VSジャクラ③
母を抱えて走る少女。
町中で人が襲われている。
助けを呼ぶ人たちに後ろ髪をひかれながらも、
それでも母を守らなければ、その想いが私の足を前に進ませた。
「みんなが、私たちの町が...」
ヒマワリは母を背負ったナツと共に、妹を探していた。
町から早く出なければならないが、妹を置いてはいけない。焦りが出始める。
「どこ? どこなの、ヒメ...」
妹を探して町を駆けずり回っていた。
生きていて、お願い!
「落ち着き給え。そなたがそんなにも精彩さを欠いたら、見つかるものも見つかるまい。
君の妹君は、普段どこを回る? 危険があった場合、どこに避難する? それを考えるのだ。
そなたにしかわからぬことだよ」
ナツさんは、この危険な状況でさえ慌てず、騎士のように冷静に状況を分析していた。
そしてその声には、不思議とこちらを安心させ、頭を冷静にさせてくれる力があった。
だから、
「……あ! そういえば」
私は、妹がいそうな場所に思い当たった。
すぐにでもそこに向かおうとした直後、
声を掛けられる。
「みぃ〜つけた」
そのいやな響きをする声色の方向を振り向く。
「ナッツちゃん、だめじゃないっすかぁ。ほぉうら、おうちにかえるっすよ〜」
「無作法者だな、ダエワ。私が相手をしても良いのだが、何分担当があるのでね。ここは、変わらせてもらおう」
そう言って、ナツの頭が下がり、顔を上げると、
そこには獰猛な獣のような眼があった。
「ダエワは皆殺しだ」
「おいらとやる気っすか? 生意気ぃ〜。今のおたくらは聖寵使えないんすよ〜」
「マジ、なめてんすか?」
聖寵がないアニマなんて、ノルマと大した差はない。
そう判断したペイルは、
間違いなく、選択を誤った。
凄まじい衝撃が顔面を襲い、ペイルは吹き飛ぶ。
家屋を巻き込んで、盛大な音を上げる。
「ぶち殺してやるぜ! ああ! あ?」
ナツは意気揚々と家屋に乗り込むが、そこにはもう誰もいなかった。
「あの野郎、勝てないと思って逃げやがったな!」
「きゃあ!」
小さい悲鳴が背後から聞こえる。
急いで家屋の外に出るが、ヒマワリの姿がない。
「しまった! あの野郎、弱っちいほうを狙いやがった!」
ナツは走る。
間に合ってくれ!
◇
ドカッと投げ捨てられるヒマワリと、その母親。
チリチリと雷の走る銃口をカチカチ鳴らす。
ヒマワリは震える。
母をつよく握りしめ、後ずさりながらも、その瞳には強い意思が宿っていた。
「いやぁ、やっぱこっちでしょ。おいらなら。なつかの方はボスがどうにかする案件っすね」
おいら、強いやつは嫌いなんでね。
それにしても、
「気に入らない眼するっすね~」
イラついたようにこちらを睥睨する。
ヒマワリは近くにあった棒を拾い上げ、構える。
強い衝撃が腹に響き、吹き飛ぶ。
「なめてんすかぁ? そんなもんで勝てると思ってんすか~あぁ?」
「勝てるとか、勝てないとか、関係ないと思います」
「あ?」
「誰だって死にたくない、誰だって生きていたい。だから、あがくんです」
「かぁ~あ!! ムカつくな~! そうそう、そういうとこだよ、おいらが嫌いなの!!」
こういうまっすぐな眼が嫌いだ。
まっすぐな言葉が嫌いだ。
痛め付けたら、卑屈にこちらを見ろよ。
追い詰められたら、恐怖で顔をゆがめて許しを請えよ!!
