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異世界に行く前に ディストピア世界冒険記 ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第2章 【最後の善意解放作戦】

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19/20

最後の善意

「きたわね」

聖都の中央区 行政と治安の中枢を担う存在 光 ひじり

ヒジリさんは現在この町の行政・治安を一手に背負う責任者だ

冬とナツはその下につく形で、治安維持のための制圧や食料の調達・畜産の担当をしている ほとんど冬が担当をしているので、責任者にともいわれていたが、橋渡しをするには冬は鉄砲玉すぎた 交渉事なんかには向かない

コナタとカナタは


ヒジリさんは、机に向かったまま、顔も上げず、淡々とそう言った


机の上には書類が山のように積まれている

配給量、備蓄残数、難民流入数、治安報告書の付箋と添削の後がびっしり

赤字、数字、修正線が大量に書き込まれている 前来た時よりも書類が増えているように感じる

一枚一枚の重みを感じている表情だ 自分の裁量一つで、来週死ぬ人間の数が変わる



「ヒジリさん これをどうぞ」

そういって 冬真が忠犬のごとく、ヒジリさんの前に片膝をついて何かの書類を差し出す パラパラとめくりながら苦い顔をする


「だめね」

速攻のだめだし


「申し訳ありません!」

背筋を伸ばして、冬真は元気な返事をする なんか訓練でも受けてる?忠実なしもべみたいになってるよ? 冬は若干引いた



「あなたのことじゃないわ 食料生産の量と備蓄の数が合わない 中抜きしてるやつがいる」


「それについては調べがついてます すでに粛清済です」

冬は事後報告を済ませる 食料と水は貴重品だ 数量ごまかしは許さない

ただでさえ、今月の餓死者は多い 聖都の周りには囲いができるほど、人が集まって、デモのようになっている 限界も近い



「仕事が早いのは助かるけど、結論を急ぎすぎよ 粛清ではなく、連れてきてほしかったわね ほかの関係者も知りたかった」

渋い顔をする


「関係者含めて始末したといっているのです」


「だから、生け捕りにしてほしかったといっているのよ むやみに死人を増やしたくないの 粛清というのは民に恐怖心を与えるもの 今の状況ではむやみに怖がらせるだけで、下手をすると、暴動が起きる」


「だからといってあまい対応が許される状況でもないでしょう 余裕のある状況ならまだしも、このくらいで許されるなら自分も、って枷が外れやすいほど、この町は病んでいる」

スタンスが違う二人 どちらにも一理があり、そのことをお互いに理解していた

どちらが正しいかなどわかりはしない  だからやるべき、とだからやるべきでないは両方成立しうる環境だ 民の緊張は日に日に増していってるのを肌で感じる

何かのきっかけ一つで、ドカンと吹き飛ぶ いくつもの導火線がこの町には存在している やらなくていい、言い訳よりも、やっていい言い訳を探す時期にシフトするのもカウントダウンが始まっていた


「最後の善意を解放します」

「...できるの?」

ヒジリさんは苦渋の表情だった


「やるしかないでしょう ヒデオは行方不明だが、やつの所持するナスはいまだ空で最後の善意の妨害をしている ナスか、アカマナフのどちらかを潰せれば、最後の善意は解放できる、というより抑えきれなくなる 彼女が停滞している理由は力不足なのではなく、彼女の戒律のせいだ」


最後の善意アニマ・エス・スプンタールとはこの聖都ワフマン・ヤシュヒトの上に輝く聖寵ギフトでできた疑似太陽のことだ より正確にいうなら、光 晃そのものでもある

こいつのおかげで、聖都の外に広がる環境汚染から守ってくれている まさに慈愛の光

空気汚染、水質汚染、作物汚染、土壌汚染、精神汚染など多くの災害を遠ざける

本来ならこの世界全土を覆うはずだった

最後の善意を打ち上げるために、空へと上がった彼女は敵の罠に嵌められた



この世界には太陽、聖水、癒風、作物、土壌、善心、そして存在を司る護神像が存在する それらは本来空に浮かび、世界に豊穣を約束した

ダエワは、これに反する力を宿す ダエワの信奉する人工の神、アンリマー・タルヤはこの世界の自然の神、アフ・マズーラダに反する存在、反存在として生まれた

ゆえにアンリマー・タルヤから生まれ出るものもまた、神の創造したものと対になるものとして生まれている



護神像はアニマの中から特別なものを選びだし、特別な聖寵ギフトを与える


光 晃は最強のアニマ その聖寵ギフトは《凌駕》

異能だろうが、技術だろうが一度見たものを理解さえできれば全て模倣し、凌駕する

彼女は光家の中でも歴代最強だ



【最後の善意アニマ・エス・スプンタール】はこの世界の太陽を担っていた護神像:スプンタ・マンユが落とされたことによって、世界が終焉を迎えるその時に、その護神像の力すら模倣し、凌駕した光 晃が起こした奇跡


