龍神様と推し神様
神の国、元旦。
大神様のおやしきに神様たちが集まってきました。
広い部屋には、お正月のごちそうが並んでいます。
それを食べて宴を楽しむ前に、神様たちは大神様に新年のご挨拶をしていきます。
大神様の隣には今年の干支、辰の神様。
龍神様が座っています。
とぐろを巻いて鎌首をもたげて、力強い目と声で神様たちに挨拶しています。
神様たちは挨拶するだけでなく、ありがたそうに拝んでもいます。
龍神様を拝むと、天に昇るかのごとく運があがるからです。人気者になれる、仕事がうまくいく、お金持ちになれる、飲み水に困らなくなる、お風呂好きになるなど、ご利益がたくさんあります。
「龍神様、今年は私も人気な神様になれるように、ご利益をおさずけください」
「どうぞ、私の鱗を撫でたり、角にさわったりしてください」
龍神様は金色の鱗をキラキラ光らせて、頭を近づけてあげます。
神様といえど、天を行き高い崖に住む龍神様にはなかなか近寄る機会がありません。
「ありがたや、ありがたや」
この時ばかりはと思う存分、ご利益をいただいていきます。
一番最後に挨拶に来たのは、推し神様です。
推し神様とは、その名の通り、あらゆるものを世の中に推しすすめる神様です。
自信に満ちた立ち居振る舞いをしていて、一目で誰でも魅了する姿をしています。
この神様を拝むと、自分の推しているものが人気になったり流行したりします。自分が人気者になったり流行するものを生み出すこともできます。
大変ありがたい神様ですが、人気運を司る他の神様に隠れて人の世ではあまり知られていない神様です。
「龍神様、あけましておめでとうございます」
推し神様は、にこやかに頭をさげました。
「推し神様、あけましておめでとうございます」
龍神様も、にこやかに頭をさげました。
この二神は、とても仲良しなのです。
「龍神様、今年は主役で忙しいでしょうが、よろしくお願いいたします」
「もちろんです。主役だからこそ、今年もぜひよろしくお願いいたします」
二神の話しのゆくえに、神様たちも注目しています。
なにせ、龍神様と推し神様が合体すると。
最強のご利益を与えてくれる神様になるからです。
それは龍神様が推し神様に巻きつくことでなされます。そうなった推し神様に神推しされると、神の世でも人の世でも未来永劫まで残るほどの人気者になったり流行になることができるのです。
これを読んだ皆さんだけでなく、神様たちもぜひ自分がご利益にあずかりたいと息をのんで二神を見守っています。
「推し神や。龍神を巻きつけて、今年は誰を何を神推しするのだ?」
大神様でさえ、きょうみしんしんでたずねました。
「今年はもちろん、今年の主役である龍神様を神推ししたいと思っております」
おおっ!? と神様たちから、どよめきが起きました。
龍神様もおどろきました。
「まさか、私を神推ししていただけるとは。推し神様、ありがとうございます」
龍神様は嬉しそうに、おじぎしました。
「龍神様ならば、私が推さずとも早くも人気者ですが。さらに飛翔して未来永劫まで人気者でありつづけていただきたく思います」
推し神様も心を込めて、おじぎしました。
「では、合体の儀は宴の後で」
約束すると、二神はひとまずはなれました。
お正月の宴がはじまりました。ごちそうを食べたり、お酒をのんだり、みんな楽しんでおりますが一番の楽しみはやはり宴の最後です。
「そろそろ、どうかね?」
大神様が声をかけられて、龍神様のそばに推し神様がまいりました。
「龍神様、お願いいたします」
「では、失礼して――」
推し神様が願うと、龍神様が動きだしました。
ゆっくりと推し神様の体に巻きついていきます。
見ていると、えも言われぬ力強さを感じさせます。
神様たちが思わず拝みながら見守るなか、合体した二神から光がはなたれました。
あまりにも神々しい姿に、神様たちでさえ眩しそうにしています。
「さぁ、龍神様のために祈るとしましょう」
推し神様は手を合わせると、龍神様のために神推しの祝詞を唱えはじめました。
こうして始まった辰年は、龍神様にとって忘れられない年になりました。
神の国で、龍神様そっくりの岩が発見されたのです。
その岩はすぐに人気となり、龍神岩と名付けられて、神様たちがご利益を求めて拝みにくる名所となりました、
未来永劫まで、残り続けることでしょう。
龍神様は喜んで空を駆けめぐり――
人の世でも、空に龍神の姿があらわれて話題になったとか。
皆さんにも、龍神様と推し神様のご利益がありますように。