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町の崩壊と旅立ち  作者: 陰気なネコ
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これは町に向かっていること確定だな。」


「うわぁー。あのオーガが運んでいるの食糧っぽいね。ゴブリンたちが人間の真似事なんて信じられない。」


「私は偵察中に大きい声を出すあなた方が信じられないわ。」


「何?ケンカ売ってんの。」


「いつも先に売るのはあなたじゃないかしら。」


ほんとに、この2人はケンカするほどなんやらだ。エマは性格的に人とぶつかることもあるだろう。けれどザクロは誰かと争うタイプではない。もしザクロが誰かと意見が異なるとしても言い返さず静かに切り捨てる。ちなみにキルシュは対立すると逃げ出すか関わらないように忘れたふりをする。


キルシュはザクロとエマがケンカすることを本当に嫌がる。そのためキルシュの前では言い争いはしないがいないとこれだ。


「おいおい、お互い様だって。頼むから大人しくしていてくれ。」


俺らは油断していた。もちろんゴブリン達への警戒を怠っていたということがなかった。けれど森にいるのは彼らだけではないのだ。突然現れた魔獣に対応できなかった。魔獣との戦闘音が響き渡る。


たちまちゴブリン達に気づかれる。ゴブリン達だけならば振り切ることも可能だろうが魔獣の対応をしているうちに追いつかれてしまった。ゴブリンをなぎ倒し蹴り潰す。体当たりをして数匹を一気に戦闘不能にした。


俺は多対1に比較的得意だから問題ないが、エマはやばそうだ。ゴブリンに補足されてしまった以上切り抜けるために止まるわけにはいかない。


「エマ、足を止めるな。囲まれたら死ぬぞ。」


「わかっているって。あたしの心配するくらいなら自分の心配をしなさいよ。」


「そのくらい元気があるなら十分だわ。オーガの相手は私がする。ジンとエマでゴブリンを」


「オーガ2匹ともか?」


「それがベストだわ。」


前回のオーガとの戦闘時は何もできずに足手まといとなってしまった。オーガの首は譲れない。あれは俺のものだ。


「いや、俺も一匹もつ。それがベストだ。」


「それじゃエマがもたないわ。」


「はぁ?ゴブリンくらいで後れなんて取らないわよ。」


ザクロの言葉にエマの眼が吊り上がった。ザクロの言っていることは正論だが、エマの反応はありがたい。この際利用させてもらおうか。決まりだ。そう告げ、俺はオーガのもとへ翔けた。ゴブリンを掻き分けた先で、オーガと相対する。いつか殺してやるとこの日を待ちつつけた。それが今日叶う。


しかし、オーガはうつろな目で荷車を引くばかりだ。ゴブリンたちが慌てた様子でオーガを鉄鞭で殴いた。すると沈黙していたオーガが動き出し周りのゴブリンを殴り飛ばし、暴れ始めた。突然の仲間割れに少々驚きがあったが、周りがいなくなるのは大歓迎だ。


得物同士がぶつかり合い後方へ数メートル吹き飛ばされる。態勢はこちらの方がよかったはずだ、それでも力負けする。種族由来の圧倒的体格差、理不尽な暴力、これを、これを待ってたんだ。ぶつかるたびに吹き飛ばされる。傷つくたびに高揚してく。痛みよりも歓喜が感情を支配した。


何合とぶつかり合っていくうちに視界が狭まり、俺とアイツの息使いだけしか聞こえなくなる。体が沈んで精神と体が乖離していくような感覚。感覚のままに地面を蹴り、体が考えた通りの軌道を描く。狙いの寸分と違わずに奴の足を粉砕した。


思わす片足を着いたオーガは、すぐに態勢を立て直そうとする失敗し咆哮をあげる。怒りに身を任せ荷台を振り回した。中に積まれていた穀物やら野菜が周囲に飛び散りエマにあたった。かすかな悲鳴が聞こえたが、今はいいところだ。とオーガのとどめを優先しようとした。


「エマ!」


ザクロの叫び声のした方へ顔を向けると倒れたエマがゴブリンに囲まれていた。すぐさまザクロが囲んでいたゴブリンを殲滅したが、なおもゴブリンが多数生き残っている。幸いにしてオーガは2匹とも動く様子はない。ゴブリンは最終兵器であっただろうオーガが戦闘不能になり混乱している。それならば俺一人でも相手はできるだろう。


「ザクロ、エマを抱えて森の外へ走れ。」


最高の殺し合いに水が差され集中が切れたのか、体のあちこちが痛みを訴え始めた。ひたすら森を抜けようと撤退を続けたがとうとう限界が来てしまう。もし走って抜けられたなら初めからそうしていた。それができなかったから戦闘という選択肢をとったのであって…


あぁ死にきれねぇ。途切れていく記憶な中でそんなことを考えた。あいつにとどめをさせていない。なぁ、お前もそうだろう。ゴブリンの向こうから咆哮が聞こえた。ゴブリンをかき分け一直線に俺のもとへかけてくる。


あぁそうだよ。そうだよな。


いま俺を見たら新しいおもちゃをもらったガキみたいな顔してるんだろうな。目キラキラさせて、口角が緩くなっている。全身から楽しみが漏れ出して、周りから微笑ましい目で見守られる。だからよぉ、ザクロ微笑ましい目とやらをしながら引っ込んでろ。


