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第四話 陰陽の極【ハ・マ】 ②

(どうする?)

 眼前の男は動かない。最低限の間合いを取り、仁王立ちしている。

 まるで、こちらの動きを待っているかのようだった。

(逃げるか? ……馬鹿言うな。すぐ追いつかれる。それに……)

 関係のない人を見殺しにして、何食わぬ顔なんてできない。

 もうすでに、新幹線内の客は殺されつくした。弔いだ。

 たとえそれが破滅だとしても。やられっぱなしだけは御免だ。

「どうした。早く来ぬか」

 敵は陰陽の極(ハ・マ)最初(ハナ)から勝てるとは思っていない。

 一瞬でいい。隙を作る! そのために、時間を稼ぐ。

「今更だけど、一つ聞いておきたい」

「なんだ」

「何で俺を狙った。それに、どうして俺の場所を知っている?」

 純粋な疑問。暗闇の火(ハーラク・サモーティ)の一件は、誰にも話していない。

 そも、承諾してまだ2時間も経っていない。いくら何でも速すぎる。

 情報が洩れるにしても、借金取りぐらいだろう。だが、話すか?

 メリットがないだろう。それに、借金取りと彼が関係を持っているわけがない。

 やつは人から情報を貰うタイプじゃない。

 彼は少し悩み、口を開いた。

「……時間稼ぎ、か。良いだろう、答えようか」

(ばれてんのかよ)

 全てを見通されている。キモイ。

「といっても、八咫烏に監視させていただけだ。四六時中オマエに張り付き、逐一マスターである我に知らせる。キサマの移動速度より、カラスの移動速度のほうが何倍も速い」

 背筋が凍る。本物のストーカーを目の当たりにして、先ほどまでとはまた違う恐怖が斬利を襲った。

「ちなみに聞くけど、何時から?」

「前回の戦い時」

 前回……3年前だ。あの時から、一歩も進歩できていない。3年間も、八咫烏の存在に気づけなかったのか……。

 「何で俺ゴトキに貴重な一羽使ってんだよ。他に監視の優先度高いやついるだろ!」

 「? 分かっていないのか?」

 キョトンとした顔をする彼に、一層不気味がる。剣を握った手が、いつの間にか震えていた。

「オマエが───────だからだ」

「──は?」

 一閃。震えた剣ごと、斬利は吹き飛ばされた。八咫烏の閃光突撃を応用した必殺の一撃だ。

「これでは、湖の帝王(サラマンダー)は無論、殺戮姫(キラー・ドレス)にも勝てぬ」

「……く、そ!」

 正論が物理的にも腹を抉る。剣を杖代わりにして、何とか立つ。倒れていないだけで、限界だった。

「オマエには期待していた。強さへの渇望。紅蓮の復讐心。かつてのオマエには、湖の帝王(サラマンダー)を殺し切るだけの執念があった。だが、今はどうだ?」

「ッ……ガハッ!」

 血を吐いた。腹部が抉れている。外から軽く触っただけでもわかった。内臓はグチャグチャだ。潰れているか、消し飛ばされているかの二択。肺が逝っている。呼吸ができない……

「怨讐の牙は折れているではないか! あの時の気迫は! あの時の怒りは! 何処へ消えた!?」

 殴る。斬利は抵抗できず、ただ、受け止めるしかなかった。殴る。右目が潰れた。殴る。剣を持ってた左腕が砕けた。殴る。両足が、あり得ない方向に折れた。

「あ、が、あ───────────」

 悲鳴を上げることすらできない。飛びそうで、耐えきっている意識。生き地獄は過ぎ去らない。たった数秒でも、数年の様に長く感じた。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 一撃一撃が重い。死にたい。こんな生き地獄、早く死んでしまった方がマシだ。──ふざけんな。


「『──の羅刹』オマエの復讐は、ここで終わった」

 ──誰かが、俺を呼ぶ。

 ──古い記憶と、絶望の今が、俺を呼び起こす。

 ──ここで、死ぬ?

 ──巫山戯んな。

 ──父を殺したのは、誰だ?

 ── 湖の帝王(サラマンダー)を殺すのは、誰だ?

 ──まだ、終わりにしたくない。


「──ッ!」

 何かを感じ取ったのか、咄嗟に距離を離す陰陽の極(ハ・マ)。ああ、賢い選択だ。不意打ちを決めようにも、あの直感では避けられる。

「ハ──!」

「ク──!」

 両者、共に笑った。血みどろのゾンビは剣を握る。そして──

必殺解放フルオープン・バースト!」

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