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29:饗宴のムジカフィクタ

『やっぱり、(わたくし)あれが欲しいわ』


 取って来て下さらない? 我が儘なお姫様は簡単に無理難題を寄越す。映像を物色中、彼女が目を付けたのは“生きた伝説”と、もう一人……一風変わった“少年”だ。どちらも人質のおかげでここまでやって来ると思われる。


『顔だけの殿方には、もう飽きてしまいました。どうせやることは一緒なのですもの』

「英雄殿の方だけになさって下さい殿下。彼方に手を出せば、お父上にまた命を狙われますよ」

『私の可愛いRAnkabut? それならお前達があの男を仕留めなさい。かの国のように私もクーデターでも起こしましょうか? ふふふ、だって楽しそうじゃない』


 父親と姫の好みは正反対。思想も主義も何もかも。だからこそ我々は彼女を担ぎ上げている。

 RAnkabutは元々、この姫君を暗殺するため作られた。しかし送り込まれる暗殺者をその都度懐柔してしまい、今では彼女の手駒となっている。送り込めば送り込むほど相手が強力な組織となるのだから、王はもう姫の暗殺を諦めた。今ではビジネス関係で、親子仲は良好……? いや、他の全てが片付けば今度は二人が争うだろう。


『……良いことハディード。人質に印を付けなさい。お父様に献上する前に』


 もし仮に彼女が唯の我が儘王女なら。誰も彼女に従いはしない。組織もここまで大きくなりはしなかった。我らが貪欲なる王は、破壊者にして救世主。一度全てを壊さなければ……真の救済などあり得ない。あり得ないのだ。それだけ今の世界は病んでいる。病巣を取り除くため、変革は必要。例え、どんな痛みを伴えど――……


「仰せのままに。必ずや、貴女が望まれた終末を御覧に入れて見せましょう」



 以前もこんなことがあった気がする。


「手を上げろ」


 振り返ればあの時と同じ顔の女。けれど、その目に浮かぶ感情は彼とは違う。彼は無感動に。この女は楽しそうに銃を手にするのだなぁ。

 それでも僕はあの時とは違う。意識して大声を出せば、この女を気絶させられる。


「……今日は生身?」

「さぁ、何方でしょうね。ところで新しい従者さん。これ、何か解ります? 彼方の“組織”に潜入した仲間が手に入れた情報です」


 女は片手に銃。もう片手には……携帯端末。端末には動画が表示されていた。僕はそこに映った人間を……“知っている”。


「フォル、テ……?」


 衣装は女装に男装、どちらもあった。共通しているのは……映像にはフォルテの重大な秘密が刻まれていること。僕もまだ知らない、確証のなかった情報が。


「ふぅん……よく解りましたね。こんなにそっくりなのに。でも、素敵ですよねぇ? そう思いませんか? 私のお気に入りなんです。データはいくつかあるんですが特にこれなんか……」


 “お気に入り”を再生し始めた時、僕は耳と目を塞いでしまいたくなった。それなのに、目が反らせない。フォルテはシュリーの格好で、“仕事”をさせられていた。

 顔だけで二人を見分けられる人間は多くはない。これが流出しようものなら、被害はシュリーにも及ぶ。本人ではないと証明するには、シュリーが自分の秘密を明かさなければならなくなる。


「私がお仕えしていたらこんなことさせなかったのに。私が代わりになって差し上げたのに……ほんっとうちのリードは使えないったらないわ。嗚呼、でもそのおかげで……私はこんなお宝映像ゲット出来たんだしチャラですね」


 この女は何を言っているんだ? フォルテへの歪んだ愛を語るこいつが理解できない。リード以上に理解不能な生き物だ。


「お解りになりました? フォルテ様が逃げられない理由も、リードが“組織”を裏切った理由も、全てはこれが原因です」

「あんな子供に……なんて、ことを」

「きゃっ! 私に怒られてもどーしようもありませんよ? 文句はボスとリードにどーぞ」


 裏切ることがないように、予め弱みを作っておく。歌姫として致命的な弱みを掌握することで、歌姫フォルテはマフィア組織の忠実な手駒になった。既に台頭していたシュリーと並び立つ歌姫となるため、急速に力を付ける必要があった。裏の勢力に後ろ盾を頼んだことが、あの子を今でも苦しめている。


