第八話 欠けたモノ
「……よっ」
バイクから降り、目的地へ歩く。丁度、目的地が鮮やかに映ったあたりだろう。奴がいた。
丘を駆け上り、見下ろす。
と、
「──ガ?」
どうやら、相手も気付いたようだ。
風が吹く。右手に握りしめた大剣は空気を裂き、凛として主人の命を待つ。
対する暗闇の火は悪魔の翼をはためかせ、その焔をより強く燃やしていた。
奴にヒトとしての理性は無い。あるのはただ、殺戮の本能のみ。喰らい、殺す。それ以外、彼らには必要なかった。
「オオ? キキ!」
「──来い」
戦闘が始まる。
先手を取ったのは、暗闇の火。宙に浮かび、自身を覆う焔、その一部を飛ばす。斬利の抜刀。一つを薙ぎ払い、両足に力を込めた。
二撃目が迫る。落ち着いて斬利が迎撃しようと剣を振り下ろした瞬間、
「──ゲゲ!!」
(爆弾か)
暗闇の火が両手を合わせ、二発目の焔が爆発した。斬利はガードしない。と言うより、間に合わなかった。
「──ケケ!」
ゴォドォン! と爆発が響く中、宙で暗闇の火は嗤っていた。呆気なかったな、と。
だが、その油断は一瞬で消え去った。
「──はぁ!」
煙の中から一閃、斬利が斬りかかる。
閃光の一撃を、奇跡的な反射神経で躱す。だが、僅かに左肩を斬られてしまった。
「──チッ」
舌打ちをして、着地する。ブン! と剣を払い、持ち直す。
「流石に無理か」
暗闇の火は肩を抑え、高度を上昇させる。血は焔によって燃え尽き、傷口は燃え、自動的に接合されていた。痛みを堪えつつ、次なる一手を放つ。
「──グラエ・ラマ!」
「おっ?」
術者を中心として焔の塊が円状に展開・回転する。回転が次第に早くなるにつれ、焔の数が増えた。増えた焔は角度を変え、段々と半径が小さくなる。
いつしか焔が完全に暗闇の火を囲んだ。そして、
「ッ!?」
そのまま、突っ込む。
「ッぶねぇ!」
間一髪で上空へと飛んだ斬利。焔の突進は、大きな扇を描いて上昇を狙う。見れば、焔の通った痕が焼け野原と化していたでは無いか。
当たれば死ぬ。その直感は、彼を迎撃くら回避へとシフトチェンジさせた。
「巨大化しろ!」
斬利の叫びと共に、月の導きが文字通りの巨大化を始めた。その大きさは3メートル。斬利が制御しきれる限界範囲だ。安全圏から斬る考えだ。
暗闇の火は知ったとこかと突っ込む。
「── 三日月の太刀!」
斬撃と焔がぶつかった。圧縮され放出された空気剣は、焔の団子を破壊して突き進む。対する団子も空気剣の刀身を熱量で歪め、破壊する。
力は拮抗。崩壊はどちらが先か。
「舐めんな! こちとら煉獄の絆の異能があんだよ!」
と、飛び上がった斬利が言った。
「キ!?」
声に驚愕、そして──
焔の円が砕けた。
「も一辺食らえ! ──三日月の太刀!」
崩壊した焔団子へ、必殺の一撃が舞う。「ガァぁぁぁぁ!!」一刀両断。上下に切断された暗闇の火。
手を伸ばす。だが、その手は虚空を掴み、地に落ちた。
「ふぅ、やったか?」
勝利を確信し、地面に着地した。