第二章 ー贈り物となくしものー
その頃書斎にいる主人ーもとい女主人のアイリーンは、戦場にいる夫へと手紙を綴っていた。
扉をたたく控えめな音に、子供の顔を思い浮かべ微笑んだ彼女だが、その瞳には悲しみの色が写っていた。
「入りなさい。」
その声に応じ、アーヴィンと執事が書斎に入った。
その後、説明をし出したセスの声を右耳に聞きつつ、棚の本を指でなぞり歩くアーヴィン。
目に付く本を流し読みしていた時、母親に呼ばれた。
彼女の手によって開かれていく包みの中を見た少年は、思わず感嘆の声を漏らした。
中身は、剣であった。
蝋燭の灯りに淡く乳白色に光る刃はアーヴィンの腕二本分ほど、柄は少年が握るには少しばかり大きく、非常に繊細な美しい装飾が施され、鮮血のような紅玉が嵌め込まれていた。
「このような物を・・・いったい誰が?」アイリーンは困惑した。
「何処の家の従者とも告げず、家紋も身につけず、名乗りもしませんでした。
ただ一言『魂の血を継ぎし者に・・・』と。
先ほどの風のように去ってゆきました。
見当も付きません。」
語る執事に主は頭を振って応じた。
「そう・・・それなら、そもそもアーヴィンに贈られた物かも判らないわ。
私が、保留として預かります。」
すっかり自分の物のように見入っていたアーヴィンは不服の声を上げた。
そんな息子の濃い灰色の髪の毛を撫でながら「貴方の物でないと決まっていないから、保留なのでしょう?」と、母親らしい笑みを浮かべて言った。
「それより、妹の所へ行ってあげて頂戴?」
母親の言葉に安堵の息を吐いたアーヴィンは、素直な返事を返し、執事を連れて子供部屋へと向かった。
その部屋は蒸し蒸しとした空気が立ち込めていた。
静かであった大気が、霧、雲と共に夜風となり、窓から不吉に吹き込んでいた。
開け放たれた窓を閉める執事を横目に、妹の寝台へと向かった少年は、不意に立ち止まった。
「ミュリエルが、居ない・・・」
閂をかけ終えた執事は、少年の口から放たれた、ただならぬ雰囲気の言葉に、耳を疑った。
その時、燭台の倒れる音が響いた。
セスは失礼しますとだけ伝え、音のした書斎へと走った。
そうして、独り残されたアーヴィンは、独りの恐怖以上に感じる妹の安否への不安から、一つため息をつき、「しょうがない執事だ。」と妹を捜し始めた。
洋服を入れる棚の中、机の下、非常時の為の通路の中、寝台の下・・・
間もなくして、蒼白な顔の母親と、謝る執事の声が部屋の外から聞こえ、アーヴィンはもう一度
彼の言葉をくり返した。
「ミュリエルが居ない。 何処にも。」
希望は、失せた。
わぁい!!
やっと続きをかけた!




