表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

現代ファンタジー(ローファンタジー)

デビルとぬいぐるみ

作者: 夢月みつき

 登場人物紹介


 ・城山しろやま いちご

 小学一年生の女の子、祖父母とうさぎのぬいぐるみが好き。


 ・ぬいぐるみ?

 ★☆∴─────────────────────────∴★☆


 この話は一人の少女と悪魔の物語。

 ここは東京都内のとある「スカイパレス」と言う名のマンションの一室。


 ここには六歳の女の子、城山いちごが祖父母と一緒に住んでいた。

 彼女は身体が弱く両親が共働きの為、父方の祖父母の家で療養している。

 いちごはツインテールの可愛い子で祖父と祖母が大好きだ。


 彼女は、祖父に買って貰った可愛いうさぎのぬいぐるみを大切にしていて、起きている時も寝る時もいつも一緒だった。


 しかし、一年生になってから、いちごはクラスメイトの男子にいじめられて帰ってくるようになった。


「今日もいじめられちゃった……。だけど、お爺ちゃんとお婆ちゃんには言えないよ」


 いちごをいじめている男子三人の、自分に向ける酷い言葉や、あの何とも言えない悪魔のような表情、肌で感じる息の詰まるような空気感。

 忘れようと思っても、忘れられない。この記憶と体感は毎日、いじめを受ける度にいちごの身体と心に蓄積されて行くのだ。


 自分がいじめられている時のことを思い出すと、小さな身体が小刻みに震えて来る。

 涙か自然に溢れて来て、胸が押し潰されるように苦しくなる。


 いちごは、ふさぎ込んで涙を浮かべながら、うさぎのぬいぐるみを抱くとベッドにゴロリと横になった。




 ★☆




 まどろみの中、いちごは不思議な夢を見た。


『いちご、いちご……』


 うさぎのぬいぐるみの耳と腕がぴくりびくりと動く。


『いちご、起きろ』


 ぬいぐるみの目がパチパチと瞬きをする。


『いちご……お前このままで』


 うさぎのぬいぐるみの足がパタパタとキックする。


『……本当に良いのか?』


「なぁに? 誰が呼んでるの。 もう疲れたよ。眠らせて」


『お・き・ろ! ノロマ!』


 耳元で大きな声で呼ばれて、いちごはびっくりして飛び起きた。


「なにっ!? うるさいっっ」


 いちごが声のした方を見ると、うさぎのぬいぐるみがもぞもぞ動いていた。


「きゃっ! ぬいぐるみが動いてる。でも、そっか、私まだ、夢の中なのね」

 と彼女は再び、横になろうとした。


 その時、ぬいぐるみがベチンといちごの頬をぶった。

 もちろん、綿百パーセントのぬいぐるみの手なので、もふもふで全然、痛くなかったが。


『寝るな~~! こっちを見ろ!』


「えっ、夢じゃないの? 私のうさぎが動いてしゃべってる!? しかも可愛げがない」


 怖い。これはどういうこと? いちごは頬をつねると、ジンと痛みが走った。


「痛い、夢じゃない」


『よしよし、やっと気づいたな。ねぼすけめ』


 うさぎのぬいぐるみは満足そうに腕組みをすると、いちごに向かって話しかけて来た。


「まずは、おれはお前のぬいぐるみその物ではない。おれは悪魔デメシス! お前の願いを叶える為にぬいぐるみの身体を借りている」


「ええっ、本当に悪魔なのっ! 悪魔って悪い人じゃない」


 いちごは「ヒエ~」と両手を頬に当てて目を丸くしている。

 悪魔はその様子を見て不敵ににやりと笑った。


「そうさ、おれがお前の為にいじめている奴に復讐してやる。そうすれば、お前もいじめられなくなるし、万々(ばんばん)ざいだろ?」


「でも、あんたは悪魔なんでしょ。復讐なんてしなくていいよ。どうなるか分からなくて怖いし、いじめられたら辛いのは私が一番、良く知ってる」


 デメシスはきょとんとすると、間を置いた後にいちごの思いやりに感心しながら一声唸(ひとこえうな)った。


「ふぅん、お前さ……本当に優しいんだな。いつも、ぬいぐるみの中から見てたんだぜ」


「――分かった。お前の嫌がることはしないよ、報酬の魂も取らない。魂を取らないでいてやるなんて、こんな出血大サービス、滅多にないんだからな!」


 悪魔デメシスは口を尖らせて、頬を染めながらいちごの頬をぺちっと叩いた。


『でも、お前はいじめられっぱなしで良いのかよ。本当に爺さん、婆さんにも言わないつもりか?』


