キレちゃダメだよ。
「チッ」
あーもう。また舌打ちが聞こえる。
あれから四年経ち、俺は9歳になった。
四年前に一緒に入学したうちの半数が読み書き・算術を修了して行った。
残ったのは俺を含め14人。
ミュウも居る。
俺は同い年の友達がたくさん出来た。
そのほとんどが修了していなくなったがこの街に住んでる限りいつでも会えるから問題ない。
残った者の中にも居るよ。
だけどね、はぁ。
「チッ。ラリーゴの奴、生意気だぜ。」
「ああ、ちょっと勉強が出来て体格がいいからって調子に乗ってんだよ。」
聞こえてる、聞こえてるよ。
「ギュネイくんの方が代表に相応しいのにさ、ネーナ先生もどうかしてるぜ。」
はあ?俺はともかくネーナ先生の悪口は許さねえ!
と、席から立とうと思ったら
「ちょっと、君たち止めなよ!」
白髪ベースに茶・黒メッシュの美少女が口を開く。
ミュウ、ダメだ。
「ミュウには関係ねーだろ?大商家のギュネイくんの方がラリーゴなんかより家柄もいいし代表に相応しいって言ってるだけだ!」
「バ、バカよせ!」
ギュネイくんが教室の後方に後ずさる。
取り巻き達もハッと気付いたが…手遅れでした~!
「ラリーゴがあんたより劣るって?え?本気で言ってんの?」
ミュウの綺麗な三毛猫ヘアがパリッと音を立てる。
ミュウの周りに小さな火花、スパークが散り始める。
「ヤバい!全員退避だ!!教室からはなれろ~!」
俺が叫んだと同時にミュウの髪が逆立ち、白銀に変わる。
「ラリーゴの悪口は許さないんだからー!」
ドン!
目の前が真っ白になるほどの光と音が教室を覆う。
視力が回復し皆の眼前にあったのはボフーっと煙を吐き所々焦げた級友五名がいた。
「あ~、いつもの事だけどね。」
「ミュウ、あんたやり過ぎよ。もう少し加減してよね。」
2人の少女がミュウに告げる。
呆れたような、笑いを堪えるような感じで。
「だって、アイツらラリーゴの悪口言ったんだよ?何度注意しても止めないんだよ?」
ミュウの髪は元の三毛猫ヘアに戻っている。が、アチコチ跳ねて大変だ。
「まあ仕方ないか。ミュウはラリーゴ好き過ぎるのよね。」
「ミュウ、こっち来なさい。髪、梳いてあげるから。」
少女たちはミュウを椅子に座らせ跳ねた髪に櫛を通す。
「でも、ふふっ。毎回ギュネイも懲りないわね。」
焦げて白目を剥いて倒れているギュネイを見て少女が呟く。
「もう、レーネもダメじゃない。面白がって。」
ミュウの髪を整えている少女がジト目で言う。
「そう言うカノンだってすーっとしたんじゃない?」
まあ、うん。すーっとした、俺は。
「とにかくミュウ、あんたはもう少し加減しなさい。感情で魔力が漏れるのは修練不足だってネーナ先生も言ってたでしょ?」
「わかった。今度は加減する。」
いやいや、まだやるの?
てかギュネイ達が大人しくなるまでつづくんだろうな。はぁ。
俺は四年生になって学年代表をやっている。
先生の推薦によるものだ。
代表と言ってもやることは学級委員と変わらない。
それが気に入らない商人の息子であるギュネイとその取り巻き達とチョイチョイ小競り合いを起こすのが日常化しているんだ。
まあ主にギュネイ対ミュウって事なんだがね。
そのたびギュネイが焦げて気絶する、ってのがお約束みたいになってる。
「ミュウ、ダメだよ。俺の為にケンカしちゃ。」
「だって~」
上目つかいはヤバいって。破壊力抜群なんだから。
「ラリーゴさん、あなたが言い返さないからでしょ。ミュウを責めるのはどうなのかしら?」
おう、そう来たか。
「カノン、私がいけないの。ラリーゴは悪くない。それに…」
「そうよね…」
教室が満場一致でおなじ意見に落ち着きそうだ。
『ラリーゴ、キレたら学校吹っ飛ぶし』
あー、うん。ホントごめん。
「いや、キレないよ。てか一回キレただけじゃん。それも一年生の時。」
四年前のあの日、俺はキレた。