乱れた足並み
文章がつたなくてすいません。
ご指導いただければと思います。
「おお、ありがとうございます!」
嬉しさを顔にこれでもかというほどに映しながらポゼアは礼を言う。
そんなポゼアに熱斗が問いかけた。
「あの、俺達が何の為に召喚されたのかは分かったんですけど、何で俺達を選んだんですか?」
熱斗の言葉にポゼアはキョトンとしながら聞き返す。
「何でって、分かっていらっしゃるでしょう?」
「へ?」
思わぬ返しをされて今度は熱斗がキョトンとする。
そんな熱斗の様子には気が付いていないようで、ポゼアは当たり前の事を言うように言った。
「貴方方がお住まいになっていた異世界にこちらから宮廷魔術師を送り込んだのですよ。そしてその宮廷魔術師に異世界の方々を見極めさせ、彼の眼にかなった人を召喚する手はずになっていたんですよ。ほら、紫色のローブを着た老人。」
会ったでしょう?と聞かれ生徒達の脳裏に屋上から落ちたあの老人の姿が鮮明に蘇った。
「そういえば、彼の姿が見当たりませんね…。どこに行ったか知りませんか?」
屋上から落ちて大怪我をした状態で魔法陣が地面に浮かび上がったので生きてるかは分かりません、などと言うわけにもいかない。ポゼアにそんな事を伝えて、もしもあの老人と目の前にいるポゼアとの関係が親しかったらポゼアが悲しむかもしれないので、熱斗は曖昧に笑いながら誤魔化す。
「ええ。彼は、その、異世界が思ったより楽しいからもう少し滞在して楽しんでいく、と言っていましたよ。恐らくしばらく経ったら帰ってくると思います。」
熱斗の言葉に他の生徒達も必死に首を縦に振り続ける。
そんなおかしな光景を不思議そうな目で見ながらもポゼアは納得したように頷いた。
「さあ、それでは王宮に移動しましょうか。」
ポゼアの言葉に後ろの宮殿を見ながら熱斗は待ったをかける。
「ここは王宮じゃないんですか?」
熱斗の疑問に苦笑いしながらポゼアは答える。
「ここは見た目がかなり豪華ですが、実はここは先ほど言ったダンジョンの第一層の頂上に位置する場所に発見された儀式場なんですよ。だから、王宮はこれよりも少しだけ豪華ですよ。」
金色の宮殿は光を反射してこれ以上豪華な物など存在しないと言わんばかりに輝いている。
これ以上に豪華な物がこの世に存在するのかと少しばかり大袈裟な驚愕を抱きながらも熱斗は言った。
「でも、ここはダンジョンの中なんですよね?二ヵ月も兵力を注ぎ込んでようやく全て制圧できたってことは、それだけ大きな場所なんでしょう?だったら一日以上歩かないといけないんじゃ…」
僕達にそんな体力はない、と伝える熱斗の言葉に安心させるようにポゼアは微笑む。
「大丈夫ですよ。ここには転移魔術の魔法陣が設置されています。ですので、それを使えば一瞬で王宮まで辿り着けますよ。」
ポゼアの言葉に生徒達が歓声を上げる。
「おお、早速魔法が見れるのか!」
「勇者として召喚されるなんて、意外と面白そうだし、こんな便利な移動手段もあるなら、ホントにラッキーだよな、俺達!」
生徒達の歓声の中ポゼアはゆっくり歩き出し、宮殿の裏に回る。
そこには、薄茶色の地面に白で描かれた魔法陣があった。
「天よ、地よ。その意で我らを運び給え。『テレポート』」
ポゼアが唱え終わった瞬間に魔法陣から光の糸が飛び出し、ポゼアの体に絡みつく。
そしてポゼアの体から光の糸に青い光が流れた後に糸は長くなって生徒達一人一人に絡みつき、眩しく光る。
電球などでは決して出せない神秘的な光が収まった後、そこには誰もいなくなっていた。
アテネ王国は多くの魔術師が居住しているいわば魔術大国である。
そんなアテネの中で最も栄える都市、首都のミノアは十メートルはあるであろう壁に囲まれた四十キロ四方の巨大な都市である。大体香川県と同じほどの大きさだと言えばその大きさと、たった一つの都市がそれほどの大きさであることの異常性が分かるだろう。
そんなミノアの中心。
普通の王国の様に真っ白ではなく、逆に黒で全体を塗られているアテネの王城、アクロポリス城は世界でも類を見ない豪華さを誇る城である。
真っ黒で外から見れば暗い印象を与えるが、内側はその逆である。
床一面に敷き詰められた赤いカーペットにあちこちにぶら下げられている金色のシャンデリア。
各階に一つづつ王家の家紋をモチーフにしたダイヤでできたドラゴンの像が置かれていて、そんな階が全部で五つある。
各階にはそれぞれ役割があり、一階の客をもてなす社交場である「光の間」、二階の重大な裁判を行う「裁きの間」、三階の人を占う「占いの間」、四階の儀式を行う「戴冠の間」、そして五階の王族の暮らす「生活の間」がある。
その中でも最も神秘的な装飾を持つのは三階の「占いの間」である。
王城のすぐ前に転移してそんな話を聞かされながら生徒達は真っ黒の王城の門を門番に開けてもらって扉の前に立ち、扉を開いて王城に入ってほぅとため息を吐いた。
「すげぇ…」
その呟きを誰が漏らしたかは判別できなかったが、少なくともその呟きが全ての生徒達の感想そのものであることは明らかだった。
金色のシャンデリアは夕方の太陽のような優しくも儚げな光を出し、赤いカーペットは目に色の衝撃を与え。ダイヤでできたドラゴンの像は、シャンデリアの光を受け止めて赤っぽい虹色の光を辺りに振りまいていた。
「でしょう?」
ポゼアが満足気に笑う。
自分の住んでいる場所を凄いと言われて嬉しくならない人間はいない。
