第3話 しかし、試練はまだこれからだ!
ホブゴブリン達を倒し、息も絶え絶えに膝をつく二人の勇者にぱちぱちぱちと拍手を送りならせれなは歩み寄る。
「生きる意志は確認したよ、二人ともご苦労様、と言いたいけど座ってる場合じゃないよ、生きるためにはこのゴブリンもお金に変えないといけない。」
そういうとせれなは腰の脇差を抜き、死んだホブゴブリンの心臓直下に突き立て、上に刃を滑らせ心臓を切り裂く、そこには茶色い親指の頭くらいの石がある。
「これが魔石という物だよ、魔物とそれ以外の差異はこれがあるかないかでね、この魔石ってやつは魔法の触媒や錬金術の材料とか魔道具の燃料とか使い道が多いものでね、この世界でも売れるはずだよ、ということで、そっちの短刀もあげるから、サクッと取り出そう!ついでに服も漁ってお金とかも探してね。」
死体をさらに切り刻むのだ、しかも一応人型の死体である、戦ってる時はアドレナリンでハイになってても、これはきついかな~と思うけど、これも生きる術である。
私のギフト「統合メニュー」の「マップ」機能は屋外ならば直径5kmの地形を表示するがその圏内に人のいそうなところはない。
森を出る情報は別途集めるとして、今できるのは剥ぎ取りと言われるこれだけだ。
全く人がいなかったりするとシャレにならないなあ~と思いながら剥ぎ取りを続けていると、二郎君と綾花ちゃんも戻しそうになりながらもそれを手伝う、なかなか肝が据わってきたようだ。
茶色い魔石が12個、親指大2個と小指大10個、なぜか数字と英語が書かれた銅貨?と銀貨?のようなものが手に入る、銅貨?135枚銀貨?4枚だ、武器で使い物になりそうなのはホブゴブリンの長剣2本だけだが、質はあまり良くない、この世界は鍛冶の文化があまり発達してないのだろうか、単に安物なのかちょっとわからない。
二人に無限収納から布きれ2枚を取り出し、刀と短刀を拭き鞘にしまうように指示して、二人に基本魔術にもある洗浄の魔法をかけ、汚れを取り除く。
「これ魔法っすか?」
「便利なんですね。」
二人が口々に驚きを告げる、これは魔法だから簡単には使えないが、似た効果の真言魔術も作られている、そっちなら覚えれば使えるはずと伝える。
「魔法と魔術って別物なんすか?」
二郎はちょっと砕けてきたようだな~これが本来の口調かな、まあ、いいけどね~
「魔法というのは一種の特異技能でね、普通は人族では使えないんだよ、それをまねて真言という言語で使えるようにしたのが魔術ってものなんだよ。」
ちょっと興味を引いたのか、綾花が聞いてくる。
「私でも魔術って使えるようになるのでしょうか?」
「そうだね、綾花ちゃんはそっちの才能があるね、二郎君は武術の才能があるから身体強化の魔術使えるようになればいいかな、まあその前に、二人にギフトの使い方教えるのが先かな、まだ使ったことなさそうだしね。」
「ギフトってなんすか?」
「転生や召喚者みたいに異世界に移動するのにはいろいろルールがあって、まず第一にこの異世界ってのは無数にあって、そのうち誕生からの時間が極めて長い上位世界というところに「地球のある世界」があるらしいのね、で、召喚・転移は上位世界から下位世界の一方通行になっているらしいのよ。」
「え!じゃあかえれないのですか?」
「まじかよ!!」
二人が驚きの声を上げる、まあ、当然よね、私もそうだったし。
「基本的にはね、極めて稀であるけど、ランダム異世界送還というのもできるの、ただこれはものすごく条件が厳しいので、前の世界からここにこれたのは運が良かったというものよ、ちょっと話それたね、ギフトというのは上位世界から下位世界に渡るに合わせて、本来得られるはずだった上位世界でのエネルギー量を変換して個別に与えられる能力ってことらしわ。」
「らしいというのは?」
「私も世界のルールまで把握してないのよ、これは魔神様から賜った知識の一つよ、異世界人はそのまま異世界人というギフトと、地球人だとメニューっていうの2つは最低持ってる、これは私が見てきたから間違いないわ、とりあえずメニューって言ってみて」
