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12 紙同会 会員の勧誘を計画するのこと

前回までのあらすじ


雪村ゆきは田舎の高校一年生。

ある日出会った半透明の神様に教えられ、超人的な能力を身に付けました。

そして神様に命じられ小国紙同好会を作り、同じ能力をもつ仲間を集め始めます。

先日は、入会してくれた会員一同に神や能力の説明をして、結束力を高めることに成功しました。

さて、それから物語は一体どうなるでしょうか?

 一週間を経た放課後、小国紙おぐにがみ同好会では会議が開かれていた。議題は[会員勧誘かんゆう]についてだった。黒板に仲間候補の九人の名前が書かれている。


法末鎮生(ほうすえしずお)  (無所属)

諏訪井すわい泉  (水泳部)

島屋敷しまやしき博行 (美術部)

朝雄あさお   (野球部)

三桶みおけ良平  (野球部)

小栗山こぐりやま友成ともなり (野球部)

苔野島こけのしま清  (野球部)

太郎丸たろうまる頼三よりみ (野球部)

大貝おおがい慶次よしつぐ  (野球部)



「会員各位による様々な調査の結果、ここに書いた人たちは、能力者である可能性が高い人たちです。まだどんな能力をもっているのかは分かりませんが。」



雪村ゆきは狭い会室にひしめきあうように座っている会員一同を眺めた。ゆきの目には、会員のすぐ後ろにそれぞれ[憑神つきがみ]が立っているのが見えて、空間をさらに狭くしていた。

 小国沢おぐにさわ明には蓮胤れんいん様という痩せた僧形そうぎょうの神、山野田やまのた直実なおみには蓮生れんしょう様という体の大きなこれまた僧形の神、上岩田かみいわた仲良なかよしには大将軍様と呼んでいる鎧姿の『木曽義仲きそよしなか』、森光もりみつ四郎には多聞たもん様というこれまた鎧武者の神が、それぞれりついていた。そしてもちろんゆきにはミヤさんという女姿の『以仁王もちひとおう』である。

 ここ一週間、会員の[憑神]が見えたとき、ゆきはそのことを伝え、意思の疎通ができない神と会員の通訳をした。会員の反応は様々だった。明は音楽が得意だという蓮胤様をたいそう気に入っていたし、直実は柔和だが剛直そうな蓮生様をすんなり受け入れ、四郎は戦神いくさがみのような多聞様に対し緊張し、ぎこちなく挨拶をした。

 ゆきは会員に、[憑神]との付き合い方をレクチャーした。いわく、相性がいい神が憑りついているからさわりはない。いわく、歴史上どのような人物だったか調べ相互理解を深めるとよい。いわく、仲良くなれば自己判断でいろいろ世話を焼いてくれる。いわく、一心同体ともいえるほどの仲になれば、自然に[以心伝心いしんでんしん]、いわゆるテレパシーができるようになる。いわく、[憑神]の力に自身の力が影響を受ける。その時自身の内面外面に様々な影響が現れるかもしれない。などなどである。すでに大将軍様に憑りつかれていた仲良は、それにいちいちもっともらしくうなづいていた。

 その時々、ミヤさんにはそれぞれの[憑神]が寄ってきて、儀式のような長い挨拶をして、ゆきには分からない話で盛り上がった。ゆきが察するに、意外にもみな初対面のようだった。

 この[憑神]たちは、八百年のその昔、ミヤさんが生身だった頃の[共鳴者]であったという。どうやら、ミヤさんによると縁の強い神が降りるというのだが、地縁血縁を凌駕して[共鳴者]縁が最も強力な縁として働くようだった。それにしても、ミヤさんと生前に出会っていないらしい人物でも[共鳴者]になっているという事実は見過ごせなかった。ゆきは、遥か異国の地に自分の[共鳴者]が続々と生れている可能性があると思い、戦慄した。

 そしてその後のゆきの観察によると、[憑神]たちが憑りついたおかげで、会員たちの能力はかなり上がったようだった。そんな中で、顧問の吉田六郎りくろうにはいまだに[憑神]がついていなかった。六郎の高い能力を考えると、ゆきにはそれが少し不思議だった。