「私を裏切り者だと思いますか新入りさん? ええ。私はシュリー様の従者。ある意味であの人が利することをしています。いつか二人が対立した時、歌姫フォルテを殺す鍵を私は手に入れている」

「それは、シュリーのためじゃない」

「そうですね。私はフォルテ様が歌姫でなくなればいいと思っていますから」

「何故、そんな――……」

「どんなに愛しても、歌姫とは手が届かない存在。星は落とさなければ、手に入らないものですよ」


 リードとこの女は同じ顔で正反対。仕えるフォルテのため愛するシュリーの殺害を決めたリードと、愛するフォルテを脅迫するため何とも思わないシュリーのため動くこの女。


「フォルテ様が世界の誰よりも汚れて醜い存在になれば良い。他の誰もあの人を愛さないくらい、あの人が汚れてしまえば良い。誰にも愛されなくなったあの人を、私が優しく愛してあげる」

「……そうなる前に、お前を殺す」

「優しいんですね新入りさん。でもそれは無理ですよ」


 もう我慢ならない。怒りのまま僕が発した咆哮はリードの片割れ……バレルには聞こえていない。突然破裂した端末に彼女は驚くも、命乞いなど始めない。手品を見ている観客か子供のようにはしゃぐだけ。


「わぁ、面白い! 貴方って本当に化け物みたいなんですね」


 何がおかしいのか女は大声を上げて笑い出す始末。


「良いんですよ私は。このデータ、貴方に譲ってあげても。別の場所に保管しているデータも一緒に」

「後は、誰が持っている」

「そうですね、“ボス”が大元のデータを持っているんじゃないですか? 後はパトロンとか。……殺したくありませんか? 我ら“RAnkabut”の力を使い」

「お前達は、シュリー。歌姫達を傷付けた。そんなお前達を、どう信じれば良い」

「歌姫を辞めれば殺しませんよ我々は。信じなくても結構です。互いに益があるなら手を組みましょう、利用合いましょう。これはそういう、“ビジネス”ですよ?」


 リードがシュリーを殺そうとしたのは、死に囚われたフォルテを救うため。この情報が流出しても……既に“シュリーが死んでいる”なら、何とでも誤魔化せる。全ての汚れをあの子に着せさえすれば、歌姫フォルテは綺麗な偶像のまま生き残れる。こんな裏を知ったなら、リードを責めることは出来ない。僕だって、二人を同時に救う方法が――……頭に思い浮かばない。唯、流されるだけ。持ちかけられた“ビジネス”を、どうあっても拒めない。


「いい子いい子。偶像の主を守る。それでこそ、立派な従者ですよ。それじゃあ……ここの区画に繋がる道を開けて貰いましょうか?」



 黒烏の言葉には俺達全員が驚かされた。それでもウェルメイドの“奇妙な力”が敵に渡ることは避けたい。


「では此方へどうぞ。今彼方のゲートが開きます。船はこの向こうに」


 機械兵士の声で、ウェルメイドが閉ざしたゲートの一角が開く……と同時に、前方の道が塞がった。

 奴とシステムが敵の手に落ちた証明が為された以上、Barockに恩のある俺は従わざるを得なくなる。先導していたBarockも、同じ物を見せられたに違いない。


「大和……」

「……ここに留まるよりマシだ。行こう撫子」


 俺が促すと、撫子もそれしかないと頷いた。渋っていたロックも他に打つ手がないと知り、俺達の後を追う。

 ゲートが開いた先では、黒烏がテレビ局で戦ったRAnkabut! そいつがウェルメイドに銃を突きつけ微笑んでいた。


「先日はお世話になりました、英雄殿?」

「食えねぇ奴だなあんた。機械だってただじゃないだろうに」

「そうですね。まだあの体より、私自身に価値があると上は思ってくれているようです」

「一端の兵士に換えの体があるのに、王様が生身で出て来るとは……余程撫子の美貌にやられたようだな。……あんたらこの機を伺ってたな?」


 おそらくこれも偽物だろう。彼を壊して潜水艦を奪うことを、相手が想定していないはずがないのだ。


「その件でのお礼は後ほど主の方からさせて頂きますよ」


 分断されたBarockは、別の潜水艦に乗っていると兵士は説明。一緒に運べば反抗される恐れがあるが、分けてしまえば勝手に動けない。


「……ごめん」


 潜水艦で運ばれている間、ウェルメイドはずっと俯いていたが……誰への謝罪だったのか。ぽつりと一言、後悔の滲む声を吐き出した。悔しい……? そんな感情を露わにするこいつを、俺は初めて目にしたかもしれない。怒りならば目にしたが……諦めに執着するような態度は珍しい。電脳世界でハッキングに向かった時だって、ここまで荒れてはいなかった。


