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愛されぬ花に祝福を  作者: 兎角Arle
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第二話:花やぐ

生後半年。

慎ましやかに暮らしてみれば、案外追手と出会うことは無く、ラベンダーの頭も大分平和ボケしてきていた。

最低限のマナーを覚えるまで、誰も居ない山奥でモネと二人きりで過ごしていた訳だが、そんな生活にも飽き飽きだ。

早く街に行ってモネ以外の人間と会話をしたくてたまらない。

魔法を使えば一っ跳びでいけるし、己を狙う何者かに出会ったところで一瞬で逃げられるけれど、なんとも面倒くさいことに、モネから「魔法禁止令」が出てしまっている。

どうやらモネは、魔法を探知できるらしく、こっそり使ってもばれてしまった。(モネ曰く、追手も探知が出来るので気付かれないようにする為の禁止令だったとの事。)


要は、この暮らしに早くもウンザリしてしまったのだ。

そこに思考が辿りついてしまえば、気分屋でフットワークの軽いラベンダーが、モネに気付かれないようにこっそりと寝床である小屋を抜け出すのも当然のこと。

上手く気付かれずに逃げおおせたラベンダーは、人の賑わう街を訪れた。

慣れない場所に興味もあるが、若干人酔いしてしまう。

なんといっても、彼はまだ生まれて半年なのだ。

目が回りだしたのでそこいらのベンチで休憩を取ろうとよろよろと足を動かす。

恥かしいことに、今回はモネの言うとおり小屋に居るべきだったと後悔しかかった時。

「やべえ・・・」

人が行き交う街の中で、じっと無言でこちらを見つめる少女に気付き、ラベンダーは声を漏らした。

周りの誰かに聞かれることなど厭わずに独り言を続ける。

「何がやべえって言うと、まず見ず知らずのかわい子ちゃんが俺に熱い視線送ってるってことだよな。それにあの子滅茶苦茶可愛いんだけどどうしよう、俺から声掛けるべきかなあ、いやでも驚かせちゃうかもしれないしなあ・・・ああ、なんでこういう時ばっかモネが居ないんだよ。教育者だって言うんなら俺に正しい恋愛の仕方を教えてくれってんだよ」

