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町の崩壊と旅立ち  作者: 陰気なネコ
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季節がいくばくか回ったとしても僕らの生活はあまり変わらない。起きて、食べて、殺して、食べて、寝る。辺境の生活なんてそんなものであったはずだった。そんな僕らの生活に変化が起こったのは、アケビが死んでからちょうど一年がたちそうな時だった。


僕らの修道院に一人の修道女が来た。名をローゼンロートというらしい。かなり若いが、上品なしぐさをしていることからが育ちの良さを感じさた。


家事と祈ることばかりしていた彼女は、しばらくすると僕らに勉強を教えようとし始めたのだ。もちろん勉強なんて面白くない。僕は、勉強を教えようとするローゼンロートを無視していたが、エマが突然やる気を出し始めたのだ。詳しくはわからないが勉強すると王都に行けるようになるらしい。


勉強なんてくそくらえ党。党首の偉大なるエマが見る影もない。ふざけるな。俺の投票権返せ。小心者の僕は独りだけ勉強しないなんてことはできず、勉強する羽目になっている。


「キルシュ君。文字を読めると、それだけで商人のもとで働けますよ。ほとんどの仕事ができます。計算ができればゆくゆくは大きな財産を築くことができます。」


「でもローゼン先生、魔獣の素材とかで生きていけるし、必要ないじゃん。だってほら昨日だってちゃんと銀貨15枚稼いできたんだよ。これからもそうしていけばいいじゃんか。」


最近は悪い時でも銀貨10枚くらい稼げるようになってきた。暮らしていくには十分な金額だ。安定して稼げるのなら、別にわざわざ新しいことを覚える必要はない。


「いいですか。今は仮初の平和を享受していますがいつか戦争が起こるのです。いまは戦闘の準備期間であり、この生活が続くと思ってはいけないの。戦いしか覚えていなければ、戦場に駆り出され何が起こっているか理解もできずに死んでいくでしょう。」


ぴしゃりと言った。でも僕は、町のやつらより槍の扱いはうまいし、体は小さいが足には自信がある。そんな考えが顔に出ていたのか、ため息をつくと続けていった。


「サンガム平野の戦いって知ってる?自軍3000対 敵軍5000の戦闘が起こったことはあるの。しかも3000の兵は平地で戦わなければならず、そのすべては歩兵だった。数の上で不利な自軍の敗北は必至。そんなとき将軍が、普通は均一に4-5列で組む隊列を中央だけ薄く長くそして端だけ普段より厚く隊列が組むように指示したの。そしたらどうなったと思う?」


「わかりません。」


とんと見当がつかない。考える気もおきない。はやく帰りたい!


「相手の隊列と同じような長さを保つためには隊列を半分近くににしなければならない。でもそしたら突撃力で負けてしまう。だからわざと中央を薄くして敵の隊列に適応した。結果中央が抜かれたが左右は拮抗したから挟み込む形となり勝利した。戦死者は1500人。そのほとんどが中央に配置された人たち。ちなみに中央に優先で配属されたのは正教でない人々だった。これがどうゆう意味か分かる?」


密集した陣形でまわりを人で囲まれてしまえば攻撃をよけることもままならない。周りが倒れ、何人にも囲まれて、串刺しにされ踏み倒される自分が容易に想像できた。


中央が突破され両側が押し込む結果敵軍を挟み撃ちにできた?ほんとにそんなことできるの?そもそも、突破されるよう薄くするくらいなら、均一にして中央を少しずつ下がらせればよくない? そんなこと言うとまた話が長くなりそうだから口をつぐんだ。


「勉強したところで何が変わるのさ。」


「なにか変わるかもしれないし、何も変わらないかもしれない。けれど、もし今キルシュがあの戦場にいたとしたら、少しでも端の位置に陣取って紛れ込むでしょう。間抜けな顔で何もわからないまま死ぬことはないんじゃない?」


「間抜けって、、、最後まで戦い抜くよ。」


「ではその戦いの先に待っているのは何ですか?断言できるわよ。自分たちが捨て駒にされたことすら理解できずキョトンとした顔で死ぬのよ。だから学びなさい。」


「い~や~だ~。」


あのばばぁ、絶対許さねぇ。指は10本しかないのに10以上の計算を行うことなんて不可能だ!


