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町の崩壊と旅立ち  作者: 陰気なネコ
2/7

建国王と鑑定の加護

俺には守りたいものがある。それは妹であるいちごだ、目に入れても痛くない。そんなイチゴは一人で、布きれの人形を持って突っ立っている。いちごが首だけこちらに向けてきた。


「んー。今暇なのか?」


「うん。今日は王都から商隊が来るんだってエマおねーちゃんがキルシュおにーちゃんを連れてっちゃった。ジンおにぃ私もいきたいぃー、連れてってぇー。」


「お、行くか?」


ちょうど日課の走り込みが終わったところだ。少し物足りないがキリがいいし今日はこれくらいにしておこう。


いちごと一緒に広場に行くと商隊が露店を出している。岩塩やスパイスなどの必需品をもったキルシュと装飾商のまえで首飾りを選んでいるエマが何やら話していた。


「見てこれ、ちょー綺麗!ヘリトッジっていう王都でも有名な人が作ったそうなのよ!」


「うーん。でも今つけてるやつも前回買ったばかりじゃん。僕はお金貯めてちゃんとしたアミュレットが買いたいなぁ。ほら、見てよ!このアミュレット金貨10枚で風よけの加護がつくんだって、ほしいな。」


「でも、すっごく人気でなかなか買えないんだって!絶対欲しい!」


キルシュは古びた布に包まれたアミュレットを、エマは趣味の悪い金色をした首飾りをもって買おうか迷っている。おそらくあの商人は裏で笑っているのだろうな、そう思うとなんだかむっとした。


「キルシュ、アミュレットは安くお買い得かもしれないが、そのセンスのかけらもない装飾はどうかと思うぞ。エマ、そんな人気のものがここまで流れてくるわけがないだろう。」


そういうと行商ににらまれてしまった。ぱっと見よさそうなものはあの発色のいい緑色のドレスくらいだ。ほかは粗悪品だと思う。ここまで流れてくるのは王都の売れ残りだからな。仕方ない。


「ジンは口出さないで!人気がなくてもかわいいもん。」


「そうか?それよりその服とかいいと思うぞ。白のワンピースの上から重ねれば緑色のアクセントが入ってなっておしゃれだと思うが。」


「キルシュは、首飾りとドレスどっちがいいと思う?」


「んー、ドレスも首飾りもまだ使えるの持ってるでしょ、どっちもどっちだなぁ。」


キルシュは興味なさげに答えた。


うわぁー、最悪の答えだよ、キルシュ君。鈍感でも良いがこれでは呆れが勝るな。エマを視界の片隅に入れなくても雰囲気でわかる絶対怒ってる。何なら横から真っ黒なオーラを感じる。馬鹿なのか、そうか馬鹿なんだな。


「なぁ、キルシュ、このドレスをスタイルのいいエマが来たら似合うと思わないか?白いワンピースに重ねて着れば、貴族も顔負けの華やかさだ!」


「んー、確かに似合いそう。でもぉ、、、」


「それにな、エマは確かこういう前を紐で結んである服をまだ持っていないよな?」


「そうね。」


「どうだ?買った方がいいと思わないか?」


「どうして僕に聞くのかわからないけど、なんだかそんな気がしてきた。いいんじゃないかな、エマの髪色にあう服な気がする。」


「そう!じゃあこれ買おうかしら。」


「へい。金貨1枚と銀貨50枚だよ。」


思った以上の値段に驚いた。


「おい、払えるのか?」


「飲んだくれからくすねてきたからね。あいつ少し盗んでも気づかないんだもん。お酒が買えるお金さえ残しておけば平気よ。」


「ほどほどにしとけよ。」


服を買ったエマは、あっちへこっちへ興味のある方へつられて行ってしまう。夜火にひかれる蛾にみえた。そんなエマをしり目にキルシュは俺に聞いてきた。


「意外だなぁ。ジンが買い物に口出しするなんて。」


「そうか?別に普通だが。」


「いや、珍しいよ。僕と同じで守銭奴でしょ。エマはいいよね、とにかく買いたいって感じで、手あたり次第目移りしていくのは見ていて面白いよ。」


「面白くわねーだろ。あんなストレスの溜まる買い物相手はいないわ。俺が行けば半刻もしないうちに飽きて帰っちまう。実際、この前の定期市のとき、荷物を置きに帰ったまま買い物するエマを放置したこともあったな。そしたら無駄なものばかり買ってきやがった。けれど、さっきのやつはなかなかいい買い物なんじゃないか?」


「えぇー、あれがそんなに価値のあるものとは思えないなぁ。」


「あんなきれいな緑色の布なんて迷宮産か、エルフ産だからな。」


俺の方を見たキルシュはいぶかしげな目を向けてきた。


「鑑定の加護でも発現したの?」


そういったキルシュの眼はすこしの恐れと不安が感じられた。


「なわけあるか。常識だよ。常識。」


すべての人は生まれた時から加護が与えられる。感じられないほど小さいものから、世界を変えてしまうほど大きなものまで。それと付随して呪いもしくは試練が与えられる。例えば、力の加護と愚鈍の呪いが与えられた場合、怪力になりやすく代わりに足が遅くなりやすい。そして強大な力の加護を与えられた者は楽々と大岩を動かせるようになり、馬鹿みたいに大きな大剣を振り回せるようになる。でもまぁほとんどの人は個性の一つとしか感じられないほどの加護しか与えられないわけだからあまり気にすること人も少ない。


試練の場合は少し特殊だ。加護が大きければ大きいほどそれと対をなす試練も大きくなるものもあり、代表的なものである勇者の加護には魔王の加護が対をなし、運命によって結び付けられる。その代わり力が強くなり、魔力量も多い強靭な体をデメリットなしで得ることができたりする。


要するに強い加護さえ持っていれば、イージトゥーウィンだ。ファック。


鑑定の加護は、価値のあるものが何となくわかるようになったり、人の能力や加護を鑑定することができるものだ。いくつもある加護の中でも有名なものの一つでもある。この国の建国王が、そうだったのだ。いくつもあった貴族家の一つでしかなかった家が現在の王家に一代にして大国まで上り詰めた異常なる原動力が鑑定の加護だった。すべての能力の現在地から上限値まで知ることのできたという異常なほど高精度の加護を受けた彼が作り上げた組織がこのアヴァイン王国というわけだ。


「そんなわけないだろう。緑色の染料っての言うは、赤と黄色の染料を混ぜて作るんだが、いかんせん混ぜ色でくすんだ緑にしかならねぇ。けどさっきの服は、発色がよかっただろ?あれは混ぜて作れる色に見えなかった。要するに俺らの知らない技術が使われているってこだな。」


「へぇ、知らなかった。よくそんなこと知っているね。」


「前に神父の爺さんから聞いたのさ、あの人は飲んだくれだが知識人で、かつ王都にも詳しい訳アリだ。あまり侮っていると痛い目見るぞ。」


「ふぅーん。」


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