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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第4章

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トラウマ


彼女を見たとき…


俺は一抹の不安を抱えていた。だが、そこに俺は気づいていなかった。いや、気づかないフリをしていたのだ。


物事を先送りにしても意味がないと分かりつつ、俺はそこから目を逸らしていた。


気付いてしまえば、もうおわりだ。

俺は、俺が一番恐れていたものに、追いつかれてしまう。


奴の足音が、聞こえてくる…



「麗…」


思わず声が漏れた。


その表情が…その瞳が…語っていた。


ああ…彼女は…



「俺の敵になるつもりか?」


俺はそう口にしていた。

心配はあった。疑問もあった。

だが、俺は結局一番大事な質問を最初に尋ねた。


「変わらないね、冬君は。昔からストレートに話すから、いつも苦労してた…」


くすりと、悲しそうに笑う麗。


「あいにくと、のんびり判断を先延ばしにしたり、談笑を楽しめるゆとりを許されて来なかったもので」


「そういう皮肉みたいな言い訳、やっぱり冬君なんだなって思うわ。そんな感じだから、白ちゃんや銀君、それにレナ…ううん、なんでもない」


麗は言ってしまってから後悔するように口を紡ぐ。

歯噛みする想いだ。


レナ…あのカス女は未だにイラだたしい。

真黒の口車に乗せられて、助けを請われた麗の居場所を真黒に教えたせいで、あんなことに…!

許すつもりはない。

生き返ってたらもう一度ブチ殺していたところだ。


「デガラシのスクラップ共と同類扱いされちゃ、俺もそろそろおしまいだな」


そう言うと、困ったように彼女は微笑む。

そういうところは、あの頃から変わらない。

いいや、いい方向に変わっていったはずの彼女を、引き戻してしまった結果か…


「姿形は変わっても、あの頃のまま…まるで、時間が止まってるみたいに」


「……」

その言葉は決して褒め言葉ではなかった。

互いに積み重ねた時間が異なることを、表していた。


「15年…眠っていたようなものだからな」


「15年…もう、そんなに経つんだよね。あの頃から…あっという間だったなぁ…特に凛が産まれてからは…最初の年は大変だった。…でもいろんなことを頑張って、みんなで支え合って建て直してきた。私なんかは記憶もあやふやだったから特にね。白夜統主様がよくしてくれたから、何とかなったけど」


今までを思い出すように、彼女は言葉を紡ぐ。


「それからあの人と出会って、初めて人を好きになって…そして、凛が生まれた。あの娘が産まれる前に彼は死んじゃったけど…サルベージャーになるって言って…遺跡に向かって、帰って来なかった…優しくて真面目で、でも…普通の人だった。」


彼女の幸福な時間と、そして…

彼女の悔恨が込められていた。

もっと強くとめていればよかったと。


「凛があなたを連れてきたときは、びっくりしちゃった。あの娘も、もうそういう歳なのかって…時間の流れを意識しちゃった。まだ子供だと思ってたのにね。それもまさか君、なんてね。」



