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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第2章 【最後の善意解放作戦】

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真白冬の過去


「おんどれ! こんくらいで、すまさんぞわれ! わかっとんのか! てめぇ、だれに! ぶふぉ!!」 


顔を蹴り飛ばす 

馬乗りになって殴りつける 後ろの人間が見てることも関係なく、鮮血が舞うほどに 拳が大男の顔に叩き込まれた


「ま、まて、なんか誤解しとんのや おどれは そうだ! わいのところで雇われんか? そうすりゃ…」


「性犯罪者と交渉はしない」


冬の瞳に一切の慈悲はなかった

まっ! その言葉が届く前に冬の拳が大男を絶命させた


「あ、あの…」


後ろで正義が恐る恐る話しかけてくる


「見苦しいものを見せてすまなかったね 君らは…ここの被害者、という認識でいいのかな?」


「えっと、友達が、ここに連れてこられてるのをみて、いてもたってもいられなくて! その…」

たくさんの感情がないまぜになって口からこぼれる


「いいよ」


「え?」


「ゆっくりでいい」

冬は膝をついて倒れてる彼らに目線を合わせて話す


「怖かったろ? 大変だったね」


その言葉を聞いた瞬間に思わず涙があふれた


「ご、ご、めんなさ、ふぅ〜ぅ!!」


涙とともに、変な声が漏れた 自分が怖かったのだとそれすらわからないほどにずっと緊張していた その糸が今、ようやく解けたのだと理解した


「治安部隊に連絡を取るといい 君らを保護してくれるはずだ」


「え? あ、あの、あなたは治安部隊の方では?」


「俺は通りすがりだ

俺のことは、すまないけど説明できない 治安部隊のものにはよくわからない人が急に乱入してきてヤクザをぶちのめしたら、そのまなま何も言わずに去っていった 自分達も何が何やらよくわからなかったとでも言ってくれ 無理強いはできないけれど戦闘の詳細も適当にごまかしてほしい 擬音でもぶち込んでぶぅあっとか、バババとか、よくわからないうちに終わってたとか言えば、いいよ」


詮索はされたくなかった 白銀にはあまり情報を与えたくない 無理強いもできないけれど 

最も俺の今の見た目では彼らも俺と結びつけることはできないだろうが 白銀に乗り込む際も彼らの監視網からは外れてる 俺のことは見えていないはずだから黒金にも迷惑はかからないだろう


「あの、その、いえ、わかりました 助けていただいた以上は、そのとおりにします 実際何が起こってるのか分からなかったのも事実ですし でも なぜ私達を助けてくれたんですか?」

赤みがかった髪の少女は戸惑いながらもそういった


「見知った顔をみたからここに来た …君。 君は、麗、なのか?」


そう言ってもう一人の少女に話しかける

あるはずがない 

なぜなら時間の帳尻が合わない 

15年経っているのなら、

姿が変わっていないとおかしい 

先ほど見かけた彼女は制服を着ていた 

しかしあまりにも似すぎていた 

明るい茶色のロングヘヤ 柔らかい印象の顔立ち 

違いがあるとすれば、どこか気弱そうな表情だろうか このような状況なら致し方ないとも思うけど


「え? 私は、凛です」

やはり他人の空似か…そう思い、思考を切ろうとした


「そうか」


「麗は、母の名前です」


「なに?」

麗の、子供?

