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剣術チートで異世界生活を  作者: 初永姚
2/9

驚愕はやる気に

文章の指摘下さい。

ほんの少しの間のふんわりとした浮遊感。


それが終わった後に、生徒たちの体は一斉にどこかの部屋の床に放り出された。


尻もちをついて床に着いた制服のズボンの上からでも伝わってくるひんやりとした感触に床が石でできているのだろうと見当をつけながら祥吾は立ち上がる。


周りには同じように生徒たちが床に尻もちをついており、痛たた…などと気の抜けた声を上げながらも立ち上がっていた。


「おい、ここどこだよ!?」


「なんで俺らはこんなところにいるんだ!?」


薄暗い光と大理石のタイルで覆われた床、それに屋根を支える金色の柱。狭いながらも荘厳な空気を持つ美術館のような見た目の部屋に、生徒達の混乱が始まる。


だが、それはすぐに終わることになった。


「皆!大丈夫かい?」


いつも陸上部で猛特訓したおかげで筋肉がかなりあるからだろうか。生徒たちの中で一番素早く立ち上がっていた熱斗が生徒達に声をかけた。


いつものような熱い声ではないが、一人一人を気遣う温かい声。


その声に心を落ち着かされ、部屋の中はあっという間に静かになった。


「あ、ああ。大丈夫だ。」


「そうか、それは良かった!」


一人の生徒の言葉に熱斗は心底安心したようにホッと一つため息を吐く。


ため息を吐いて落ち着いたのか、熱斗はいつものような熱いオーラを出し始め、生徒たちの表情はそれに元気づけられたのか、不安そうな物から明るい物に変わっていく。


常に発している熱いオーラを出せなかったということは熱斗が一番混乱していたという証なのかもしれない。その横顔には、近づかなければ見えないような小さな汗の玉が浮かんでいた。


「ッ!誰だ!」


ふと背後に気配を感じ、猫が高速で首を回すのと同じような速度で熱斗はその顔を背後に向けた。


熱斗と生徒たちの視線の先、壁の上に金色の魔法陣が浮かび上がる。


「魔法、陣…?」


真面目な生徒が多いクラスの中で唯一アニメなどを好んで見ていた祥吾が呟く。


祥吾の呟きに他の生徒達の目線が祥吾に向き、熱斗も祥吾に顔を向けた。


「神谷君、君はあの模様について何か知っているのかい?魔法陣、とか呟いていたけれど…」


熱斗の言葉と周りの不思議そうな視線にお前らはアニメも見ないのか、と言いたくなるのを堪えて祥吾は答えた。


「ああ。お前らも魔術って知ってるだろ?あの非科学的なヤツ。」


「ああ。知っているよ。空を飛べたり火を起こせたりするやつだろ?」


「ああ。アレの儀式とかに使われるのが魔法陣、だったはずだ。…たぶん。」


滅多に大勢の視線に晒されるようなことはないので言葉を尻すぼみにしながらも祥吾は言う。


生徒達は皆魔法などの知識は本で得たので、魔法陣という物そのものをアニメなどで見たことはない。祥吾の言葉に全員が怪訝な顔をした瞬間、魔法陣が一層大きく光った。


生徒達の目線が祥吾から外れて魔法陣の方を向く。


「なっ、アレはなんだ!?」


熱斗が驚愕の声を上げる。


それも当然だろう。魔法陣は光輝きながらも壁に密着し、壁をすり抜けてゆっくりと移動し、魔法陣が移動し終わった後にはこの部屋に無いように見えた出入口らしき大きな穴ができたのだから。


息を飲んで穴を見つめる生徒達。


その視界に幾つかの人影が映って近づいてきた。


無意識の内に生徒達の足は後ろに下がり、まるで何かに追い詰められているかのような緊張感がその場を包んだ。


「ようこそいらっしゃいました、勇者の皆さん。」


人影が遂に部屋の中に入り、外の眩しい光でよく見えなかったその人影が露わになった。


中年の男だ。


金色の髪にエメラルドグリーンの瞳。整った顔にある濃い顎髭が威圧感を醸し出し、外から見てもよくわかるような鍛え上げられた大きな体が存在感をより圧倒的な物にしている。


見たら必ず緊張するような威圧的な見た目とは逆の優し気な柔らかい声に生徒たちの警戒心は一斉に緩む。


薄暗い部屋に差し込む眩しい光という神秘的な光景、威圧的な体が出す優し気な声。


上手く状況のギャップを使い分けたのが良かったのだろう。生徒達の関心は男へと向かっており、それでいてその視線に敵意は無かった。


未だに懐疑心の籠った目を向ける熱斗やネットを全く見ていない他の生徒たちと違ってギャップによる印象の操作ができると理解している祥吾、いじめを受けているため簡単に人間を信じることができない美幸などの一部の好意的とは決して言えない視線を受け取って逆に微笑み返しながら男は口を開いた。


