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第三話 物語は居候の幽霊と共に(前編)

 一週間前——。

「あのー、僕の体に入って隠れんぼするの、そろそろやめてくれない?」

「……やだ、もうちょっと、」


 なんでもすり抜けられる可愛らしい見た目をした幽霊。

 寂しがり屋で怖がり。マイブームはユウタの体にぴったりと入り、隠れんぼをすることである。

 だが、それは完璧ではなく、いつも体の一部がはみ出しているため、毎回ユウタに見つかってしまう。


「……ねぇ、お兄ちゃん、わたしのお願い聞いて?」


 控えめで、のほほんとした幼女がユウタの体から顔をひょっこりと出し、上目遣いでユウタを見つめていた。

 

「だ、か、ら! 僕はお前のお兄ちゃんではないし! お前のために死ぬことはできないの‼︎」



 ユウタが小さな女の子の幽霊と出会ったのは、くずれ荘に越してきた日。蒸し暑い真夏の夜のことであった——。


 夏は燃えるように暑く、冬は凍えるように寒い。

 四季がはっきりとしている日本の特徴を全身で感じ、広大な大地と一体化できる部屋。それが、くずれ荘二〇四号室の特権であり欠点である。

 

 ユウタがここに越してきたのは、複雑な家庭の事情であり、防ぐことができないことであったが、不備を上げろと言われたとき「全てです」と答えるしかない部屋を見たときは、かなり落胆した。

 しかし、そんな一瞥しただけで欠損、誤り、手抜かり、不具合などの言葉があちこちに転がっていることなど、アパートの外観を見た時から既に覚悟ができていたことである。

 

 ユウタの問題はそこではない。

 でるか、でないか——。それだけである。


 くずれ荘の大家さんの大谷さんは見た感じ六十代くらいの元気なおばさんである。

 明るい性格でとても良い人なのだが、初対面の人間に満面の笑みで平手打ちを炸裂させ、大声で「生きてますかー‼︎」というのは良くない癖である。

 現にユウタも今日初めて会ったとき、「こんにちわ」という単語を言い切る前に大谷さんの渾身の一撃を受け、その容赦ない鉄槌に完敗——。


 そんな大谷さんだが、遠くから来たよそ者を寛大な心で受け入れ、部屋の不備について事細かに教えくれた。


「えーと、ダメになってるのはこんくらいだよ。じゃあ、なんか質問はあるかい?」

 一通りの説明を終え、大谷さんがゆったりとした口調で問いかけた。

「……えーと、あのー、ここって、でたりするんですかね?」


 ユウタが恐る恐る尋ねると、大谷さんはユウタの顔を避け俯く。

 さっきまで元気だった大谷さんのテンションがあからさまに落ち、意味深とはこのことだと言わんばかりの沈黙が流れた。


「——あれは、酷い死に方やった……」

 謎の呟きに困惑。

「……あんたも、ほんま、きぃつけなあかんでぇ……」


 なんでやねん……。

 心の中でツッコミ、突然の関西なまりに思考が混迷。



 なんやかんやで夜——。


 大谷さんの意味深な発言もあって警戒心が高くなっていたが、部屋のあちこちに貼られていた謎のお札らしきものに注意し、空が暗くなってきた頃にはあらかたの荷物は整理できていた。

 ありがたいことに前の住人が大きな家具や家電を置いていってくれたおかげである。


 しかし、その中で一つ異質な雰囲気を醸し出している代物があった。


 ——これ、いつの時代のテレビだよ。


 それは確実に地上デジタル放送には対応していないであろう、失われたレトロを感じさせるアナログテレビだった。

 まさに昭和から抜け出したような風貌。


 その歴史を感じさせる四角い塊りは、このボロアパートと絶妙にマッチし、過去にタイムスリップしたのではないかという錯覚に陥る。

 そして、もしかしたら机の引き出しから未来のロボットが出てくるんじゃないか、と期待していたときだ——。


 突然、電気が消え、外から聞こえていたはずの喧騒も聞こえなくなり、あたりは静まり返る。

 不意のことに動揺しながらも、懐中電灯を出そうと立ちあがると、電源が入っていないはずのテレビがつき、画面いっぱいに砂嵐が映し出され、ザーという音が部屋中を覆った。


 ユウタは驚いて、尻餅をつき、どんっという鈍い音が体の中で響く。

「痛っ!」

 咄嗟に体の横で手をついたが、尻を強打し、全身に痺れが走る。

 そして、ユウタがテレビの前に座り込んだタイミングを見計らったように、砂嵐の映像が消え、電気が入っていないはずのテレビに違う映像が流される。


 荒い映像の中。

 暗く靄がかかったような場所に、ぽつりと井戸が一つあり、まさに中から髪の長い女が這い出てきて、にじり寄ってきそうな様相である。

 きっとこのままでは、おぞましいものと邂逅してしまう。そうなる前に逃げなければ——。

 ユウタの危機感知レーダーが、本能的に危険を察知し、警報を鳴らす。


 ——あれ、体が動かない。


 脳から体全体に「動け! 動け!」と必死な思いで指令を出すが、びくともしない。

 ユウタはテレビの前で、尻餅をついた状態で金縛りにかかっていたのである。


 ——嘘だろ、声も出ねぇ……。


「……タ、ス、ケ、テ、」


 テレビの中から低くかすれた声が聞こえ、映像に目をやると、テレビの中から何か白っぽいものが出てきていることに気がつく。


 ——あー、なんか出てきてるって! やばい! これは、やばい!


 緊急事態に語彙力が小学生以下に低下。


 何かが、井戸から這い出ている。

 それは、ゆっくりと姿を現し、おぼつかない不自然な動きで近づいてくる。

 そして、確実に一歩ずつ進み、徐々に画面の目の前まで——。


「……たすけて、お兄ちゃん」


 ——あーー、やばいな。お兄ちゃんは、やばいな!


 のったりと腕が伸び、白い指が画面の壁を越え、じわじわとその姿があらわになっていく。


「……たすけて、お兄ちゃん、、お腹が空いて死んじゃ——」


 ——ん?


 本来ならば、けたたましい叫び声を上げ、出できた幽霊に引きずり込まれる展開なのだが、テレビから半分体を出して力尽きてしまった幽霊はびくともせず、ユウタも金縛りにかかったままで動けない、という状況に言葉を失う。


 古びたテレビから出てきたのは、お腹を空かせた黒髪の小さな女の子であった——。

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