ありえない話ではない 15年経っているのなら、子供がいる可能性はある 


「あなたは、母の知り合い、なのですか?」

少女はなぜか少しショックを受けた様子でそういった


「昔、ちょっとね…でも、彼女は覚えてないと思うよ 俺が一方的に知っているだけだから」

顔もまるきり違う わかるわけもない


彼女がいま、子供を作って、幸せに暮らしてるのならそれでいい それで充分だ 

俺は関わらないほうがいいと思った 

俺はこれからまた、白銀とことを構えることになるだろう そうなれば彼女の身が安全になる可能性は低い 仕掛けるにしても、そこは最善を尽くさなければならない

それは、再戦を見送る可能性すら視野にはいるほどに


冬は去ろうとする その場を


「ちょっ!」

正義も素直もそれを止めようと声をかけるようとするが


「待ってください!」

凛のほうが先に声をあげた




私は、去っていこうとする彼を呼び止めた

行ってほしくなかったから

理由なんて、考える前に声が出ていた

「母に……会って、いきませんか?」

言ってしまってから、気づく

何を言っているのだろう、と

やめておけばよかった

それでも――彼の気を引きたかった

このまま行かせたら、

二度と会えない気がしたから

そして、すぐに後悔した

彼の表情が、凍りついた

悲しいのか

苦しいのか

そこには、喜びなんて微塵もなくて

――望まれていない言葉だった

「……」

断られる

そう、直感した

それでも

「母に、会いに来てください……お願いします」

みじめだった

それでも、ここで別れるのだけは嫌だった

まだ、名前も知らない

この人のことを



冬は、言葉を失っていた

胸の奥を、鈍い何かで殴られたような感覚

――会う?

――今さら?

脳裏に、否応なく浮かぶ

柔らかな声

どこか影があるのに、それを感じさせない陽気な笑顔

あの日、彼女は死んだ

「……」

十五年前の記憶が、

音もなく、扉を開ける


冬は過去のことを思い出していた




麗と出会ったのは外区に物見遊山で出ていた2人の姉弟が拉致されて売り裁かれようとしてたときだ 

よりにもよって俺のアジトで売買を行おうとした不届者を叩き潰した結果、麗とその弟は助かった 

不届者は新参者で、内地から来た者だ 

この手の輩は最近増えている 

都市にバレずに儲けのいいビジネスをするには外区とは都合のいい環境だったからだ

その後、都市の内側の奴に麗達を届けて帰ろうとした時に、俺は白銀白夜と出会った



「そういうわけで、これから君は『真白』だ 学徒の資格を取ってくるといい 飾り程度のものだが、ないよりはマシだろう」


ドクは俺にそういった 

ドクは俺が命からがら教団から脱走できたときに拾い、怪我を治してくれた恩人だ

最もドクは善人でも悪人でもない 

自分の研究にしか興味のない人間で、俺の特殊な体質に目をつけて取引を持ちかけた 

それ以来、彼の研究の手伝いのための遺跡調査と遺物回収、そしてその解析の手伝いをしていた

そんなドクからこんな提案がされるとは思っていなかった


「なにが“そういうわけで”だよ。頼んでもないことを勝手に進めないでくれる?」


ドクは相変わらずだ 

勝手に自分のなかで話が進んでいる 

自己完結型の人だ

学徒の資格など、市民権のない自分には無用の長物だ

嫌な思いをしてまで取りにいくものではない


「そんなことはない お主がもし学徒の資格を取り、実力を示せば、安全も買える 家も買える 地位も買える 何でも手にはいる どうじゃ?」


白銀白夜もまた、俺の体質に目をつけた 

光り輝くような虹色の瞳に 

ドクと白夜には何かしらのつながりがあるらしいことだけは二人のやり取りでわかったが、追及はしなかった

お互いに深く干渉しない約束だ


「うさんくさ」

信用できない


「一応いっておくが彼は都市の統主で、私の弟だ 

身元ははっきりしているよ」


ドクって、白銀一族の関係者だったんだ… 

それなのに外区で暮らしてる 

マジもんの変人だったんだな



「君には、才能がある」

白夜は俺にそう告げた




「才能、なんて軽々しく言ってほしくないね これは、そんなにいいものじゃない」


「だが君の力だ 生きるために必要なものは使わないとな そして使うならふさわしい場所で、その力を、技術を、磨かねばならぬ そうじゃろう?」


「都市の中にいるよりもドクの研究に付き合ったほうが実りは多いように思うけど?」


「そんなことはない 命を毎日かけるような人生は運が絡みすぎる それを当たり前にしてはいけない」


至極真っ当で、そして現実味のない話だ 

この惑星のどこに安全な場所があるというのだろうか? 


