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愛されぬ花に祝福を  作者: 兎角Arle
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第六話:メロウキネマ

「どうだろう、知識ではなく、他人の思い出を見るというのは」

「怒る気さえ起きないB級映画を見た気分だな」

目の前でにこやかに笑う男、カンナをチラリと見て、ラベンダーは悪態をついた。

全身拘束されて無理矢理に座らされている現状。

モネの針とは違うが、同系統の魔法で、まるで映画を見るようにカンナの記憶を見せられた。

抜け出そうと思えば抜け出せるものの、それが出来ない理由もあった。


時を遡ること半日前。

折角魔法使用の許可が出たのだからこれはロゼとの約束を果たさなければと、再び小屋を抜け出して街へ繰り出したラベンダーな訳だが、そこで待ち受けていたのは追手の集団。さっさとトンズラこいてしまおうと思った時には遅く、置いてきたモネが人質にとられてしまっていたのだから渋々と付いていくしかない。

そんなこんなでこうして『黒幕』であるところのカンナという男と対面させられ、見たくもない上映会を行われていたわけだ。


モネを助けて逃げることもラベンダーにとっては簡単に出来る事だが、追われる理由も気になったので、相手が飽きるまで付き合ってやる。

幸いなことに、目に見える所にロゼが居る。

それだけで気分が晴れやかに成るのだから、本当にラベンダーにとっての癒しだ。


「あのよぉ、俺もう蓑虫みてえにぐるぐるで拘束されてんの飽きたんだけど。これ外してくれねえ?」

「きみなら自分で外せるだろう? 魔法を僕に見せてよ」

「ああ? 人が折角魔法使わないでやってるってのに見せろだあ? 反撃されてえのかお前? Mなの? ドMくんなの?」

からかうように言うと、カンナは口元に笑みを残したままラベンダーを睨んだ。

「きみは母親に似て口が悪いな」

「そりゃあ親子だからな。つっても、俺は一度も会ったことねえけど」

刃物のような鋭い視線を気にも留めず、普段の軽い口調で返す。

いつでも逃げられるというゆるぎない自信をもっていた故に、どんな状況下でも余裕でいられた。

「まあいいや。兎に角、魔法で拘束を解いてみてくれないか?」

「へっへっへ。しょーがねえなぁー! 出欠大サービスしてやんよ」

勿体ぶってはいたものの、元々魔法を使いたくて仕方が無かったので、素直に相手の言葉を聴きいれた。


魔法の発動に必要性は一切ないけれど、ただ「それっぽい」なんて理由だけで、コンコンッと足を鳴らした。

すると、ふわりとプレゼントのリボンを解くように、拘束が外れてゆく。

外れた拘束具は床に落ちると花弁に変わり、床中が色とりどりの花弁に覆われる。

拘束が消え自由になったラベンダーは、立ち上がりただニヤリと笑うと、今度はパチンッと指を鳴らした。

一瞬で姿が消えたものだから、逃げられたのではと焦ったけれど、直ぐに取り越し苦労であったと胸をなでおろす。


いわゆる、瞬間移動でラベンダーが移動した先はロゼの目の前だった。

真っ赤な花束を片手に、ロゼの肩を抱き、ウィンクを飛ばしている。

突然目の前に現れたこともあって、驚きで動けない様子。

そのまま沈黙が続いたけれど、ラベンダーは一切恥じることなく堂々とロゼの反応を待ち続ける。


沈黙を破ったのは拍手の音だった。

「うん。当然と言えば当然だけど、その歳でここまで出来るなんて、流石天才だ。あのコロンバインの再来を思わせるよ」

「褒めても何にもでねーよー?」

「ロゼ、黙ってないで何か言ってあげなよ」

カンナに促され、初めてロゼが口を開き、小さく「すごい」と言った。

その言葉だけで満足そうに笑顔を浮かべ、花束を押し付けるように渡すと、わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でてやった。

