1話 ドはまりしている。
皆の視線が俺に集まっている。
鳴りやまない拍手と共に、頭上から幕が下りてくる。
まだ舞台に立っていたいという寂しさもあるが、それ以上に達成感があった。
もう後悔はない。何もかもやりきった。
そんな事を考えている内に、観客の視界から
俺の姿は見えなくなった―――――――――――――
ミーーンミンミンミー・・・
蝉の声がとってもうるさい季節に俺はあるものにドはまりしていた。
ミーーンミンミンミー・・・・
「なぁ!放課後アイス買いにいかね??」
友達が俺に誘惑してきた。だが俺は放課後やることがあるのだ。
ミーーーンミンミンミー・・・
「悪い!放課後は部活だわ」
そう俺はある部活動をしている。入学当初は別に部活をする予定はなかった。
ミーーーンミンミンミーー・・・・
「そっかぁ、、おっけー!部活頑張れよ!!」
ミーーーーーンミンミンミーーー・・・
「おう!!」
ミーーーーーーンミンミンミーーーー・・・
俺は今何にドはまりしているかというと
ミーーーーーーーンミンミンミーーーー・・・
って蝉うるせぇぇーーんだよ!!!!!!!
どんだけミンミンしてんだよ!!自己主張激しすぎんだよ!!虫かご入れるぞごら!!!
・・・・・とにかく、俺は今
演劇にドはまりしている————————
部室のドアを開けた瞬間にそれは起こった。
「きゃぁぁぁぁーーー!!!!」
可愛らしい女の子の声だが明らかに何かに驚いた様子だ。
その女の子の視線の先には・・・うつぶせになって倒れている人がいた。
「モ、モリミズ!!ひ、人が!!」
「まさかお前・・・」
「ち、違う!!私じゃない!何も知らない!!」
「じゃあ誰がこんなことすんだよ!!??」
「知らないわよ!!私も今来たところで・・」
「この学校に殺人鬼がいるっていうのか!?」
「そ、そんなこと言っといて本当はモリミズが殺したんじゃないの・・?」
「なんでそうなるんだよ・・!」
するとうつぶせに倒れていた人が急に叫んだ。
「カットォォォォォ!!!!!」
はい。茶番です。演劇部とはすぐ茶番をしたがる集団である。
そして迫真の演技を終えた女の子(叫んだ方)が俺に近寄ってきた。
「どうよ!私の素晴らしい演技力!モリミズ騙されたでしょ!」
二ヤリと自慢げに話すこの女の子は桐川 桃。普段からこんなテンション
で体の動きも声もうるさい。
さっきから俺はモリミズと呼ばれているが、本名は森下 瑞樹。だから略して
モリミズと呼ばれている。しかし一部ではこのあだ名が悪化し、クソミズやスクミズと変えられ、
一番ひどいものでヌクミズと呼ばれた。俺ハゲてねーし!!
「別に騙されねーよ。ドア開けた瞬間に叫び声あげるとかタイミング良すぎだ。」
大体こんなに簡単に事件が起こるとか名探偵コナンとか金田一少年とかの
1日に1回事件が起こることが義務づけられてる世界じゃないと成立しない。
「僕の死体役はどうだった?」
実は倒れていた人も女の子であり、名前は石井 晴美。
性格はおとなしく俺の意見を唯一ちゃんと聞いてくれる子だ。
そして可愛い。さらに一人称が ぼく である。神である。癒しである。
「なかなか良かったぞ!死んでるように見えたぜ!」
死体役の褒め方はこれであっているのだろーか。
するとドアが開いた。
「おざっすーーー!」
「あれ?まだ3人しかきてないのか。」
正直イラっとくるあいさつをするこの男は大木 日向。演劇部二人目の男で、
メガネである。そしてテンションが高い。桃を男にしてメガネかけた感じだ。
名前が女っぽく、それが原因で昔いじめられていた時期もあったらしい。
そして、桃と日向を合わせるとめっちゃうるさい。まぁうるさい。
今日は静かにしてもらいt
「桃!!昨日の最終回みたか!!!??」
終わった。
「もちろん見たわよ!!もすごすぎて泣きに泣いたぁぁぁぁ」
泣いただけで十分だろ。
「本当にそれな!!なんであそこで主人公がドーーンってなんの!?!?」
語彙力をつけなさい。
「それ!!もったいなすぎるわよ!!ポチがかわいそう。。。!!!」
ポチってなんだよ!犬か!?犬だよな!
「だよなぁぁーー。。!!ハチの登場もやばくなかった!!??」
もう犬の話なのね!ハチ出てきたらそうだよね!?次はシロとか出てくんだろ!