「学徒の資格があれば、他所の都市にも行ける 白銀は生きづらいだろう? 君の人生の選択肢を増やせる機会だ 言ってみたらどうだ?」


ドクは意外な事を言った


「あんた、自分の研究にしか興味ないと思ってたよ」


「そうだ 私は自分が知りたいことを知りたい それだけの人間だ そして、君がほかのものと関わることでまた別の何かが生まれれば、それが私の知識欲を刺激するかもしれない 私とだけいても私から生まれるもの以上のものは生まれない」


人非人のドクはそう言うが、どこかに仄かな情のようなものが感じられた 


だから


「わかった ただし、いつまで持つかは保証できませんよ」


都市内部の人間とそりが合うとは思えなかった

ドクに義理立てして、一応話を受け入れた 


「それでよい わしも単なる興味本位の試みじゃ うまくいかなければそれまで 老いぼれの最後のお遊びのようなものじゃ」



そして、俺の都市での生活が始まった

麗は俺が棄民だということを知ってるため、白夜との約束でお目付け役として、俺の近くに配属された


学生生活とは至難の連続だった



「あんたさ、自分がどれだけ麗に迷惑かけてるか、お荷物になってるか、わかってるわけ?」


「君が自分の能力もわきまえずに身の丈以上の発言をしてることを理解してないよりは、理解してるよ」


自分が麗に迷惑かけてるのは自覚してる 

日常的なものだけではない 

論文を書くにしても、彼女やドクの助力が必須だった 

俺は自分の頭の中を人に伝える能力が低い 

自分の頭の中なのに、なぜそんなことがわかるのか? 

自分でもわからないから 

お前はラマヌジャン気取りか、と言われたこともある 


「あんたのそういうとこが嫌いなの!ほんっとに自分のこと、高く評価しすぎ! 自意識過剰なんじゃないの!」


毎日ヒステリックみたいなツリ目の少女はそういった

鏡見ろ、といっても曲解してるようでは無意味か


世間がどう思ってるかは知らないけど、自分を高く評価したことはない 

出来ることを一生懸命やっているだけだ 

単に俺以外のやつの出来が悪いくせして、それを棚に上げ、分をわきまえない戯言を抜かす


「なんであんたみたいなのがここにいるわけ!」


「そんなのわかりきってるだろ 実力があるからだよ」


「!!」


「この学園に入れる資格ってのが、見目や家柄なら俺はここにいねぇよ 

そしてお前のような、まだ何者でもない奴が決める基準なんかこの都市は評価してないってだけだろ 

グダグダ俺に文句たれてる暇があったら俺より結果出して、都市に直訴でもしろよ 

お前は人のことより、まず自分がこれから何者になれるのかどうか、その心配でもしてろ」


相手は顔を赤くして、こちらを睨みつけるが当然無視する


俺はそう言ってその場を去ろうとした 

こいつの根拠のない無駄に強気な態度が鼻につく 

大した実力もなく、気が強いだけで、まるで自分は正義だとでも言いたげだ 

だがこんなのでも麗の親友らしい 

いちいち絡む必要はない 

彼女の交友関係に口を出す気もない

――だが


「あんた、これ以上、麗に近づいたら、殺すわよ」


こちらの逃げ道を塞ぎ、足を壁にうちつけて、胸ぐらを掴み上げる手に、遠慮はない

これは見せかけの脅しじゃない


一歩踏み違えれば取り返しがつかない、そんな本気の殺意があった

だから……





きゃあ!!!

学内から悲鳴が上がる 


「何? 学内が騒がしいね」

麗はそう感じて庭先からの学内に向かおうとしたら、四階の窓から人が見える 

あれは、真白君とレナ?

