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町の崩壊と旅立ち  作者: 陰気なネコ
1/7

アケビ

いろんな小説を呼んできたけど最近物足りなさを感じるようになった。なので好きな設定で自分で書くことにしていた!

「大量大漁!今日はごちそうなのだぁ!キルシュおにーちゃん、ご飯一杯取れてよかったね!」


籠いっぱいに果物やら山菜を抱えるいちごは、鼻歌を歌ってスキップまでしてる。真ん丸目を輝かせながら、今夜のごちそうを楽しみにしているのだろう。ピィリィーピィリィーピィリィーと特徴的な鳴き声が聞こえた。小さな渡り鳥は、おそらくナイチンゲールだろう。ナイチンゲールは夏を告げる鳥だ。これから暑くなるのかもしれない。


「わぁー鳥さんも歌ってるよ!」


灰色がかった空を羽ばたく一匹の鳥。そんな鳥に気を取られたのか、ビチャン。隣を歩くいちごがそのぬかるみを踏んでしまった。行商から買ったばかりの麻のワンピースには泥がかかってしまう。


「あー。よごれたぁー。」


籠いっぱいに山菜を抱えるいちごは、さっきまでの機嫌の良さが嘘のように悲しい顔をしている。そんな顔をしていても、加虐心をくすぐってしまういちごは、数年もすれば美少女になるだろう。クリっとした目に丸いほっぺ、幼さからくる天真爛漫なさまは天使といいかえても遜色ないんじゃないか。異論があるやつは殺す。


修道院に帰ると神父が椅子にもたれて寝ていた。まだ昼過ぎだというのにすでに酒臭い。相当飲んだのだろう、周りには酒樽がひっくり返っている。あまり意味はなさないと思いつつ、いちごを抱き上げて神父といちごの間に自分の体を入れた。そのまま修道院を抜け、裏庭の井戸に直行する。


「いちご、万歳して。」


ばんざぁーい。そう言いながら手をあげたいちごのワンピースを脱がし泥を落とした。慣れない洗濯は手間取ったが、服についた泥は大分ましになっただろう。いざ、干そうとすると、洗濯紐には、乾ききった服がかかっていた。誰だ、今日の選択当番は、そう思いながらワンピースを洗濯紐にひっかけた。


「ほら。泥も落ちてる。明日にはワンピースさんもキレイキレイになってるよ。」


濡れた手でイチゴの頭をなでる。これでいちごの機嫌がいくらか治るといいんだけれど。次の行商が来るのは、秋前で王都の商品はしばらく来ない。この町でも服を買うことができるが、王都のものと比べ肌触りはチクチクするきがするし、女の子であるいちごには少しでもおしゃれというものをさせてやりたいと思っている。もっとも王都のものというだけでおしゃれだといえるのか僕にはわからないが。


「明日は、晴れるといいな。いちごは晴れたら日向ぼっこしたいぃ。」


「そうだね。」


ここしばらく、くもりか小雨が続いている。地面はぬかるんでいるし、気分のいいものではない。明日晴れれば、憂鬱な気持ちも忘れられるだろうか。


「ただいま。いちごも帰ってきてたのね。」


「えまおねえちゃん!いちごね、たくさん採ってきたよ!ごはん楽しみだね。」


「そうね。」


エマが買い出しから帰ってきたらしい。しかし、深めの枝編み籠の半分も果物がはいっていなかった。今朝エマは銀貨8枚を持っていたはずだ。それにしては籠の中ものが少ない。銀貨10枚あれば一か月生活できると考えれば銀貨8枚は大金だ。それで籠半分ということはないだろう。そこそこの生真面目なエマが盗むとは思えないが、どうしたものか。


「その、エマ。金でも落としたのか。そのぉ、気にすることはないよ。」


遠回しに聞くと、エマは唇を噛み締めた。


「違う!そんなバカしない。ライチもリンゴもレモンも蜂蜜も!全部2倍になってたのよ。ダスティンはアケビが死んだの聞きつけて、私たちが果物買うからって、今日だけ値段上げたのよ。」