「あれはやばかった。。。やっとシロロと再会できたもの!!」
シロでいいだろ!なんだよシロロって!ケロロみたいじゃねーか!
二人の会話を心の中で突っ込むという作業は15分ほど続いた。。。
「ほら、そろそろ部活始めるぞ。。」
突っ込みつかれた俺はこの言葉で二人の会話を終わらせることに成功した。
実はあと先輩2人に後輩2人同級生1人とまだまだいるのだが委員会やクラス
のことで部活に遅れるらしい。
すると日向が
「よーっし!部活始めるぞー!!」
俺が言った。こういうところカチンとくる。
先輩がいない時は大体俺が部長代理として皆に指示をする。
まぁ俺の言うことを聞くかは皆の気分次第だ。イラッ
「さ、柔軟からやるぞ。」
我が千葉県立 四実高校演劇部は柔軟から始まる。まぁ大体柔軟からだけど・・
二人一組になって片方が押すという普通のスタイルで柔軟をしていく。俺の相方はもちろん日向。
しかし俺にとって最初にして最大の難所だ。
まぁつまり、、、
ピキッ
「うぎゃぁぁぁぁぁああーーーーーーー!!!!」
今日も柔軟で俺の声が部室中に響く。
「そんなに押してないってーwwwww」
草生えすぎだごら。名前が女みてーなメガネのくせに。
「殺す気かてめぇー!!ぜってーわざとだろ!!」
「うんwwww」
「うんじゃねーよ!股関節ポロリするわボケ!!」
それに草生えすぎだごら。名前がメガネみてーな女のくせに。
すると桃が
「うるさい!!ちゃんとしろ!!」
あの桃に怒られた。なんだろ何故かわからんが・・・ウケる。
そんなこんなで筋トレをしてる時に、そいつはやってきた。
「遅れてすいませーーん!!!」
遅れてきたこいつは俺のひとつ下の後輩 高橋 智咲。
正直言うと俺はこいつが嫌いだ。何故なら、、、
「あ、スクミズ先輩おはよー!!」
スクミズというあだ名を最初に思い付いたスクミズの母だからである。
「誰がスクミズじゃ!!!それとおはようございますだ!!もっかい挨拶からやり直し!」
全く礼儀のできない後輩だ。
「はーい。。スクミっちゃんおはようございます!」
「スクミっちゃんもやめろ!!!もう筋トレ倍だ!!」
これは正当防衛。多分使い方間違ってるけどいいや。
「そんなぁーーーー。。。!!!最低!鬼!浮気!不倫!ダブル不倫!」
最後の3つは聞き捨てならん。
「斎藤 た〇みか!!!この年齢でできるわけねーだろ!!」
「ふんっ!!」
本当に可愛くない後輩だ。。
すると見かねた晴美が
「智咲。筋トレやろ。」
と戦争をなくせる笑顔で智咲に言った。
こんなに優しくて可愛い子が他にいるだろうか。正直いるよね。
「やります!!晴美先輩♥♥」
でもこの可愛さに智咲もこのありさまだ。とても助かる。
すると続けて先輩が二人とも来た。
「遅れてごめんね!!もう筋トレ終わっちゃった!?」
この元気な先輩は川上 美咲先輩。いつも俺らを引っ張てくれる
めちゃくちゃ頼りになる演劇部の部長だ。たまに突っ走っちゃうけど・・・
例えば、怒ってる演技の練習で外に向かって「女は胸でしょうがぁぁぁあああーーーー!!!!」
と叫んだ時はさすがにひいた。
とりあえず先輩に現状報告。これ大事。
「いや!まだ始まって少しですよ!あと他にも3人ほど来てないですし。」
するともう一人の先輩も部室に入り
「じゃあ美咲。私たちも始めましょ。」
このおしとやかで大人びたお胸の大きいこの先輩は矢島 胸子せんぱ、間違えた
矢島 夢子先輩。突っ走る美咲先輩を落ち着かせてくれるとても良い
副部長だ。そしてお胸が大きい。あぁ大きい。
あと一人同級生がいるのだがどうやら今日は来れないようだ。LINEで『イケナイ』ときた。
「5分休憩したら発声な!!」
柔軟と筋トレを終え、次に演劇部の最も重要と言っても過言ではない発声練習だ。
部室から出て屋上へ向かう途中、日向が俺に向かってとんでもないことを
聞いてきた。
「なぁモリミズ。ぶっちゃけ誰と付き合いたい?」
「は?」
「俺は晴美だな!!俺の嫁でありメイドになってほしい」
くたばれと思った。
「お前普通に気味悪いな。」
これは本音である。
「だってあんなに可愛くていい子はそうしたいと思うだろ!!」
するとこの会話がどうやら桃に聞こえてたらしくとてもイライラした様子で