俺の瞳はいつしか爛々と輝く虹色の光を宿していた。


「質問に…」


答えろ、と俺は言うつもりだった。なのに続きが出てこなかった。こんなことは初めてだった。


「昔から…強くて、恐ろしい…こちらの全てを見透かすようなその眼が…ずっと苦手だった」


麗は、薄く、悲しそうに笑ってそう口にした。


「驚かないんだね」


麗はそう言った。


「何年も、一緒にいたからな…」


「そっか…そうだよね」


長く一緒にいすぎると、嫌でも相手の気持ちなんてのは見えてくるものだ。


「冬君…ううん」


そうこうしてるうちに、麗は話し始める。そして…


冬終とうしゅう君」


ビクリと俺の肩が震えた。


その名を…


彼女は口にした。


「真白 冬終。それが、あなたの本当の名前。」



「なぜ?」


それはなんのための問いだったのだろうか…



「覚悟を決めるため、かな?」



「わかってんのか?俺を、敵に回すってことの意味が!」


俺は叫んだ。胸の内にある言葉にならない想いを、デタラメでもいいから形にしないといけないほどに。


それは、今まで積み上げてきたものが、崩れ去るかのようだった。


「うん…わかってるよ。ずっと見てきたもの。あなたが、どういう人か…」


「……」


「知ってた?私ね、あなたのことがずっと…」


「嫌いだった」


麗の言葉に、俺は驚かなかった。


「ううん…そんな単純な気持ちじゃない。憎んでた。」


麗はひたひたと歩き始める。言葉を紡ぐために。


「あなたは、私にできないことをやり遂げる人。私は見てただけ。惨めだった。あなたは存在してるだけで、周りを傷つける、凶器」


「冗談だろ。お前がいなければ…俺は論文すらまともにまとめられやしなかった」


自分の頭の中を言語化するのは、ひどく難しい。

抽象的なもののほとんどは、彼女がいたから何とか形になっていただけだ。


「ふふっ。それこそ冗談だよ、そんなの。」


麗は一つ一つ、今までの鬱積をこぼすように諳んじる。


「あなたは私がいなくても、結局最後は結果でみんなを黙らせた。私は、その後押しをしただけ。私の価値なんて…それこそ補助輪みたいなものでしかなかったもの」


その瞳には諦観と確かな確信があった。

真白 冬終という人間かいぶつへの絶対的な信頼が


「その怪物を、敵に回すつもりかって聞いたんだよ!」


「もう…決めたの」


その瞳には確かな意思が宿っていた。かつての彼女にはなかったはずのものをが…


「…凛の、ため…か」


俺は拳を握りしめた。血なんて出ない。それでも…何かが流れ出ていくように、感じていた。


「……」


麗は肯定も否定も口にはしなかった。だが…

キッと、こちらを睨むその瞳が、何より雄弁に語っていた。彼女の真意を…


「あなたの名前を思い出した時点で、理解したわ…もう、私達にはあまり時間がないって…それも、わかってるんでしょう?」


なじるように、麗はこちらをみていた。

俺の口から、答えを聞きたいというように


だが…俺は答えられなかった。答えたくなかった。


「少し…変わったね。真白君は」


麗は、俺の名前を呼ばなかった。

それは彼女なりのケジメなのか。



「つまり儂等は、争うしかないということじゃ」


後ろから男が出てくる。

淡青に発光する銀髪の老父。年老いてなお、その勲は衰えていないかのような姿で、こちらをみていた。


「白銀…白夜」


「カッカッカ!」


白夜さんは何が面白いのか、盛大に笑う。


「何がおかしんだ?クソジジイ」


「姿形は変わって、歳もずいぶん若くなっておる。にもかかわらず、あの日のおぬしを見ておる気分じゃ。不思議じゃな…まったく似ても似つかん姿なのに…お前は真白冬終なのじゃと…そう確信が持てたよ。久しいな、真白よ」


その表情は憎しみの対象に向けるそれではなかった。


むしろ…


俺はそらすように目を瞑った。

その姿に、光景に、俺は少しだけ、目が眩んでしまったのか?


「真白君…無理だとわかってはいるけど、一度だけいうね?あなたには虚無化ロストしてもらうわ」


「…聞けない話だ」


「…うん。分かってた。」


麗は、その言葉を聞いても驚かなかった。

そういう人だと、わかっていたから。


白銀われわれと相まみえた以上、わかっておろうな?」


「…ああ、わかってるさ」


あの日から、今日この日まで、振り上げた拳の下ろしどころを見つけられなかった。


だがな…あの日の決意を、怒りを、憎しみを、絶望を!

忘れたことなど一度としてない。それでも…!


「今度こそ、決着をつけてやる。」


「この名を忘れたというのなら、もう一度貴様らの心底に刻み込んでやるよ。」


真白トラウマに、してやる」


あの日の選択を後悔した日も、一度としてない!


もう、引けない…

引くわけにはいかない。


守りたかったはずのもの、救いたかったはずのものさえ敵に回して…俺は…!


己の中の矛盾すら飲み込んで…俺は前に進む。


俺が、俺であるために!



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