チュートリアル
世界観説明、の巻。
目を通す程度でいいです。
この世界には人間の他にもう一種、知的生物が存在する。
「異種人」と呼ばれる彼らは、ヒトであると同時に犬や猫、ヘビ、昆虫など他の動物の能力を持ち合わせているのだ。そのルーツは現在も解明されていない。一説では、第六次世界大戦に多用された化学兵器によって出現したヒトの突然変異種とも言われている。とはいえ、件の大戦は数百世紀も前の事なので、真実のほどは定かではないが。
異種人は基本は人と同じ扱いであり、良き共存相手である。
違いとして、まず一つ目に外見が変わることが挙げられる。
異種人は、いわゆる『人』の姿をしていることが多い。しかし、その一方で獣の耳と尾が生えていたり、表皮が鱗のようになって舌先が二股になったりなど、動物の特徴を兼ね備えた姿になることができる。この姿は俗に「半獣」と呼ばれる。また、少数ではあるが完全な動物の姿になれる異種人も存在する。
二つ目に、兼ね備えた動物に基づいた特殊能力があること。
えてして、動物とは一般的なヒトよりも身体能力は優れている傾向にある。その特徴を持つ異種人も人より運動能力は高い場合が多いが、それだけではない者もいる。
たとえば、蜂の異種人なら体内に毒を持ち、蜂と同じように空を飛ぶことができる。トカゲなら手足などであれば切断されても再生できるし、コウモリの異種人は超音波を使える。このように、普通のヒトではないからこそ可能なことが異種人には多いのだ。
時に、昨今では犯罪率自体は減少傾向にあるものの、凶悪犯罪と呼ばれるものは増加しつつある。科学の進歩によって犯罪者組織も一筋縄ではいかないようなのもが増えているのだ。
凶悪犯罪者や極めて悪質な犯罪組織の撲滅のため、世界連合は一つの組織を結成した。
通称は[S]。正式名称は世界連合加盟国の中でも主要国とされる国の代表者しか知らない。表向きは世界連合の管理下にある治安維持組織だが、実際は警察では手におえない犯罪者、犯罪組織の捕縛及び処分が目的の集団だ。簡単に言うと「滅茶苦茶悪いヤツを殺す」チームである。捕縛も一応仕事の一つだが、捕縛で済むような相手を[S]が担当することはきわめて少ない。それらの事は、もはや公然の秘密だが。
前述の通り、身体能力が高く特殊な技能を持つ異種人は[S]の構成員の大半を占める。
もちろん、凶悪犯罪者を相手取っている以上[S]構成員は常に死と隣り合わせである。しかし不思議と、異種人には[S]所属を目指す者も多い。
それは異種人の三つ目の特徴に起因する。
異種人は戦争の産物なのではないか―――そんな物騒な噂がまことしやかに囁かれる理由。異種人がまるで死地に飛び込んでいくように[S]を目指すわけ。
異種人は全員、例外なく、「闘争本能」というものを持っている。人間と共存するにあたりそれは抑制されているが、「一度キレると手におえない」というのは全異種人に共通することなのだ。
日常生活においてヒトを相手に異種人がその能力を振るえば、大惨事が起こってしまう。そのため普段は自己抑制を働かせているが、ヒトがストレスを発散させるために物を壊すのと同様、異種人も心のどこかでは常に破壊衝動を抱えている。
[S]はその破壊衝動のはけ口をくれる。合法的に力を振るえるし、殺しても罪にならないのだ。
「闘争本能」にも個人によって強弱はあるし、ヒトに短気なものも平和主事者もいるのと同じく、[S]所属を望まない異種人は多くいるし、正義感から志すものもいる。だが、そういった理由から[S]構成員を目指す異種人も決して少数派ではない。
[S]構成員は試験と訓練によって決定される。まず試験に合格した者は『「S]候補生』となり、専門の学校で訓練を受ける。試験に年齢制限はないので、もし候補生が未成年ならば成人年齢である十八歳になるまで訓練と共に一般教養の講義も受けることになる。
成人している候補生は半年に一度試験が行われ、実力を認められれば[S]の正式な構成員になれるのだ。実力不十分とされた候補生は試験の内容から、候補生のままか、候補生から外されるかが決まる。候補生から外されたものは出身国の警察組織に配属されることが多いが、場合によっては候補生の教官という道もある。一度候補生から外されたものがもう一度候補生となって構成員を目指すことは、ほぼ不可能である。
未成年の候補生に対しては大体三ヶ月に一度、学力試験と実技試験が行われる。学校のテストのようなもので、及第点に達していないと、実技試験なら即落第。学力試験なら追試、再々試で落ちれば落第となる。落第となったものは候補生から外されるのだが、成人候補生の場合とは違い、成人した後にもう一度候補生になるチャンスがある。候補生を決める試験に再度合格すれば、そこから再び構成員を目指すことも可能なのである。
晴れて[S]の正式な構成員となれれば、各国に派遣され、それぞれの地で任務を全うすることになる。
将来の活躍を夢に見て、候補生は日夜訓練に励むのだ。
「ふあぁ……あああ……」
「……レフェーフ=ライラック」
「ふぁい」
「先生のありがたーいお話の真っ最中に欠伸なんて、いい度胸ですね」
「あー、先生の話は五歳の時から聞いてるんで。飽きました。面白い話をしてください」
「あなたは……ほんっとうにやる気ゼロですね」
「まあ、はい」
「それでも候補生ですか?」
「試験には落ちてないんで候補生です」
「はあ……」




