教室のうわさ話
初投稿作品です。
少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
どこにでもある平凡な小学校。
そこで起こった不思議な事件。
ある朝、茜は日直の為、いつもより早く教室に来ていた。
「あーあ、日直なんてめんどくさーい!全部先生がやってくれればいいのに!」
誰よりも早くに教室に来て、黒板をキレイに拭いたり、花瓶の水を替えたり、
水槽の魚に餌をやったり・・・
いわゆる雑用を文句を垂れつつもキッチリと仕上げていく。
5年生にもなれば、手際もなかなかに良い。
8時にもなれば、教室に児童たちが「おはよー」と声を掛けながら入ってくる。
茜も日直の仕事も終わり、まわりに挨拶をしながら自分の席へとつく。
茜の席は窓側の一番後ろ。
教室は3階で、なかなかに見晴らしも良い。
この席からは運動場も見えるし、教室内を見回せばみんなが先生の話を聞いて勉強している様が良く見える。
だから茜はこの席が気に入っている。
気に入っているが、少々気になることもある。
この席では、物が無くなることがある。
筆記用具をはじめ、教科書や体操服、リコーダー・・・
無くなり始めたのは、いつぐらいだったろうか?
おそらくは今年度になってからだ。
当初は「私のペン知らない?」「体操服知らない?」と、周りにも聞いていたが、
結局皆知らないと言う。
どうしようかと思っていたら、机の上に探しているものが戻っていた。
何度も物が無くなるが、しばらくするとどこからともなく戻ってくる。
奇妙に思いつつも、しばらくすれば戻ってくるため「まあ、いいか」と
茜はなるべく気にしないようにした。
いじめにしては中途半端すぎるし、「借りた」にしては短時間で帰ってくる。
「誰が」そんなことをしているのか、気にはなるが・・・
もし「おばけ」のたぐいだったら怖いので、茜は深く考えないようにしていた。
「きっと誰かがちょっと借りていったんだ、うんそうに違いない」
そう自分に言い聞かせていた。
そんな日々が続いていたが、あるとき茜はある噂を耳にした。
「ねぇ、知ってる?この教室って『出る』らしいよ?」
その噂はこうだった。
・夕方6時になると窓側の一番後ろの席に誰かが座る。
・その姿は黒い影のようで、揺らめいている。
・席に着いた後しばらくすると教室内を歩き回る。
・「なにしてるの?」と話しかけると、「〇〇を探している」と答えるらしい。
・探しているものを渡せばその影は消えるが、渡せないと影は襲い掛かってくるらしい。
茜は寒気を感じた。
自分が毎日座っている席にそんな噂があったなんて!
他のみんなはこの噂を最初から知っていたに違いない!
休み時間でも茜の席に近づくものはほとんどいなかったのだから。
茜は誰も教えてくれなかったことに悔しさと悲しさと怒りが込み上げてきた。
しかし、逆に茜が怖がると思って敢えて教えなかったのかもしれないとも思った。
「よし、本当に出るんだったらガツンと言ってやらないと!」
「私の席に座らないでって!」
茜は怖さよりも、クラスメイト達から避けられる方が怖かった。
行動すると決めたら善は急げだ!
その日の残りの授業は上の空で、ひたすら『幽霊』になんて言ってやろうか考えていた。
そんなことをしているとあっという間に下校時間だ。
誰もいなくならないと出てこないらしいので、茜は一旦教室から出て、
時間になるまで校舎内をうろつくことにした。
見回りの人に見つからないように。
時に他の教室に隠れ、トイレに隠れ・・・
いよいよ6時に差し掛かってきた。
茜は教室の前まで戻る。
扉を少し開けて中を覗くが誰もいない。
外は夕闇に包まれて、校舎内も非常灯のみで不気味な雰囲気を醸し出してきた。
茜は扉の隙間から教室内の時計を確認すると、6時まであと30秒ほどだった。
そこで、茜はハタと気づいた。
自分は何も持ってきていない、と。
幽霊は何かを探しているらしい。幽霊の望むものを持っていないと襲われる。
襲われるとはどういう事か。
殺されるのか?あの世に連れて行かれるのか?命までは取られないのか?
この土壇場で茜は自分がものすごく無謀なことをしているのではないかと思えてきた。
しかし時計は無情にも6時を指した。
「・・・・・・・・!!」
茜は思わず目をギュッとつむり、息をも止めた。
しかし目をつむっていると余計に怖く感じた為そっと目を開ける。
そして意を決して、教室の扉の隙間から自分の席のあたりを見つめる。
何もない。
時計は・・・6時5分だ。
やっぱり噂は噂でしかなかったのか、茜はそう思った。
「なんだ、やっぱりね」
『幽霊』に文句を言ってやろうと勢い込んできたものの、落ち着いてみれば怖かった。
しかし出ないのであれば怖くはない。
茜は緊張で握りしめていた両手をほぐしつつ、教室内に入ってみることにした。
教室内には誰もいない。昼間の騒がしさが嘘のようにシンとしている。
そのギャップが茜の落ち着いてきた恐怖心を刺激するが、
茜は気にしないようにして自分の席まで辿り着く。
席の横に立って、周りを見渡すが誰もいない。
ホッと息を吐き、そろそろ帰ろうとしたとき、
ガラッ!!
と教室の扉が勢いよく開かれた音がした!
茜は驚き、そちらを振り向くが、プツンと意識が急に途切れ目の前は真っ暗になってしまった。
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「ねえ!あの噂!!やっぱり本当だったみたいだよ!」
「マジで?」
「うん、昨日友達が見たって言ってた!!」
「え?!大丈夫だったの?探し物持ってないと襲われるんでしょ?」
「昨日はなんかちょっと違ってたみたい。
黒い影は見たけど、教室の扉開けたらすぐきえちゃったって!!」
「えーーー?!なにそれー!まじで?!」
朝の教室、その一角では例のうわさで盛り上がる児童たちがいた。
窓側の一番後ろの席には・・・誰も座っていない。
「なあ、あの席なんで撤去しないんだろ?」
「え?知らないのー?
あの席動かすと呪われるんだよ!
だから、もう何年もあのままなんだって!!」
「うぇー、気持ち悪いね・・・」
恐ろしげな噂とは裏腹に、窓際の一番後ろの席には暖かな日差しがいつもと変わりなく、
降り注いでいる。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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