まずいと思った 

なぜなら真白はレナの髪をひっつかんで引きずり、窓の外に乗り出してる 

あれはまずい!!!


学内から響き渡る悲鳴を意にも返さず真白君はレナを窓から投げ飛ばした 


下に向かうが、間に合わない! 

その時、真黒君が走り抜けていき、レナを抱きとめる 

間一髪だった 

あの高さからなら下の人間も死ぬ可能性があるが、真黒君だからこそ何とかなったとも言える


「大丈夫かい?」

柔らかい声で撫でるように呟く 

レナは真黒君のことをいけ好かないといって嫌っていたが、もうだめかもしれない 

頬がほのかに赤くなっていた 

だが睥睨する強い殺意はその感情を楽しく現実に引き戻した


レナが泣き始める 

真白君は冷たい目をしてそれをみている 

レナはそれにひどくおびえていた


真白君は四階から飛び降りる 

何ともないかのようにふわりと着地し、こちらに向かってくる 

レナの怯えが、震えが大きくなる


私と真黒君が前に出る


「ずいぶんと殺気立ってるね? 女の子相手に向けるものじゃないよ」


「失せろ 今お前の相手をするつもりはない それとも、ここでやるか?」


肩をすくめる真黒君 

引きはしないが押しもしない

なぜなら周りから見られているから 

彼は人の目はとても敏感で気にする 

逃げたとは思われたくないのだ

彼はこちらをみやる 

彼は調整がうまい 

自分ではだめだ なら君は? 

