恋人同士の情景
ショーウィンドーを飾る、個性的なボトル達。
香水は、その香りもだが、器も絵になる。
テスターに手を伸ばし、品定めをする恋人を、優しい瞳で見つめていた男は、アドバイスを求められて、二言三言、自分の意見を伝える。
やがて、彼女は選んだ商品を手に、レジに向かい。
店先で待つ彼は、手持無沙汰に、置かれているサンプルを幾つか、試していた。
「お待たせ」
自分の買い物だからと、彼の手出しを許さない彼女――彼はそんな彼女の気質を気に入っている――は、バッグに品物をしまいながら、早歩きで彼の元へと戻ってきた。
「行こうか」
「うん」
並んで歩き出す。ごく自然に。
それが様になるくらいの時間を、過ごしてきたのだと、周囲がわかるくらいに、二人の歩みは、自然だった。
「香水なんてものは」
男がふっと、口にした。
女は首を傾げ、斜めに見上げながら、続きを促す。
「相手が自分を思い出してくれるよりどころでいいんだよ」
そう言いながら、男は、するりと、女の滑らかな頬に指を這わせた。
「私……そんなのなくたって、あなたの事考えてる」
「それならいいのだけどね」
溜息をついて、男は、また指を滑らせる。
円やかな頬は、ほんのり熱を孕み、またそれが、心地よくて。
目を細め、彼は、囁いた。
「君は、私の事だけ、見ていればいい」
ふわりと。
彼女から香る、己のものと同じ香。
満足げに笑う男の顔に。
「我儘ね」
「そう? 当然の要求だと思うけど」
困ったような微笑を返す女も。
満たされた色の瞳をしている。
「そうね」
艶やかな唇から、零れる言葉。
「あなたが、私の事だけ見てくれるって言うなら、いいわよ?」
「我儘だね」
「そうかしら?」
当然の要求よ、と楽しげに笑う彼女に。
すっと差し出された手。
「それでは行きましょうか、お姫様」
「ええ」
するりと絡む腕。
その自然さもまた、二人の間の時間が降り積もった結果だった。