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25:七音のフリーリィ

 黒烏誘拐の作戦と情報収集のため、早朝から僕ら三人は音楽を掛けた病室で顔を向かい合わせていた。


「マフィアの件、黒烏の協力は取り付けた。組織ではなく彼個人だけだけど。その代わり、国より早くRAnkabutからロックを救出することが条件だ」

「……上出来だ、ウェル。時計屋は、英雄で破落戸だ。荒事も、あそこと組むのが最もイメージダウンが少ない」


 僕の報告を受け、フォルテは緊張を解き笑ってくれた。Barock内の裏組織と渡り合うには、黒烏という男が必要だった。

 969メイカーは刑務所で結成された。初期メンバーとファンの多くは囚人である。今でこそ黒烏は英雄だが、仲間の内には脛に傷を持つ者も大勢居る。黒烏の取り巻きは、英雄に魅せられ浄化された前科者。彼はたった一人で、表社会も裏社会も魅了する化け物レベルの歌姫(男)だ。


「上が動けば後は勝手に付いて来る。そういうもんだ鳥ってのは。シュリーは、どうする? ……一晩で答えは決まった?」

「…………僕は。僕はBarockを裏切れない。僕を信じてくれた人達のために。僕が踏みつけた他の歌姫達のために、僕はBarockで歌い続けなければ」


 口調こそ回りくどいが……黒烏が付いたと聞いた瞬間、目に見えてシュリーの表情が明るくなった。シュリーの答えは聞くまでもない。


「だけど僕は、Barockの片半分は背負っていない。マフィアがフォルテの敵になるなら、僕は彼らと戦います」


 無言でシュリーを抱き締めた後、背を向けた球フォルテが呟く。僕へ涙を見せないように。


「……ありがとな」

「……うん」


 短く僕が言葉を返すと、フォルテが笑ったような気がした。ゆっくりとシュリーを解放すると、フォルテは“裏”の仕事の顔に戻った。離反しても元はマフィアの一員。可憐な少女然とした姿でも、凄まれれば迫力がある。この場で誰を驚かす意味もないから、気を引き締めているのだろうな。


「RAnkabutの件だが、リードと連絡が取れた。撫子の命令で、あいつは身を潜め……追跡を行っている。奴らのアジトが判明したらすぐに連絡してくれる。そこで撃ち殺させても良いんだが――……」

「ベゼルを失ったんだ。リード一人で撫子とロックを助けられるか?」

「……難しいな。二人も巻き込んで殺して良いなら殲滅できる。今回の交渉条件じゃそうは出来ない。カメラに残った映像だと――……その二人とベゼルが、RAnkabutと撃ち合った。その後続部隊が現れ、ベゼルが前に出て……爆発。多分、自爆だ。カメラはそこで壊されている」

「…………あの」


 殺伐とした僕らの会話にシュリーが挙手をし入り込む。


「多分、ベゼルさん死んでいないと思います。……死んでいてもただでは死なないと思う」

「死ぬ? 壊れるではなくて」

「リードの妹……バレルの話をリュールから聞きました。ただ歌姫を殺したいなら、完全な自動殺人兵器を送り込めば良いのに、敵は不完全な機械兵器を投入しました」


 意思があり感情があり、記憶も過去もある機械人間。人の意識がある方が、臨機応変に対応可能であるからか? 完全なる機械を作り上げるより、使い勝手が良い存在?


「バレルは完全な遠隔操作型のようでしたが、歌姫ユアンは肉体の一部を使用していた風でした。ですから彼女には法律が適用される。機械ではなく、破損した肉体の一部を補うために手術を行っただけなのです」

「はぁあ!? それってつまり……強靱な肉体を持った、“歌姫の盾”? X-Trionが仕掛ける理由になるってこと?」

「……やっぱりリュールもそう思う? そうだよね。そんな相手と戦うために送り込まれた彼が、完全な機械だったとは思えなくて」


 ベゼルという少年は、歌姫ユアンリャンと同じ存在ではないか? シュリーの指摘に、僕らは考えさせられる。


「ウェルさん、時間があったらで良いんです。彼のことも調べて頂けませんか? “ベゼル”という彼の元になった人間がいるのかどうかを」

「ルーフ大統領が作らせたんだよな、あいつのこと。正体が何者でも、仕事をさせたくて最前線に送り込んだんだ。あんな貴重な兵器を。敵だって……例え自爆しても生きてる部品を持ち帰りたいと思うだろう。それがあいつの狙いなのか? ウェル、自爆前後の情報をもう一度見せてくれ」