「おいらは弱い奴が好きなんす。君みたいな強いやつみてると、反吐がでるんすよ!!」
だからアニマは嫌いなんだ。
生理的に受け付けない。
ボスが特殊なんすよね、やっぱ。
通常のダエワは、本能的にアニマを嫌悪する。
決して相いれない。
生物としての根本の部分で、互いの存在を拒絶する。
あぁ~、蕁麻疹デソッ。うえっ。
雷裂弾を構え、ヒマワリに向け撃つ。
ヒマワリは母を突き飛ばして逃がす。
ただし、直撃したヒマワリはただでは済まなかった。
「!!!」
「悲鳴くらいあげろよ、しらけんだろ!」
観客を楽しませるおもてなしの心はないんかい?
イライラが募ったペイルは、雷撃で伸びているヒマワリの胸倉をつかんで殴り飛ばす。
何度も、何度も、何度も、何度も!
「泣けよ! 泣け! 泣け! 泣け! 泣けよ~お!!」
人に嫌がらせするのが生き甲斐だ。
人に嫌がられるのが至上の喜びだ。
ノルマはいい、ノルマは最高だ。
あいつらはいじめると、こちらの望んだリアクションを返してくれる。いたぶれば命乞いをし、人質を取れば、犬のように言うことを聞く。
仲間を裏切ってでも自分の命を守ろうとするし、たとえそれが恋人や家族であろうと切り捨てる。
そのくせ、そんな自分の行為に絶望する。
なんて矛盾に満ちた存在なんだ。
あんなに面白いもの、この世には存在しない。
ボスはつまんなそうにしてるけど、おいらには一生理解できない感覚だ。弱いものイジメが飽きることなんてない。
だが、こいつらアニマは面白くない。
家族に恥じない生き方だとか、家族や恋人のために自分の命を平気で投げ出す。
泣き言も言わなければ、言い訳もしない。
仲間が傷つけられれば、種全体で戦い、犠牲が出ても止まることはない。
人質を取っても助けられるなら助けるが、助けられない場合は人質そのものが自分の命を絶つので、人質行為そのものに意味がない。
ノウハウが通じない。
ノルマという異物がいなければ、ダエワが勝利するなどありえなかったろうとペイルは考える。
そしてそれは、ほかのダエワも共通の認識だろう。
だめだ。
こいつらは、いじめてても気持ちよくなれない。
さっさと殺そう。
おもちゃはほかにたくさんいるんだ。ただ、その前に、
「まずは、そこの木偶(母親)のほうからぶっ壊すか」
ヒマワリは表情を変える。
ペイルは弱いものいじめがすきだ。
だから、相手の弱点を見つけるのも得意なのだ。
ペイルの表情が嗜虐に歪む。
ヒマワリが突っ込んでくるが、軽々と蹴り飛ばす。
「そこで見てろっす。自分の無力さを呪いながら〜。弱い奴は、ただ強い奴に蹂躙されるためだけに生きてればいいんすよ」
「お、かあ、さん」
ヒマワリが悲痛な表情でペイルの足に抱き着いて止めようとするが、
「さあ! 御開帳~!!!」
はらわた、ぶちまけろ!!
「てめぇがな!」
衝撃が襲う。
「な! だ!」
誰だ!
そうつぶやく前に、拳が顔面に叩き込まれていた。
意識が追いつく前に馬乗りにされて、顔面を殴られる。
殴られる、殴られる、殴られる。
一撃一撃が重く、痛い。
痛くするのは好きだけど、痛くされるのは大嫌いだ。
「なっ、やめっ」
泣こうがわめこうが、絶対に止まらない。
嫌な音が鳴り響き続け、
「う、あ」
最後の最後、意識の途切れる寸前に、確かに聞こえた。
「てめぇらはただじゃ殺さねぇ。苦しめて、絶望の中で殺してやる」
ぐちゃり!!!
赤い瞳の鬼が拳を振り下ろす。
ヒマワリは薄れゆく意識の中で、その人物を見る。
「あ、あなたは...」
白い肌に白い髪。見覚えのある容貌に手を伸ばして、そこで意識が途切れた。