熱斗が天蓋を取り除くことを約束してくれた時よりは控えめにだが、それでも嬉しそうにポゼアの口元は歪められていた。
「さあ、こっちです。」
まだ見惚れている生徒達に声をかけてポゼアはゆっくりと歩き出し、生徒達もポゼアについていく。
辺りをキョロキョロ見回していなくとも、シャンデリアの光が目に降り注ぎ続けるからだろうか。生徒達は時々感嘆のため息を漏らすだけで、その間に無粋な会話は存在しなかった。
「このエレベーターに乗って下さい。」
「エレベーター?」
ここで初めて一人の生徒が声を上げる。
魔法、なんていうファンタジーな物が存在する世界にエレベーターのような近代的な装置が存在しているとは想像していなかったのだろう。その声には驚きが混じっているが、目に入ってくるシャンデリアの光に意識を半分奪われているからだろうか。その事についてそこまで大きく反応することはなかった。
言われた通りにエレベーターに乗り込んで三十秒が経った後にエレベーターが止まってドアが開く。
「ほぅ…」
エレベーターの外に出た生徒達はまたもや感嘆のため息を吐いた。
エレベーターの表示する階は三階。
つまり、ここが王城の中で最も美しい場所だった。
天井からたくさんぶら下がっている透明な糸。
全てダイヤモンドでできているそれらはドラゴンの像のように辺りに虹色の光を振りまき、翡翠色の壁がその光を優しい物に変えている。
壁にある魔法陣は全て金で描かれていて、壁の爽やかさと魔法陣の重厚さを強調していた。
ポゼアがエレベーターから出てきたのを見て部屋の中に立っていた数人のローブを着ている男達が近寄って来た。
「これはこれは。王様じゃないですか。今日は何の御用で?」
低めの声だ。ザラザラした感じのないそれからは王であるポゼアへの尊敬の念が感じられた。
「はい。例の勇者様達を連れてきたので、全素の測定をお願いしたいんです。」
ポゼアの言葉に頷いて男たちはローブの中から水晶玉を取り出す。
訳が分からない、という顔をしている生徒達を代表して熱斗が問いかける。
「あの、その全素っていうのは何ですか?」
ポゼアが答える。
「全素と言うのは、簡単に言うと人の持っている力の総称です。全素には魔術を使えるようになる「魔素」、幻術を使えるようになる「妖素」、筋力が高くなる「怪素」、剣を上手く使えるようになる「剣素」があります。
一般の人の全素の量がそれぞれ大体10で、これを測ることによってその人物の大体の強さが分かります。
基本的には最初の量がどんなに少なくても訓練で増やすことはできますが、元々が0だった場合はその全素を増やすことは出来ません。
魔素が最も強い全素と言われていて、魔素の多さで強さが決まり、他の全素で戦闘方法のバリエーションが増えます。」
理解して頂きましたか?とポゼアが問いかけ、生徒達はそれに期待したように頷いた。
「それでは、こちらの占い師の方々に貴方方の全素を測って頂きます。準備は良いですか?」
そう言ってポゼアは後ろで水晶玉を持っている男たちを指差した。
「「「はい!」」」
生徒達は揃って返事をして男達の方へと散らばっていく。
生徒達の運命を左右する全素の測定が、始まった。
「おお、魔素が60も!」
「こちらの方の魔素は70だ!」
一般人の何倍も高い生徒達の数値にその場が大きく盛り上がる。
そんな中で一際大きな声が響いた。
「魔素が1000もあるぞ!しかも、他の全素も100ずつ!」
熱斗の全素の測定をしていた男の声で場が静まり、その後に大歓声が響き渡った。
「うおおおお!スゲェ!」
「マジか!これはもう世界最強なんじゃないか!?」
いつもよりも大きな歓声を受けて少し誇らしそうにしながら熱斗は宣言した。
「皆!僕は絶対にこの世界の人々を救ってみせるぞ!」
「おおおおおおおお!」
熱斗の熱い言葉に占い師やポゼアの眼がヒーローを見た時の子供のように輝き、場は熱狂する。場の空気は最高潮だった。
しかし、次に一人の占い師が発した言葉で場は急に静まる事になる。
「け、剣素10000、他の全素は全くなし…」
その悲痛な物でも見たかのような声と、その言葉が向けられた祥吾の呆然とした顔に場が水を打ったように静まる。
それに追い打ちをかけるように、沙羅の全素の測定をしていたもう一人の占い師が結果を読み上げた。
「妖素6000、他の全素は全くなし…」
この世界で武力とは魔素の事のみを言う。この二つの結果は、実質的な戦力外通告だった。
静まり返った空気の中で熱斗が場をとりなすように口を開いた。
「ま、まあ、これだけ人数がいるんだからそういうこともあるさ!」
それに便乗してポゼアも気の毒そうに口を開く。
「そ、そうですよ。貴方方もサポートなどで仲間に貢献することは出来ます!」
沈むような空気の中、祥吾は呆然としたような顔のままポゼアに問いかけた。
「あの、俺達が今夜泊まるところってどこですか?」
「王城の隣にあるホテルですが…」
「誰でも良いので部屋に案内してもらえませんか?」
「はい、ちょっと待って下さい。今召使いを呼んで案内させますので…」
「私も一緒に案内してもらっていいかしら?」
沙羅も無表情のまま会話に入り込み、空気はますます重くなる。
重くなった空気から逃げ出すようにポゼアはポケットから携帯電話のような物を出した後にそれの電源を入れて何かを話し始めた。
あっれええええ。熱斗しか喋ってなああい。
※この小説の主人公は神谷祥吾です。