ルナ・イルミナル 難易度高すぎじゃないですか
コンコン。
広い廊下にドアをノックする音が響く。
「誰だ」
「兄様、私です」
「ルナか。今開けるね」
私だと判断した兄様は直ぐにドアを開けてくれました。開いたドアの向こうにはビオレ色の髪に、それと同色の瞳が私を捉える。私が生まれて間もない時、寝る間際に見えた少年は、カーティス・イルミナル、私の兄様でした。カティと言う愛称で呼ばれています。ドアの前で立ち止まっていたら『どうしたの?…ルナ?』などと、声をかけられました。そりゃそうですよね!開いているドアの前でジッとしているなんて傍から見たら異様に違いない。
ですが、理由を聞いてください。兄様は今、私より8歳、歳上の14歳なんです。14歳といえど兄様の顔はかなり整っている。年頃の女の子が見たら一目惚れするレベルだと言い切れる自信があります。寧ろ自信しかありません。でも、私は見た目は幼い6歳の美少女……すみません図に乗るりました。まぁ、そこは置いといて、中身が三十路の私が14歳の男の子にドキッとするはずがありません。ただ、少し見とれていただけです。…あまり理由にはなっていないか。
「ルナ、何百面相しているの」
そんな顔も可愛いけどね、と笑いながら言葉を付け足す。んなわけあるかい、可愛い百面相がどこにある。眉間に皺を寄せた顔とかも、緩みきった顔も可愛いと言いたいのか。母様ならまだしも、私に限ってそれはないと断言しよう。でも、冗談で言っているのうな顔つきではないんですよね。言うならば、本気と書いてマジと読む顔……いやいや、それどんな顔だよ。頭の中で意味の分からない1人会話が虚しく続く。
兄様の部屋に入ったはいいものの、ベッドの上を見ると本が開きっぱなしで置いてある。勉強中でしたかね。これは邪魔をしてしまいました。
「兄様、もしかしてお勉強中でしたか?」
「勉強というほどのことじゃないよ。ただ、本を読んでいただけ」
「お邪魔をしてしまったようなら部屋に戻りますが…」
「なんで?ルナがいて邪魔なことなんてないよ」
即答ですか。嬉しいけど…近い近い!顔近いよ!!
勢い良すぎて鼻先が当たりそうな距離に綺麗な顔が。おおぉぉぉお、こ、これは破壊力ハンパない…。というか、早く放れたまえ、目のやり場に困る。近すぎてやり場もクソもない部分もありますけどね!
「に、兄様、近いです」
「ん、あぁ、ごめんごめん」
あはは、と笑いながらやっと顔が離れ…ない。未だに兄様は立膝をついたまま顔を離そうとしない。
どういうことだ、おいこら。はよその綺麗な顔を素直に退けんか。いい意味で心臓に悪い、私の寿命を縮めたいつもりか。おっと、言葉遣いが。
兄様のビオレ色の瞳に映る自分の姿が見える。母様や父様とも微妙に違う色の瞳が私を捉えて離さない。何これ、恥ずかしい。こんなの前世でも体験したことない私の顔は今赤いのでしょうか。ただ分かるのは目の前の兄様が一向に視線を外してくれないこと。
「に、兄様?」
「……」
「……」
「………」
「………?」
数秒程の短い沈黙が続く。その数秒が今はとても長く感じる。
静かに、ゆっくりと、薄く端正な唇が開かれる。
「――ぃ…な」
僅かに開かれた口からは聞き取れないほどの言葉が発せられた。こんなに近くて、耳を澄まして聞いていたのに聞き取れないとかどんだけ声小さいのですか。最後のな、位しかまともに聞き取れなかったです。な、な……な?