 大統領は、RAnkabut内部に機械人形を送り込むのが目的だった? フォルテの疑問に答えるため、僕は保存した動画を再生させる。


「……この爆発で、映像は途切れた。監視カメラが壊れたか。自爆の隙に、皆を逃がそうとしているな」


 ベゼルは敵の侵入口で自爆を行い、窓からの脱出を急がせていた。エカテリーナは撫子を、二胡はロックを庇う姿も映像に残っている。


「まって、リュール。リードが映ってる! スナイパーが、姿を見せて殿(しんがり)なんて」

「は!? だって、あいつから連絡があったんだ! なのにどうして、あいつがベゼルと残ったんだ!? 死ぬだろこんな所に残ったら!?」


 爆風に監視カメラが壊される直前、炎に包まれた室内に……黒い影は立ち続けていた。


「……解析してみる。もしかしたら、僕が盗むことを見越して……あいつ!」


 奴の仕業か、“田中”。数日もあれば奴ならやれる。映像を加工して僕を惑わした。爆発後……途切れ無音、真っ黒になった画面に修正を入れる。ノイズを消して、音も加工すれば……微かな会話と人影が浮かび上がった!


『良いんですか? 僕は友好の証として君にエネルギーを! ガソリンを届けに来たと言うのに』


 愉快げに語る男の声。そいつはたった一言でベゼルの自爆と、重火器の使用を禁じた。ベゼルはロックを守るため、ロックは撫子を守るため……投降を選んだ。


『……解った、もう抵抗しない。みんな、武器を置いてくれ』

『お待ちください、ロック様』


 ロックの判断を制止した撫子は、その身一つでガソリン男の前へと進み出た。


『貴方もRAnkabutの方ですね? 歌姫を消し去りたいのなら、武器を手放しても同じ事ではありませんか?』

『君の扱いについては、あっちこっちで迷いが出ている。一番都合が良いのが、テロリスト同士がやり合ってくれること。君のお父上はそう考えていらっしゃる』

『父は……私の始末を、あなた方に任せたと言うことですね』

『踊らせられるのは嫌だけど、そうするつもりだったんですよ。ですが、状況が変わりました。藤原撫子さん、貴女の美しさが歴史をねじ曲げたのです。僕の上司が、君が欲しいと言うんだよ。傷一つ付けずに連れて来いとね』

『…………光栄です』


 突然の事にもうろたえず、微笑み撫子は刃物を自身の顔へと向けた。


『私以外の皆さんを、無事に解放してください。でなければ私、傷だらけになりますわ』

『撫子っ、私は貴女を守るために残ったのよ!? この私に……仕事をさせないつもりなの!?』

『瞿麦っ!! ロック様のことは我に任せるアル!』

『ち、ちょっと待て! 撫子はっ、俺の――……俺の婚約者だぞ!』


 黙っていれば見逃されただろうに。一人で犠牲になろうとする撫子を放って置けず、ロックは嘘を上塗りした。


『そうですか。どうしましょう“我が君”? あはは、では……貴方も招待しなければなりませんね』


 通信で上司の指示を仰いだらしき男は、二人を連れ去ることを決めた。騒ぐ歌姫達も、撫子の悲壮な決意に逆らえず……退路へ向かう。彼女たちにも守るべき国と組織があった。それらのためには命を投げ捨てられても、誰かのために……一時の同情で“死んであげる”ことが出来ない。仕事の範疇を超えたことを理解して、二人は心を投げ捨てた。

 それでも、心を捨てられたなかった者がいる。彼は歌姫……? 歌姫を傍で支える奏者?

