ゴブリン狩り
新緑の風が吹く。緑の新鮮な空気に交じって鼻にまとわりつく悪臭が漂う。体を洗うという文化がなければ僕もあんなにおいがするのかな。僕は臭くないよね?今日帰ったら水浴びしよう。
GURRRRRRRRRR
醜い顔に黄ばんだ目、小さい背丈に黄土色の肌。ゴブリンだ。ただ見慣れたやつに交じって鉄の装備で固めた個体がいる。
「うわぁー、装備持ちがいるな。しかも鉄装備ときた。こっちは木槌なのによぉ。」
自分の装備を気にして嫌味を言うジンは、言葉とは裏腹に小銭稼ぎの状況を嬉しがっているに違いない。ゴブリンの鉄持ちは懐にやさしい。もちろん装備を着ている分。奴らに利する部分もある。
単純に鉄持ちは、殺しにくい。本来一撃で屠れるはずのゴブリンが、当たり所によっては何発も殴らなければならないなんてこともある。加えて鉄の剣でぶたれれば骨なんて簡単に折れてしまう。けれども装備がそのまま流用できる可能性もある。もっとも奴らの着こんだ防具やら武器を使おうとするもの好きはジンだけにしてほしいものだが。そうでなくても溶かして鉄器にすることができるのだ。金にはなる。
「だぁーらっしゃ。」
先陣を切ったジンが少し変わった掛け声とともに木槌でゴブリンの首を潰す。赤黒い血液が血肉と共に飛び散り、顔面が半分消し飛んだ。残りは通常個体のゴブリンが4匹 鉄持ちが2匹。
「鉄持ちが2匹、俺とキルシュで1匹ずつ受け持つ。」
ジンが言うと、僕たちにも腰が入った。
アケビがもともと使っていた槍を握りなおし、鉄持ちと向き合う。文明も持たない下等生物よりも装備の貧弱な僕はいったい何だろうか。装備の貧弱さは、嘆いたってしょうがない。
素早く踏み込んできた鉄持ちに合わせてバックステップで距離をとった。槍と短剣、間合いを取っていれば負けない。いくら相手がゴブリンでも人数で押されたら手一杯となるわけだ。詰まないように死なないように距離をとる。
「エマ、ザクロを雑魚から潰せ。」
「了解」
「はぁーい」
ジンの良く通る声にエマとザクロが応じる。こういう乱戦のときでもジンの声はよく通り、なぜか脳内がクリアになる。
ゴブリンがわめき散らしながらザクロに向かい走り出した。それに呼応するようにザクロの体が沈む。ザクロの体が沈みきる瞬間、バネが跳ねるがごとく飛び出した。相手が棍棒を振り切るより早く彼女の攻撃がゴブリンの首をファルシオンで飛ばす。
目を見開いたまま飛んでいく首が、地面に落ちるより早く2匹目の首をはねる。そのまますぐに3匹目の懐にとりついた。体のしなやかさと型にはまらない連撃は、ゴブリンを圧倒し、じきに殲滅するだろう。だから僕は僕の仕事をする。
目の前にいる鉄持ちは、楔帷子に加えバケツをひっくり返したようなヘルメットを着用している。あのタイプのヘルメットは視界がほとんど得らないはずだ。そして楔帷子は、その愚鈍さを増長させるわりには刺突に弱い。突きを狙いつつ相手の体力切れを誘う。
相手が飛び込んでくる瞬間、円を描くように距離をとり、槍で間合いを広げる。千日手を続けた時、今行けるなと感じた。風が背中を押すようになびく。踏み込むとズドン、という確かな手ごたえと、目の前に目を見開いたまま動かなくなったゴブリンの顔があった。
「あらぁ、珍しい。いつもは逃げ腰なのに今日は積極的ね。」
周りには4匹の死体が転がっている。鉄のにおいが濃厚に立ち込める中、ファルシオンについた血を布で拭いながらザクロが言ってきた。
「なんだか踏み込めって言われた気がして、気づいたらゴブリンを突き刺してたんだよ。アケビの武器使ってるからかな?」
僕の答えが気に入らなかったのか「ふぅーん。」と相槌をうった後自分の作業に戻ってしまった。
「今の突きすごいな。キルシュはいつのまにそんな槍の使いがうまくなったんだよ。俺も負けてられないな。」
ジンが棍棒を回しながら褒めてくれた。偶々うまくいった突きが褒められても嬉しくはないけど、ふだんからヘイト誘導と索敵をすることしか出来ない僕が出せた戦果に僕自身満足していた。
ゴブリンの魔石と装備は銀貨10枚ほどになり、一人当たり銀貨一枚渡された。一日の稼ぎとしてはかなりいいじゃないか。お金をためている壺は着々とその重みを増しており、よだれが垂れてくる。うーんいい匂い。ぐっとすめる。アミュレットが待ち遠しいね。
ちなみにアミュレットのにおいは線香(^O^)