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我輩は猫であるが、英雄の足元にいた ~異世界転生した猫は、英雄譚の裏側を見てしまった~  作者: 我輩
我輩は猫であるが、世界が我輩を忘れてくれない ~英雄譚を壊した存在は、神話になりかけている~

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自滅装置

 誤解というものは、

 誰かが嘘をつかなくても、勝手に増殖する。


 むしろ――

 善意と合理性で育つ誤解ほど、始末に負えない。


 


 港町を出て三日目、

 我輩は丘の上から街道を見下ろしていた。


 人の流れが、変わっている。


 速い。

 落ち着きがない。

 互いを追い越し、振り返り、確かめ合うような歩き方。


 噂が、移動を始めた証拠だ。


 


 学者たちの結論は、

 すでに町を離れていた。


 ――英雄は、人に裏切られた。

 ――猫は、象徴に過ぎない。


 理解しやすく、

 誰もが安心できる説明。


 だが人は、

 安心した瞬間から次の問いを始める。


 


 では――

 裏切ったのは、誰だ?


 


 最初に疑われたのは、

 英雄の従者だった。


 次に、

 英雄を支えきれなかった村だった。


 そして、

 英雄に期待しすぎた民衆そのものが、

 疑いの対象になった。


 


 誰もが言う。


「自分ではない」


 


 それが連鎖すると、

 世界は自然に二つに割れる。


 裏切った側と、

 裏切られていないと信じたい側に。


 


 我輩は、

 街道脇の石の上でそれを見ていた。


 


 ある村では、

 英雄を讃える歌が禁じられた。


「また期待して、壊す気か」


 


 ある町では、

 英雄像が倒された。


「人を信じすぎた結果だ」


 


 別の町では、

 逆に英雄信仰が強まった。


「英雄を疑う者こそが裏切り者だ」


 


 同じ結論から、

 正反対の行動が生まれる。


 それが、

 説明だけで作られた世界の末路だ。


 


 噂の中で、

 猫は消えていった。


 学者の言う通り、

 誰も猫を探さなくなった。


 


 だが、

 猫がいない場所ほど、混乱は加速する。


 


 理由は簡単だ。


 猫が象徴に押し込められたことで、

 すべての責任が、人間同士に返されたからだ。


 


 裏切り。

 失望。

 期待。


 


 どれも、

 人間が一番扱いきれない感情だ。


 


 夜、

 我輩は小さな集落に入った。


 焚き火の周りで、

 人々が言い争っている。


 


「英雄を信じたのが間違いだった」

「いや、人を信じなかったのが間違いだ」

「誰かが嘘をついたんだ」


 


 誰も、

 自分が物語を欲しがったことを

 口にしない。


 


 我輩は、

 焚き火の明かりの外に座り、

 静かに尻尾を巻いた。


 


 何もしていない。


 ただ、

 誤解が最適な形で回っているだけだ。


 


 世界は今、

 自分で自分を裁いている。


 


 その途中で、

 一人の男が叫んだ。


 


「だったら、

 次の英雄を立てればいい!」


 


 その瞬間、

 空気が変わった。


 


 希望という名の、

 最も危険な誤解が生まれた。


 


 我輩は、目を細める。


 ああ、なるほど。


 


 自滅は、まだ序盤だ。


 


 英雄が壊れた理由を理解しないまま、

 新しい英雄を求める。


 それは、

 同じ構造を、

 より早く壊すための装置になる。


 


 我輩は猫である。


 世界は、

 我輩を無視したまま、

 完璧な失敗を積み上げている。


 


 あとは、

 どこで止めるか。


 それとも――

 止めないか。


 


 選択肢は、

 もう我輩の前に並んでいる。

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