「うん、私もいじめられるのは本当に辛いよ。でも、同じ目に遭わせるのはもっと、辛いんだ。悪魔さんごめんね?」


 いちごは痛々しく健気な表情でデメシスに微笑みかけた。


『そうか』



 ★☆



 いちごが眠りについたその夜―――


『悪いな、いちご。おれはお前が壊れて行くのを見たくないんだ』


 デメシスはぬいぐるみの中から、顔の部分だけを出して彼女の頬に口づけをした。


 深夜の丑三つ時に各家から、いちごをいじめている男子達の悲鳴が響き渡った。



 ★☆



 ここはいちごの通っている県立の北空丘小学校の校舎。

 登校時間に、いちごが一年二組の教室に入ると、いつも、いちごをいじめているクラスメイトの三人の男子達がズラッと並んで、いちごの方を一斉に凝視(ぎょうし)した。


「なっ、なに……? また」


 いじめられると彼女の額から、冷や汗が滲み出る。

 身体が硬直して、ビクッと肩を上下させ後ずさりする、しかし、いちごに男子達は足早に近づいて来ていきなり、深々《ふかぶか》と頭を下げて謝って来た。


「ごめんなさい。 城山さん! もう二度といじめはしないよ」


「どういうことですか……?」


 いちごが、何のことか意味が分からずにしどろもどろしながら、理由を聞いた。

 すると、深夜に世にも恐ろしい夢を三人同時に見たのだと言う。

 恐ろしい悪魔が、自分達をどこまで逃げても追いかけて来て、自分達の尻を叩きながらこう言い放ったのだと三人の男子達が口々に言って来た。


『城山いちごをこれからも、いじめ続ければ、おれが毎日でも現れて終いには、魂を喰ってしまうぞ』と。


 しかし、こうも言われたと言った。


『いちごはお前達のせいで、本当に悩み苦しんでいる。しかし、おれにお前達が復讐されるのをあいつは、望まなかった』


 そして、『お前達が城山いちごをこのまま、苦しめ続ければ。いちごは徐々に心を病んで行き、取り返しの付かないことになる。それを、おれは未来予知の能力で視た。お前達に人の心が少しでもあるのなら、今のうちにやめてやってくれ』とも。


 ―――悪魔さん!


 いちごの大きな瞳から大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。


 マンションに帰った、いちごは真っ先に部屋に向かってベッドの上のうさぎのぬいぐるみを抱きしめて、口づけをした。


『なっ、なんだよ。いちご! いきなり』


 デメシスは顔を真っ赤にしていちごを見つめて、ぺちっと頬を軽く叩いた。


「いじめっ子から聞いたの、悪魔さんが夢に現れたって」


『お~、しっかり復讐してやったからな! おれは悪魔だからお前の嫌がることも進んでやるんだぜ』


「復讐だなんて、悪魔さんはそんなことしてないよ。ありがとう。私の気持ちを大切にしてくれたのね」


 いちごは涙を流しながら、もう一度、デメシスの頬に口づけをしてきた。


『おれには、いちごの未来が見えていた。このままでは一生、苦しみ続けてやがて、心が壊れ……』


 悪魔デメシスは、それ以上は言わずに柔らかに微笑みながら、いちごの頬に口づけをした。


「デメシス、私ね。今回のことでやっと気づいたの。私は一人じゃない、味方がいるんだって」


「私、お爺ちゃんやお婆ちゃんのことは好きだけど、嫌われたくない。心配掛けたくないってそればかり考えてた……今度からは何でも話すよ。もちろん、あんたにもね」


 うんうんといちごの頬を撫でながら、うなずくデメシスと笑顔で笑ういちご。


『これからも、出血大サービスでおれが守ってやるから、感謝しろよ!』


「うんっ、だいすきだよ。デメシス」


 玄関の方から、両親と祖父母のいちごを呼ぶ穏やかな声が聴こえて来た。


 -おわり-


 ★☆∴─────────────────────────∴★☆

最後までお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いじめられているいちごの苦しみが胸に迫ってきて序盤から引き込まれました。そんな中、突如現れた悪魔デメシスがぬいぐるみの姿でいちごを励ます様子が可愛らしくて読んでいて思わず笑ってしまいました。デメシスの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