VSジャクラ②
「あ〜あ、もったいねぇ…」
ビリビリと痺れ、身体が痙攣し、痛みで悶え苦しむ様を見るのは最後だ。だが…
いつもそうだ。終わってから後悔する。
戦いってのは虚しいな。強い奴をいじめるのはこんなに楽しいのに、すぐに終わっちまう。
「コイツもまた…ありゃ?」
先程まで確かにそこにいたはずのマシロがいなくなっている。
ジリジリとマシロの形をしていたものが揺らぎ、そして消える。
馬鹿な!確かにそこにいたはずだ!手応えもあった!
なのに…どうして?
何処に行った?
周囲を見渡すが、どこにも当たらない!
跡形もなく消え去ったわけじゃない!本当に影も形もないのだ!
「お〜い!どゆことやね〜ん!お預けとか、そりゃ!ねぇ〜だろぉ!!!」
ジャクラは叫ぶ。勝利でも敗ベくでもない。
事態の急転に。
死んで欲しかったわけじゃないが、殺すつもりで殺った。
殺すつもりでやった上で生き残ってほしかったのであって、こんな結末は望んでいなかった。
仕方ねぇ…叫んでいても意味はねぇ。外探すか…
そう考え直し、踏み出した。
その直前にドカン!と激しい爆裂音が鳴る。
「ゲホゲホ!痛ったぁ〜!」
「あ~あぁ… そういうことするわけね」
パラパラと屋根が吹き飛んで、階下に落ち、瓦礫の中でそう零した。
ダメージはほぼない。それでも足止めにはなる。
相手が大量の光と音にやられているうちに、こちらは存在を薄め、姿を隠す。
刻紋は設置型の武器としても使える。
市街戦だろうが、野営戦だろうが、こちらに時間を与えればその分、この町の要塞化を進められる。
まともに戦っても決定打を打てないならば、時間をかけてジャクラを削る。長期戦に持ち込む。
そう考えた直後、町中で悲鳴が上がる。
「ダエワだ! ダエワどもが攻めてきたぞ!!」
街中で殺戮が始まる。人を殺し、喰らい、犯す!
血に飢えた獣どもが町を蹂躙し始まった!
人々の悲鳴が響き渡った!
「マシロ~ このまま放置すれば町は大変なことになるぞぉ〜い!」
ジャクラはこちらを挑発してくる。
「弱いやつは嫌いだが…時々、好きだ。お前みたいなつぇえやつの気が引ける道具になる。弱いやついじめておびき出す作戦だ。」
「ほぅら!」
「た、助けて!」
人を片手で掴み上げてこれみよがしに振り回し、そして頭をバグりと喰らう。
ゴリゴリと嫌音をわざと鳴らす。
『マジ、かよ…』
冬真は頭が真っ白になる。
人が、人を食べている。
ダエワという種族から発せられるそれは、
決して人類との共生が不可能だと物語っていた。
『冬!』
「無理だ。囲まれれば、負ける。奴らは味方を巻き込んだ攻撃だって、平気でしてくる」
『で、でも! 人が!』
「黙ってろ」
ビクリと冬真は震えた。
冬の声も表情も色が抜け落ちた様に、異様な雰囲気を感じた。
「う~ん、出てこないか... まぁいいやな、出てこないってんなら次の手に移ろう!」
地面が盛り上がって突起物が突き出す。
じりじりと蓄電を始めた。
ジャクラの【地縛雷】が来る!
「飛ぶぞ!」
喋るよりも先に宙に舞う。
バリバリバリッ!
地面を駆け巡る雷撃地雷。
無頼二式の効果により、力場を爪のように変化し、空に突き刺すことで地面へ落ちることを防ぐ。
『ヒマワリ達は?』
「大丈夫だ」
ヒマワリ達のほうには攻撃は届いていない。
「マシロ〜!お前は強い」
「だ、か、らぁ〜!」
「コソコソ隠れんなよ、しらけんだろ…」
雷撃地雷が地面を走りながら周りの人々を巻き込み、建物を吹き飛ばし始める。
「これで、見晴らしが… おぅや?」
ジャクラの周りに人集りができ始める。
「お? おたくらも交じるかい? いや… こいつは…」
その人々には生気がなかった。
人々がジャグラに凄まじい速度で襲いかかる。
軽くいなしてやろうとすると、
カチリ。
「あん?」
ドカン!
人が爆風で吹き飛ぶ。
「おうおう、マァ〜ジィ゙かい… こういう戦法も取れる相手ってわけねぇ!やるじゃな〜い✩」
マシロのやつ、死体を操ってやがる!
死体を爆弾に変えてる。
動く爆弾。
表情が緩む。
「いいね、イイね、楽しく、なってきたああああ!」
派手な爆撃がジャグラを襲う!
『ふ、冬… これって』
「あれは、もう死体だ」
『で、でも!』
「生きてるやつらを、これ以上、死なせたいか?」
『!!!』
「派手な音を鳴らせば、そこに人は近づかない。敵も、あそこまで爆発がすれば近づかない。必然、被害者は減る」
『言ってることは、わからなくも、ないけど』
飲み込むことは、難しかった。
「全部は選べねぇよ。せめて、生きてる奴を生かす」
その時、
「ちっ!鼻の効くやつだ。もう、こちらを見つけやがった!」
「呼ばれてないけど、飛び出すワガハイ、パート2!」
ジャクラが飛んでくる。
あの爆撃は決して安くはない。
顔の半分が吹き飛び、他の部位も炭化し、骨は覗いていた。
もうジャクラはボロボロだった。
なのにそれを感じさせない勢いでこちらに高速で迫る。
避けきれない!