 皮肉なことに、心などないと思われた……作り物である機械人形が、心をこの場所から動かさないでいる。


『すぐに立ち去れ。十数える内にここから消えろ。さもなくば……僕と一緒に死んで貰うよ』

『……ロック様に危害を加えるなら、この場の全員殺します』

『ロボット君。君が安全に自害してくれれば、君のご主人様も無傷で帰してあげるよ、君たちの白い家に。ほんの数日、数週間? 旅行に招待するだけさ』

『貴方が約束を守る保証がありません』

『そこのお坊ちゃん、この子に命令してくれるかな? まずは両足。それから首。最後に腕をもげって。残った片手は僕が切り落としてあげるから』


 決断を迫られたロックは、命と存在の優先順位をものの数秒で割り切った。この決断力が、彼を生かして来た力? 彼もトップに近しい地位を預かる人間。存在の引き算は得意なのだろう。


『……ベゼル』

『ロック、様……?』

『――……っ、言われたとおりにしろっ!!』


 主人からの非情な命令に、機械人形は……深く傷ついた表情の後、涙で微笑み足を捥ぐ。まだ涙の流れる頭も捨てて、胴体と腕だけの姿になって。片手をもう片手で引っこ抜き……無様なガラクタとなり崩れ落ちた。


 解析した映像に、室内の空気が凍り付く。シュリーはわんわん泣いていて、フォルテは唇を噛みしめている。残る僕はと言えば――……大和と黒烏にどう説明したものか。何も言葉が出て来ない。壊れた機械人形が他人事のように思えなくて。まるで自分の首まで捥がれてしまったような痛みを覚えていた。


「!?」


 僕らが我に返ったのは、フォルテの端末が鳴った後。そうだ、リードはどうしたんだ? あいつはあの状況でも動かず、全てを見ていたのか?


「フォルテ、リードからか?」

「……ああ。アジトが判明した」

「場所は――……?」

「“七月諸島(セプテンベリア)”」



 RAnkabutとX-Trionに繋がりはあるか? 答えは、Yes!


「はっはっは! 最高の、逃走劇だなウェルメイド!」


 ゆらり揺られる船の中。僕らが浚った男は、この誘拐事件を楽しんでいる。死の恐怖を知らない男……というより、死と危険が隣り合わせの男だ。いつ死んでも悔いがないよう、日々を全力で生きているのだろう。僕とは対照的で、眩しく腹立たしく好きだ。どうして歌姫達とは人の心を逆撫でするのが得意なのだろう。


「気安く呼ばないでください黒烏さん」

「お前日本人だよな。えっと、メイド君って呼ぶべきか?」

「ウェルで良いです」

「そっか。助かったぜ、ウェル!」


 マフィアの組織も頼れない。シュリーに無理を言って、教会から足を出させた。此方の大陸にも教会Barockの支持者はいる。彼らに事情を説明し、僕らは黒烏を浚うことに成功した。そうして僕らが向かった先は――……美しい海と空、自然環境と並び立つ人工的な建物群。海上都市とも海中都市とも讃えられるその場所は……僕なら絶対に行きたくない場所だった。


「しかし“七月諸島(セプテンベリア)”か……腐れファックな展開だな」

(“七月諸島(セプテンベリア)”)


 ああ、口に出すのもおぞましい。耳にするのも最悪だ。セプテンベリア……通称、“七月王国”。一月島~九月島までで九島から成る(が、八月島・九月島は埋め立てにより作られた人口島である)。

 七月王国の歴史は浅く、建国からまだ百年足らずの新興国だが、世界への影響力は絶大だ。何しろ、最も早く“音楽戦争”を予知し三強が一……X-Trionを生み出した。


(いや、逆だ)


 七月王国が、音楽戦争へと世界を煽動した大元凶。

 七月王国は太平洋上に建国された。一世紀ほど前に海底火山の噴火により誕生した島々に、誰より早く“情報”を入手した者が領有権を主張した。

 公海に誕生した島なのだから、本来ならば戦争にでもなりそうなものだが……彼らに真っ向から挑める者は誰一人もいなかった。その訳は、建国に携わった人々が……メディア関係者であったこと。各国の弱みを握る者が集まり手を組んだならどうなるか。

 七月王国は建国後、無償で質の良い娯楽を提供した。貧しい地域の人々に、電気受信機とモニターを贈る

 新興国に何故そんな資金があったのか。彼らの背後には名声を求める大富豪が居り、彼が王の座に着いた。全ての慈善事業は王の資産によって慈善事業が行われ……メディアの印象操作で七月王国は多くの人に愛される場所となる。

