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馬鹿+天才=友情の始まり 

 「最近どうだい?」

「いや、駄目さ。あと少しで消滅だよ」

「おいおい、何弱気になってんだよ。気を落とすなって、何とかなるさ」

それは首を振って答える。

「もう駄目さ。人間がこのままでいる限り俺たちはいずれ消滅さ」

そのあと「疫病神にはなりたくねえからな…」と言って笑う。

「人間か……くそっ、奴ら俺たちが少しおとなしくしてりゃあつけ上がりやがって!」

もう一人が茶化すように言う。「ひゃはは。それじゃあ、ここらでいっちょ俺たちの力でも見せてやりますか」

それぞれがニヤリ、と同意し、溜まっていた気持を吐き出す。

「やるか!」「ええ、やりましょう」「ハハハ、何年振りかな?」それらは腰を上げ、声を揃えた。

『見てろよ、人間ども‼』

 

「ふぁ~あ」その日も、渚高校1年B組真行寺英雄(しんぎょうじひでお)は眠そうに欠伸をしていた。

(やっと、やっと終わった)

この時間だけで落書きだらけになった机を見ながら思う。

(時間の無駄だ)

もう一度この1時間を改めて振り返る。やっぱり無駄だとしか思えない。

(なんて無駄な時間なんだ。時間だけはこの世に存在するすべてのものに平等に与えられている唯一無二のものだというのに)

そう考え、しきりにひとり頷いていると

「お前、また自分の世界に入ってんのか?もう昼休みだぞ。席とられる前に早く食堂行こうぜ?」

と声をかけてくるやつが一人。高校に入ってからしきりにつるむようになった悪友の岸川清純(きしかわせいじゅん)だ。こいつは「清純」という名前とは裏腹にとんでもなく世俗にまみれた人間だ。いましている行為もその一つ、一見すると手鏡で自分の髪形をチェックしているようにしか見えないが、それがこいつの技、通称「ピンク・ミラー・スナイプ」だ。いま手に持っている手鏡には自分を映しているのではない。その後ろ、自分の席を映している。

無論のことこれはただの机ではない。彼に言わせると

「これは全世界に生きるすべての血に飢えた狼(もてない男)たちの願いを結晶して作られた、その名も『欲鏡机』(ゲートオブピンク)だ。こいつは机の中に仕込まれた鏡を遠隔操作できるという優れものだぜ!」

というものらしい。本来こんなものは使うことは不可能なのだが、理系の天才である彼は入射角とその反射角、教室の明るさや人の動く速さをすべて考慮、計算して鏡を動かすという神業を難なくこなし、自分の欲望を満たしている。すなわち女子のスカートの中を見るという変態行為を。

「お前、また鏡見てんのか。毎日毎日よく飽きないな」

と言いながら財布を取る。

「当然だろこれはおれのアイデンティティだ。そう簡単には変わらねーよ」

と返してくる。

(俺、こいつと付き合いだしてから急激に友達減ったよなぁ)

そう考えるとちょっとブルーの気持ちになった。

「おーい、聞いてるかー?」

そこまで思い出して、現実に戻った。

「お前また考え事かよ。いい加減妄想やめろよ」

「ああ。わりぃわりぃ。何の話だったっけ」

「お前なぁー」

と文句を言いつつもまた1から話してくれる。ほんとにいい奴だ。こいつにはもっと多くの友人や彼女がいてもおかしくはないと思う。いくら脳内がピンク色でもこの年頃はみんなそんなものだし、顔も「水も滴る」とまではいかないが、美をつけてもいいくらいだ。おまけに頭もいい。

「だからさ、さっき鏡で見たけど今日の川上のパンツは凄いぜ。お前もあとで見てみろよ」

……人間は見た目じゃなくて性格だと昔からよく言うが、こいつの性格偏差値は28だろう。落第だ。

 「あちゃー。やっぱり混んでるなー」

食堂についた俺たちは空いている席がないかとあたりを見回す。

「お、あそこ空いてるんじゃないか?」

そう言って岸川は駆け出すとカウンターに座り手招きをした。

「ほら、とってやったぞ」

俺は苦笑しながら答える。

「サンキュー」

本当にこいつといるとメシのとき困らなくて済む。

(理由はもちろん、こいつが行くとみんなが避けるので、自然に席が空く。というものだ)

それから俺たちは普段と同じように昼食を食べ、話に移った。

「で、さっき何考えてたんだ?」

岸川はコーヒーを一口飲むと興味津々に聞いてきた。

「ああ。それな。俺たちはさっきの時間何やってた?」

「数学のテストだろ?」

(ここまで言ってもまだわからないのか)

と少々いらだちながらも話を続ける。

「その数学のテストだよ。時間が六十分って無駄だと思わないか?」

やっと理解したのか岸川も言った。

「うん。確かにそうだな。あのテストに六十分も懸けるなんてまったくもって時間の無駄だよな」

(よし。)

俺の心は大いに興奮していた。

(普段は全く話が合わないけれどもそこは親友。よく俺のことをわかってるな)

と思い

「お前もそう思ったか。でさあ――」

と話を続けようとしたら、

「そうだよな。うん。確かに無駄だ。あんな簡単な問題に六十分もかけるなんてどうかしてるよなぁ?」

さらっと言った。

(やっぱりこいつ何もわかってねえ!)

俺の心に灯っていた火は瞬く間に鎮火された。

「そうじゃねーよ。お前は頭いいからそうかもしれないけど、俺みたいな勉強できない奴はそんなドラマの中みてーなことで悩んだりしねーよ!」

俺が語気を荒げて言うと岸川は嘆息しながら答えた。

「じゃあいったいなんなんだよ」

「よく聞けよ!」

俺は声を荒げた勢いでまくしたてる。

「いいか、お前とは違う勉強ができない奴っていうのはな、最初の基本問題を二十分くらいでやったらそれで終わりなんだよ!『あと四十分も時間が余ってるし他の問題でもやるか』って考えても頭が悪いから解けない。けど『どーせ解けないだろうから寝てようかな』っていうのも自分からチャンスを捨てているようで負けた気になる。こんなパラドックスにいつも悩まされてんだよ!」

「わかったわかった。とりあえず落ち着け。そして涙拭け」

「ああ」

とハンカチで涙を拭っているとチャイムが鳴った。

「教室にもどるか」


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