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お前が氷の魔王になった日、オレは魔王でなくなった

作者: 花月夜れん

「くくく、お前が勇者でなければ――。愛していた」

「あぁ、そうだな」


 黒い髪、赤い瞳の見目麗しい魔王と銀髪、青い瞳の美しい女勇者が今まさに決着をつけようとしているところだ。


 二人は、何も知らず出会い、愛し合っていた。


 あの日、世界が二つにわかれるまで。


「だが、オレはただでは死なないよ」

「――?」


 勇者が戸惑う。魔王は大きく笑い宣言した。


「お前に愛という呪いをかける。未来永劫、ついて回ってやる」

「…………あはははは、いいな。それは――」


 二人は魔法で巻き起こった灼熱の炎の中に手を繋ぎ飛び込んだ。


 ◇ ◆ ◇


「ていうドラマチックなことが前世であったんだぜ?」

「知らん」


 オレは魔王を()めて、今世ではただの男子高校生。

 彼女は勇者を止めて、ツンツンツンドラな氷の魔王になってしまった。訂正しよう、デレのないツンデレ女子高校生だ。言ってておかしいのは重々承知だが。

 前世では、炎のように熱く、炎熱の勇者と呼ばれた女だったのに、何でだ?


「なぁ、思い出してくれよ、マユ」

「中二病も大概にしてくれ、タクヤ」


 今日もオレは彼女について回る。

 いつか、思い出してくれるその日まで!!



 ーーー


 愛していた。

 貴方を愛していた。けれど、民衆はそれを許さない。

 私が勇者で、彼が魔王である限り。


「お前に愛という呪いをかける。未来永劫、ついて回ってやる」


 ◇ ◆ ◇


 貴方が私にかけた呪いは、成功した。

 まさか、隣に住む同い年の幼馴染に生まれ変わるなんて。


「マユ、前世からお前を愛しているーーーー」


 お互いを認識してからというもの、毎日これだ。


「知らん」


 私は彼にそう返す。確かに貴方はあの人かもしれない。けれど――。


 私は、マユだ。女勇者じゃない。

 私を愛してほしいんだ。だから――。


 貴方が私を見るまでは、絶対に口にしてやるつもりはない。


 ◆


 大間拓哉(おおまたくや)16歳。今日も元気に勇者真由(ゆうしゃまゆ)16歳を追いかけます。


「マユー!!」

「何のようだ?」

「これ、忘れ物!!」


 オレは特製データ入りのUSBを渡す。


「パソコンで見てくれよな!」


 夜な夜な作った、オレ達の前世の動画だ。オレめちゃくちゃ頑張った。なのに――。


「忘れた覚えはない」


 無造作に握りつぶされポケットにぽいっとほうりこまれた。


「あぁぁぁぁぁオレの1ヶ月が――」

「勉強しろ!! 前回何番だった! まったくこんなことに時間を費やして――」

「む、こんなこととはなんだ! オレの中ではそれはもう大切な、大切な――っておーーーい!」


 ずんずんと先に進む氷の女魔王様。

 今日も思い出してもらえないようだ。だけどオレはあきらめない。

 次なる一手は決めている。


 ◇


「こんなもの見なくたって覚えている……」


 家に帰り、渡されたUSBをパソコンに繋いだ。


魔王(あいつ)、あの話を美化して、あーあー、違う。これは……うーーー」


 頬が熱くなりながら、タクヤが作った動画に一人で突っ込んでいた。


「私だって、大好きなんだ。どっちの貴方も」


 でも、タクヤは過去ばかり引っ張ってくるんだ。

 私として見てくれることは無理なのかな。

 とても難しいのはわかってる。だって、私は勇者で彼が魔王だから。

 パソコンをとじる。


「違う、もう勇者でも、魔王でもないんだ」


 タクヤに返すためにUSBを引き抜こうと手を添えた。

 少しだけ手を止めて、私はもう一度パソコンを開いた。


 ◇


「マユーーーーー!!」

「なんだ、タクヤ。あ、これ忘れ物」


 ぽいとタクヤに向かって投げると上手にキャッチしていた。


「見てくれたのか!」

「知らん」

「うぅ、次はもっとパワーアップさせてあのエピソードを」


 そんなことを言っていたけれど私は聞こえないふりをした。


「なぁ、マユ。こっちが忘れ物だった」

「な、それは、それは――」


 5歳の時に結婚を誓った結婚届(手書きのお手製)。まだもっていたなんて……。


「結婚出来る年になったら私が出しに行くねって言ってただろー?」


 ニヤニヤしながらタクヤが寄ってくる。確かに言った。言ったけどーーーー!


「馬鹿だろう? まず男は18からしか結婚出来ないし、それ出したところで受け付けてもらえない。だからこっちによこせ! ちょうどいい、燃やしてやる!!」


 私が手を伸ばすとタクヤは魔王の時にして見せたような邪悪な笑みを浮かべた。


「ふははは、ならば18までこれはオレの部屋の額の中で大切に保管してやろう!!」


 最悪の魔王の復活という言葉が頭の中にぽんと浮かんで消えた。


「勝手にしろ……」


 私はいたって冷静に言葉を発する。耳が熱いのはきっと気のせいだろうけど、バレないようにタクヤから顔を背けておいた。

くっつくといいなぁ。

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