日向に殴りかかった。
「とりあえず死ねーーーーー!!!」
「なんでぇぇぇええーー!?!?」
日向が飛んでいく姿を見て俺は・・・満足した。
あ、桃がイライラしてた理由はわかるよね?めっちゃ日向が鈍感ってことです。
「ほらふざけてないで発声するぞぉ!」
部長に注意され小走りで屋上へ向かった。
発声練習は一列に並び行う。ここで発声中にイラっとくる事を紹介しよう。
教室から軽音楽部のやつらがニヤニヤしながらこっちを見てくることだ。
石を投げてやりたい気分になる。
「ニヤニヤこっち見てんじゃねぇーーー!!」
部長が叫んだ。ありがとう。でもバカ。
「こら美咲、あんなもの気にしてもしょうがないでしょ。」
さすが夢子先輩。すかさず部長を落ち着かせてくれる。
「サルが鳴いてるだけなんだから。ウフフ。」
夢子先輩怖いっす。その笑顔は怖いっす。
発声練習は腹式呼吸、発声、活舌練習と行っていく。
発声は正直好きだ。何も気にせず大きな声を出すのは気持ちいい。
発声練習が終わり部室で休憩中に部長が前に立ち、俺らにこんなことを言った。
「もう少しで秋大会だ!去年、県大会は行けなかった。でも今年は絶対行くぞ!!」
演劇部には年に2回、地区大会がある。春大会と秋大会があり、春は県大会がなく
楽しむことが目的の大会だが、秋は県大会だけでなく全国大会まで続くという、勝つことが
目的の大会だ。地区は千葉県内で第7地区まで分けられ、我ら四実高校は第2地区である。
「頑張るぞーー!!」
部長が声を上げた。部長が気合い入ると自然と俺らも気合いが入る。
「おー!!!」
休憩が終わり、演技の練習だ。
「まず、台本に入る前に表現の練習しとこう!」
部長のいう表現の練習とは、一人がマラソンのラストスパートで走ってる設定で、その他の部員は
壁に一列に並び、ランナーに対して本気で応援するという練習だ。これをしてると感情をむき出しに
でき、表情も作りやすいため表現力がつく。部長の考えたいい練習である。
じゃんけんで負けて俺がランナーとなった。
「よし行くぞ!よーいはい!」
部長の合図で俺は息を荒くし、その場で足踏みをして走ってる演技をした。
するとサイドから本気の応援が聞こえる。
「モリミズがんばれーーーー!!!」
「踏ん張れ!!!!」
「お前ならできるぞーーー!!!!!!!」
とても心地がいい。みんなが俺を応援してくれてる。
「ラストスパートーーー!!」
「調子乗んなーーーー!」
「モリミズファイトーー!!」
ん?なんか悪口聞こえた気がした。気にしないでいこう。
「持ちこたえろモリミズーー!!」
「口臭いぞーーー!!」
「気持ち悪いーーーーー!!」
うん。悪口。キレようかな。
「死ねーーーーーーーーー!!!」
「なんで生きてんのーーー!!!」
「どうしてそんなに大きくなっちゃったんですかーー!!」
アリサンマーク関係ねーだろ。あと悪口のレベルが上がってる。
「いぇぇぇぇぇえええええい!!!!!」
「おにぎりはツナマヨだーーーーー!!!!」
「BL大好きぃぃぃーーーーーーー!!!!!!!!」
さすがに我慢の限界だ。
「言いたい放題だなおい!!!途中から関係ないことしか言ってねーじゃん!!ちゃんとやれ!!」
ちなみにBL大好きは智咲が言った。演劇部は必ず腐女子がいると言っても過言ではない。
そんな感じで表現の練習は終わり、台本に取り掛かった。
今までの流れからは想像つかないだろうが、演技が始まると皆の顔つきは変わり、演技に集中する。
特に部長の演技は目が離せなくなるほど素晴らしいものだ。
「じゃあ最初から6ページまで通しでいくよ!」
「はい!!」
部長の指示に皆が返事をし、活気が上がった状態で演技は始まった。
今回俺らは「シークレットライフ」という台本を演じる。これはロボットを作ることが
好きな主人公とその娘の物語である。主人公のロボットがある機関に認められ、ロボットを預ける
事になったが、ある大きな陰謀が隠されており、それを解決しながら家族の絆も深まるあたたかい
作品である。
俺は主人公として出る。先輩達の県大会に挑戦できる最後のチャンスでもあるため、
俺は勉強よりも本気で取り組んだ。
1時間半ほど演技をやり、今日の部活は終了した。
