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 鍋に放り込んで煮込む。骨を砕くためだ。肉はごみ袋に入れられるように細切れにする。腕や足はまだ容易だ。胴や頭など大きくて分けづらいパーツを小さくしていくのは困難だ。内臓は全部出して、なるべく水分をとる。滑って細かくし辛い。内臓など、柔らかい部分は包丁よりはさみの方が切りやすいかもしれない。

 とにかく細かくしてしまえばいい。存在を消してしまうのだ。



「極悪人じゃないの」

 目が覚めて開口一番に出た感想である。口調は夢の内容に引きずられた。頭が痛い。悪夢そのものである。

 恐らく、夢の内容は前世の記憶。自分自身がどうやって死んだかは記憶にない。だが、あれは他人を殺した記憶。殺した後の隠ぺい工作である。

 ため息が出る。次から次へと思い出すのは、かつて抱いた憎しみ。

 愛した男と結婚し、幸せに暮らしていた。だが、その幸せは長くは続かず。夫は浮気をした。愛人は夫の後輩。こちらが気づいてないと思ってか、度々臭わせ行動をしてきては意味深に笑顔を見せられる。

 我慢は限界を超え、愛人を呼び出して殺害。解体に至った。


 その後どうなったかの記憶はない。割とすぐに死んだんではないだろうか。夫に殺されたか、自殺したか。記憶にないので、正解はわからない。



 なぜ、こんな夢を見るに至ったか。



 婚約者には最近、過度に親しくしている女がいる。彼女は、学園の後輩で、下位貴族の娘だ。庶子だったそうで、所作にまだおぼつかないところがある。異性への接し方も庶民のそれと同じく気安いものだ。

 こちらが注意をしても、大して響かない。


 それくらいは想定内。悩みの種となる女がもう一人。件の婚約者と親しい女を目障りに思ってか、こちらが注意を促している横から口を出してくる。こちらが見ていないところでも、過剰に注意をしている。そして、人の名前をわざわざ出す。そのことを問い詰めれば、良かれと思ってとのたまう。

 この女の狙いは何なのか。こちらの足を掬いたいのか。婚約者からは彼女をいじめるなと叱責されるのは自分で。

 勝手なことをするなと釘を差しても、止まる気配がない。


「あなたね。やり方があまりにお粗末でしてよ」

 そう言った時の、あの表情。いつも通りの良かれと思ってと言い訳をしながら、こちらを甘く見ているような見下しを感じたのだ。



 別に、あの女を無理に諫めなくてもよいのだ。ただ、言うだけ言ったというポーズが欲しかっただけだ。

 いくらでも始末はつけられるのだ。その始末は何も表に出せることに限る必要はない。こちらは準備を進めていたのだ。

 父親の為人を調べ、彼女の行動が単独のものなのか家ぐるみなのかを確定させる。家ぐるみならば、没落させ、彼女の単独の問題行動ならば、不慮の事故にでも遭ってもらって表社会から消えてもらう。

 それくらいのことは幾らでもできる。なのに、過剰なスタンドプレー。


 多少、腹を探られても、だから何だと泰然としていられる。勝手に悲劇のヒロインぶられてこちらを悪に仕立てようとする浅はかな下位貴族の娘など、どうとでもできる。

 だが、こちらの味方のふりをしながら、人の足を引っ張ってこようとするあの女。あの女への対処を誤れば、己の地位が危うくなる。

 あの女の狙い自体はそこまで深いものはないだろうと推測する。自分より身分の高い女への妬心。その妬心の中身には、婚約者への懸想があるのではないか。あの見下しの表情、前世で殺した愛人と似たものを感じたのだ。

 あの女は私を貶めて、自分が成り代わろうとしているのではないか。




 面倒くさい。思った瞬間、なんでこんなことに労力を割かねばならないのかと気づいてしまった。我に返ったのだ。

 いや、浮気してんのはあいつなのに、なんで私がこんなに後始末をしてやらねばならないのか。


 ふと、海が見たくなったのだ。そうだ。海辺に行って海産物でも食べよう。



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