当然、少女に声は聞こえていないがその挙動不審な行動は全て見られている訳で、しかし彼の性格故か本人はそのことを一切気にしていない。

ラベンダーの周りを気にしないぼやきは一周回って「そもそもモネの恋愛談が役に立つのか?」という全く関係のない(それも失礼極まりない)ものに変わっていた。

そうこうして再び少女の方へ目を向けてみると、さっきまで居た筈の彼女は何処にも見当たらない。

「うわああああ!! マジかよ!! あの子どっかいっちゃったよ!!」

通行人など気にせずにその場にがくんと膝を付く。

こんなことなら声をかければよかった、これが後悔先に立たずって奴か・・・。とブツブツと言っていると、目の前に立ち止まる足が見えた。

「はじまして」

「んあ・・・? おぅぶ?!」

先程の少女が目の前にいたことに驚き、変な声を上げてしまい、すぐさま手で口を塞いだ。

「はじまして」

気にせず繰り返される言葉に、手を退け「はじ・・・?」と首を傾げる。

「ああ、『初めまして』か。おう、初めまして。お、俺になんか用か?」

怖いもの知らずのラベンダーも、女の子、それも気のある子へどう接すればいいのか分からず、少し勢いがない。

「名前」

「おっと、そうだな。俺はラベンダー。お前は?」

「ロゼ」

「ロゼか。んで、ロゼは俺になんか用か?」

「会いに、来た」

「俺に?」

「そう」

不自然な喋り方ではあったが、生憎ラベンダーが知る他人はモネだけだったのでその不自然さに気付くことは無く、いつも通りに茶化したような事を言う。

「ははーん、なあるほど、俺とロゼは運命の赤い糸ッつーので結ばれてんだな!」

「かもしれない」

「おぇ?!」

ラベンダーも、此処で良い感じにツッコミを入れてくるだろうと思っていたので、ロゼの切り返しに再び素っ頓狂な声が出る。

無言のまま、逆にこちらが恥ずかしくなって真っ赤な顔を向けていると、

「違う、かもしれない」

と、付けたした。

「どっち?!」

「どち?」

「俺に聞かれても分からないよ!!」

こんなことならモネの言っていた人との付き合い方接し方をちゃんと聴いておくんだったと、己の不真面目さを恨む。

しかし、もし真面目にモネの言うことを聴いていたとしても、ロゼとの会話は些かハードルが高いだろう。

勿論、ラベンダーがそれを理解できるはずも無く、ただ、「帰ったら今度こそちゃんとモネの言うことを聴こう」と誓うのだった。


「ラベンダー、魔法使い?」

ラベンダーの服を遠慮がちに引っ張る姿が愛らしく、再び顔を真っ赤にしてしまう。

このままでは茹でダコになってしまうんじゃないだろうかと、馬鹿なことまで考える。

「お、おう、俺は天才魔法使い様だぜ」

「みたい」

ねだる姿もあざとい! なんて、脳内でお祭り騒ぎではあったが、頭の一か所に妙に冷静な自分も居た。だからこそ、次に言う台詞はラベンダーにしては真面目な返事であった。

「ごめんなー。俺今魔法禁止令出てんよ。本当は色々すげえの見せてやりたいんだけどよお・・・」

「みたい」

「うーあー・・・どうしよー・・・。でも、やっぱダメダメ。なんやかんやでモネには世話になってるし、っつうか、ただでさえ抜け出してカンカンだろうに魔法まで使ったことがばれたらぶっ殺される」

揺らぎはしたものの、固く拒否すると、ロゼは伏し目がちに目を逸らした。

「ああーああーごめんよ本当! いつか絶対見せてやっから!」

「約束」

「ああ、約束だ」

ラベンダーが小指を差し出すと、ロゼは小首を傾げた。

可愛らしいモーションに卒倒しそうになりながらも、「指切りしらねえの?」と上ずる声のまま問う。

「指、切り? 指を切る?」

「名前は凶悪だけどよ、約束事する時の定番らしいぜ。こうやってお互いの小指を合わせて・・・」

ロゼの小指を自分の小指と交わらせ、「指切りげんまん~」と軽快に歌う。

「指切った! って、こんな感じにやるんだってよ」

「どうして?」

「詳しくはしらねえなあ・・・。でもよ、何にもやらないよりこうした方が約束守れる気するだろ? ぜってえ何時か魔法見せてやるからな」

「・・・・・・うん」

表情が乏しいので我慢してるんだか納得してるんだか分からないけれど、一応分かってくれたようでホッと一息つく。

ポンポンと乱暴に頭を撫で、「じゃあ、また此処に来るから」とだけ言ってラベンダーは踵を返した。


勿論その日、小屋へ帰ると早々に酷く叱られた。

スパルタ教育というか、これは最早虐待レベルだろうという程ボコボコにされた。

人が天才魔法使いで直ぐ傷が回復できるからと言って、幾らなんでも酷過ぎる。痛いものは痛いのだ。

しかし自分が決まりを破らなければそもそも殴られていないのだから、文句も言うに言えない。


「抜け出したのは本当に悪いと思ってるけどよ、俺今日街に行って良かったわ」

「なんだ、良いことでもあったのか?」

「それがよお! 滅茶苦茶可愛い女の子に会っちゃってさー! 俺その子ともっとちゃんと喋れるようになりたいからこれからは真面目くんに変身するぜ!」

「よく分からんが、友達が出来たのか? まあ、それでやる気が出るのなら嬉しい限りだな」

デレデレと締りのない顔でロゼの事を話す姿に、モネは若干引き気味に返した。

余程その子にご執心のようで、少し心配ではあったが、それでやる気が向上するなら悪いことはない。

人と関わらせるのはまだ早いと思っていたけれど、そこまで心配しなくてもいいのかもしれない。

「それでさ、モネに頼みがあるんだ!」

「頼みだと?」

「ああ。今日会った女の子、ロゼちゃんって言うんだけどな、俺の超絶スゴ技魔法が見たいんだって! これからはちゃんとモネのいう事聴くからよ、あの子に見せてやってもいいかなあ?!」

「いや、それは駄目だ」

やや早口気味に即答する。

そもそも魔法は人に見せびらかすようなものではない、そのことをちゃんと教えなければいけないと、モネが考えていることなどつゆ知らず、ラベンダーはぶうぶうと文句を垂れていた。

