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私の兄様

作者: ひつじ

 我が家には秘密がある。とてもとても大きな秘密。私の姉様と兄様に関わる大きな秘密。

 そんな秘密はさておき、姉様は今日も麗しい。家族の朝食の席について、朝日を浴びる姉様は、この世の何よりも美しいと、私は本気で信じている。そして、兄様は今日も格好いい。詰襟の黒の制服を着た兄様は、学校のパンフレットの表紙を飾るほど格好いいのだ。

 姉様と兄様と、それから弟の2人。子供たちが揃う頃には、母様を伴って仲睦まじく父様が現れる。

 そうして今日も家族の朝食が始まる。


 ―――――――――――――――


 夕食は、父様の帰りを待たないことが多い。本当は何時まででも待っていたいのだけど、国のお仕事をしている父様の帰りは、夜中をまわることもある。子供が起きているには不適切な時間だ。だから、父様を除いた5()()1()()での夕食。


 ―――――――――――――――


 私が小さい頃は、秘密はなかった。麗しい姉様と、格好いい兄様が、いつだってそばにいてくれた。今は違う。どちらもそばにいてくれているけれど、片方は常に眠っている。

 そう。身体は眠っているのだ。そして、意識だけは猫の体に入って、暮らしている。これが我が家の秘密。

 対外的には、姉様は重い病を患って、床に臥している、ということになっている。実際には真っ白な猫になって、屋敷で自由に過ごしている。兄様が猫の日もある。兄様は、艶やかな黒猫の姿になる。どちらも甲乙つけ難い美しさ。

 意識と身体を交換するときには眠っている姉様の右手を兄様の左手が握って、右手は猫の姉様の左前足を掴む。そして、最後に猫の姉様の右前足が眠っている姉様の左手に置かれる。そうして2人と1匹が光に包まれると、入れ替わりが完了する。

 黒猫に変わった兄様と、美しい姉様。それから眠ったように動かなくなる兄様。明日は、姉様のお誕生日なのだ。


 ―――――――――――――――


 滅多に姿を現さない姉様のお誕生日会。毎年、家族だけでお祝いをしてきたけれど、今年は様子が違う。姉様の元婚約者であった王子様が、どうしてもと言って参加しているのだ。王子様は姉様のことが忘れられなくて、いまだに婚約者が決まっていない。そして、都合の悪いことに、兄様の親友でもある。兄様が不在のことをなんと言って誤魔化すか、私たち家族は頭を抱えてしまった。とりあえず誤魔化してきたから、と兄様は父様と母様と猫の姉様にコソコソと昨日説明していたけれど、私と弟たち2人は何も聞かされていない。ので、どう振る舞えば良いのかさっぱりわからないのだ。


 ―――――――――――――――


「家族の席に招いていただけたことを感謝する。」

 王子様の挨拶から始まった姉様のお誕生日会は綱渡りのような緊張の中で進んでいた。でも、誰も兄様がいないことに言及しない。まるで、いないことが当然のように。不安になった私は、お化粧直しに席を立った母様を追いかけるように、自分も席を立った。


 ―――――――――――――――


「一体、どうなっているのですか?」

 不安で不安で、母様を私は問いただした。病に臥せっているはずの姉様が、健康そのもののメイクをしていること。兄様の話題が全くあがらないこと。王子様は相変わらず、姉様のことを愛おしそうに見ていること。それから、弟2人が平然としていることも。


 ―――――――――――――――


 そうして、私は秘密の真相を知らされた。正確に言えば、思い出した、が正しい。

 幼い私と兄様がと2人だけでこっそり出かけたこと。すぐに護衛が追いかけてきてくれたけど、裏切り者がいて、兄様は命を落としたこと。錯乱した私が黒髪だった兄様だと言って黒猫を連れて帰ってきたこと。姉様は、お日様が浴びられない病気にかかっていたこと。王子様は治療薬を探して奔走し、やっとのことで見つけてきてくれたこと。私以外の家族は、みんなみんな分かっていたこと。

 受け止めきれず、私は失神した。


 ―――――――――――――――


 目を覚ました時、ベッド脇には、母様と、姉様と黒猫がいた。兄様、と掠れ声で呼ぶと、黒猫がにゃあと鳴く。黒猫を抱き上げて、一筋の涙を流し、私は兄様を悼んだ。

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