「全員一年だな、なぜか。」


「やはりというか、野球部に集中しているな。鎮生だって元野球部だし。奴らは一年の中でも特に問題児だらけだ。甲子園に行かなくてよかったぜ。」


「し、鎮生は、強い。多分、誰よりも。」


「でもこの中で一番有名なのはやっぱり泉ちゃんね。なんせ一年生にしてインターハイ競泳二位、容姿端麗のミラクルガールだし。」


「・・・ゴホン。」


「あら、仲良君は彼女以上に有名よ。全国一位だもの。今のはあくまでこの九人の中でのことよ。ねえ、ナオナオ。」


インターハイ三位の直実は無言で頷いた。


「ただ泉ちゃん最近水泳部に出てないっていう噂があるのよ、あくまで噂なんだけど。」


「ここに書かれた中に同級生が何人かいるが、友達って程じゃないな。」


「まあ全員知り合いみたいなもんだろ。二クラスしかないんだ。」


「まあな。そういえば、雪村んとこは何クラスあるんだ?」


「大手(高校)のこと?一年は十一クラスかな。」


「げえ、十一。さすがに町は違うな。」


「同学年でも知らない人ばかりよ。」


「へえ。そんなもんか。」


 しばらく雑談が続き、その後ゆきは幾分毅然きぜんとした態度で言った。


「えー、活動計画通りにいくと、十一月の後半はこうぞ刈りがあります。そのあとは楮の加工などがあり、忙しいです。人手はいくらあっても足りません。雪も降ってきます。ですので、できれば十一月中旬までには、この人たちに入会してもらいたいと思います。あと三週間くらいですね。勧誘方法について意見のある人は挙手をお願いします。」



 時刻は夜八時を回っている。小国紙同好会会員達は、上小国かみおぐに高校の会室からよく見える草の茂った広場にいた。そこは以前、ゆきと直実が鬼ごっこをした場所だった。

 彼らはそこで、その鬼ごっこをしていた。といっても前回の殺伐とした雰囲気はなく、みんな楽しげに遊んでいるのだった。外部顧問の六郎は、それを会室の窓から眺めていた。


「能力者といっても、彼らはまだ高校一年生なんだ。」


六郎はそう思いながら、超スピードで縦横無尽に展開するすさまじい鬼ごっこを見守った。


「そのうち彼らの運動能力を気兼ねなく解放できる場所が必要になるな。人に見つからない安全な場所が。」


広場の遠くの方で歓声が上がった。直実が四郎にタッチされたようだった。


「ほう、『アリ』が『フォアマン』に捕まったか・・・。」



 翌日の放課後、ゆきが会室に向かって歩いていると、ささっと音がして、風が当たった。見ると直実が横に並んでいた。


「やあ、ナオナオ。」


時刻はまだ午後五時前だったが、外はすっかり暗かった。


「はい、ユキユキ。」


直実は小さく返事をした。二人が会室についた時、ほかには誰もいなかった。


「ふー、やっぱり長岡からここへは、ちょっとした時間がかかるね。」


そうゆきは言った。

 ゆきは放課後すぐに、長岡大手高校から電車とバスと自転車を乗り継いで上小国高校まで来ていた。到着は大体午後五時くらいになった。だから紙同会は、午後五時から活動することになっていた。

 直実は石油ストーブをつけ、その上にやかんを乗せた。ゆきと直実は戸棚から自分用のマグカップを取り出し、ティーバッグの紅茶をいれた。それから持参の茶菓子も少し添えた。


「私ね、長岡の高校に行って良かったと思っている。勉強も遊びも楽しい。たくさんの新しい友達が出来て、なにより同じ趣味の友達が見つかったし。体育教師がしつこくバレー部に誘ってくるのはちょっとアレだけどね。大手通りのお店とか、デパートとか、大きな町って感じも楽しい。小国郷おぐにごうにないものがたくさんある。日本は経済大国なんだって実感する。たしかに通学は時間がかかるけど、読書や音楽にあてればいいし。今はミヤさんと話すけど。だからとても長岡が好き。でもね、実はひとつ物足りないことがあるんだ。」