そう言っているのだ


「れ、麗…ご、ごめ」

謝ろうとするレナを慰めて私は彼の前にたつ


「なにがあったの?」


「理由を説明する必要はない それともお前は理由に納得すれば引くのか?」


「それは…」

引かないだろう 友達を置いては引き下がれない


「でも、理由もなく、こんなことされたら理由を聞きたくなるのは道理じゃない?」


「そいつが俺を殺すといった だから殺す それだけだ」



「…このこも本気じゃなかったのよ あまりムキにならないで」


「お前の感想は聞いていない どけ」


誹謗中傷程度なら、甘んじて我慢しよう 

嫌がらせもある程度許容する 

都市の中で俺のようなものが生活するということはそういうことだ 

わかってて入った以上、ある程度はこちらが折れる 

だが、俺の命を狙うなら、そいつにも命をかけてもらう 


「…」


真白の中では決定事項のようだ

真白は自分に対する殺意には敏感なところがある

本当にレナが真白を殺したいと思った 

そしてその手段を実行しようとしてた、のかもしれない 

私には真実はわからない 

でも重要なのはそこじゃない


「そっか… なら、仕方ないね」


私は覚悟を決めた


「麗!」


レナが怯える そのレナの髪を撫でて私は話した


「ごめんね 私じゃ彼は止められない」


その言葉にレナはうなだれる 

もうだめだと悟ったようだ 

真白は都市から追い出されることは何とも思っていない 

むしろ今までかなり無理をさせたし、我慢してたと思う 

挙句の果てに殺そうとしてきた相手だ 

純粋な殺意が飛び交う外区で暮らしてきた彼相手に殺意を武器にするのは自殺行為でしかない


「だから私も一緒に死んであげる」


私はそう告げた


「え?」


レナは最初何を言われてるのか分からないという顔だった 

しかしそれが何を意味するのか理解が追いつき始めると


「だ、だめだよ 私のために 麗までなんて!」


レナは必死に止めようとしたけど 

もう私は覚悟を決めていた


「一緒に生きるのは難しくても、一緒に死ぬことはできる」


力のない者の、選択のなかでそれが選べることは幸福なことだと私は思った 

ほんの少しの、苦しい人生の中で見えるいとまに 私は感謝する


「そういうことだから 殺すなら、私からお願いね」


「…正気?」


真白の瞳に微かな揺らぎが見えた 

理解できないと 

そう言ってるように見えた



「私は本気だよ やってしまったことは変えられない だからこれからの選択をするの」


揺るぎない 

その覚悟に真白は苛立ちを覚えた 

それが結局なんなのか 今も分からないでいる 

無視できない 何かが 

今も真白はそれが何なのかを探している


「…興が削がれた 勝手にしろ」


真白は引き下がった



「う〜ん、いいね、 やっぱり 君は、いいよ」


真黒君が怪しくこちらをみていた 

私はリナを支えて保健室に向かう


結局、真白の一件は表沙汰にはならなかった

彼の研究するマテリアル技術は、白銀にとって魅力的すぎた

彼を外すことはできなかった

仮に死人が出ても、揉み消されただろう 

人の心を置き去りにして、消費される人の価値を、私はこのときほど強く感じたことはなかった


これから先、真白はどんどん孤立していく 

この時期の真白は特に妙な凄み、というよりも神々しさのようなものさえあった 


なぜそれがわかる? なぜそんなことができた? 

人とは異なる視点を持つ者への畏怖と嫌悪 

にも関わらず真白は突き進み続けた




そして、マテリアル技術は、ナノマテリアル加工技術へと移行していく


「どういうことだ、真白!?」


昨日まではこの案でいいという話だっただろうが!

