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短いお話

好きな君を横目に

作者: 蒼井托都

帰り道、本屋寄らない?

が、同僚で友達以上恋人未満だと勝手に自称している同僚・元木への智美の誘い文句の一つだった。

役割は違えど同じプロジェクトで動き、帰り道も自然と同じ時間帯に合わせるようになっていた同僚。

寄り道でよく居酒屋で話し込んで週末は帰っていたりしたけれど、さすがに毎日飲んだくれは身も財布も保たないわけで。

それでもまあ、一緒に駅までは帰れるのに、週末以外はただストレートに帰るなんて、いや家に帰すなんて嫌に決まってるじゃん。

と、智美がやや苦肉の策で提案し始めて定着したのは、とある居酒屋ターンの最中に元木がポロリとこぼした「本好き」という一言からの、本屋寄らない?。

元木は一言で括ってしまえば草食男子と言ってしまえそうな部類で、文学少年から青年になったのかな、と勝手にイメージしていた智美であったものの、どうも活字も読むけどだいたいマンガ好きらしく。

海賊王になるマンガをリアタイで追いかけてはワクワクしてると目を輝かせる姿に、質問しておきながら不覚にも智美は見事にギャップ萌えでやられた。お酒入って酔ってるからかな、とか言い訳できる間がなかった。身動きが取れなくなりそうなのを必死に相槌を打ち、話を進めた。その記憶は今も甘く懐かしい。

普段は淡々と仕事してるくせに、この少年っぽさは反則なんだよ。

なんて、毎回本屋寄らない?を提案しながら思い返したりする智美なのだけれど、まあ元木はそんなの関係ねえとばかりに普段どおりなので、もうほんとただの寄り道ですよ的なニュアンスを出しまくって提案している。そしてだいたい、元木はその提案に乗ってくれる。

元木と対象的に、というのも周りが勝手に貼ってきたイメージではあるのだけれど、活字を読んでなさそうに見えると言われる智美が逆に活字を読んでいて、本屋ももともと好きだった。本屋寄らない?といいつつ、智美が寄りたかったりもしている。


今回は駅最寄りの本屋に寄ることにして、着いた途端にお互いお目当ての棚へと移動する。

智美はエンタメの小説からマンガから、ファッション系雑誌から語学のテキストまで、幅広く時間を潰せる推し棚がある。

と、いう名目で、ふらふらと店内をうろつきながら、ときどき、元木がだいたい寄っている少年誌と少年マンガの棚のあたりをチェックしている。

見たいのは、少年誌を手に読み耽って斜め下を見ている元木の姿だ。

これが文庫本だったり単行本だったりしたらほんと文学青年なんだけど、ともいいつつ、少年誌を手にしている元木はワクワクしているかというと、意外とクールに読み進めているのだ。

ただ、智美には遠くから見ていると分かる。

普段近くで元木を見ている、観察しているからこそ分かる。

たぶん、家の外ではクールでいようとしているのだろう。

ワクワクしながらマンガを読んでいることをバレないように、たぶん必死なのだ。

淡々としているようで目はキラキラしているし、口元は若干にやけようとしているのをこらえている。

そのことに気付いて、きっと智美だから気付くことができて、たまらなく、元木がかわいく見えてきてしまう。

どうしようもなく、愛おしいと感じてしまう。


それでも、そこから、智美は動けない。

何読んでるの?って、近付いて本へと顔を覗き込み、至近距離で元木に密着することが、智美には、できない。

近付きすぎて拒絶されることが、この関係を壊してしまうことが、怖いんだ。

そう、毎回、智美は自覚する。

自覚した上で、いつも、何分かじっと、さりげなくを心がけて、元木を眺める。

とても絵になる、本を手にすっと立つ、少年っぽさを頑張って隠す、好きな、同僚を見つめて、相手に気付かれる前に智美はまたお目当ての棚へと移動した。

あんまり他所サービスについて言わないほうがいいとは思うのですが、今月は毎日更新しようと思って昨日が終わる45分前くらいに大慌てで何か書こうと思ってとっさに思いついたのが宮本コンビだったのでまた登場していただきました。あんまり普段短編のスピンオフは書かないんですが、結構自分はこの宮本コンビ好きなのかもしれません。

なお、僕は本屋ってより「書店」と極力書いたり言ったりしてます。謎のこだわり。

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