#01 おかえり
ーー15歳。
それは僕にとって、誰よりも孤独で、終わりを何度も望んだ年だった。
中学の廊下。冷たい視線が、僕を貫いた。
「気持ち悪い」
ーーそんな言葉が僕の頭の中で、何度も何度も繰り返される。胸の奥がぎゅっと締め付けられ、息が苦しくなる。
もう生きていたくなんてなかった。
消えたかった。
"普通"に生きたいのに。
"普通"でありたいのに。
僕は、生物学上で言う、『男』だ。
でも、心は可愛いものだって好きだし、何より可愛いものを望んだ。幼い頃は、それが"普通"だって思っていた。でも違った。
そんな僕を、世間は許さなかった。
僕が可愛いものを着れば「変なの」と言われ、
僕が好きなように接すると「気持ち悪い」と言われる。もう散々だ。
教室の窓から差し込む、本来暖かいはずの陽射し。
そんな陽射しさえ、まるで嘲笑うかのように眩しく、冷たかった。
でも、そんな僕を君が救ってくれた。
君だけが、僕を救ってくれたんだ。
だから。
ーー今度は僕が君を、救いたいんだ。
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車の音。人の音。電子看板の音。
ー本当に、都会はいろいろな音がする。
夕暮れの空は赤く染まり、川面にその色を滲ませていた。
ゆるやかな風が、僕の頬を通り抜ける。
温かくなんてないけど、それでも冷たくない。
そんな曖昧な空気の中で、僕はひとり河川敷の土手に腰を下ろしていた。
何かをするわけでもなく、ただ、沈む夕日を眺めていた。
「……はぁ、」
ため息が、自然と漏れる。
そんな僕は、もう何年もずっと内定が決まらないでいた。
二十歳。
周りがどんどん内定が決まっていく中、僕は就職先が決まらないでいた。
ヤバい。そろそろ、本気でヤバい。
先月も、面接を受けた。
「志望動機は?」「なぜそんなに若い年齢から一人暮らしされているのでしょうか?」
繰り返される淡々とした質問に同じ答えを返しているうちに、自分がどんな人間だったかも見失いそうになる。
僕の人生が変わったのは、きっと十五歳の時。
僕の家は、母子家庭だった。
母と、僕と、そして妹の希愛。
家事はいつも僕たちに任せっきりで、母親はいつも夜どこかに出かけていた。
そして、お互いに積み重なってきたものが相まって母親と口論になり、勢いのまま家を飛び出した。
あのとき、妹の希愛を置いてきてしまったことは、今でも心の中で燻っている。
希愛は、僕のたった一つの心の拠り所といえる存在だった。
でもそんな希愛に僕は、母と口論したときの怒りに任せ、『希愛なんか生まれてこなければよかったんだ』と言ってしまった。ーー本当に、最低だ。
きっともう、希愛に会いにいく資格なんてない。
家を飛び出した後は、ただひたすらバイトをした。
頼るあてもなく、アルバイトを掛け持ちしながら家賃と食費だけを稼ぐ毎日。
週に一度の休日は泥のように眠るだけ。
もちろん、焦りはある。
毎日ある。
それでも、どこへ向かえばいいのかすら分からない。
気づけば同年代の友人たちは、みんなそれぞれ自分のなりたいものに向かって進んでいる。
僕にはそんな夢もないし、金も、人望もない。
僕は、そこにいない。
誰かの"当たり前"の中に、自分はいなかった。
「…なにやってんだよ、僕」
無意識に、言葉を発する。
そんな時、ふと頭をよぎったのは希愛のことだった。
いま、彼女はどうしているのだろう。
僕がいなくなったあの家でひとり、何を思っていたのだろう。
希愛はきっと、僕を恨んでいる。
それは、当然と言っていいことだった。
あの時最低なことを言って勝手に居なくなった僕のことなんて、もう兄妹とすら思っていないかもしれない。
「…希愛、元気かな」
駄目だ。そう思っちゃいけない。
僕はもう、他人なのに。
何一つ希愛に償ってあげていないのに、こうして人恋しくなるなんて。
そうしてまた、僕はゆっくり立ち上がった。
辺りはもう、すっかり夜の気配に包まれていた。
僕は呆然と歩きながら、帰路へと着いた。
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【あとがき】
初めまして!作者の夏生です。
前々からずっと考えていた物語を、ついに文として書き出し、投稿することが出来ました。
続きが気になったら是非お気に入り追加お願いします!m(_ _)mめちゃくちゃ嬉しいです。
学生の好きなように考えている小説ですので、もしかしたら至らない点があるかも知れませんが、暖かい目で見てやってください( ̄▽ ̄;)
初めまして!作者の夏生なつきです。
前々からずっと考えていた物語を、ついに文として書き出し、投稿することが出来ました。
続きが気になったら是非お気に入り追加お願いします!m(_ _)mめちゃくちゃ嬉しいです。
学生の好きなように考えている小説ですので、もしかしたら至らない点があるかも知れませんが、暖かい目で見てやってください( ̄▽ ̄;)