野球部の事件は知っているだろう。」


 仲良のいう事件とは、当時野球部員だった鎮生が起こしたとされる、暴力事件のことだった。それは、野球部のある三年生部員が期待の新人である鎮生を必要以上にしごいて反撃を食らい、橋にぶら下げられたというものだった。

 それが大きな問題になった。そのぶら下げられた三年生を発見したのが、地元の新聞記者だったからだ。その三年生は、犯人は鎮生だと証言した。鎮生は否定したが、真相は分からなかった。

 結局、学校や周囲の計らいで警察沙汰や新聞沙汰にはならないですんだが、鎮生は無期停学になり、野球部も退部させられた。そして野球部自体も三か月間の部停(部活動停止)になり、そのせいで甲子園予選も出られなくなってしまった。超高校級スラッガーだと新聞で評されていた鎮生が入部し、上小国高校初の甲子園出場に期待がかかっていた最中さなかの事件であった。

 その年の夏、上小国高校が出られなかった甲子園は異常な盛り上がりを見せた。地元からはライバルの『中越高校』が甲子園に出場した。そして、惜しくも一回戦で『広島商業』に四対五で負けた。その『広島商業』も三回戦で、当時最強と言われ、エースで四番の『水野雄仁かつひと』を擁する徳島の『池田高校』に三対七で負けた。その『池田高校』を準決勝で七対〇で完膚なきまでに叩き潰したのが、一年生の『KKコンビ』、『清原和博』と『桑田真澄ますみ』をようする大阪の『PL学園』だった。『PL』は『横浜商業』に三対〇で勝って優勝、それから伝説の『PL学園』黄金時代が始まった。その盛り上がりは、社会現象とまでいわれるほどだった。


「その春の事件の後、鎮生は[渋蛇会]に誘われてつるんだりしていたようだ。奴らにとって小国郷最強と目される鎮生の加入は心強いことだっただろう。この好機を逃すまいと、隣の農高(柏崎農業高校小国分校)に殴り込みに行く計画も立てていたらしい。だがそれに気付いた悪平が、鎮生のいない時に[渋蛇会]のたまり場に乗り込んで、奴ら全員を病院送りにした。理由はまあ想像がつく。鎮生を思ってのことだろう。悪平にとっても秋の地区大会があって大事な時期だったらしいが。その後、立場上鎮生は悪平に報復をしなければならなくなった。『仁義なき戦い』って映画みたいなもんだ。ヤクザの真似事だ。後日鎮生は悪平を呼び出した。しかし悪平は怪我をしていた。[渋蛇会]との喧嘩で負った怪我だった。それで二人はその怪我が完治するまで待ってから勝負する約束をした。二か月経ち、悪平の怪我は完治した。その約束の勝負がちょうど今日だったというわけだ。」


「ほう。・・・ところで仲良、お前よくそんな場面にいられたな。普通追い出されるだろう。」


「俺が見たいと思ったら見るさ。渡したいものもあったしな。」


「仲良君、それでタイマンっていう勝負はどうなったの?」


「まあ、鎮生はあの通りでかい。背は確か二メートル近くある。で、あの筋肉だ。『アントニオ猪木』か、『ハルク・ホーガン』みたいだろ。『KKコンビ』の清原なんて目じゃない。体重はどれくらいかな。俺たちと同じ年なのにな。」


「悪平をその筋力でねじ伏せたのか?」


「いや、違った。まず悪平が蹴りを見舞ったんだ。悪平は裸足だった。その蹴りは鎮生の膝近くに当たった。ゴツッとすごい音がした。」


窓際の六郎が珍しく身を乗り出して聞いている。


「鎮生は動じなかった。悪平は蹴りを連続で繰り出した。多分特殊な蹴り技だったんだと思うが、よく分からん。速い蹴りが鎮生の脚とか下半身に何発もヒットした。俺は動体視力はいいほうなんだが、よく見えなかった。鎮生も避けることができなかった。大きい奴は下半身を責めるのが兵法の鉄則だ。俺は悪平が優勢だと思った。」


「それは危ないな。蹴り技は隙が大きい。一度や二度の奇襲ならいいが。そのうち相手が慣れてしまう。一対一ならパンチや組技も繰り出すべきだ。そして最後は関節技で決める、これが正解だ。」


一同は割り込んできた六郎の講釈を受け流した。


「オス。そうしたら突然悪平の蹴りが止まった。よく見ると悪平の足首を鎮生ががっちり掴んでいた。」


「ほら、だから言わんこっちゃない。」


「それで、それからどうなったの?」


「ああ、ここからがすごかった。鎮生が悪平をブン投げたんだ。ピッチャーみたいにな。オーバースローってやつで。驚いたぜ。悪平も小さくない。多分俺と同じくらいだ。体重八十キロはあるだろう。そんで悪平は朝雄と清めがけて吹っ飛んで行って、二人にぶち当たった。ノーバン(ノーバウンド)でな。悪平はもちろん朝雄と清も倒れた。三人は呻いていたが、立ち上がれなかった。鎮生の勝ちだった。」


「鎮生、恐るべし。」


「ああ、それに強いだけじゃない。その時の鎮生の表情には憂いが見えた。かつて仲間だった者に対する思いがあったのだろう。あいつには礼節がある。優しさがある。あれが男たるもののあり方だと思ったな。」


「随分評価が高いな。それでその後は?」


「まあ無傷の野球部三人で、倒れている三人を部室に運んで介抱していたよ。それを後目しりめに鎮生と[渋蛇会]は静かに帰って行った。俺も六人それぞれに申込書を渡すだけで戻ってきた。雰囲気が紙同会の説明どころじゃなかったからな。」


一同は、しばし沈黙に包まれた。


「今日そんなことがあったとはな。仲良、お前もさすがに度胸があるな。」


「怪我をした三人は大丈夫だったの?」


「まあ大丈夫だ。ちょっとしたら立ち上がっていたからな。鎮生が手加減したのかもしれんが。それにやつらは普通じゃない、能力者なんだろう?目覚めているかどうかは別にしても。」


ゆきは改まって言った。


「ええと、ありがとうございました。上岩田会員は、六人全員に申込書を手渡ししてくれたということです。・・・ということで、皆さんの報告は以上になります。なにかここまでで質問などありませんか?」


「雪村、いや会長。質問じゃなくて意見なんだが、優先順位をはっきりさせた方が良いと思う。誰をまず仲間にするか。九人を手分けして一気にってのは、やっぱり難しそうだ。俺たちみんなで、一人ずつ勧誘するべきだ。」


「オス、会長。俺も書記の意見に賛成だ。会員候補の何人かはもう覚醒している可能性がある。俺たちもそれぞれ覚醒してさらに神に憑りつかれて力が高まっているとはいえ、やはり人数を集めたほうが無難だ。」


会議はまとまりつつあった。横道にそれるような雑談が無かったせいか、みんなかなり疲れていた。その日紙同会は、午後八時を過ぎてから解散した。帰り道はかなり寒くなっていた。

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