銀は吠えた

真白の案の訂正――というほどでもないが、真白自身が「こちらのほうがいい」と認めた理論だった


白銀 銀も野心家だ

真白よりも一歩でも先に行けたことは、銀にとって多大な自信になる……はずだった


「昨日までは、あれでよかった だが、ナノマテリアル加工技術まで発展させる、いい案が浮かんだんだ 仕方ないだろう こっちのほうが、絶対にいい」


真白は譲らなかった


いつも突飛な発想と思いつきで動くやつだが、今回は今までとは比べものにならない 

自分で描いた設計図すらすべて捨て、一からまったく新しい理論を持ち込んできたのだ


周囲は、ついていけなかった

昨日、銀が自分よりも優れた案を出したから、手柄欲しさに突飛なことを言っているのではないか――そんな噂まで立つほどだった


それでも真白は止まらなかった


いちゃもんも、蔑みも、やっかみも、すべて結果で黙らせる そして真白の言ったことは、結果的に良い方向へと進んでいった

周囲の気持ちを置き去りにしたまま


最近の真白は、どこかおかしい

神懸っている――まるで本当に神でも降りてきているかのように、次々と画期的なアイデアを生み出す


その瞳は、気のせいか、以前よりも増して虹色の彩度を帯び、常にその状態が続いているかのようだった


危険な兆候に感じられた どこまでも一人で行っていってしまいそうな そんな予感がした


そして、さらに孤立していく

気にしていないのは、当人だけだ

企業都市としても、結果さえ出せればいい――そんな空気が、いつの間にか流れ始めていた


「海底道路の整備は、おおむね良好だ このままナノマテリアル加工技術が完成すれば、安定した海底通路が完成する」

真白は、擬似的な海水加工を可能にした

海水でできた海底通路――その作成は、成功しかけている



ナノマテリアル加工によって、真白は海水と同等の性質を持つ疑似流体を生成した

海水分子をナノスケールの格子構造で制御し、流動性を保ったまま形状を固定する

さらに、海獣に破壊されても周囲の海水を取り込み、自らを修復する機能まで備えていた



海路の安全性を担保する技術になりうる 

都市間の流通にも関わる技術だ 誰もがその可能性に躍起になった


しかし真白は何も手に入れられなかった…

真白は、ただ欲しかった…

たった一つの………を



「真白くん おかえりなさい!」

誰?知らないおばさんとおじさんが2人


「俺等はな、お前の両親さ 今まで苦労したみたいだな 寂しかったか?」

馴れ馴れしすぎるだろ


「はぁ 親っすか 何の用?」

今はとにかく忙しい 

どうでもいいことに付き合ってられない



「そんな冷たいこと言わないで 私達もね 苦労してたの だからあなたを手放したの 我が子に無理な生活はさせたくな…」


「あ、そういうのいいんで」

しょうもないことにつきあわせないでほしい


「あっ! ちょっと! もしかして疑ってる?だったらDNA鑑定でも何でも…」


いちいち相手にせずに、

真白はそのままあてがわれたアパートに帰る

真白コーポレーションの伝手で与えられたものだ


「あっ おかえりなさ〜い 真白さん」

管理人だ 家守という小柄な女性だ 


「ええ どうも」

特に話すこともないのでそのまま隣を通り過ぎようとすると


「あ! さっきね 親御さんって名乗る人達が来てたよ」

人の良さそうな笑顔で話しかけてくる 正直ちょっと苦手だ


「そっすか なら次来たときは治安部隊を呼んでください」


このアパートには俺が会社でも見せない様な資料もある 部外者を入れてもらっては困る


「え?でも…」



「頼みましたよ」

困惑する彼女を尻目に自分の部屋へと急ぐ


「ただいま、四季」


「おかえりなさい 真白」


彼は、四季

彼と呼んでるが性別はない そもそも人間じゃない

俺の作った"特殊な"人工知性体だ


「最近疲れ気味ですね 音楽でも流しますか?」


「頼むよ 選曲は任せる」


「了解しました」


四季は面倒なことは聞いてこない 頼まれたことをやってくれる 日頃のストレスを考えればそれだけで充分な癒しだった


「明日はどうなさるのですか?」



「明日は、麗に呼び出されている 要するに仕事だ」

子細は聞かされていない 


「仕事、ですか…」


「何か含みがあるな」


「いいえ 何でも」

とてもそうは思えなかったけれど まぁいいや


「私もご同行いたします」


「え?なぜ?」


「真白だけでいかせると、苦労しそうですので… 麗様が」


……反論できなかった……


「麗 遅いな 何をしてるんだ?」


「おまたせ 待った?」


そう言って彼女はやってきた


「待ったよ かなりね 何時間待たせる気なんだ」

流石に待たせすぎだ


「ごめんごめん ほんとは連絡を入れるつもりだったんだけどね」


彼女はなぜが綺麗におめかしをしていた そのことに、触れはしなかったけれど……


「……で、今日は何の仕事なんだ?」


「仕事半分、息抜き半分、かな」


麗はそう言って歩き出した


俺は文句を言うタイミングを逃し、その隣に並ぶ


企業都市の外縁部


海上に張り出したデッキから、夜の海が見下ろせる