「メニュー?」
「メニュー・・・」
二人の視界に突然いくつかのアイコンみたいなものが浮かぶ。
「わ!なんだこれ!」
「パソコンの画面見たいです。」
「それがメニューよ、そこにステータスとかマップとかスキルとかアイテムボックスとかあると思う。」
「おーあるある!あと解析とか装備変更とかいうのもあるっす」
「私もあります、けど、アイテムボックスではなく、アイテム倉庫となってます。」
「綾花ちゃんは当たりね、アイテムボックスは同一アイテム100個までを100種、総重量1tくらい持てるわ、倉庫だと10000種で総重量100tくらい持てるのよ。使い方は声に出して言えば開くからあとは入れたいもの入れるか出すだけね、とりあえずそこのホブゴブリンの剣でも入れてみるといいわ。」
「アイテムボックス!」
「アイテム倉庫」
二人の目には横10縦10マスの枠が浮かぶ、綾花のには上にページ切り替えが付いている。
長剣を手に入れと言えば視界の中の枠に剣の画像が出て出ろと言えば実体として取り出せる、便利すぎる機能である。
「その辺の表示も使いやすくレイアウトできるけどそういうのは時間あるときにやってね、慣れれば声に出さなくても頭で考えれば使えるから、他の機能も同じようにして使えるわ、で、今はステータスを出してみて。」
せれなはステータス看破のスキルを使いながら二人に告げる。
氏名 真田二郎
種族 人間
称号 元勇者
レベル 3
生命力 160(160)
体内魔力 65(65)
筋力 55
敏捷 40
耐久 51
器用 41
幸運 72
集中 51
ギフト 「基本異世界人」「基本メニュー」「武技の才」
スキル 「刀術LV2」「槍術LV1」「算術LV2」「科学LV2」
氏名 武田綾花
種族 人間
称号 元勇者
レベル 3
生命力 105(105)
体内魔力 130(130)
筋力 36
敏捷 35
耐久 33
器用 55
幸運 52
集中 61
ギフト 「基本異世界人」「基本メニュー」「魔術の才」
スキル 「刀術LV1」「弓術LV2」「算術Lv3」「科学LV3」「調理Lv1」「ハウスキーパーLV1」
お、二人ともレベル3に上がってるねえ。
「それぞれステータスが見えてると思うけど、それはスキルやギフトで他人に見られる可能性があるので、称号非表示と言って、あとギフト欄非表示、スキル算術・科学非表示にしとくのがおすすめかな、魔法がある世界って科学は基本的に発展しないし、魔物という敵がいるところでは算術含めて学力もあまり高くないはずだからね。」
「わかりました。」
「了解っす!」
二人が設定したのを確認し、そろそろ日暮れが近いので。
「じゃあゴブリンの死体に敵が群がってくるかもしれないからちょっと移動してキャンプ地探そうか。」
そう告げて、東に向かって歩き出す、西に山が見えたからだ、基本的に魔物は魔力溜まりで発生する、そして山や森はたまりやすい、山に向かうより人里も近いだろうという適当なカンである。
ちなみに今は弱めにスキル「威圧」を使い、近場の魔物は追い払っている、狩りをするときは逆に「誘因」すればいいので今は邪魔されないように威圧をいてるのである、魔王様はすべからくチートである、何しろ魔王の仮想敵は神である、神を殺せるからこそ魔王と名乗れるのであるから、その能力は推して知るべしである。
1kmほど歩くとちょっと森の開けた場所に出る、マップで確認済みの場所である、ここでせれなは無限収納から「移動前線指揮所(小)」を出現させる、高さ3mほどの岩にしか見えないものだ。
「なんすかこれ?」
「中が移動指揮所になってるのよ。」
そう言って岩に手をかざし「承認」の魔法を掛けるとドアが音もなく開く、中は異様に真っ暗だ。
「な・・なんか暗くて怖いのですが・・・・」
綾花が二郎に掴まって振るえる。
「空間魔法の入り口だからね、入れば魔法の明かりで明るいよ、ついてきて。」
せれなはそう言うと黒い入り口をくぐる、二郎がおっかなびっくりとそれに続き、綾花は目をつぶったまま二郎にくっついていく。