「エマ!5+9は?」


「14。」


「8+9は?」


「17。」


「だぁああああああ。なんでできるんだよ。エマは勉強しないはずだろぉ。」


「だって王都に行きたいもの。キルシュも勉強したらいいじゃない。そしたら一緒に働きましょう。きっとおしゃれな服屋とかおいしいごはん屋さんとかきっとたくさんあるわ。」


「勉強したところで王都に行けるわけじゃないじゃん。このままこの町にずっと居ようよ。王都なんて行かないでさ。」


なんでそんなに新しいことに挑むのか僕にはわからない。変わることは怖いことだと思うんだけどな。


「それだけは嫌。絶対ここから出ていくの。こんな寂れたところで死にたくなんかない。そのために毎日勉強をしているし、お金だって貯めてるもの。」


そういうと自身の貯めているお金を見せてきた。そこにあったのは1か月分の金額で本気なことに初めて気が付いた。散財家のエマがお金置貯めている。こりゃ明日死ぬな。


でも、、、エマは本気なんだ。本当に行きたいんだ。その日の報酬ですぐにアクセサリーを買ってしまっていたエマがお金を貯めてる事実が信じられないくらい衝撃だった。この日以来僕はエマにここにいようなんて言えなくなってしまった。


昔は早く起きるのが苦手だったジンは、朝早く起きて独学の鍛練を行っている。体つきも精強となり、数か月前とは見違えてしまうほどだ。少しずつみんな変わっていく中で僕はまだ一歩が踏み出せずにいた。



「あぁー、お芋さんがぁ。」


いちごの叫び声が聞こえ慌てて声のした方へ急ぐ。いちごが立ち尽くしていた場所は孤児院で家庭菜園を行っている農地の一角だった。


修道院の敷地には自給自足を行うために農地がある。その農地が荒らされていた。いくつかの作物があるなかジャガイモのみ掘り返され、茎を踏み潰されていた。靴跡のなかには小さい子供用の靴の跡が残っており、犯人はすぐに想像がついた。最近流れてきた集団だ。


彼らは敬虔な正道教会の信者であり、いわくジャガイモは悪魔の食べ物であるそう。そんなものを修道院で育てているなど言語道断らしい。実際、芽や葉には毒があるし、見た目も気持ち悪いが短期間で栽培できるし、この土地特有の問題もあるため欠かせないものであるのにもかかわらずそれを理解されない。


「とにかく掘り返されてから時間が間もないようだし、傷ついたものを収穫しちゃおうか。小さいものや傷ついていないものは地面にもう一度植えてしまおう。食べきれないイモは、少し時期が早いけど半分に切って種イモにしようね。大丈夫だよ。いちご。」


地面のジャガイモを拾っていくうちにイチゴはぽろぽろと声をあげずに泣き出してしまった。そりゃあ悔しいだろう。丹精込めて毎朝水を井戸から運び育てていた作物が収穫間際で台無しにされたのだ。少し遠くから犯人であろう青年の集団がこちらを見て笑っていた。


僕が近づいてもその笑みは崩さない。4.5歳上であろう彼らは体格的に僕より優れており、こちらを見下しているのがありありと分かった。油断している隙だらけ間抜けに突っ立っている馬鹿が警戒しないように。ゆっくり、自然に。


あと間合いまで 3歩 2歩 1歩 今。大きく一歩を踏み出した。全体重を腕にかけそのまま首をしめ地面に張り倒した。感情のまま拳を振りかざしてそのままわけのわからない乱戦になった。そうなると多勢に無勢となり、数人に囲まれてボコボコに殴られた。


涙やら鼻血やらの液体で息が詰まりぐちゃぐちゃになったまま、ひたすらになぜこんな目に合わなきゃいけないんだと己の愚者の様を呪った。カメのように蹲ったまま攻撃が終わるのをひたすら耐えた。


「何してんだてめぇら。」


「キルシュ!!」


ジンとエマの声が聞こえた。自分の顔が想像できて、顔をあげられなかった。しばらくの喧騒の後大丈夫かと、優しい声に顔を上げる。


光がまぶしくて目がくらんだ先に、どこかよそよそしい顔のエマと、みんなを連れてきてくれたであろうイチゴの顔が見えた。


こんな状況をいちごに見せられないとエマはいちごを連れ修道院の方へ下がった。セーブする存在がいなくなるとジンの雰囲気は一変し、一息つくと話し始めた。


「この土地は開拓によって開かれた土地ですぐ横は魔獣の森が広がっている。なぜここで開拓が止まっているのか知っているのか。作物がほとんどうまく育たないからだ。小麦はもちろんその他雑穀の育ちも悪い。だけど、ジャガイモの育ちだけはいいんだよ。育ちの悪い小麦のみでなく、冷害や食糧不足対策としてひそかに育てている農家も多いんだ。それがここの常識なんだ。よそ者はよそ者らしく祈りでもささげてろ。」