「そうかそうか! そうなんだよ! 俺ってばすげーんだよ!」

されるがままに髪の毛を乱されても、表情を一切変えることはなく、じっと黙っているロゼ。

謙虚な奴だな~、其処がまた可愛らしいな~。と、ラベンダーはニマニマと満面の笑みで眺めている。


「提案があるんだけれど」

「ああ? なんだよ?」

ロゼと居られるだけで幸せなラベンダーからしてみれば、カンナの存在は完全な邪魔者であり、せっかくの夢気分を妨害した彼に少しばかり敵意がむいた。

その威勢をものともせず、普段と変わらぬ柔らかさで続ける。

「僕達の為に魔法を使ってくれたら、人質を解放してあげる」

「嫌だね」

考える間も無い即答に、今度ばかりは驚いた。

「どうして?」

「俺、自分の為にしか魔法使いたくねーもん。モネにはわりーけど、指図されるなんてまっぴらだぜ」

つっけんどんに言われ、カンナはワザとらしく悩む仕草をする。

とはいえ、この交渉が決裂した以上、残る手段は限られている訳だが…。

「逆にしよう」

「逆ぅ?」

「僕達の為に魔法を使わないと、人質を殺す」

「ひゅー。脅迫か」

本人は口笛を吹いた心算だろうが、虚しくも空気がぬけるだけだった。

こういう所は少し不器用なのだ。

しかし、やはりラベンダーは動じた様子を一切見せず、何もない空間に、まるで椅子があるかの様に座り足を組んだ。


「やれるもんならやってみろよド三流」

余裕をたっぷり込めて言い放つ。

カンナは笑顔を崩さず、「そう」と。

「じゃあ、遠慮なく」


ラベンダーがその応えに驚き、一瞬反応が鈍る。

その隙を見逃さずカンナは彼の頭を鷲掴んだ。

「なっ――ア、アアアアアアアアアアアアアアアア!?!!?」

突然掴みかかられ怒りをあらわにしたのも刹那、直ぐに脳内に焼きつく情景に悲痛な悲鳴垂れ流した。

離れようと必死に醜くもがき、己を掴み上げている手を引きはがそうと必死に暴れるけれど、流しこまれる凄惨な映像に力が入らない。


目の前でモネが様々な拷問で殺されていく姿が何度も何度も繰り返し流れ、その心身の痛みが全て自分にも伝わってくる。

まるで呪いの藁人形のようだ。

それでも、映像のモネは死に切らないのだから、何かしらの延命措置を施されているのだろう。

勿論それは、ラベンダーにも適用されていて・・・。


最早、苦痛で魔法を使うという発想に至ることが出来ずがむしゃらに手足を振り回す。

「きみのような天才からすれば、僕なんてド三流だろうけどね、それでも、世間的に見れば、僕もなかなかな魔法使いなんだよ」

心底愉快そうに告げられた言葉も、ラベンダーには聞こえていない。

ラベンダーの苦しむ姿があまりにも気持ちが良過ぎて、目的を忘れかけてしまった。

これ以上はいけないな、と見切りをつけてカンナは手を放すと、悲鳴は止む。

いきなり放された事で痛みからも映像からも解放され、それでも立つことが出来ずにそのまま地に伏した。

呼吸を整えるような荒い息が聞こえ、かろうじて生きている事が分かる。

ショック死なんてされたらたまったもんじゃない。


「おーい、大丈夫?」

「はぁ・・・はっ・・・だい、じょぶ、んなワケ、あるか!!」

「だよね、マトモな人間じゃ生きてられない」

起き上がる気力も無く地面にぺたーっと倒れたまま、睨みつける。

「ふざけんなよ! てめーを殺す今すぐ殺す! そうすりゃ全部まるっと解決ハッピーエンドだ!」

「おお、怖いな」

完全に優劣が逆転してしまっているけれど、ラベンダーの魔法が有ればこの状態でも直ぐに誰かを手にかけることは容易だ。

しかしそれを阻むように、ロゼがカンナとラベンダーの間に割って入り、あたかもカンナの盾になる様に身を挺した。

「おいロゼ! そこ退け! 今からその暗黒微笑サディストをあられもない姿にしてやるんだから!!」

「嫌」

「いやだぁ?!」

「カンナ様、殺させない」

まるで親の仇を見るようなまなざしに射られ、素直に悲しくなる。

好意を寄せた相手から冷たくされるのは、やはりいくら天才魔法使いといえど傷つく。

「な、なんだよぉ・・・。俺今、一応死にかけたんだけど・・・」

「それでも、駄目」

「せめて一発くらい殴らせてく――」

最後まで言う前に、逆にロゼに頭を叩かれる。

「駄目」

「・・・・・・あい」

がっくし、と持ち上げていた頭をおろし、体中から力を抜く。

そんな一部始終を眺めていたカンナが感嘆する。


「驚いたな・・・。ロゼのいう事には従うんだね」

「うるせー! 惚れた弱みってやつだよ・・・」

「へえ・・・」

目を細め、興味深げにロゼを眺める。

その視線に気づいたロゼが少し落ち着きがなくなる。

ラベンダーはそのことに気付かず野垂れへばていた。

「よし。じゃあ、彼のことはロゼに任せることにしよう。その方が平和的に済みそうだ」

「え」

「は?」

二人同時に、恐らく違った意味での声を漏らしたであろう。

困惑するロゼの肩に手を置き、そっと言い聞かせるように囁いた。

「ロゼ、これはきみにしか出来ない、とっても大事な役割だ。計画の成功はきみにかかってると言っていい。やってくれるかな?」

「私、しか?」

「そうだよ」

「・・・やり、ます」

「そう言ってくれると思ったよ。期待してるね、ロゼ」

肩をポンポンと叩くと、ロゼは少し嬉しそうに俯いた。

丁度倒れていたラベンダーからはその表情が見事に直視出来て、胸の辺りがチクリと痛んだ。

「ちょーーっとぉ、俺の目の前でなんなの~? 当てつけか? 嫌がらせか? この性悪サディスト」

「え? 何が?」

「無自覚かよ! ふざけんなよ!! いつか絶対ぎゃふんと言わせてやるからな!」


その後、ラベンダーはカンナの監視下に置かれることとなったが、そのおかげもあり、四六時中ロゼと共に過ごすことが出来、本人は能天気にも幸せな日々を堪能していた。

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