鬼現る
鈴の音が鳴り響く。
蝋燭の淡い光が照らす少年の顔は緊張のせいか強張っていた。
盃に満たされる酒を見つめ深く息を吐くとそっと手にする。
「神の後継者としての儀式を始めよう」
低い男性の声音に集まった人々は頷き、少年を見た。
隅の方で口元を隠した青年が静かに見守る中、盃に注がれた酒に波紋が浮かび色が変わって行く。
無色の液に広がる金色を少年は見つめて生唾を呑み込む。
黒く濁ったら最後、神としての役目は与えられない事を知る者は金色のままを願い静かに息を吐く。
「どうだ?」
「……混じりのない金です」
その場にいた全員は安堵の表情で頷くと盃を置くように言う。
置かれた盃に再び波紋が浮かぶ。
建物自体が揺れていると気付き室内に微かなざわめきが広がる。
勢いよく開かれた扉の先に立つ青年が息を切らして口を開いた。
「鬼が現れました!」
鬼という言葉に顔を歪ませると立ち上がり少年を守ろうとする男達は少年の姿が無い事に気付いて動揺をする。
隅に座っていた青年の姿も無く男達は理解した。
夜露に濡れた草叢を走る二つの影。
息を切らしながら木陰に隠れると息を潜め、様子を伺う。
気配が無い事を確認して再び走り出すと山の頂上へ抜ける。
頂上から見える景色に少年は息を呑む。
炎の海に包まれた村はあっけなく崩れ落ちて行く。
蠢く鬼達は何かを探すかのように歩いては立ち止まるを繰り返す。
「僕を探しているんだ」
「そうだろうな、このまま逃げ切る事だけを考えていればいい」
青年の言葉に頷き、ゆっくりと後退る少年の背後に気配を感じ二人は振り返った。
姿は見えないが何者かがそこにいる。
ゆっくりと近づく足音に警戒し、目を凝らす。
少年と変わりの無い身長の人物はゆっくりと笑みを浮かべて片手を上げる。
宙に現れる闇から出現する鬼達に青年は舌打ちをした。
「洸ちゃん下がって、僕がやる」
少年は青年に言うと首から下げた水晶を手に一歩踏み出した。