「はい。」


「直接長岡がどうってことじゃないんだ。私はむこうで友達に小国のことをよく話すんだけど、小国紙とか八石山はちこくさんとか渋海しぶみ川とか観音堂のこととか太郎丸の巫女爺みこじさとか雪のこととかこっちの学校のこととかいろいろ。でも友達はあんまり地元のことを話さないの。長岡市出身じゃない人が多くて、わりと遠くから来ているんだよ、みんな。栃尾郷とか、見附市とか、寺泊町とかから。小国からだとすごく遠いからさ、だからそういう地域ならではの話が聞きたいなあって思う。」


「はい、私も聞きたいです。」


「ねえそうでしょ。なんでもっと話してくれないのかな。私ばっかり田舎の話しちゃって。そうそう、ここと長岡じゃちょっと言葉も違うんだよ。『へんなか』とか『みんじょ』とか、みんな言わないんだよ。まあここでも古めの言葉だけどね。・・・だから私、けっこう田舎者って感じなんだ。」


「ええ、元都会ッコのユキユキが!」


「あら、私は小学一年の時からここにいる、もう生粋の小国人だと自覚しているよ。」


笑い声に包まれる会室のふたり。ふとゆきは、直実の後ろの蓮生様をまじまじと見た。


「話は変わるけどナオナオ、あなたの[憑神]さまって、なんて言ったっけ。」


「はい、蓮生様です。生前の俗名は『熊谷次郎直実くまがいじろうなおざね』。」


「この人って、お坊さんだけど、なんとなく強そうだね。体も大きいし。」


「はい。蓮生様は始めは武者で、後々『法然ほうねん』様という偉いお坊様の弟子になったそうです。」


「うん。・・・ねえ、ちょっと蓮生様と話していい?」


「はい。」


ゆきはしばらく直実の後ろを見て黙った。直実はゆきを見ていた。


「ねえ、ナオナオ。」


ゆきは一口紅茶を飲んでから言った。


「[憑神]さまって、憑りついた人に影響を与えるでしょう。私の場合はミヤさんに直接師事してるからちょっと特殊かもしれないけど。でも確かにあるよね。私最近けっこうしゃべるようになってるし。いろいろなことに興味が湧くようになってきたし。これってやっぱり、ミヤさんの影響もあると思う。」


「はい。」


「だからあなたにも、蓮生様の影響が出てくるんじゃないかしら。今ね、蓮生様に聞いたらいろいろ教えてくれたんだけど。今の蓮生様は、激しい憎悪と深い慈悲が一体になっている、いわば両面性のある神様なんだって。荒武者と遁世とんせい僧の性質を合わせ持つような神様。蓮生様が神様になりたての頃はそんな性格じゃなかったらしいんだけど、ほら、人々の信仰心とかが集まって神様になるわけでしょう。長年の信仰によって、そういう風に変化していったって。それには『平家物語』とか『幸若舞こうわかまい』とか『申楽さるがく』とか『歌舞伎』とか、いろいろな文化が影響したというのね。」


「はい。それはとても面白いです。神様は文化的影響によって変化するのですね。」


「ナオナオは面白い?私はあいかわらず歴史とかはよく分からないけど。それで私が言いたいのは、蓮生様の両面性があなたに影響を与えているんじゃないかということ。」


「・・・私が極端に激しく怒ることがあるから、ですね。」


「小学の頃ってそんなに怒ってなかったんじゃない?私は記憶にないよ。」


「いえ、やっぱりちょっと強く怒ることはあったと思います。今ほどひどくはないですが。」


「そう。でもやっぱり蓮生様のせいであなたが変わったのだと私は思う。」


「・・・ユキユキ、あまり蓮生様を悪く言わないで下さい。蓮生様が私に悪いことをしているように聞こえます。」


「あ、あの、そういうつもりじゃないから。気にしないでね。」


ゆきはちょっとあわてたが、直実は別に怒って無いようだった。


「ユキユキ、私も蓮生様のことを知りたいです。何を話したか、もっと教えてください。」


「うん。話してみてわかったのは、蓮生様は顔は怖いけど真っ直ぐなとてもいい人だってこと。私たち、友達になったのよ。」


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