#25(最終話) 幸福
大学卒業後は、二人とも同じアパートに住んだまま就職した。
就職先は流石に別々の会社だったけど、ちょくちょくお互いの部屋を行き来しては仕事の愚痴をこぼし合っていた。
そんな社会人生活の3年目に、僕に新たな恋人が出来る機会がやってきた。
同じ会社の同期で、僕は意識したことが無かったけど、ある日仕事終わりに誘われて飲みに行った先で、入社当時から気になっていたと告白された。
大人しそうな感じの子だったけど、仕事ぶりを見る限りはしっかりしてて責任感があり、好感が持てる同僚だった。
僕は、ハナちゃんにそのことを相談し、ハナちゃんからも「もういい加減、前を向くべきだねー これはチャンスだよ」と背中を押してもらい、交際することになった。
彼女のことはまだ女性として好きだという意識は薄かった為、会社終わりにちょくちょく食事に行く程度で清いものだった。交流を深めて徐々に好きになれれば、という考えもあったし。
それに過去の事があったので、かなり慎重になっていた。
キスもセックスもしなかった。
というか、怖くて出来なかった。
あまりに手を出さないから、彼女からは童貞だと思われてしまい、仕方なく高校時代のトラウマを話した。
その場では「大変だったね。ゆっくりでいいからね?」と慰めて貰い、僕も頑張ろうと決意したものだけど、しばらくして会社で僕の「昔彼女に浮気されてEDだ」という噂が流れた。
どう考えても噂の元は彼女しかおらず、その日の内に呼び出し、会社が終わってから問いただした。
「ちょっと先輩に相談したら、言いふらされちゃって」と言い訳していたが
「ふざけんな! 僕はEDじゃない! それに先輩って誰だよ!」
「田山さん・・・」
「今すぐココへ呼んでくれ」
「え・・・でも」
もう完全に別れる覚悟だったので、「出来ないなら、君と田山さんが僕に対する事実と異なる噂を広めていると会社へ報告する」と言い渡し、そのまま会社に戻り、総務人事課へ相談という形で通報した。
翌日、二人に対する調査が行われ、責任のなすり合いがあったらしい。
さらに二人が交際していることも判明。つまり彼女の二股。
今回セクシャルハラスメントに該当するとの判断が下されるそうで、コンプライアンスに厳しい会社としては二人に重い処分が下されるそうだ。
これらを調査にあたった人事課の課長が、僕に対する事実確認の際に教えてくれた。
3度目の浮気は肉体関係が無かったお陰か、僕自身はダメージを受ける事は無く『まぁそんなもんだよな』という感想だけだった。僕の方が浮気相手っぽいし。
◇
この件が落ち着いた頃、久しぶりに僕の部屋でハナちゃんと一緒に夕ご飯を食べてるときに、ことの顛末を報告すると「EDじゃないこと証明してやろー!」と言って、服を脱ぎ始めた。
「ほら!ムギもご飯なんか後でいいから、脱いで脱いで!」
「え?マジで言ってるの?」
「裸になって冗談言うわけないでしょー!」
「そうだけど・・・」
動揺している僕の横に下着姿のハナちゃんはヒザ立ちになって、僕の手を取り顔を真っ直ぐ見つめていた。
「ムギ、私もセックスするのが凄く怖い。 ムギだけじゃないよ、私もなんだよ。 だけど、ムギだったら私大丈夫だと思う。 ムギはどう?私じゃダメ?」
ハナちゃんは真っ赤な顔をして、でも真剣な眼差しだった。
高校時代からずっと傍に居てくれたハナちゃん。いつも飄々としてマイペースで、僕が辛い時でも沢山励ましてくれて、でもこんなに真剣で必死な表情を見たことが無かった。
僕もヒザ立ちになって、ハナちゃんのことを思いっきり抱きしめた。
「ダメじゃない・・・ハナちゃんじゃないとダメだ。 これからも僕の傍に居て欲しい・・・結婚しよう」と、思わずプロポーズしてしまった。
ハナちゃんは僕の背中を叩きながら「バカ!そこまで聞いてないよー・・・でも、うん。私、ムギと結婚する! ムギのお嫁さんにして!」と返事をしてくれた。
もう一度ハナちゃんの顔を見つめると、瞳に泪を溜めてて、でも優しい笑顔で微笑み返してくれた。
僕たちはその日初めてセックスをした。
あれだけ怖かったセックスが、ハナちゃんとだとビビること無く普通に興奮して、普通に射精できた。
久しぶりのセックスでコンドームを持ってなかったけど、ハナちゃんが「無しでいい」と言ってくれ、僕も結婚すると言った以上覚悟を決めて、避妊せずにした。
ハナちゃんはバージンで、終わった後「ずっと待ってた甲斐があった」と告白してくれた。
◇
翌日、会社帰りに婚姻届を貰ってきて、直ぐに二人で婚姻届を書いた。
証人のサインは両親に頼むことにして、週末二人で地元に帰った。
地元に帰ると、先にハナちゃんの実家に直行して結婚の挨拶をした。
ハナちゃんのご両親は高校時代から知ってることもあり「ようやく貰ってくれる気になったか」と少し嫌味交じりで、でもとても嬉しそうに歓迎してくれた。
ウチの実家にハナちゃんを連れて帰ると、母親に「はいはい、そうなると思ってたわよ。今更遅いくらいね」と軽く流された。
でも、そんな母親でもハナちゃんには「ずっとムギの傍に居てくれてありがとうね! これからもムギのことよろしく!」と満面の笑顔で話してくれた。
両家への挨拶と婚姻届の記入を終えると、住んでいる町に戻り、その日の内に婚姻届を提出した。
入籍して以降、ハナちゃんと抱き合って寝ていると、あの生徒会室の悪夢の情景を思い浮かべることなく、すんなり眠れることに気が付いた。
ハナちゃんも似たような状況だったのか、そのことにお互い気付いてからは、必ず二人で抱き合って寝るようになった。
その習慣は、結婚生活を開始しても、子供が出来て産まれても、子供が成人しても、孫が出来ても続けた。
お終い。
『幼馴染で恋人の彼女は、僕を見ていない。』を最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。 この作品は1年以上前に初めて書いた寝取られ物で、当時カクヨムにて公開した作品でした。 今回、言い回しや会話等での口調を修正した修正版としてコチラで公開させて頂きました。
セツナさんの後日談は、別の作品にて描かれています。
『幼馴染という呪縛からの解放 ~僕のが先に好きだったのに! 知らんがな~』
https://ncode.syosetu.com/n9894hk/
※この作品の2部からセツナさんが登場しますが、なろう版では現時点で2部以降未公開ですので、本日17時より2部から更新再開予定です。
※※※ 他作品の宣伝 ※※※
■もっとガッツリ復讐を!という方へ
『僕を怒らせるということがどういう事なのか、解らせる。』
https://novel18.syosetu.com/n8687hl/
■ドロドロしたのはもうお腹一杯…お笑いを!という方へ
『とあるイケメン童貞の苦難』
https://ncode.syosetu.com/n0983hv/
『進撃の勘違い男 ~幼馴染も美少女ヒロインも、みんな俺に惚れている~』
https://ncode.syosetu.com/n3319hn/
他にもカクヨムメインで活動してますので、興味がありましたら是非ご一読を。