そういうエマは、悔しそうに唇をかみしめていう。藍色の髪を頭の後ろで一つ縛りまとめ、意志のつよさを主張するつり目は均衡がとれている。色気は薄いが修道院で崇められるだけの聖女よりもよっぽど高潔にみえ、正義を持っている彼女にとって、足元を見られる行為は屈辱以外の何物でもないだろう。


せめて豪華に弔いたいという僕たちの気持ちなんて知る由もないのだろう。いや、知っていてやっているのか。だとしたらもっと腹立たしい。


辺境の町じゃ商店は1つしかなくほとんど独占状態だ。特に果物なんて鮮度が大切なものの入手性はほとんど困難である。それこそ弟が果樹園を持っているダスティンでなければ。


「ダスティンの所に行ってくる。」


「無駄よ。店にはまだ在庫があったのに、適正価格の一点張りだもの。」


エマの声が後方で聞こえたが無視して修道院を出た。村の市場を抜けた先の果物屋を目指す。ダスティンの店まで来ると店の前にはまだ果物がたくさんあった。そりゃ高すぎて売れないだろう。ダスティンがこちらに気づくと意地の悪い笑みを浮かべて笑ってきた。


「よぉ、修道院のガキか。果物の値段は適正だぜ。」


「いつもより高いと聞いた。」


「そうさ、たまたま今日はいくら高くとも果物を買ってくれる客がいるんでな。悪いがいつもより高いんだ。高かろうと買うやつがいればそれは適正価格さ。」


「…屑が。」


「おいおい。商売といってくれ。市民にも農民にすらなれないお前らに、売ってやってるだけで感謝してほしいものだがな。」


「わざわざアケビがいないことを調べて、朝から値段を倍にして…」


「当たり前だろ。世の中には通理ってもんがあるんだ。砂漠の教会も塔の教会も正教会にとっちゃ不浄で悪なるものとされてらぁ。親は塔の教会だったか、塔から産出する魔道具は魅力的だが、それが神よりもいいものかね。塔なんか信仰しなけりゃ、お前らもまだましだっただろうになぁ。と言ってもせいぜい農奴か乞食がいいところだろうがな。」


がっはっは。と汚らしい笑い声が耳障りに響く。安く売ってもらえないことか、顔も知らない親を馬鹿にされたことが原因か、言い返せなかったことか。とにかく腹が立ったのは確かだった。僕は逃げるように立ち去った。


イライラしながら修道院の裏庭まで帰ってくるとエマは、したり顔でニヤリとこちらを見てきた。お前は何もしていないだろ。よっぽど僕の不満げな顔がお気に召したらしい。


「なんだよ。」


「言ったでしょ。無意味だって。あいつ性格悪すぎなのよ。こんな美人が買い物してやっているのに、おまけの一つもないなんて。信じられない。」


「そうだね。」


「冗談だわ。」


「えまおねえちゃんは、美人さんだってみんないってたよ!」


エマはいちごを見て微笑むと、ジャガイモを水であらいながら歌っていたイチゴは嬉しそうににへら笑った。いちご、君には後ほどで美人とは性格の良さも含まれると教えておこう。


「ありがとう、イチゴ。」


そういってエマはイチゴのあたまをわしゃわしゃと撫でた。


「ジンとザクロは帰ってきたかい?」


「ええ、ちょっと前に。野兎とカモを買ってきてたわ。」


「肉屋は普通に買えたんだな。ジョンもがめつい奴だと思っていたが案外いい奴なのかもしれないね。」


肉屋のジョンは腐りかけの肉ですら平気で売るクソ野郎だが、ダスティンほど僕らのことを特別敵対視してはいない。その実、どの客に対しても平等に腐った肉を売るという点で差別しないだけだとしても。


「3倍になってたそうよ。ザクロがファルシオン首に突き付けたらしいわ。元値より、相当値切ってかなり安く仕入れたらしいからジョンは今頃、衛兵にでも言いつけられてるかもしれないわね。」