年上に向かってそう言ったジンはかっこよかった。それと反比例するように自分が惨めだった。


「教皇様はジャガイモを異端審問にかけて異端と判断されました。それを教会の敷地内で育てるなんてあってはならないことです。」


「じゃあ、僕らに例外が来た時には餓死しろと?なんとも親切な神様だな。」


「ちがう。祈れば救われるのだ。われわれは神のご加護によって生活を豊かにし、日々幸せを享受できているのだ。君は教会に属していながら神の教えをまともに知らないとは、恥を知れ。そうだったな、確かお前らの修道院の司祭のことはかねがね聞くよ。こんな辺境に何かしらで左遷されたと噂じゃないか。異端者に育てられるというのは不遇なものだね。」


「あの飲んだくれと一緒にするな。」


「修道院に庇護を受けといて、感謝の言葉一つかけられないか。それでも人間か。親がまともではないと子まで異端を引き継ぐとはなんとも情けない!」


「あらあら、さっきから聞いていれば生まれやら正教会やらそれが私たちに関係あるの?ちゃんと自分たちで稼いで食費は出しているし、服だって自腹だわ。畑は放置されていたから許可を取って使わしてもらっていたし、修道院で保護してもらうために私たちの親が大金を払ったと聞いたわ。

それで、誰かに迷惑をかけたのかしら。貴方たちにいたずらをされるほどのことを私たちしたのかしら?」


アケビには珍しく苛立ちの感情を隠さずに笑顔で言う。


アケビが腰のファルシオンに手をかけジンも毛を逆立てている。向こうもこちらを睨みつける一触即発の流れを変えたのはローゼンロートさんだった。


アケビとジンの頭を叩き首根っこつかんで連れて行ったしまったのだ。そしてこの場には突然の出来事で呆然とする彼らと僕だけが残った。え、ここに一人で残されるの?


修道院の中に戻ると他のみんなが話し合っている。


「ルヴァンの村っていうかなり南から流れてきたらしいな。さしずめルヴァン少年団ってところか。ずいぶんと過激なことをしやがる。」


「人の畑荒らすのはご法度でしょ。信じられない。それにキルシュを集団でリンチして、ひどいわ。」


エマに言われると、思わずごめんと口にするとなぜ謝るのかと怒られた。ぐぅ~


「南は、教会の力が強いからその影響を多大に受けてるのね。彼らにとっての‘正義’が正教会だとするなら、畑だって荒らすわ。」


「だからと言ってわざわざ畑を荒らすなんて、、、」


たしかに、ザクロの言う‘正義’は、かなり危ういように感じる。けれど正義と畑を荒らすという関連性がわからない。


「彼らは何かから追われて故郷を捨てここまで来たのよ、排斥されて、残ったなけなしのアイデンティティーが敬虔なる教徒であることだった。だからこそ、異端とされるジャガイモが許せなかったの。私たちも同じでしょう。私たちのアイデンティティーは自分以外の者の助けなしで、支配を受けずに、自分の力で物事をやって行きたということ。だからこそあなたは怒ったのじゃないの。」


それは君だけだよ、少なくとも僕は、たんにムカついたから手をあげたのだ。感情に流された結果、人数で凹された、少し考えたら無謀だってわかるのに頭に着て理性を捨てた。理性の強さと優柔不断が売りなのに僕らしくない。


「とりあえず、キルシュ君はは顔洗おっか。アケビちゃんとジン君は、畑にジャガイモ上なおそう。エマちゃんはキルシュ君のこと手伝った後は料理手伝ってちょうだい。」


ローゼンさんがてきぱきと指示を飛ばした。へいと各々が返事をし、作業に移る。エマとともに井戸へ向かう。何となく気まずい。


「ずいぶんと派手にやられたね。見てるこっちが痛そうだよ。」


「…でもさ、なんか昔みたいでかっこよかった。」


「昔?」


「うん。昔さ、小さかった頃キルシュがあっち行こう。こっちいこうって、誘ってくれ他の覚えてる?あれしよう!これしよう!って好奇心の塊で、気になることやりたいこと全部やるぞ。って言ってみんなを連れまわしていたじゃん。さっきのも、詳しくわからないけどさ、許せなかったんでしょ。相手が大人数でも殴りたかったから殴ってやった強引な感じが、昔のキルシュっぽかった。」