“成金のお飯事だ、海の上で遊ばせるくらい構わない”。敵視された方が余程問題だ、七月王国には戦力などないと捨て置いた。その間奴らは爪を研ぎ続け――……娯楽を通じ、全世界に精神的国民を育て上げていた。


“武力による戦争なんて野蛮”

“音楽こそが平和を作る”


 そんな土壌が出来上がり、奴らはほくそ笑んでいた。奴らの最終兵器X-Trionが人気を得るにつれ、彼女達から政治的発言が増えて行く。すると恐ろしいことに、愛する歌姫に国を差し出そうと政府転覆を謀る者が世界各地に現れた。


“音楽とは心の自由。禁止することは前時代的、すなわち悪だ”


 こんな思想が広まれば、どうなるか。歌に曲を重ねたならば、どんな言葉を作っても構わない。誰にも止めることは出来ない。悪意を持って生み出される音楽は、自由に深刻に人を蝕む毒へと化した。

 生まれたばかりの小さな小さな島国が、世界征服を企んだ。“音楽戦争”は、世界を手中に収めんと暗躍する奴らの謀。そんな若造に愛する国を乗っ取られてなるものか! 団結した国々がBarock・Тро́йка・folclore等を作り上げ、今日へと至る。


「最初に潰しておくべきだったんだ」


 自身が生まれる以前のことを、フォルテは物騒な言葉で評価する。


「奴らは戦力がないから、国外に兵士を培養した。潜在的なスパイがどこの国にも大勢居る。有事の際は、まず国内から攻められる」

「だからそうならないようにBarockは、マフィアと手を組んだんです。怪しい者を事前に見つけて始末できるように」

「ま、何処でもそうさ。何処の派閥も政府お抱えの闇の組織の一つや二つあるもんだ。うちは表で好き放題暴れてるから、そういう裏もないんだけどな」


 裏取引に関わる者が味方であれば、住民の怪しい動きも把握できる。清濁併せ呑む姿勢で、力を広げたBarockは……その濁りによって苦境にあった。あっけらかんとした黒烏の言葉に、Barockの双子は肩身狭い様子である。


「案外、RAnkabutとX-Trionの関係は――……Barockの教会とマフィア、表裏と同じなのかもな」


 連携が上手く取れているようには思えない。黒烏は二つの組織をそう評価した。


「そうだ。そういや大和はどうした?」

「刀振り回して暴れ回るから、縄で縛って転がしておきました。フォルテが」


 黒烏の前では少しよそ行き声のシュリー。こんな場で、リュールの愛称で呼ぶのは恥ずかしいのだろうか?


「心中察し余り有るけどな。関係は違うが俺もロックが心配だ。……あいつの場合はまぁ、刑務所上がりだ。大抵のことは野良犬に噛まれたってことで一晩すりゃあ立ち直る。しっかし……あの嬢ちゃんなら心配だよな」


 もしも撫子が醜かったら、クーデターは支持されなかった。RAnkabutの親玉に気に入られることもなかった。


「……彼女も覚悟はしていたんじゃないか?」


 少し突き放すようなフォルテの声。死を覚悟していたのだから、生きての屈辱くらい耐えうる精神があるだろうと。


「RAnkabutだけならな。問題はX-Trion……それに七月王国だ。奴らはメディアを牛耳っている。解るかフォルテ? お前の言う通りだよ。真っ先に潰すべきだ」

「……クロウ?」

「彼女も、お前等も歌姫って奴は可愛いし綺麗だ。大勢ファンもいる。仮に俺のエロ動画が流出しようと、俺が笑いに者になるか一部の層から夕飯にされるくらいだが。お前等はそうじゃない。――……歌姫として、致命傷になる。嘘でも本当でも、歌姫の醜聞はお前達の息の根を止めてしまう」


 撫子が、正式に娶られるならまだ良い方だ。死刑を免れ国外に生きられるなら。クーデター犯には不相応過ぎる幸福。しかしここは七月王国。世界で最も、情報分野に秀でた地域。彼らは歌姫としての撫子を、貶め汚すことが出来る。