それがあまりに鬱陶しかったので、適当に「わかったわかった考えておく」と流すと、「ちゃんと考えろよ!」と釘を打たれてしまう。

全くもって、面倒な奴だ。

「ほら、街に行って疲れただろう? 今日はさっさと休め」

「へーい」

早速にモネからいろいろ教わりたかったけれど、言われてみると、初めてたった一人で街に行って確かにどっと疲れている。

思い出した途端に疲労が体にのしかかり、おまけに眠気も出てきたので、今日の所は素直に眠ることにした。


ラベンダーが眠りに付くのは早く、幸せそうないびき声が聞こえてくる。

自分もそろそろ休もうと、己の部屋のノブに手をかけようとした時――。

「・・・!」

他者の気配に気づいたモネが飛び退くと、衝撃によりドアが吹き飛んだ。

人足遅ければ巻き込まれていた。

「邪魔者、排除」

室内からユラリと出てきた少女は小さく呟く。

手元には刃物が握られ、ギラギラと鈍い光を反射させていた。

「ようやくお出ましか・・・」

苦し紛れに笑いながら言葉を溢すも、相手は待ってはくれない。

小さな刃物を構え突っ込んでくる少女に迎え撃つ為に構えると、瞬間二人の間に現れたラベンダーが少女の手首を掴み捻りあげた。

「!?」

「おおっと、ロゼちゃん、幾ら俺と二人っきりになりたいからってちょっぴり過激だぜ。んなことしたら俺の育ての親が死んじまうってえ」

相変わらず余裕を持ったラベンダーの物言いに、モネはカチンと来たが、状況が状況の為そのことはひとまず置いておくことにする。

「その子がラベンが昼間会った子なのか?」

「俺がこんなかわい子ちゃんの顔見間違えるわけねえよ~。な、ロゼ?」

「放して」

「つれねえなあ」

けらけらと笑いながらも手を放してやるとロゼは困惑の目を向けた。

「俺の魔法はよぉ、いつか見せてやるって言っただろ。せーぜーそれまで待っててくれよ」

「ラベン、この子は多分、追手の一人だ」

「は? んな訳ないだろ、ただ俺の魔法が見たくてしょうがない俺のファン第一号ちゃんだよ」

そうだよな? とロゼに同意を求めてみると、ふるふると首を横に振った。

面を喰らったラベンダーは顔を顰め「追手なの?」と聞き返し、頷く仕草に顔を真っ青にした。

ころころと変わる表情が見ていて飽きない奴だ。

そうは思っても、本人には言ってやらない。

「まじかよぉ?! てっきりロゼは俺の事大好きでだからこんな辺鄙な所まで追って来たんだと思っちまったぜ?!」

「お前ポジティブだな・・・」

モネのツッコミも耳に入らない程にショックだったらしく、ラベンダーはその場に崩れた。

完全に蚊帳の外となったことで、ロゼは不服な顔を向け、二、三歩後ずさり二人と距離を取る。

「何時か、必ず、捕える。から」

そう言うと袖口から小さなボールを床に落とす。

ラベンダーはそんな些細な事に気付かずショックのあまり硬直したまま。

危険を察知したモネはラベンダーを抱え後ろへ飛ぶと、ロゼの落したボールが眩い光を放った。

「っ・・・」

あまりの眩しさに目を閉じる。

下手したら目がやられるほどの強さではあったが、大抵の魔法使いはその程度直ぐに治せてしまうので問題は無い。

ゆっくり目を開けると、ロゼの姿は消え去り、壊れたドアだけが残されていた。


「ふふ、ふへへ・・・」

抱えられたまま気持ち悪い笑い声をあげられたことにゾッとしてついラベンダーを床に落とすと「んぎゃっ」と呻きが聞こえた。

「いきなり落すんじゃねえよ! 痛いだろ!」

「気持ち悪い笑い方するからだ」

「へっへっへ、だってよぉ、笑っちまうだろ」

「ああ」

己の滑稽さに笑わずにはいられないということか。と納得していると・・・。

「『捕まえる。から』だってよ! はぁん、そんなこと宣言しなくても、俺の心はもうロゼちゃんに捕まってるっつーのにな!」

あまりのポジティブさに、モネはまだまだ幼い彼の将来が心底不安になったのだった。

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