「私の名はポゼア。よろしくお願いします。」


好意的な微笑みに生徒達もバラバラながらお辞儀を返す。


そんな温かい空気の中、熱斗が問いかけた。


「あの、早速で悪いですが、質問よろしいでしょうか?」


他の生徒たちを不安にさせないためだろう。その声には疑うような響きが含まれているが、それはよく注意しなければ気付かない程の小さな物だった。


「はい。構いませんよ。」


そう言ってポゼアはそのエメラルドグリーンの瞳で熱斗の赤い瞳を覗き込む。真摯な輝きを放つ瞳だ。眩しい外から薄暗い室内に入ったせいで瞳孔が少しづつ大きくなっていて、それが心を覗き込むような不思議な雰囲気を放っている。


しばらく熱斗はポゼアと見つめ合った。


熱斗が何をしているかわからない生徒達は混乱し始めたが、熱斗への信頼が厚いためかその雰囲気に不安の要素は感じられない。炎崎がまた俺達のために頑張ってくれているのだろう、くらいにしか捉えていないようだ。


「ふぅ…」


三十秒程見つめ合った後に熱斗はため息を吐いた。


真摯で真っ直ぐな瞳に弱いというどこの漫画キャラクターだとツッコミを入れたくなるようなキャラをしている熱斗はポゼアの瞳に真っ直ぐな物と熱い物があることを感じ取ってわずかに微笑んでいる。


「すいませんでした。」


腰を九十度に曲げて申し訳なさそうな声で熱斗は言った。


熱斗の行動に生徒たちがざわめく。


同級生がいきなり現れた男と見つめ合い、いきなり謝りだしたのだ。不思議に思わない方がおかしいだろう。


ポゼアがわずかに目を見開く。


それを自分の突発的な謝罪に驚いたのだと捉え、熱斗は補足のために口を開く。


「先程まで僕は貴方のことを怪しいと思ってしまいましたが、それは間違いでした。貴女の真摯な瞳。それを見て、先程まで貴方を疑っていた自分自身が恥ずかしくなりました。本当にすみませんでした。」


「いえいえ、わざわざ謝罪をされるほどの事でもありません。こちらこそ、そんなことのために頭を下げて頂いてしまい、本当に申し訳ございませんでした。」


二人が互いに頭を下げ合う。


その場には奇妙な沈黙と、普通の人なら下らないと言うような熱斗の言葉を真に受けて逆に謝り返したポゼアを尊敬する、生徒達の視線のみが残った。


「…オホン。」


沈黙に耐えきれなくなったのか、熱斗が一つ咳払いをして沈黙を破る。


そして熱斗は再び問いかけた。


「それで、質問なんですけど、まずここがどこだか教えてもらえませんか?」


熱斗は問いかける。その少しも怪訝さのない声に微笑みながらポゼアは答えた。


「ここは、私が王をやっているアテネ王国です。」


こんな豪華な部屋に一人だけで入ってこれる程の権力の持ち主だ。かなりの権力者なのだろうと予想していたのか、王と聞いても生徒達は目を見開くだけで、漫画の様に叫んで驚きを表すような事はしなかった。


アテネ王国、という聞いたこともない名に生徒たちは首を傾げる。


そんな様子を見てポゼアは説明を始めた。


「今なぜ貴方方がここにいるか、そしてアテネとはどこか。恐らく貴方方はその事をご存知にならないでしょうから、私の方から説明させて頂きます。」


生徒達はいつになく真剣な目でポゼアを見る。


熱心な瞳からは真剣に話を聞こうという意思が滲み出るようで、彼らの真面目さを表していた。


「まず最初に、この世界にはダンジョンと呼ばれるものがあります。

これは天と地を繋ぐ役割をしている物です。」


ポゼアの言葉に早速熱斗が質問する。


「その、天と地、と言うのは何ですか?」


熱斗の質問にもっともらしく頷いてポゼアは解説をする。


「地、と言うのは人間が生活しているこの地上のことで、天と言うのはその上空にある、太陽などがある場所の事です。」


わかりやすい説明だ。とりあえず「地」が地上で「天」が宇宙なのだろう、と解釈して熱斗は納得したように頷いたが、すぐに新しい質問が浮かんできたのでまた質問する。


「でも、宇宙…、天にだったら、高く飛べば行けますよね?何で繋ぐ、なんて言い方をしたんですか?」


その質問にポゼアは驚いたように目を見開いた後にクルリと足を出入り口の方に向け、背を向けたままで生徒達に言った。


「ついてきて下さい。」


その言葉に従って生徒達は眩しい光に目を細めながら外に出る。


そこには真っ青な青空とギラギラ光る太陽、そして眼下に広がる大きな緑色の土地があった。振り返って部屋の出入り口の方を見てみると、その部屋のある建物の全体像が分かる。