しかし、敵はそれすらも対策を講じてきた


アニマの聖寵ギフトとは何の制約もないわけではない アニマ特有の秩序属性というものが存在する

秩序属性は、ざっくりいうとインチキは許さないって類のものだ 

これが凌駕の異能と特段相性が悪い


サッカーやってるのに、手で持って走り出したらゲームそのものが成り立たない

アニマの聖寵ギフトはそれを嫌う

ゆえに、戒律を設けないといけない 

彼女の戒律は①不意打ちをしてはいけない ②戦いを挑まれて逃げてはいけない ③先制攻撃をしてはいけない

この②と③をつかれた 囲まれて、戦いを挑まれたが、敵は攻撃を先送りにし続けている 先制攻撃をしてはいけないゆえに彼女は永遠の立ち往生をする羽目になった 

ルールを重んじるがゆえに、ルールに縛られる 一番自由を獲得できるはずの人物が一番ルールにがんじがらめになっている



「いつ?」

ヒジリさんも覚悟を決めたようだ


「三週間以内に」

それよりはやめることは無理だ 増え続ける人々に合わせて、町の生存範囲も広げないといけなくなる

当然、安全面のための刻紋も、食料の生産量も増やさないといけない 東奔西走の日々でさえ、まわりきっていない 防備は充分にした状態で戦いを挑みたい


「最後の善意解放作戦は、わかった だが、もう一つ、お前には依頼をしたい」


「なんですか?」


「お前にはナツのサポートとして、監査所に潜入してほしい」

きたか


「理由は?」


「彼女には教員として、この町に入る人間の調査を依頼してるのだが、あまり状況がよくない 最近ノルマを使ったダエワ達の工作が活発化してきてる 奴らも必死、ということだろう 敵の策も巧妙化してきてる だから手伝ってあげてほしい ちなみに君は避難民の一人として入ってくれ」


「どうしてですか? 普通に監査官でいいのでは?」


「繋がっている人間を知りたい 手招きしてる人間がいるはずだ 監査官の心象をよくする方法などや単純に賄賂か 君には監査官の視点ではなく、避難民の位置から探ってほしい できるだけ接触してきやすいように頼みたい」


「この町に手招きしてるネズミがいるなら、そいつは俺の顔を知っている可能性が高いけど」


「お前は認識をある程度弄れるだろう? うまくやれ というかお前くらいしか、もう対処できそうな人間がいない」

そういわれちゃね


「わかりました 何とかします」


「ナツには伝えておく」


その日はそれで解散した






「冬真く~ん、特別実習のお時間で~す」

嫌そうな顔をする冬真


ただ体を鍛えるだけじゃない 存在エネルギーを拡充するための措置も同時に行う

格闘術もやるが、殺しができない人間に暗殺術なんて仕込むつもりはない

制圧術や捕縛術に重きを置いてる あるいは逃走術 受け身の練習など

あと、あまり近接戦に才能はなさそうなので、銃術を教えている


「ぷは~ やっぱきっつ!」

「武変はまだ早かったね」

武変とは、人体の構造的にできうる動きとは限られる 

だが人の動きでは勝てないような奴相手には無理をする必要がある

格ゲーやアニメ調のような人体構造を超えた動きを可能にする

存在維持とは逆の力なので、エネルギー消耗率は高い

通常状態を[不変]、上位変換したのが[天変]とする もう二つ上があるが、うち一つはかなり条件が厳しい もう一つははっきり言ってむちゃくちゃなスペックで組んだので実質使えない仕様のものになっている