薄暗い空の下、俺は日向と自転車を走らせていた。
「そういえばさっきの答えきいてねぇよ!」
メガネバカが俺に言ってきた。さっきの答えとはナンダローー
「うん?」
「誰と付き合いたいかだよ!!」
やっぱりそれか。仕方ないから答えてあげよう。
「あーそれかー。正直部員は恋愛対象にできん。」
確かに可愛い子はいるし性格がいい子もいる。ただ、演劇仲間と考えるだけで俺は部員を
恋愛対象に見ることはできない。
「まじかよ!!もったいなすびだわぁ」
なんだろう・・腹立つ。
「俺はもっと超絶美少女を見つけてアタックするな。」
自分で何を言ってるんだろうと思ったが、理想は大きく持とう。
「そんなやついるのかー???」
いてもいなくてもそういった子が彼女がいいと思うのは俺の自由だ。
「ま、あくまで理想ってだけだ。でも今は恋愛より大会だろ?」
「せやな!!!」
急に関西弁使うのはイラってくる。しかし華麗にスルーして俺は自転車をこぎ続けた。
日向と別れた後、一人でカラカラこいでいると風が強くなり、空の様子も怪しくなってきたため
俺は自転車の速度をあげた。
しかしドンマイ俺。大量の雨が自由落下運動してきた。急いで近くのバス停に雨宿りし、
雨が収まるのを待とうと思い、バス停の屋根の下に入った。
すると、俺が入ったと同時に別の高校の制服を着た女子高生も雨宿りにきた。
その子の顔を見た時、、、、、、、雨の音が聞こえなくなった。
自然な黒髪にきれいな肌、子猫のような顔立ち、いかにもピンク色が似合いそうな子であった。
目をこすり、空を見上げ困った表情をし、ため息をついていた。
我に返った時、ずっと女子高生をガン見している自分に気づき、とっさに視線をそらした。
危ない危ない。もう少しで変態になるところだった。
しかしあれだな。気まずいな。絶対あの子はこのバス停に雨宿りした事を後悔しているだろう。
まぁ急な雨だったから、とっさに近くの屋根に入ったのだろう。そしてそこには俺がいた。
俺的には美少女と一つ屋根の下(バス停)の関係になれた事に喜びを感じている。
サンキュー天気の神様、サンキュー木〇さん、そらジ〇ー。
まずいな・・・雨に濡れたせいで頭が冷えてきた。今日に限ってタオルを忘れた。
早く雨収まらないかなー・・
「あの、使いますか??」
優しく伸ばされた彼女の手の先にタオルが握られていた。
「え・・?」
さすがの俺も戸惑いで言葉が出ず、聞き返すしか選択肢が思いつかなかった。
この女の子との会話に慣れていない童貞のような反応をした俺に、彼女は優しく答えてくれた。
「タオルないのかと思って・・よかったら使って下さい!」
俺の頭はフィーバータイムに突入した。何この子神か。
「あ、ありがとうございます・・・助かります・・・!」
俺は聖書のようなその聖書を受けとt間違えた、タオルを受け取った。
「雨降るなんて聞いてませんよね!念のためタオルを持ってきてよかったです。」ニコッ
最高の笑顔だ。もう死んでもいい。ごめん死にたくはなかった。
「本当ですよね!天気予報信じてきたのにw」
今日の天気予報のはずれはありがたき幸せ。
「私も信じてましたwお互い裏切られた同士ですね。」
あぁうれし。裏切られた同士だって。あぁうれぴ。
「あはは!そうですね!」
彼女はとても話の上手な子であった。俺が慌てて変なことを言っても会話が途切れずむしろ
はずむ。またさらに声がいい。可愛らしくふんわりとした声なのにちゃんと声が耳元に届く。
髪をかき上げる仕草もたまには入り、俺の目が彼女を飽きることはなかった。
だめだ、ここまでいくともう変態だ。ちゃんとした変態だ。
幸せな時間を過ごした。ずっと話していたいという思いは届かず、雨は終わりを告げた。
「それじゃ雨やんだので行きますね!」
「はい!気を付けてくださいね。」
この言葉で会話が終わり、彼女は帰っていった。
あ、結局名前を聞くのを忘れた。学校も聞いてないし・・・てかタオル返すのも忘れた。
色々やり残した事やもう少し話したかったという寂しさから、俺はバス停から少しの間
動けなかった。あー可愛かった。本当に。
また、、、、会いたいな。可愛かったな。
可愛いを心の中で連呼する気持ちの悪い新生物となりながら、自転車を走らせた。