「ダスティンにもやってもらえばよかったな。ザクロの真っ黒で何考えてるかわからない目と薄笑いの口で刃物なんて突き付けられたらかなり怖いだろ。」


「まぁ、人の容姿に文句つけるなんて失礼ね。」


「ざ、ザクロ…いや、その、、、」


「自分でいうのもあれだけど、私、容姿はいいわ。」


「その代わり私服のセンスはないみたいね。あんたいつも同じ服着ているし、その服だって娼婦と変わらないじゃない。」


胸元が大きくあいたドレスを見ながらエマは言った。


「キャンキャン騒がないでほしいわ。耳が取れそう、ね。キルシュ。」


いや怖いって。こっちに振らないで。


「あんたは顔がよくても性格悪いもの将来大変ね。」


アケビの容姿は確かに良い。艶のある黒髪を腰まで伸ばし、先を結ってとことか、泣き黒子と垂れ目とかは、母性と慈愛に満ちている。


けれどそれと同時にザクロには、どこか得体の知れなさを感じさせられる。虫みたいに感情が感じられない目とか。胸元と背中と脇が露出したドレスとか。見たことのない装飾のはいったファルシオンを持っていることとか。あとめちゃくちゃ戦闘強いし。


言い出したらキリがない。とにかく異常の塊なのだ。1.2年一緒にいるがいまだに慣れない。


「おう、ザクロ。あんまりいじめてやんな。それより見てみろ。キルシュ!生きた奴貰ってきたんだ!ザクロのおかげで死んで間もない野兎とカモ2匹ずつだぞ! 」


「ごちそうだぁ!アケビも食べられなくて残念だね!」


アケビは、つい昨日まで僕らと寝食を共にしていた仲間だ。イチゴには、アケビが新しいお母さんが見つかってそこに行ったと伝えてある。本当は、狼型の魔獣に噛まれた傷が悪化してそのまま死んでしまった。静かに笑ってる女みたいな容姿のやつで、そして死ぬまで静かに笑ってた。


ただ、そのことをイチゴに伝えるべきではないと思ったのだ。知らなければ、ないのと同じだ考えジンの決定でそうなった。


パチパチとなる火の番をしていると、「ごはんだよー」と言ういちごの声で現実に戻された。いつの間にかアケビの好物が出来上がっていたらしい。果物にウサギの丸焼き、カモ肉のシチュー、なぜかアケビはカモ肉にこだわりがあったんだよな。そんなことを思い出しながらシチューと肉をパンで挟んで口いっぱいに頬張る。


「やっと来たのね。キルシュは、火の番をするとなんも聞こえなくなっちゃうんだから。」


「んー、呼んでくれていたのか。」


「そうよ、でも結局イチゴに呼ばれるまで来なかったわね。」


「アケビのことをちょっと考えてた。アケビが死んだとき、ちょうど僕が見てる時だったんだよ。」


周囲にイチゴがいないことを確認してから、僕は最後のことをエマに話した。看病を順番にしていく中、冷たくなる直前に話せたのは僕だった。外は暗く部屋の中の明かりもない。そんな中で藁のベッドに横たえるアケビと布で傷口をふく僕がいた。


「たぶん、明日まで持たない。」


「うん。自分の体だからなんとなくわかる。どんどん力が抜けていくの。」


「ごめんあの時、僕が気づいていればこんなことにならなかったのに。」


言いたかったことは別だった。なのに僕の口から出た言葉は謝罪だった。情けない。そして、アケビが許してくれると思って言っている自分が情けなかった。死にかけの友人を前に自分の保身か。しばらくの沈黙のあとにアケビが口を開いた。


「許さないといいたいけれど・・・その代わり、一つ約束してくれる?」


アケビから帰ってきたのは意外にも拒否の言葉だった。もしかするとアケビは僕が僕自身に感じた感情に気づいているのかもしれない。感受性が高くて、だれより周りを見てて、自分より周りを優先させて。