エマをおろし息を整えたザクロよりも早くオーガに相対した。オーガの足は変色し、幾多の切り傷と返り血で全身は赤く染まっていた。それでも一歩一歩確実にこちらへと向かってくる。


「さぁ、始めよう。」


防御を無視した乱打戦。吹き飛ばし、吹き飛ばされ、体の内側がぐちゃぐちゃになりながら、最後に立っていたのは俺だった。倒れるまいとひたすら自分の姿勢制御に手間取って地面を睨む。


勝った。あのオーガ相手に一人でやれた。この1年ずっと、ずっとあいつを殺したかった。そいつを殺して、悲願を成就してそれで次は?ふと思い浮かんだ相手は、ザクロだった。あの、天性のバトルジャンキー、100回戦えば100回負ける。そんな底なしの化け物に勝ちたいと思った。


「まだ、死ねない。」


途切れそうになる意識を必死に手繰り寄せる。ザクロが音もなく近寄ってきた。


「いい知らせと悪い知らせどっちから聞きたい?」


「いい知らせ。」


「ゴブリンたちは退却していったわ。」


「そうか…悪いほうは?」


「さっきのやつら本隊じゃないみたい。」


「何?」


「森の中心部から土煙が見える?撤退したゴブリンが連絡でも入れたのでしょうね。動ける?ダメなら置いて行くけど。」


あぁ、わかってるよ。森の外へと歩を進めた。




それはもう、やるせない気持ちで修道院に向かった。いちごが野菜に水をあげて、おおきくなぁれと話しかけている。なんだ!?あの天使は。僕らは司祭の手伝いなどほとんどと言っていいほどしなかったけれど、いちごは修道院の仕事を積極的に手伝っている。僕たちを尊敬して見習っていると言っていたけど、僕らのどこを見習ったらこんな可愛く優しい天使が育つのだろうか。


幸せな気持ちになっていると、醸造の準備をしている司祭を見つけることができた。もともとは収穫祭で納品する御神酒を醸造するための醸造装置であるのだけど、冬は使う予定がなく自家製でお酒を造っているのだ。飲んだくれの爺さんが何をしてくれるか分からないだけどダメもとで伝えていた。


「司祭様。ゴブリンの軍団が町に迫ってる。今すぐ逃げないと。」


司祭は一瞬いぶかしげな顔をした。


「ゴブリンが軍団を作るなど聞いたことがない。何かの間違いではないのか。」


「僕もそう思いたいけれど、100匹程度のゴブリンと5匹のオークが町の方向に進軍していたんだ。」


「オークだと?それは本当なのか?」


「町長に伝えたけれど相手にしてもらえなかった。とにかく町から離れないと。」


「ふん。町を捨てて隣町に行くとしても、徒歩じゃ1日かかるわい。いちごを連れていけるわけなかろう。」


付いてこい。司祭そういうと併設された教会に向かった。祭壇を動かすと地下に続く階段が現れた。薄暗くかび臭い地下室には広い空間があり、壁一面には古い書物が置かれている本棚があった。


「ここに身を潜めていなさい。」


「ここは?」


「用があって作らせた地下室じゃ。日持ちする食べ物を買って来よう。しばらくここで身を隠すことになるだろうからな。」


そういうと、上に上がっていってしまった。地下室は凍えるような冷たさで包まれている。適当な本を手に取ってみるが絵はなく、文字だけが書かれていた。文字なんて読めないから何の本か見当もつかないけれど古く貴重なものであるのは確かだ。なぜこんなものがここにあるのか。


教会の下にこんなものがあるなんて知らなかった。こんなところに土地は腐るほどあるのだから、地下室は作る手間を考えたら割に合わない。きっと高価な本なのだろうと一番古そうな本を一つ懐に入れた。


「なんか司祭様が慌てた様子でここに居ないさいとおっしゃっていたけど何なのかしら。」


ローゼンさんはいぶかし気な顔で地下室を見回した後、僕が手に取った本を見た。


「ローゼンさんここにある本はなんなの」


ローレンさんも気になっていたのか、風化してしまいそうな本を手に取りページをめくる。ローゼンさんの顔は、少し経つと眉間にしわが寄った。難しい本なのかもしれない。今度エマに読ましてみるか?うんうん唸りながら眉間にしわをつくったエマが思い浮かんだ。字が読めるようになったと自慢していたし今度読ませてやろう。


ローゼンさんは僕のことを忘れたようにどんどん読み進めてしまい。しばらく無言の時が流れた。しばらくたった後、本を閉じるとこちらを向きなおった。


「魔獣の森を抜けた先の国のことを書き示した風土記だと思う。森の先には魔物たちが種族ごとに国を作り、時に争い時に団結しながらいきていると書いてあるわ。それと各種族の生活様式、伝統、危険な種族、場所、安全な種族、通行方法。でも、魔獣の森を抜けられる人がいると思えないわ。」


「じゃあ偽物?」


「そうは思えないのよね。作り物にしては出来すぎている。」


偽物だったら高価な本になどまとめないしこんな地下施設を用意してまで隠す必要はない。それに司祭がこの本を知っていたとしたら、さっき信じたことにも納得がいく。こっちの本にした方が良かったかな?でも、懐にある本だって十分古いし大丈夫だろう。うん、ばれたら怒られそうだし、辞めておこうか。危ない橋は渡らない。安全でセーフティーが僕のモットーだ。


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