今から6年くらい前、当時5.6歳だった僕は、遊ぶときのリーダー的存在だったのを覚えている。人の迷惑も考えないでよくみんなを連れまわしては、遊んでいた。川へ、山へ。そのときは、自由という名の無知なこどもであり、人の迷惑も周りの目線も気にならなかった。


ただ少し大人になってと言ってもたかが知れているけれど、何となく町の人から自分たちが避けられていることを感じるとれるようになる。すると周りが気になってしまう。


町の人に近づこうとすれば避けられ、同い年くらいの子供に話しかけると、無視された。町の広場で遊んでいるとこそこそと陰口が聞かれ、自然と僕は修道院のまわりからあまり離れないよう場所で遊ぶようになった。


自分たちがどこか異質なものであると理解し始めた時、ジンがモンスター討伐でお金を稼ごうと言い出したのだ。それはこの環境では必然だったのかもしれない。


近くに魔獣の森が存在しているため常に討伐依頼がだされ、素材を買い取ってくれる。それをやろうと言い出した。


10歳くらいにまで、僕たちは祭司の教え通り祈り、命をいただき、眠る生活を送っていた。そしたら村の人と仲良くなれると思っていた。当たり前だがうまくいかなかった。魔獣討伐のような役に立つことなら認められるのではないか?と少しの期待を胸に僕はジンの提案に賛成した。


結局それもうまくいかなかったけれど。


実はザクロはこのくらいのときに新しく修道院の仲間に加わるのだけど、そのときエマとひともんちゃくあって大変だった。女の子を怒らせるのは極力避けるべきだという学びは今もこれからも役立ち知識だと思う。


エマは何かとザクロにいちゃもんをつけて、ケンカを売っていたのだ。それも2月も!あんなことされたら僕はストレスでどうにかなってしまうだろう。周りから見ていているだけでも胃が痛かったというのに。今でも仲良しではないけれどあの時よりずいぶんとましになった。


エマとの衝突はあったけれど、新加入したザクロが思った以上の即戦力で魔獣を安全に討伐できた、そのおかげで装備も整えられたわけだからザクロには感謝している。魔獣討伐も初めのころは僕が指揮をしていたが、次第にジンになっていった。


自信満々で指示を出すジンはすごく頼りになるからパーティーとしてはよかったけど、個人としては少し複雑だった。今はその欠片すら感じなくなってしまった。


そうだ。だんだん周りが気になってしまうのだ。自分の選択が不安でどうしても現状維持を優先してしまう保守的な存在それが僕だ。


ジンのように自信が持ちたいし、エマのようにやりたいことを見つけて突き進みたい。ザクロのような突出した能力が欲しいし、イチゴのようにみんなに愛されたい。アケビが死んでその思いが強くなった。要するに僕はアケビのことを下に見ていたのだ。そのアケビがいなくなって焦っている。


建国王にして鑑定王の初代国王の童話は加護の偉大性とともにもう一つ重要な教えが含まれている。それは人の能力値は生まれた時から決まっているということだ。


建国王が行った大規模改革では今までの地位にかかわらず、才能のみによって軍の騎士団長から国政の宰相まで決めた。中には10歳にも満たないもののいたらしい、その結果、一貴族から王族となったことに表れている。努力は才能を上回るとそう思いたい。しかし、努力を加味したうえでの能力を才能とするのなら、結局人の能力は生まれた時から決まっているということになるのだ。


才能の鱗片を見せ始めた周りに劣等感の塊は吟遊詩人の歌ですら言い訳に使うのだ。


「ほら、傷薬もって来るから、これで顔拭いて。」


井戸水で濡らした布は熱を持った傷口を冷やしてくれ気持ちがいい。エマが持ってきた傷薬を塗ると、傷口がわずかにふさがった。普通傷薬は何もしないよりまし程度の影響力しかないがなぜか僕の場合傷口が塞がるまで再生する。皮膚がたちまち再生し傷口をふさぐ様子はなかなかに気持ちが悪い。


「相変わらず傷薬の効き目がいいわね。私が使ってもあまり効果が感じられないのだけれどなぁ。」


「傷薬は擦り傷くらいにしか使いどころないし、こんな体質嬉しくないよ。」


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