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我輩は猫であるが、英雄の足元にいた ~異世界転生した猫は、英雄譚の裏側を見てしまった~  作者: 我輩
我輩は猫であるが、世界が我輩を忘れてくれない ~英雄譚を壊した存在は、神話になりかけている~

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成功例

 英雄候補の最初の仕事は、

 拍子抜けするほど小さなものだった。


 街道を荒らしていた盗賊団。

 数は少なく、

 装備も粗末。


 


「これなら……」


 人々はそう言った。

 そして、その言葉を疑わなかった。


 


 我輩は、

 丘の上からそれを見ていた。


 


 若者――

 英雄候補は、

 剣を握りしめ、前に出る。


 足取りは重い。

 だが、退かない。


 


 戦いは短かった。


 盗賊たちは、

 英雄候補の剣に驚き、

 数を減らし、

 逃げ出した。


 


 血は流れた。

 だが、死者は出なかった。


 


 完璧な結果だ。


 


 人々は、

 歓声を上げた。


 


「ほら、やっぱり英雄だ!」


「前の英雄と同じだ!」


「いや、前よりもいい!」


 


 比較は、

 祝福の顔をして始まる。


 


 英雄候補は、

 剣を下ろし、

 息を整えていた。


 


 震えは、止まらない。


 だがそれは、

 誰にも見えない。


 


 人々は、

 結果だけを見る。


 


 その夜、

 町は祭りになった。


 


 酒が配られ、

 歌が歌われ、

 英雄候補の名が、

 何度も呼ばれる。


 


 若者は、

 笑った。


 笑わなければならなかった。


 


 我輩は、

 屋根の上から、

 その様子を眺めていた。


 


 英雄候補の足元に、

 影ができている。


 期待という影だ。


 


 それは、

 剣よりも重い。


 


「次は何だ?」

「もっと大きな仕事を」

「今度は本物の敵を」


 


 成功は、

 人を静かに急かす。


 


 英雄候補は、

 断らなかった。


 断れなかった。


 


 断る理由を、

 成功が奪っていったからだ。


 


 我輩は、

 前の英雄の姿を思い出す。


 


 最初の成功。

 最初の歓声。

 最初の「ありがとう」。


 


 そこから先は、

 速かった。


 


 人々は、

 英雄候補の未来を

 勝手に決め始める。


 


 この町を救う。

 次の町も救う。

 やがて国を救う。


 


 英雄候補は、

 まだ何も約束していない。


 


 だが世界は、

 もう彼の人生を

 使い切る準備をしている。


 


 我輩は猫である。


 成功は、

 優秀な罠だ。


 


 失敗なら、

 止まれた。


 


 だが成功は、

 人を前に押し出し、

 振り返る時間を与えない。


 


 英雄候補は、

 その夜、眠れなかった。


 


 祝福の声が、

 頭の中で鳴り止まない。


 


 我輩は、

 静かに目を閉じた。


 


 次に目を開けるとき、

 世界は、

 もう一段階、

 深いところへ落ちている。

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