第6話 修行というのは厳しいものだよ。
朝である。
しかし、この移動前線指揮所(小)は内部が亜空間なので、朝日は入らない。
というより窓がない。
そのために各部屋に時計が実装されているのだが。
まあ、それを見なくともギフトの「メニュー」にある時計でこの世界の時間は分かるのだが、それによるとこの世界の標準時間に対し、この場所は4時間ほど遅い様だ。
ちなみに1日は24時間である。
せれなはいつもの様に目が覚める。
「6時か、うな~・・・眠い。」
魔王様の弱点は朝のようだ。
「そういえば、メイドゴーレムだしてないや。」
そう言って無限収納からメイドゴーレム2体を取り出し命ずる。
「指揮所内の保守管理を任せます。」
それを聞いたメイドゴーレムはさっそく脱ぎ散らかされた服や、バスタオルを拾い上げ、「洗濯室」へ入っていく。
「朝ごはんでも用意しときますかね。」
それを満足げに見送ると、せれなはさっとシャワーを浴び、昨日と同じ黒い半着に黒いたっつけ袴を無限収納から取り出し着替え、「調理室」に入っていく。
「パンの在庫は売るほどあるから、卵焼きとハムでも焼きますか。」
無限収納には兵糧がうなるほど入っているし、調理済みの料理も大量にストックしている。
なんせ、戦争していた身である、着替えや装備、食料、燃料、お金は大量にないといけないのだ。
山盛りの白パンをバスケットに放り込み、厚切りのハムを焼き、スクランブルエッグを作ると会議室のテーブルに並べる。
そろそろ7時だ、元勇者様起こしますかね。
と考えていると、客室2の扉が開き、綾花がちゃんと制服を着て出てくる。
食事の用意されたテーブルを見ながら
「あ、おはようございます、すいません食事の用意手伝えなくて。」
「いいのよ、疲れてたんでしょ、二郎君も呼んできて。」
綾花は、客室1の戸をノックし中に入って二郎を起こす、
「おはようっす・・・」
眠そうな二郎はそういって部屋から出てくる。
それを見たせれなは無限収納から熱々のコンソメスープ入りの皿3つを取り出し、
「さあ、そろったところで、朝ごはんにしましょう、今日はいっぱい歩くよ。」
三人は席に着き
「「「いただきます。」」」
そう言って、朝食を食べるのであった。
「そういえば、二人は何歳なの?」
昨日聞き忘れていた質問をせれなは口にする。
「俺らは、13歳っす、中学生でした。」
「そう、若いのね~」
「せれなさんは何歳な」
ドン!
せれなの鉄拳が隣にあった椅子を打ち砕いた。
「何でもないっす。せれなさんはお若いですね。」
額に嫌な汗を浮かべつつ二郎は言い、隣の綾花も超高速でうなずく。
「あら、この椅子不良品みたいね。」
そういうと壁際の青銅製の銅像が動き出し椅子(残骸)を片付け始める。
「きゃ、それなんですか?」
驚いた声を綾花が上げる。
「この子たちはメイドゴーレムよ、あまり細かいことはできないけど、この指揮所内の掃除洗濯なんかをしてくれるのよ。」
驚きから脱した二郎は、
「それは便利っすね。」
「そうそう、洗濯といえばあなたたち、着替えもないわよね、そっちに装備出しておいたから、食事終わったら着替えなさい。」
そう言って無限収納から黒い長袖シャツ長ズボンに下着類を取り出し二人の前に置く。
「制服は、思い出と一緒に大事に取っておきなさい。」
せれなは二人にそう告げた。
食事を終えると二人の元勇者は黒い服に着替え、せれなに手伝ってもらいながら皮鎧を装備する。
「鎧なんて初めてっすよ、これなんでできてるんですか?」
「意外と軽いんですね。」
「それは魔王軍で貸し出してた量産品の予備よ、ヒドラって魔物の皮製で軽いけど、並みの鉄鎧より丈夫よ。」
ゲームの知識で名前は知っていた二郎は
「ヒドラって頭いっぱいある蛇みたいなやつですか?あれって結構強いような気がするんですが。」
せれなは小首を傾げ、
「そう?素手でもすぐ死んじゃう程度だったような?」
そう答える、どうやら二郎の思っている以上にせれなは強者であるようだ。
「まあ、鎧というのは保険よ、対人ならともかく、自分より大きな魔物相手だと力があっても物理的に弾き飛ばされてしまうし、鎧が切れなくとも衝撃は消しけれないから、まず当たらないのが重要ね、魔法をめちゃくちゃ賦与した金剛鉄のフルプレートとかなら別だけど、まずは避ける、受け流すのが基本よ。」
せれなは、綾花のマントを留めてあげながらそう注意する。