「…綺麗だな」
あぁ、成る程、だなってことだったたんです…か。え、今なんて言いました?聞き間違いでしょうか。兄様、と今度は私が小さく言葉にすると、身体をビクリとし、目を見開き、それでも冷静に我に返りゆっくりと顔を離し、目を合わせにこっと笑ってくれました。
いつもの兄様だ…。まぁ、何でもいい。とりあえずこの雰囲気を変えたいですね。
「に、兄様!なんの本を読んでいたのですか?」
「んー、魔法に関する本だよ」
「魔法ですか!?」
異常に反応した私の目はきっときらきらとしていることでしょうね。魔法に関してはかなり興味があります。私がもう少し小さい頃にちらっと魔導院を見たのですが、沢山の本があったのです。それが何の本かまでは分からなかったのですが、母様に聞いたところ魔法に関する本だと知りました。それから、私は母様や父様に魔導院に連れて行って欲しいと懇願したのですがまだ早いと言われてしまいました。泣いて縋れば連れて行ってくれるでしょうか。今度試してみましょう。
と、今はまだ行ったことがありませんが、母様がたまに本を持ってきてくださり、読んでくれます。内容としては6歳児が読むような内容ではありませんが、何度も言いますが中身が三十路の私にとっては理解出来る部分もあります。どうしても理解出来ないところは母様に聞いたりしています。分かりやすく教えてくれるので理解も早いこと早いこと。
きらきらしている私の目を見ていた兄様が、ベッドの方へと歩み、困り眉になりながら私を見て。
「ルナ、読むか?」
「はい!」
即答で返事してやりましたよ。
そうか、と言いながらベッドに腰をかけ、手の平で横を軽く叩きます。きっと、此処に座れという事なのでしょう。流石兄妹、言葉を発しなくても動作で理解するとは…。
兄様の隣に座ろうと思った矢先、脇の間に手を入れられ、宙ぶらりん状態な私。え、座るんじゃないの? と思いながらも、浮いているので自力ではどうしようもありません。兄様の成すがままになっていると、兄様の足の間に座らされました。何故ではないのか、と訴えかける様に後ろにいる兄様に視線を送ります。その視線に気付いた兄様もまた、何故私が訴えかけているのかが不思議な様子。
「背凭れがある方が楽じゃないか?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべながらとんでもないことを言い出したよこの人は。
兄様を背凭れにしろと…? 難易度高すぎじゃありませんか?身内とはいえ、後にイルミナル家を継ぐ者。そんな偉い人を背凭れにだなんて烏滸がましいですよね。それとも、身内だからこそアリなのでしょうか。アリだと思っておきましょう。
「私、重くないですか?疲れるかと思うのですが…」
「何処が重いの。ちゃんと御飯食べてるのかってくらい軽い。ルナはそんな事気にしなくていいから。さ、読むよ」
ゆっくりと本が捲られた中に書いてあったのは、絵なんて何一つとしてなく、文章がびっしりと書かれたものだった。内容としては、魔法を打つまでの呪文のようなものや、魔法を組合わせての合体魔法等が書いてあった。
私も早く強力な魔法を使ってみたいものです。まだ、魔力が安定していない私が強力な魔法を使うのはとても危険だそうで教えてもらえません。当然と言ったら当然ですが早く魔法を使いこなせるようになりたい。将来兄様が王を守るように私も家族や色んな人たちを守りたいのだ。地位とかを気にすることなく沢山の人が幸せでいられるようになりたいのです。
その為にも今は教えていただけることを全力で覚える。覚えて実戦に活かせるように自分自身が努力しなくては駄目だ。
あ、これなら安全そうだし出来るかも。ペラペラと捲っていたら、水を使った初級魔法が書かれてページがあった。今日教えてもらおうかな。
「ルナ、時間大丈夫?」
「あ、そうですね、そろそろ練習場所まで移動しなくては」
気付いたら、そろそろ魔法の講師が来てくれる時間になっていた。
「俺としてはまだいてくれても構わないのだけどね」
冗談口調で言ってくる兄様に「怒ると怖いですから」と言い返す。勿論、怖いとか冗談ですよ。とても優しい方ですので。
兄様の足から降りて、ありがとうございました、と一言お礼を言ってから部屋を出た。今日教えてほしい魔法のことを考えながら。