第一話 物語は突然の死から
これは、彼が死ぬ直前のことだ——。
珍しく、今日は金縛りにかかっていないことに感動する。
彼が深い眠りから覚めると、そこは見慣れたボロアパートの一室であった。
彼はゆっくりと体を起こし、いつもなら夜な夜な彼のベットに勝手に潜り込み、金縛りをかけて服を脱がしてくる、いろんな意味で悪質な居候の幽霊(自称、妹)がどこにも見当たらないことに気がつく。
——何かが、おかしい。
ここは彼の住んでいるアパートであり、古いアナログテレビの中から出てきた、頭のおかしな幼女さえいなければ、平和そのものである。
——しかし、何かがおかしい。
それは勘である。
彼が十七年間生きてきた上で培われた、危機感知レーダー。
それが今、ここぞとばかりに強く強烈に、これから迫りくる危機を暗示しているのである。
——夜、なのか?
通気性の高いボロボロのカーテンが閉まっており、光がない。
風通しの良い薄い壁を挟んだ隣の部屋から毎晩のように聞こえる声も、窓の外の喧騒も聞こえない。
暗闇の中、そこは彼だけを残して時間が止まっているかのように静寂な無だった。
辺りを見渡し、彼はその異様な雰囲気のなかで、なぜ夜なのか、いつから寝ていたのかを思い返すが全く覚えがないことに疑問を感じる。
そんな不可解な状況の中で、原因であると思われる白い着物を着た黒髪ロングの幼女がいないことはありえない。きっとまた悪戯をしているんだろうと思い警戒しながら小声で呼びかける。
「ゆる子ー、いるんだろー、おーい、お兄ちゃんおしっこ漏らしてお前のテレビ水没させちゃうぞー」
あの変態幼女お化け(ゆる子)の兄になったことは一度もないが、相手を油断させるために優しい口調で迎え入れる作戦に出る。
「……早く出てこないと、テレビごと成仏しにいくぞー」
そう言って少女が出てきた古いテレビに目をやると、テレビの液晶画面にお札らしきものが貼られていた。
——あれ、俺こんなの貼ったっけ?
その瞬間である——。
何もない空間から突如現れた影が彼の腹を一突き。
彼は理解できないまま、悶えるように倒れ、腹に突き刺さったものに目をやる。
「……ももこ、どうして、、おまえが——」
そこにいたのは彼の恋人、夢星ももこ、であった。
衝撃的展開に唖然。しかし、彼女の姿を見ると心なしか痛みは消えていった。
そして、彼はゆっくりと瞑目する——。