天変を使えるようになれれば、戦いの幅が広がる 冬真にも覚えてもらわないといけない 


「冬真にはあと、雷裂弾と粘着弾と石化弾を使えるようになってほしい」

それぞれ役割が違うし、相手の能力や性質で使い分ける必要があるものだから

どれも出力を調整できるから、非殺傷用の武器としても優秀だった

遠距離武器で俺をサポートしてもらう



訓練が終わって、人心地つくと、冬真は春のことについて話し出す

「春は、悪人、なのかな?」


「危険なんだから、悪人でいいんじゃない?」


「おおざっぱ」


「ならどこまでが、許容範囲でどこまでがライン越えなの? ナツやナギが犠牲になるまで待てばいいわけ?」


「そうはいわないけどさ」

冬がいいたいこともわかる 極端な例ではない この世界ではそれが起こりうるのだ

だが、ただ思い切りが良すぎて、ついていけない そんな風に躊躇なく他人を切り捨てきれない自分がいる


「まさか、純粋な悪人じゃないからとかいうつもり? 何%ならいいわけ? 必要? その区分」


「純粋な悪、ね 純粋な善も純粋な悪も、そんなのあるのかな?」



「そりゃあるでしょ」


「それは傲慢だよ」


「明確に線引きをしないことは怠慢だと思うけどね」

この世に絶対の悪はない だけど、自分にとって絶対に譲れないものってのは、多かれ少なかれあると思う


へ、へりくつを


「立場のある人間のすることじゃないよ 我々はこういうルールでやりますと明確に示さなければ誰に従って生きるんだい? 誰もが自分勝手にふるまえばそこから先に待ってるのは破滅だ」

春ともこんな話をしたな 善悪とは限りなくグレーの境界を歩くようなものだが、俺達は守るものがはっきりしてる側の人間だ なぁなぁでルールを作ることは許されない

社会に反逆した俺がいうのも変に映るだろうが 社会そのものが俺を殺しにきた事例は参考にならない 順番が違うのだ


「じゃ、どうやってその秤を作るんだ」


「最小単位をつくるんだ」


「最小、単位...」


「誰にでも大事なものはあるだろう だが、全部は手に入らない じゃあどれを残す? 何まで我慢できる? 勘違いするなよ 切り捨て理論を語っているんじゃない どうしても守れないなら、何を最後まで残したいかって話」


妥協案は常に覚悟しておかないといけない

春の守りたいもの、壊したいものは俺とは相いれない可能性が高い

自分の手足を切り落としてまで聖人になりたいとは思わない

あいつのためには死ねない あいつがこの世界に牙をむくなら殺すしかない 


善悪も同じ 善悪の最小単位を語るなら、最低二人いないと成立しない

なら、二人いれば善悪は生まれるのか そうでもない なぜなら自分の都合だけで他者と関わるのであれば、それは個人の世界と個人の世界があるだけだ

ゲーム理論、狩りは協力したほうが効率がいい

互いに協力するために、約定をかわす この時初めて善悪の概念は生まれる

善悪の最小単位は裏切りだ 二人で狩りをする約束をしてるのに、片方がさぼる

この時、純粋な悪は生まれる 

最小単位とは、これだけは譲れないことをすり合わせる指標なのだ 

善人だから、悪人だから 問題はそいつの属性いろではない そいつとの間にできる約定をすり合わせられるかどうか

絶対の善の定義を作ればできるのはそれ以外への迫害だ だからやるべきなのは絶対の規定ではなく、譲歩 どこまで譲歩できるのか 最小の単位を示すこと

そのすり合わせがうまくいかないなら、もう戦争するしかないのさ



「いい悪いは社会が判断するさ こちらから絡みもしないのに、あちらから喧嘩を売ってくるのなら俺は買う」



「冬、ぼくは...」

君がいずれ、本当に取りかえしのつかない選択をするように感じる

なにかを言おうとしたその時 アバターに異変が起こる


「ぴぴ、がががっ ぴー!!!」

冬真のアバターにノイズが走る 


『なに、なになになに?』

冬真がこちら側で会話する


「何かを受信してる? 冬真のIDしか登録していないはずだけど」


「真白?」

その声には聞き覚えがあった


「ディラフト、なのか?」


「!!ああ、ああ、私だ ディラフトシュラッケンだ 生きていたんだな、真白!」


「お前、どうやってこのアバターに、もしかして現実のほうにあるアバターを回収したのか、どうやって使い方を知ったんだ?」


「細かい話はあとにしよう 助けてほしい 君の力が必要だ」

ディラフトは単刀直入にそう告げた


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