故郷
友人達と共に山の上の駅からバンザイの声に送られてお国の為に出陣した。
電車に乗る前にホームから見える故郷の風景を目に焼き付ける。
山の下に広がる市街地、市街地の先の白い砂浜と青い海。
長く苦しい戦いの末、祖国は勝利した。
故郷に帰ると言う私を部隊の隊長や戦友が止める。
でも故郷には家族が恋人が待っているんだ。
駅に行き駅員に電車の時刻を聞く。
故郷方面の電車は上りも下りも無いと言われた。
だから私は線路の上を故郷に向けて歩く。
線路を私とは反対の方向に歩く、沢山の荷物を背負い子供の手を引いた人たちが口々に言う。
「そっちに行っては駄目だ」
「諦めろ」
と。
歩き続けて10日目の昼過ぎ駅のある山が見えてきた。
顔にケロイドがある男が私の前に立ちふさがり声を掛けてくる。
「これ以上行っては駄目だ、死ぬぞ」
私は立ちふさがる男の手を振り切り歩を進める。
駅のホームに立ち周りを見渡しながら隊長に言われた事を思い出していた。
「一発逆転を狙った敵が核弾頭を搭載したミサイルを首都に向けて撃った。
迎撃には成功したが、核弾頭はお前の故郷に落下して爆発。
お前の故郷はもう無いんだ」
山の木々は薙ぎ倒され核爆発で出来た巨大なクレーターが広がり、その中に黒く濁った水が入り街は水没していた。
ホームに力無く座り込んだ私の太股に鼻血が滴る。
私は家族の恋人の名を呟きながら拳銃の銃口を顎の下に当てて……………………。