「何しょぼくれてんだよ。お前はよくやってくれた」


 何があったのだろう? 俺が声を掛けるより先に、ウェルメイドの隣に座り……彼を励ましたのは黒烏。そんな姿はいつも通り頼れる兄貴然とし、目に見えてロックが安堵している。


「お前はよくやった。後は俺に任せとけ」

「…………」


 無言で頷くウェルメイド。黒烏の肩に頭を預けて眠ってしまう。図体だけ大きな子供みたいだ。そんな大きな子供を見る男の眼差しは優しくて……先程人を殺した男とは思えない。


「クロウ……」

「迷惑かけたなロック。もう少し付き合ってくれ」


 恐る恐る相棒との距離を詰めるロックにも、黒烏はいつも通り人の良さそうな笑顔を向けた。撫子だけが、意図的に黒烏から距離を取っている。彼を嫌ってと言うよりかは、彼に近付くことで……言われる言葉を恐れている?


「……撫子」

「どうしたの大和?」

「…………もう、危ないことは……するなよ」


 言いたいこと、聞きたいこと。沢山あるのに。俺が言えたのはたったそれだけ。余計なことを口にしたら、また撫子は……俺を遠ざけようとする。きっとそうする。


「ごめんね大和……」


 撫子は、ウェルみたいなことを言う。過去か未来か。何に対しての謝罪なのかも明確には告げず、俺が傷つき悲しむことにだけ撫子は謝った。

 ロックが黒烏に対して抱えた違和感を、俺もここでようやく撫子に覚えた。お前は誰なのだと互いに言い争う黒烏と撫子。誰より近くで見てきたはずの大事な人が、自分の知らない顔をする。自分が信じ、愛してきたものは……その人のほんの一側面でしかなかったのか? 途端に心細くなる。

 一つ空けて座られた……座席を詰めることが出来ない。窓の外……海景色を見つめる彼女の胸の内は、海底のように暗すぎて。


「……着きました、どうぞ此方へ」


 俺も疲れていたのだろうか。RAnkabutの声に起こされ飛び起きる。潜水艦の外へと出れば、そこも何処かの地下施設。しばらく歩きエレベーターに乗せられて案内された先は……なるほど、確かに宴の席だ。


「主の到着までもうしばらくかかります。食事が冷える前にどうぞ、お召し上がり下さい」


 会場は薄暗く、窓の外には魚が踊る。酒の肴が本当に魚だとは風流か? 目で楽しむ他、テーブルには新鮮な魚料理が多くある。

 パーティ会場と言うにはこぢんまりとしているが、この人数では十分な広さ。先に到着していたのか、会場には既にBarockの姿もあった。


「ウェルさん! それに皆さんも! 良かった……心配したんですよ!?」

「全くだ。他の奴らと違ってお前は弱いし……お前の所の守りが手薄だったのはこっちの責任だ。……悪かった」

「いや、僕は……大丈夫。二人の方こそ怪我とかは?」

「誰に言ってるんだ? 俺が傍に居て、シュリーに傷一つ付けさせる訳ないだろ? な? リード?」

「仰るとおりです、フォルテ様」


 ウェルメイドの無事を喜ぶフォルテとクラヴィーア。当の本人、ウェルメイドは心ここにあらずと言う顔で、食事にも殆ど手を付けていない。双子は彼の心配と、会場の警戒を同時に行う。主催者が来る前から、勝手に食事を始めろなどと……疑って当然だろう。

 そんな彼らとは対照的に時計屋は――……無遠慮に料理を平らげる黒烏、戸惑いがちに料理を貪るロック。誘拐されていた間、ろくに食事を取っていなかった。空腹なのは撫子も同じ。二人が口を付けたものを俺も口へと運び、撫子に皿を回した。


(…………一体、どうなってるんだ。俺達が父の仇なら、主催者は俺達を殺す理由がある)

