003 奴隷商人
『原材料:丸太』のそそり立つ門と壁は陰をつくり、辺りにいる村人たちの表情をさらに暗くさせている。
そんな暗い表情の村人たち中に、村の指導者的立場らしい数人がいる。ハダリーが近くと、そのうちの年老いた男が自分を村長であると自己紹介し、現状をうったえてくる。
「……やっと……やっと来てくださったか! ワシが村長になって以来の、タイヘンな一大事ですぞっ!」
村長の話によると――その話はとても長く、同じ内容を何度も繰り返し、とても回りくどかったのではあるが――あらゆる誤解を恐れず大胆不敵に要約すると、この村はたった今1000人の奴隷に包囲、攻撃されている最中である、ということだった。
しかし今現在のところ、そんな喧騒は大麦の穂1粒分も聞こえてきやしない。
兵士たちは彼らを見る。
村人たちは兵士たちを見る。
いたたまれない、数瞬の時間が過ぎていく。
村長の側にいる、村長の息子であるという人物がたまらず話を補足してくれる。
それによると、この村はたった今500人の奴隷に包囲されている、攻撃はまだされていない、ということである。
ハダリー隊長は、門に近づいていく。
そして顔を近づけて、門の外を見る。門や壁は外敵を防げればいいの法則で、拳1個分程のスキマがあいている。古参や好奇心のある兵士も、何人かがハダリーに習って丸太のスキマから外を見る。
カンパは見ていない。門を開けるも開けないも、どっちでもいい、といった感じで。
村人たちの心配するどよめきが、後ろから押し寄せてくる。
ハダリーは今度は別のスキマから、外を見る。何度かそうやって、誰かを見つけたらしいハダリー隊長は、呼びかけて2~3の言葉をかわす。
話し終わったハダリーは、村長とその息子のところへ戻ってきて言う。
「外にいるのはエユィドナ共和国からきた奴隷商人、ヴォネラム殿だ」
ハダリーは村長たちを見回し、羊飼いが羊に対するような絶対的な威厳をまとって命ずる。
「王の客人だ。門を開けろ」
「それでももしヤツらが暴れだしたら……」
などと村長たちはまだ食い下がるが、ハダリーが周りに聞こえるような大きな声で言う。
「オレたちはウガ王国の兵士だ! 王の所有物である民を守るのも仕事だ! 心配はない!」
「しかし……」
まだすがろうとする村長。
「だが同時に兵士というモノは気が短い。……こうやって話しているうちに、部下の誰かがキレて門をぶち壊してしまうかもしれない」
ハダリーがそう言いながら、門の方を振り返る。
村長やその他モロモロの取り巻きたちも、それを追う。突然本性を現し始めた暴力性に、おびえきった目だ。
果たしてそこにいたのはゴドリー隊長で、彼はとても面倒クサそうにツバをハくと、おもむろに剣を抜いた。それは兵士たちに支給されているフヘン的な片手剣にすぎないが、村人にとっては武装した集団に抱く恐怖の象徴そのものだ。
「こんなところでぼけっとしていたらー、体がなまっちまうなぁー」
ゴドリーはそういいながら、手にしたブッソウなものをブンブン音がするくらいの勢いで振り回し始める。
そしてそれはたちまち、ゴドリー隊長1人だけではなくなる。他の兵士たち――ハダリー隊もゴドリー隊も例外なく、抜き身の剣を振り回し始めたからだ。
村人たちの顔色が、見て分かるくらいに悪くなっていく。
「この木は打ち込むのにちょうどいいなぁ」
門の支持材に手をかけて、大柄の兵士であるボゴタが言う。彼の手には、オノが握られている。
「わかったからやめてくれ!」
ついに村長が折れる。支持材が折られる前のことだ。
門がなくなったらどうやって盗賊や野生動物から村を守ればいいのか……。
そうゆうことを想像したのかもしれない。村人たちは協力的になって、直ちに門を開けてくれる。なぜだか村長も率先して、一緒に作業している。硬かった門は程なくして、アッケなく開かれる。
はたして開け放たれた門の外側には、武装した1000人の奴隷もいなかった。そした500人の武装した奴隷もいなかった。
確かに人は多かったが、多めに見積もっても200はいない。そしてそのほとんどが、古臭い縄で首や手足をつながれた、みすぼらしい衣服に身を包んだ人たちだ。スエたような悪臭がタダヨってくる。
そんな中、
「ようやく開きましたか」
開いた扉の向こうから聞こえてきたのは、そんな声だ。
そう言った人物は、開け放たれた扉の外に立っている。作ったよな笑顔を顔に貼りつけ、ダークブラウン色のマッシュの髪を目にかかるくらいに左前へと流している。エユィドナ風の白いチュニックを着て、上に金のフサで縁取られた■を纏っている。金と権力を匂わせる服装だ。ただし、そのわりには若い。
その男が言う。
「閉鎖的な農村社会は、よそ者を警戒し過ぎていけません。おかげさまで、せっかく村にまで着いたのに野宿することになってしまいました」
西の空から現れた渡り鳥が東の空へ消えていく間待たされた、といったぐらいの感じで、その男はそう言う。
前に進みでたハダリーが
「ウガ王国兵士のハダリーです。監理官たちの手違いがあったようです。迎えが遅れ、不便をかけてしまったようですみません」
と言い、彼らしいさわやかな兵士の作法で、右手を差し伸べる。
「エユィドナ共和国で商いをしているヴォネラムという者です」
そう名乗った商人は、商人らしい人懐っこさで両手で握手に応える。そして握手を解いた手を、軽く広げる。
「この者たちは私の護衛で……」
そこには鍛えられた体つきの男たちがいる。特にヴォネラムの右後ろには、カンパの1人半ほどの背丈がある男が立っている。背中には長い剣をかついでいるが、背が高いので違和感はない。片肩がけのくすんだ白い服を着ているので、はだけた片方の大胸筋がこの男の屈強さを主張している。気は進まないが仕事だから、といった顔でたたずんでいる。
「……あとの者たちは、私の大切な商品です」
ヴォネラムは前髪がかかって瞳に影を落とす顔で、満面の笑みを作る。そこにあることは気が進まないが仕事だから、といった感じの笑顔が貼りついている。
その笑顔の後には、多くの人たちがいる。みすぼらしい布を体に纏った、みすぼらしい人たちだ。それらの顔には、ほとんど笑顔さえない。
ただ、1人の少女――すき通るような淡いピンク……サンゴ色のウェーブがかった髪を肩まで伸ばしている――は、希望に満ちた顔を陽で輝かせている。
そしてその時、門の内側にいる黒髪の少年兵士は、希望も喜びもない眼差しで外を見ている。




