雑踏
渋谷のスクランブル交差点を渡っている
私の独り言は雑踏の一部となり
私の足音は雑踏の一部にならずに消えた
目の前に見えるのは二人の会社員
片方の口ばかり動いていた
二人の会話は雑踏の一部にならなかった
二人の足音は雑踏の一部になった
右からやってきたのはヘッドフォンをした青年
下を向いたままの状態で歩いている
彼の耳元から漏れる音楽は雑踏になり
彼の足音も雑踏になった
誰かが雑踏の中を歩いていく
手には小型のレコーダーを持っている
私の足音は消えずに吸い込まれていった