「……大和、大丈夫? あんまり顔色が」

「あ、ああ。疲れただけだよ。食事は悪くない。撫子、これも大丈夫そうだ」

「……ありがとう」


 箸を止める俺を見て撫子は毒かと疑うが、体に異常は見られない。

 俺は毒味を行って、問題の無い物を彼女へ与えていた。Barockはリードが俺と同じ事をして料理を検分している。俺達を招いた者が何を考えているかは不明だが、機嫌を損ねる利点もない。こうして歓待を受け、手を付けない訳にもいかないだろう。


「デザートも如何ですか、マイレディ?」

「……バレル」

「愛と親しみを込めてバレッタとお呼び下さい。昔のように」

「シュリー、そいつと目を合わせるな」

「つれないですねマイロード」


 俺達を案内したRAnkabutは、クラヴィーアの元使用人。目が合ったのを良いことに、給仕を装いクラヴィーアに近寄って……フォルテとリードに睨まれる。場の空気が変わったのは……丁度そんな頃合いだった。


「ふふふ……料理はお口に合いまして? 必要なものがございましたら、幾らでもお申し付け下さいましね?」


 突如会場に響いた声は、機械兵士から届いた女の声と同じもの。声の方を注目すると……男に手を引かれる女が見えた。

 彼女が美しいことは確かだか、どうにも目のやり場に困る。この国の民族衣装なのか? 品はあるが、布が透けて露出が多い扇情的な姿の女性。薄布ドレスの下は殆ど下着のようではないか。ロックなんか目のやり場に困って料理ばかりを見ているぞ。

 ウェルメイドは――……あいつは女に興味があるんだかないんだか。妖艶な女を見ても繭一つ動かさない。クラヴィーアにあんなことをしたのだから、興味がない訳ではないのだろうが。

 着飾った女をエスコートするのは黒の礼服を着た暗殺者。機械兵と同じ顔。今度こそ本体が出て来てくれたのだと良いが。やって来たのは二人だけではない。彼らの背後からは、手に物騒な物を携えた黒服達が入場し、扉の守りを固めている。簡単に俺達を帰すつもりはないようだ。


「あら、ふふふふふ。お前がリード? 本当にバレッタとそっくり!」

頭領(ドーニャ)……」


 女が真っ先に向かった場所は――……組織の裏切り者。リードの前だった。フォルテという主の前で、従者は膝を折れない。首を落とされることを望むように、一度会釈で首を下げただけ。彼が顔を上げた時、女はなんと……笑っていた。


「お前が私に会う前に組織を裏切ったのが残念だわ」


 裏切り者への粛正を口にするのではないか? Barockは警戒態勢になるが、お姫様は祝杯を手に笑うだけ。


「改めてお礼を申し上げます。私はフィクタジーカ……この国の、次期国王候補でしたの。……リード、今回はお前を泳がせたことで悲願が実ったのです、大目に見ましょう。おまけの褒美にこの子も差し上げましょうか?」

「え!?」

「いや、そいつは要らない」

「きゃー! 相変わらず冷たいですよマイロード? そんなところも、ス・テ・キ!」


 クラヴィーアの元従者まで返却しようとする王女に、クラヴィーアは戸惑いフォルテは即刻辞退した。そんな風に……表向きは和やかに、宴の時間は進む。いっそ、異様な程穏やかに。クラヴィーアの暗殺を企んだ組織と、一国の王を殺した男の仲間達とがこんなに和やかな食事をするのはおかしいだろう!? この場で一番緊張しているのは俺みたい。何だよこいつら……場慣れしている。俺達以上に死地を潜り抜けている? 比較的一般人寄りの感覚があるはずの、撫子やウェルメイドまで何を考えているのか解らない。


「ふふふ、お可愛らしい」

「……?」


 居心地の悪さを感じる俺を見て、お姫様は軽やかに笑う。不思議と嫌味のようには聞こえない。戸惑いながら彼女をじっと見つめれば……やはり何を考えているのか解らない、楽しげで挑戦的な視線を返され、俺の方が視線を逸らした。俺の横ではむくれた撫子が、見せつけるよう腕を絡める。


「さて……この度は心よりお礼申し上げます。皆様には本当に感謝していますわ。大変でしたのよ? 女の継承権は低く……一人一人始末するのは本当に骨が折れまして」


 七月王国 王女フィクタジーカ。この……艶やかに着飾った女が“RAnkabut”の頭。少女と呼ぶには妖艶で、女と呼ぶには幼い顔立ち。十代か二十代か、それもはっきりとは解らない。七月王も若く見えていたために、ますます彼女の年が解らない。本人が名乗ったのなら、その数字が十三でも二十三でも納得できる不思議な美貌の持ち主だ。