部屋は、大きな黄金の宮殿のような建物の内のほんの一部だった。


生徒達は滅多に見れない絶景にほぅとため息を吐いて景色に見惚れる。


そんな様子を満足そうに、しかし少し寂し気に見ながらポゼアは言った。


「確かに貴方が仰った通り、昔は私共は高く飛ぶことさえできれば天に辿り着く事が出来ました。」


そこでポゼアは言葉を斬る。


過去を思い出しているようなウットリした目だ。その過去がよっぽど楽しい物なのだろうか。その目は満足げに細められている。


「しかし、二十年前、私たちはそれが出来なくなってしまったのです。」


暗くなっていく声の調子と同じようにその瞳も悲し気な物へと変わっていく。


「二十年前、この土地、いや、グリス大陸と呼ばれる大きな大陸の中に存在する十二個の国全てが戦争を始めました。もちろんこのアテネも参加していました。」


ポゼアの感情が入った悲しい語りに景色を眺めるのを止めて生徒達は聞き入る。


「その戦争はとても大きな物で、多くの人が死にました。その数二千万人。この大陸全体の人口の二十分の一もの割合、と言えばその多さがわかるでしょう。」


悲壮な声に一層力が入る。


「多くの人の死に悲しむ者も増え、とある魔術師も大きく心を痛めていました。

その魔術師の名はジャスパー・キャパリーグ。大陸で一番の魔術師と謳われる程の大魔術師でした。

彼は人が死ぬことを嫌っていたので、我慢が出来なくなったのでしょう。戦争をしている国々に、戦争を止めなければ天を封印すると宣言したのです。

しかし、国々は彼の言うことに耳を貸しませんでした。

彼も脅しとしてやると言ったことをやらないわけにもいかず、結局何度警告しても無視され続けたため、遂に天を封印したんです。

自分の言うことを聞かずに無駄に人の命を奪い続けた十二ヵ国一つ一つに大きな太い柱を建てて、その上に大陸を覆いつくせる程の大きな蓋を被せることで。

天蓋、と呼ばれるこの蓋が被せられたことによって大陸は暗闇に包まれ、最早右も左も見えないような有様になりました。

それに困り果てて各国がジャスパーに天蓋をどけるように頼んだところ、ジャスパーは信じられないことに天蓋の下に小さな太陽を作り上げたのです。

そしてジャスパーは、とりあえず明るさは戻したが、小さい太陽はあくまで人口の物体である為自然の太陽とは大きく違うこと、そして小さい太陽は土地を蝕む光を発するため二十二年程で大陸の土地そのものが光に耐えられなくなって滅ぶことを伝えました。

そして、あと二十二年以内に戦争を起こさなかったら二十二年後に天蓋と小さな太陽を取り除くことを約束したのですが、三か月前にジャスパーが死んでしまいまして…」


ポゼアの言葉に熱斗は悲壮な表情を浮かべる。


「そんな!それじゃあ後二年でこの土地は滅んでしまうじゃないですか!」


熱斗の言葉に頷いてからポゼアは話を続ける。


「はい。しかしジャスパーが死んで一ヵ月、つまり二ヵ月前にダンジョンの中が空洞で、階段のように上っていけば上に辿り着ける、ということが発見されました。」


熱斗は表情を若干和らげて安心したような感じで胸を撫でおろす。


「しかし、ダンジョンの中にはこの二十年で物凄い量の魔物が住み着いていまして…。全ての国の兵力を使ってようやくこのアテネのダンジョンの最下層を制圧することはできたのですが、どうにも戦力が足りなくて…。そこで異世界から強い勇者を召喚して九層あるダンジョンの頂上まで辿り着き、天蓋を壊すなりなんなりして取り除いていただきたいのです。」


いつの間にか生徒達に向き直っていたポゼアは丁寧に言って頭を下げる。


その下げられた頭からは絶対に土地を救いたいという意思が感じ取れた。


ポゼアの姿を見て親切そうに笑いながら熱斗は言った。


「当たり前ですよ!僕達に出来る事なら何でもします!」


「僕」だけではなく「僕達」と言ってさり気なく他の生徒を巻き込んでいることにツッコむ者はいない。


天蓋の下の小さな太陽が、呆れたように揺らめいた。

※この小説の主人公は神谷祥吾です。決して炎崎熱斗ではありません。

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