馬小屋に突っ込んきて、馬小屋ごと吹き飛ばした。
『冬!平気?』
「死んてはいないから、多分平気だ」
『そ、そう…』
冬真はドン引きした。
そういう問題か?
今のフォースフィールドでは防ぎきれないと悟り、
存在維持を使って防御した。
存在を維持している間は、存在エネルギーが尽きない限り、発動前の状態を維持する。
見た目上はダメージは見られない。
服さえ破けてはいない。
できる限りダメージは殺したが、それでも存在エネルギーは結構もっていかれた。
予定とはかなり異なるが、ジャクラはここで殺す。
じゃりじゃりと破片を踏みながらジャクラがやってくる。
「よ~ マシロ。あれくらっても無事なのか。マジ強くなったな~。感心感心、うれちぃ〜!」
俺は両手をフォースエッジで覆う。
ジャクラはいぶかしげにこちらをみやる。
あごひげを撫でながら何やら思案する。
「それにしてもよぉ〜」
一度下を向いて、思考するように額端をかく。
そして、
「お前、だれだ?」
俺は答えなかった。
誰かなど互いを確認しあう必要はない。
殺しあう相手の素性などどうでもいい。
必要なのは、
どうやれば殺せるか、
それだけわかればいい。
昔からそう。
掃きだめを生き抜いたあの頃も、遺物回収で遺跡に入り、幾多の死地を乗り越えて、教団や純潔派、そして白銀都市との戦争の時も、
殺す相手のことなんてどうでもいい。
俺が生き残ることが重要だ。
殺す奴のことをどうしても知りたければ、殺した後に調べればいい。
「んほっ♪ いいね~、お前が誰でもいい。俺を楽しませてくれるなら、誰でもな!」
ジャクラは構えをとる。
来いよ、そう言わんばかりに手招きをする。
俺は刀も持っていないのに、手刀で抜刀の構えをとる。
ジャクラは距離があるにも関わらず、それをカウンターではないと判断し、その場を飛びのいた。
先ほどジャクラのいた位置に斬影が走る。
そのまま背後の壁を切り裂いた。
相手が飛びのいた瞬間には、すでに納刀済で次の構えが完了している。
ジャクラは距離を開けるのはまずいと判断し、こちらに飛び込んでくる。そこにすかさず次の一撃を入れるが、今度はかわさずに半身で片手に全防御を振り固める。
瞬足の斬撃がシールドを突き破って肉に到達する瞬間にひねりを加えて、斬線をいなす。
相手は片手を犠牲にし、こちらの攻撃を完全には防げずとも致命傷を避けながら、攻撃用の片手は残していた。
「おわ~り~だぁ~!!」
雷砲に変形した片手を突き出し、俺にとどめの一撃を加えようとしてくる。
ふわりと俺は雷砲の銃口に、抜刀していない右腕を添える。
「空断」
「!!?」
すさまじい音とともに、ジャクラのほうへ向けて雷裂弾が暴発する。
雷土の性質は空気を通らない。
高圧で圧縮した空気の球を、
ビクビクと痺れて跳ねているジャクラに。
俺はフォースエッジで強化した左腕で、ジャクラの首をたたっ切る。加えて、落ちた頭を踏み砕く。
ダエワは頭だけでも半日は持つし、首を胴体とくっつければ割りと簡単に再生する。
なのに、思わず舌打ちする。
首無しの体が立ち上がる。
バチバチと体に帯電がみられる。
肉体に雷土で信号を送ってるのか。
まぁいい。
首を落としても立ち上がるなら、立ち上がる足も粉砕する。
足がなくても立ち上がるなら、立ち上がる意思を粉みじんにしてやるまでだ。
頭がないとは思えないほど鋭い拳が飛んでくる。
それを右手でいなし、左手でこぶしを胴体に叩き込む。
しかし、それでひるむことはなく、左手を絡めとって寝技に持ち込もうとするので、足を胴体に回して放り投げる。
フォースエッジで強化した手刀と、雷土で限界を超えて強化した手刀がぶつかりあう。
激しく互いをはじきあい、激しい音を鳴らしながら打ち合い、いなし、躱す。
幾度かの鍔迫り合いをするが、どんどん相手の雷撃はその性能を落としていく。
俺のフォースエッジはただの力場を生成するものではない。存在の情報へと干渉する。
相手の身体能力だけではない。
スキルや能力にも少しずつ少しずつ影響を与える。
雷撃がこちらの処理能力を麻痺させるように、
こちらはそれをいなしながら、
こちらの割り込み処理で相手の能力を遅延させていく。
そして、そのときは訪れる。
動きが鈍ったところを、俺は見逃さなかった。
腕をからめとり、返し手で相手の胴体に突き入れる。
痺れて動きが鈍った相手の両足を両断する。
それでも立ち上がろうとする両腕も両断する。
最後に二度と駆動できないように何度も心臓を突き刺し、停止するまで続けた。
完全に動きを停止するジャクラ。
頬についた血をぬぐい、その場を後にする。
『...』
冬真はあまりの凄惨な殺し合いに、言葉を告げられずにいた。
これが、この世界の現状。
これからもこれと同じことが起こる。
敵にも、味方にも。
これからのことを想像し、陰鬱な気持ちになった。
冬は敵を殺した。
その方法に落ち度はなかった。
だが、停止したという状況を死んだと判断したのは早計だった。
ダエワは心臓をつぶされても即死はしない。
頭を潰すことが重要。
しかし、頭を潰してもなお動いたということを、もっと警戒するべきだった。
ジャクラの血溜まりが、小さく泡立った。
ジャクラの憑神はまだ――姿を見せていなかった。