「王女殿下、助けてもらったことは感謝します。しかし貴女のことを知れば知るほど、俺達はここから安全に帰れないような気がするんだが?」


 ローザ相手には振り回されど、流石は黒烏……巨大な集団のリーダーだ。まぁ、印象として男所帯にいるためか……色には弱そうにも見えるので、ロックとの反応の差は意外にも思える。いや七月王を殺したくらいだ、黒烏はもはや怖いものなし。何か間違えればすぐに暗殺者に襲われるような場で、惑わされる方が馬鹿。妖艶な女が相手でも一歩も引かない態度は凄い。相手は女の俺でも照れてしまう美女なのに。


「ご安心を。私共は見境なしの考えなしではありません。お祖父様のようにはしませんわ。私は即位からでも父の葬儀からでも表舞台に現われますわ。私が女王となった暁には……貴方がたへの支援は惜しみません」

「その言い方だと、まだ……ライバルが残っている風だな」


 黒烏の察しの良さを王女は喜び、誘うような眼差しを彼へと送る。けれども黒烏はつれない素振り。少し不満そうに視線を落とした後、彼女は再び会話に戻る。


「ええ。私にはまだ一人、政敵がおりまして。あの男は父上並にガードが堅く、なかなか殺せず困っておりましたの。私の兄上、ノクタム。彼は父と同じ思想を持っています。簡単に脱出は出来ないでしょうね」


 王位継承争いに残っているのは王子と王女の二人だけ。王子の殺害に手を貸せば、自分が治める七月王国は。世界的メディアが力になると王女は俺達に協力を求める。彼女の言葉を信用して良いか解らず、黒烏も返事を渋っていた。


「其方の方々は、西洋マフィアを潰したいのでしたね? 私の手足は其方にも張り巡らしておりますから、お手伝い致しますわ?」


 断ればどうなるか。フォルテ達にとって不利益な情報が、マフィア側に流される。黒烏の方は、国王殺害の証拠を押さえられているに違いない。勝てば英雄、負ければ大罪人。

 彼らに断る選択肢は、鼻から与えられていなかった。王女の見事な手腕に撫子は、悔しげに溜め息。吐き出された息からは……感嘆の色が窺える。


「お姫様、一つ聞いても良いですか?」

「ふふふ、どうぞヤマト様」


 俺の名前も知っているのか。情報大国のお姫様は恐ろしい。


「年も近いのですからもっと気軽に。フィクタと呼んで下さいまし?」

「……では、フィクタ姫」

「何でしょう?」


 俺と撫子は、生き延びられればそれで良い。やるべきことは既に終わった。この場で一番立場に囚われない人間だと思う。だから、みんなが聞けないことは俺が聞くべきだとも思った。


「父君と貴女の思想の違いを私は知りたい。ロックの話では、王は突然態度を変えたと聞いています。RAnkabutは歌姫や音楽を嫌うとも。協力するには私達はあなた方のことをまだよく知らない。……先の戦いでは負傷した者も居る。テレビ局での出来事は王があなた方に下した命令なのか、あなた方の独断だったのか。私はそれを知りたい」

「当然の疑問ですね。お答えしましょう。何でもお答え致しますわ……その代わり。質問一つに付き、貴方のことが知りたいですわヤマト様?」

「……え?」

「此方をどうぞ、王女様。本人が答え難いことでも見つけ出します」

「まぁ! それではまず趣味と好みと好きなお色とどんな家に暮らしたいかと動物は何派かとそれから靴のサイズとスリーサイズとそれからそれから……」

「おいこら、ウェルっ!! 俺の個人情報!! その無駄なハッキング能力を悪用するな!!」

「お前はBarockの物だからな。諦めてくれ大和」


 暴れる俺を従者に取り押さえさえ、フォルテが同情の目で俺を見る。撫子は頬を膨らませながら、それでも王女へ勝ち誇った視線を送る。「情報なんか幾らでもくれてやりますよ、この人の心は私にありますから」みたいな表情だ。


(え? ……えっと?)


 これはどういう状況なんだ。俺の混乱が収まらぬまま、取り押さえられた俺の頭上では闇の組織と俺の個人情報が飛び交っていた。


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