表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我輩は猫であるが、英雄の足元にいた ~異世界転生した猫は、英雄譚の裏側を見てしまった~  作者: 我輩
我輩は猫であるが、世界が我輩を忘れてくれない ~英雄譚を壊した存在は、神話になりかけている~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/28

失敗不能

 英雄候補が到着した町は、

 静かすぎた。


 


 騒ぎも、

 悲鳴もない。


 


 それが、

 一番悪い。


 


 人々は整列し、

 道を開け、

 何も言わずに頭を下げた。


 


 期待は、

 音を立てない。


 


 町長が進み出る。


 


「状況は、

 すでにご存じかと」


 


 英雄候補は、

 首を横に振った。


 


「魔獣です」

「この町の地下に巣を作りました」

「逃げ場はありません」


 


 逃げ場がない。


 その言葉が、

 妙に重く響く。


 


 だが本当に逃げ場がないのは、

 町ではない。


 


 英雄候補自身だ。


 


「もし……」

「もし、失敗したら?」


 


 誰かが、

 言ってはいけない言葉を

 口にした。


 


 町長は、

 微笑んだ。


 


「そのときは、

 仕方ありません」


 


 その言葉に、

 誰も反論しなかった。


 


 仕方ない。


 それは、

 許しではなく、切り捨てだ。


 


 我輩は、

 屋根の影から、

 町を見下ろしていた。


 


 準備が、

 完璧すぎる。


 


 避難経路。

 封鎖された出口。

 祈りの言葉。


 


 すべてが、

 「成功する前提」で

 組まれている。


 


 英雄候補は、

 地下への入口の前に立つ。


 


 振り返る。


 


 誰も、

 彼の目を見ない。


 


 期待は、

 人の視線を奪う。


 


 彼は、

 理解してしまった。


 


 ここで失敗すれば、

 町が滅びるのではない。


 


 自分が、物語から消される。


 


 我輩は、

 静かに耳を伏せる。


 


 前の英雄も、

 同じ瞬間を迎えた。


 


 失敗してはいけない戦い。


 それは、

 戦いではない。


 


 処刑台だ。


 


 英雄候補は、

 地下へ降りる。


 


 背後で、

 入口が閉じられる。


 


 誰も命じていない。


 だが、

 自然にそうなった。


 


 我輩は、

 その場を動かない。


 


 猫は、

 閉じられた場所に

 踏み込まない。


 


 地下から、

 低い唸り声が響く。


 


 英雄候補は、

 剣を抜いた。


 


 手が、

 震えている。


 


 だが――

 震えを止める方法を、

 彼は知っている。


 


 成功を信じること。


 


 それが、

 一番危険だ。


 


 我輩は猫である。


 失敗できない状況は、

 人を最も早く壊す。


 


 この戦いが、

 勝ちでも負けでも、

 彼は戻ってこない。


 


 それを、

 町は知らない。


 


 いや――

 薄々、

 知っているのかもしれない。


 


 だからこそ、

 誰も止めなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