足元の透明素材越しに、淡い光が揺れていた


「ここ、来たことある?」


「いや わざわざ金や時間を割いてまで来ないな」


「ひどい言い方」


そう言いながら、麗は少しだけ笑った

展示用に整備された区画には、海水が固体のように形を保った構造体が並んでいる

俺が関わった、あの技術の応用だ


「……すごいね 自分の作ったものが、こうして人に見られてるの」


「どうかな 別に都市のためにやったわけじゃない」


「でも、ちゃんと世の中に寄り添ってる」


麗はそう言って、手すりに肘をついた


俺も同じようにする


距離は近い


触れようと思えば、触れられる


でも、そうすることはない


「冬君はさ」


「ん?」


「どこまで行くつもり?」


一瞬、言葉に詰まった


「……さあ 行けるところまで、じゃない?」


停滞はできない


歩みを止めれば、俺は死ぬ


生きることは、俺にとって成長を意味する


価値を失ったガラクタに、この都市が目を向けることはない


麗は何も言わなかった


その沈黙が、不思議と心地よかった

「……ねえ、これ」


麗が立ち止まったのは、小さな小物売り店だった


ガラスケースの中には、雑多で、どこか安っぽい装飾品が並んでいる


「良さそうじゃない? これ」


「欲しいなら、自分で買えばいいだろ」


「えー」


わざとらしく不満そうな声


「いいじゃない お金は持ってるんでしょ?」


俺は、少しだけ顔をしかめた


「あのね 貧乏苦学生が、そんなに持ってるわけないじゃない」


「……え」


「俺は白夜さんの懐から出る金で暮らしてる 研究費と生活費で、ギリギリだよ」


「そうなんだ……ごめん」


麗は素直にそう言って、視線を落とした


……はぁ


溜息が出る


「……いいよ」


「え?」


「買う 別に嫌なわけじゃない」


「ほんと?」


「“金持ってるんでしょ”って、知りもしないで言われるのが嫌だっただけ」

麗は少し驚いた顔をして、それから柔らかく笑った


「……ありがとう」


会計を済ませ、小さな箱を麗に渡す


中身を確かめようとする彼女の手を制して、俺はもう一つ差し出した


「それと」


「これ……?」


小さなキーホルダー

雪の結晶を模した、簡素なアクセサリーだった


「さっき見てただろ なんとなく、良さそうに見てたから」


「……見ててくれたんだ」


「たまたまさ」

麗は、それをぎゅっと握った


「ありがとう 大事にする」


その後も、他愛のない店をいくつか回った


特別なことは何もない


それなのに、不思議と時間は早く過ぎていった


人工海上デッキに着いたころ、空は夕焼けに染まっていた


海の上に設えられた広場では、簡素なライブが行われ、

波打つ光が足元に反射している


「……見て」


麗が指差した先


海の中を、淡く輝く巨大な影が羽のようなヒレを広げてゆっくりと泳いでいた


「海蚕か」


「うん……綺麗」


俺は、少しだけ息をのむ

海蚕――海獣はこの惑星の頂点にいる生命体だ

本来なら、海を自在に泳ぎ、人など歯牙にもかけない

だが人に鹵獲され、人の都合で品種改良された

都市の汚染物質を食べさせられ、役目を終えれば、透明に近い美しい姿になって海に溶けるように死んでいく


「人の都合のために生きて、人の都合のために死ぬ

 俺たちと変わらない、ただの消耗品だ」


麗は、しばらく黙って海蚕を見つめていた


「私は、素敵だと思う」


そう言って、視線を外さない

「たとえ誰かに利用されても、

 誰かのために生きてるんじゃない

 誰にも見向きもされずに消えることになっても、

 自分の人生を精いっぱい生きてる――

 一生懸命生きるのは自分のため

 でも、それがこの美しさに繋がるなら、行き着いたってことじゃないかな? 

 誰に理解されなくても 自分の目指した頂へ 

 それはきっと他人からは理解されないけど、美しく、鮮やかに残る

 羨ましい そこまで自分を突き詰められるのは......」


冬君だって、そうだもの 


……俺には、二の句は告げられなかった……


「俺には、よくわからない……」


「ふふっ なら、いつかわかるといいね 冬君はさ、最後まで諦めないでね」


「は?」


「何があっても、生きることをあきらめたりしないで 苦しくても 悲しくても 最後まで できることを、やれるところまで 私の想像もできないほど先に…」


「なんだよ、それ…」


麗はそれに対しては返さなかった ただ微笑んでいた

その笑顔が俺に風景に溶けて、消えてしまいそうに見えた


「ね? 冬君」


「なんだよ」


「ふふっ、冬君」


「だから、何だって」


「あのね。私――」


その瞬間、

すべてが吹き飛んだ

景色も、

風に乗った彼女の声も、

そして――彼女自身も


最後に聞いた声は、彼の叫ぶ 四季という声だった


そこで私は意識が途絶えた…


この日、教団の大規模なテロ行為が発生 死傷者多数 

歴史的な事件が起こった… 彼女は…そして…




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