「そりゃ、アケビの願いなら何でも。」


「寒いんだ、抱きしめてくれないか。」


抱きしめたアケビの体は小さくて冷たくて、だんだん命が小さくなっていくそんな途中で何故か涙が出てしまった。


「死にたくない。」


嗚咽交じりの声に、胸がキュゥとなる。二の腕に爪が食い込み奥歯がガチリとなった。初めて聞いたでアケビの我儘は、闇の中に消えた。


しばらくするとほぅとため息がした。


「死んだらさ、ザクロのことお願いね。」


「ザクロ?」


「キルシュは、慎重なところあるけど、僕みたいにならないでね。」


疑問に思うこともあったけど、僕は引き受けた。そして胸の中で彼は冷たくなった。アケビが動かなくなったことをみんなに伝えた。何かあった時のためにと貯めていたお金でアケビの葬式をやることにした。


話し合いの末、今回は籠いっぱいの果物とウサギとカモのシチューにすることにした。全部アケビの好きな食べ物となった。


「アケビが死んでから、なんだか現実感がないんだ、アケビがいないってことが雲をつかむみたいに認識できない。いま焚き木を見て安心している僕がいる。」


「私もそうだよ、だけど悪いことじゃないじゃん。だって過ぎたことだもの。だからキルシュが気にすることはなにもないの。」


義務的に悲しむのも嫌だが、悲しめない自分にも嫌気がさす。索敵のミスだって僕が気を抜いたせいだ。


「アケビはさ、聞き上手でけんかとかあった時とかすっごく頼りになって、柔軟に物事をとらえられるのに、変なところで頑固だったよね。」


「ホロホロ鳥事件な。」


「そう!せっかくホロホロ鳥の肉が売っていたのに、絶対にカモのシチューがいいって譲らなかったの。私、食べたかったなーホロホロ鳥のシチュー。」


「半泣きになりながら言うもんだから困ったよな。」


いつだったか、アケビが今日はシチューにしようと言い出したのだ。お金は自分の取り分でいいと言ってみんな喜んだ。肉を買いに行くとおいしいと噂のホロホロ鳥があったわけでどうせならその肉を食べようということになりそうだった。


そしたらアケビが、カモ肉がいいというのだ。そんなにカモ肉が好きだったなんて知らなかった僕たちは驚いのを今でも覚えている。


「アケビおねえちゃんはね、コーダの村にいたんだよ。だからね、カモのお肉を食べるの。」


突然割り込んできた言葉っ足らずのイチゴの話は、理解するのに少し時間がかかったが、冷やりとした汗が背中に流れた。コーダ村は、今はなき開拓地だ。魔獣の森を無理やり開拓しようと農奴を連れた地主が収めた土地だった。結果は魔獣に襲われ無事崩壊。農地自体も痩せており作物が育たなかったためかなり貧しかったらしい。


「コーダの村はね、お誕生日にカモを食べるんだよ。今日はアケビおねえちゃんのお祝いの日だからぴったりだね。」


そういえばあの日は、急にアケビが自腹で肉を買うと言い出したのだ。やさしいアケビの気まぐれかと思ったが…確かザクロの誕生日だった。


そして今日は死者の手向けにお祝いのカモか、本当に嫌になる。


量を気にせず食べれるというのは良いものであるはずだ。腹が膨らめば、気分がよくなる。気分が晴れればまた明日も笑える。明日も笑えれば、前に進める。焚火を囲んで、ジンが歌い、エマといちごが楽しそうに笑って、ザクロがナイフを投げ、僕が火を見守る。


そうなるはずだったのに、心のどこかで突っかかりは残ったままだった。


結局、涙が出なかったのだ。アケビの葬式なのに。そんな自分が不気味だった。死んでない人に涙が流せて、死んだら流せないのか。自分の残酷さにぞっとしながら眠った。


朝日の光に照らされた空気はまだ凍てついた。風にたなびく死者に干したまま忘れ去られた服を見て僕は声をあげて泣けた。


文章がかなり下手だと思いますがよろしくお願いします。

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