 クロウの言葉を受けて、双子の顔から血の気が引いたが……息を吸い込んだ後、フォルテは切り替え不敵に笑った。


「こんな時に、他人の心配かよお前」

「まぁな。無理はするなよ。荒事は俺とウェルに任せとけ」

「ああ、そいつそういう方面は全然頼りにならないから。頼りにしてあげるわ、クロウ?」

「……へいへい」


 冗談めかし面倒ごとを丸投げしてきたフォルテにも、クロウは笑って返せる余裕があった。ロックの事を話した時は、恐ろしい目をしていたのに。少し前の僕のよう、何も感じていない風でもないのに。彼も歌姫達のように自分の感情を切り離して考えられるのか。


(それは、フォルテも?)


 フォルテは多くを隠してしまう。出会った時の弱々しい少女の姿――……あの姿こそが僕にとってのフォルテなのにな。どうしてそんなに強い振りをするのだろう。無理をして、笑うのだろう。歌姫という偶像に、フォルテは馴染みすぎている。


「ウェルさん……?」

「うわぁっ!!」

「あ、ごめんなさい。すごい怖い顔してたので……眠いんですか? 膝、使いますか?」

「ああもうシュリー! 駄目よそういうの! 醜聞は命取りよ!!」

「な、何言ってるの!! 今日は僕男の子だもん!! 平気だよこれくらい!」

「解らないわよ! もっとスキャンダルかもしれないわ!!」


 優雅な船旅もまもなく終わり。目視できる距離に目的の島が見えてきた。僕らはこれから敵の支配地に上陸する。黒烏に感化され失われた危機感に、元凶自身が呆れているのは如何なものか。僕が軽くにらんでやると、黒烏は大きな溜め息一つ。


「まったく。誰が誰に嫉妬してるんだろうな。微笑ましいね。……さて、上陸は七月島(セプテンベルク)だったか?」

「……そこで仲間が待っている」

「ああ。あのイカしてイカれた使用人の兄さんか。詳しいだろうな、ホームのことは」


 暗に黒烏が聞いている。元RAnkabutであるあの男は信用できるのかと。実際に一度見捨てられた黒烏が言うのだ。リードはフォルテを最優先し、それ以外は時に容易に切り捨てる。今回のことはフォルテの為になる。フォルテを死なせたくなくてシュリーを殺そうとしたあの男が、フォルテのためにならないことは選ばない。あの戦闘を目にして……その点だけは信用している。


「……仕事の出来る男だ。彼の情報なら、間違いはない」

「そうか。ならそこで荷物になってる嬢ちゃんも、いい加減しゃんとしたらどうだ?」


 僕の言葉を受け取って、黒烏はにやっと勝ち誇る。勝算を見いだしたのか? 今の会話の一体何処に? 

 考え込む僕の肩をぽんと叩いて、“良い声だった”と彼が囁く。渡した音声を“聞いた”のか!? 僕が訊ねる前に会話を終わらせて、黒烏は大和を助けに行った。


「ほら、立てるか嬢ちゃん」


 そろそろ上陸の準備をしろと、黒烏は大和の猿ぐつわと拘束を解いている。獣のような形相の大和に臆しもしない。


「お前のお姫さんは、お前が助けて奪うんだ。最高のピンチじゃねぇか。惚れ直させるようクールに決めろよ。万が一俺が助けて惚れられでもしたら、あんたに殺されそうだからよ」

「……解って、る!」


 無理矢理にでも奮起させ、動かすか。黒烏は僕より余程、魔術師だ。


「俺は病み上がりだからな。前より上手く戦えない。お前達が頼みの綱だ。それを忘れてくれるなよ」

「……あんたを死なせたら、約束もパーじゃない。さっきのは冗談よ。安心しなさい、私が守ってあげるわよ」


 傷つき疲れていた僕らが、彼の力でまとまった。満足に歌えなくなっても、司令塔として黒烏はまだまだ機能している。Barockの問題を片付けるために、黒烏をしっかり守らなければ。彼ならば……“僕の使い方”も見つけてくれたかもしれない。


現実に迷惑を掛けないように未来世界の話なので。

なるべく国名を出さないようにと口にした翌日に、存在しない国を作った所為で架空国名が必要になったというジレンマ。

名前を明かさない組織の本拠地が名前を名乗るという矛盾。

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