《四》風鳴久遠(かぜの ゆくえ)
それから何年かの月日が流れた頃、遠く西沙の地から、はるばる華の国を訪れた隊商の一人が、旅の途中に雲南の外れで出会ったという、不思議な親子の話を伝えた。
すらりとした細身を見事な白絹の長衫に包み、白扇携えた、その唯ならぬ出自さぞや、と唸らせずにはおかぬ美貌の貴公子と、傍らに寄り添う、彼の妻と思しき気高く嫋やかな女性。
そして、その腕には、やっと三歳位だろうか、漆黒の瞳に星を抱き、父の幼い日を彷彿とさせる、花のような男の子が抱かれていた。
言うに言われぬ気品を湛えた、現実とも思えぬ姿に打たれて、やがて彼らが、まるで蜃気楼のようにオアシスの彼方へ消え去った後も、しばし呆然とその場に立ち尽くしてしまった―と彼は人々に、熱っぽく、且つ夢見るように語って聞かせたと言う・・・。
『翔琳鳳凰』と謳われた一代の英雄・鳳世凰と、その妻・美明の行方については、当初、様々な憶測が噂となって、人々の間に流布した。
ある者は、遥か西沙の彼方のオアシスに理想郷を築き、その王となったのだと言い、又一説には、その余りの気高さゆえに、彼らが俗塵に塗れるを惜しんだ天帝の意志により、一子を残して、妻と共に仙界へ召されたとも言う。
しかし、そのいづれもが、真偽の程を確かめる手段とて無く、次第に夢幻の帷に包まれて、長い年月が過ぎ去った。
彼らはいつしか伝説となり、時折、人々の記憶に甦ったが、やがてそれさえも、壮大な亜細亜の歴史の中に、深く深く埋もれて行ったのである。
以来、幾許の時を重ねたことだろう―。
久遠の大地を蓋う蒼穹の空も、彼方より吹く風も、今となっては何一つ語ろうとはしない。
けれど、その誇り高き血の流れは滞ることなく、脈々と受け継がれ伝えられて、今もなおこの地上の何処かで、凛然と生き続けているのだとか。
今一度、信じてみたいではないか!?
遥かなる時空のはざまに、鳳世凰という名の一人の若者が、確かに存在したのだと。
その命の限り闘い続け、苦しみ、傷つき、それでも精一杯に愛を貫き通し―やがて、鮮やかな生き様を残したまま、悠久の彼方へ旅立って行ったのだと。
純白の長衫を、風に翻しながら・・・。




