表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳳凰傳  作者: 桃花鳥 彌 (とき あまね)
25/37

《四》追慕千里(おもい はるかに)-3-

 その日は、別にこれと言った情報も無く、早々に村を引き上げて、すっかり(かよ)い慣れた山道を辿(たど)りゆく世凰(シーファン)は、(ふもと)からずっと、いや正確には村の中からずっと、()かずに彼を追って来る(ただ)ならぬ気配(けはい)を、背後に強く感じ続けていた。

 気配の(ぬし)は恐らく、並並(なみなみ)ならぬ武芸者でもあろう。

 だが、世凰(シーファン)は振り向かぬ。

 相手に殺気がないからだ。

 それゆえ、ことさらに身構えてもいない。

〈何者!?〉

 自分に対して何の害意も持っていないとはいえ、片時(かたとき)も集中した気配を()すことなく追って来る相手には、こちらが気付いていることも、勿論(もちろん)(わか)っている(はず)だ。

〈もう(しばら)く、様子を見よう〉

 世凰(シーファン)()(ゆる)めずに、黙々(もくもく)と山道を登って行った。

 やがて、山の中腹を過ぎると、道幅(みちはば)はぐんと(せば)まって、左右から雑草や(かん)(ぼく)が押し寄せるように()り出し、ただでさえ(せま)道幅(みちはば)の、見極(みきわ)めも(おぼ)()ぬ状況を(てい)している。

 その奥には鬱蒼(うっそう)(しげ)木立(こだち)(ひし)めき合い、昼なお暗い()下闇(したやみ)揺蕩(たゆた)わせるのだ。

 そこを抜けると突然、ぽっかりと、一握(にぎ)りの小さな空間が開けた。

 どういうものか、そこだけが木立(こだち)と雑草のトンネルから取り残され、猫の額ほどの草原を形成していて、隣り合って(そび)え連なる山々の、深山特有の営みの様子を垣間(かいま)見ることが出来る。

 そこまで来て、世凰(シーファン)は初めて歩みを止め、追跡者と対峙(たいじ)する形で向き直った。

 相手もまた、彼から少しの距離を置いて(たたず)んでいる。

 世凰(シーファン)と同じく粗末な衣服を身に着け、破れ笠を目深(まぶか)(かぶ)り、大分(だいぶ)遠くから旅をして来たらしい(ほこり)(まみ)れのその肩には、小さな荷物を結びつけていた。

何故(なぜ)()けて来る。私に用か!?」

 口ではそう言いながら、世凰(シーファン)の胸には(ひらめ)くものがあった。

 もしや!?―

(ヨン)(フー)(ルン)!?」

(フェン)世凰(シーファン)!?」

 互いの名を同時に呼び合って、彼らは駆け寄った。

「よかった!やはり君だったのだな。追って来て、本当に良かった!!」

 (フー)(ルン)が言えば―

「良く生きていてくれた!!よく・・・」

世凰(シーファン)も感無量―。

 彼らは抱き合い、何度も肩を叩き合って、全身で再会の喜びに酔い()れたのであった。

 笠を取ると、夢にも忘れることのなかった(なつ)かしい顔が、心からの喜びに輝いて笑っている。

世凰(シーファン)!なんだその顔は!?せっかくの美男が、台無しだぞ!」

「君のほうこそ、真っ黒けじゃないか!」

まるで子供のように声を(はず)ませて、相手の顔を指さしては大声で笑い合い、さらに何度も、彼らは抱き合った。

 ひとしきりの激情が去ったあと、二人は草原に腰を下ろして、無言で見詰(みつ)め合った。

 山の霊気を(はら)んだ風が、心地(ここち)よく、汗ばんだ肌を()まして吹き抜けてゆく。

「心配したぞ」

 (しば)しの沈黙を破って、(ヨン)(フー)(ルン)がぽつりと言った。

 そして、はだけた襟元(えりもと)から(のぞ)く、世凰(シーファン)の右胸の傷跡(きずあと)に目を留めた。

「それは・・・あの時のか!?」

 彼は(うなず)いた。

「そうか、さぞ難儀(なんぎ)をしたのだろうな・・・だが、流石(さすが)に君だ。よくぞ立ち直った!」

 (フー)(ルン)は、感慨(かんがい)(ぶか)げにそう言った。

 いつしか日は西に傾き、風が冷たくなっている。

(フー)(ルン)、そろそろ日が暮れる。ひとまず、私の隠れ()へいこう!!積もる話は、それからだ」

「よし!今夜は語り明かそうや!!」

 二人は(ころ)がっていた笠を拾って立ち上がり、連れ立って、さらに奥深い山道(やまみち)へと分け()ってゆく。

「今、この奥の古寺(ふるでら)に住んでいるのだ」

 楽しそうに語りかける世凰(シーファン)の声が次第に奥へと遠ざかり、彼らの後姿は、仲の良い、実の兄弟のようにも見えたのだった。


 その()

 火に()べた枯枝がパチパチとはぜる音を聞きながら、二人はお互いの、積もる話を語り合った。

 まずは、(ヨン)(フー)(ルン)

 彼は(フェン)()から脱出した(のち)、ひとまずは故郷・(リェン)(ホー)郡・(リー)(ヤン)へ足を向けたが、実家のある(リー)(ヤン)の街には入らず、近くの山中に潜伏(せんぷく)した。

 そして、共に生き残り、各地に身を(ひそ)めている朋友(とも)たちと(ひそ)かに連絡を取り合い、ひたすら世凰(シーファン)の消息を求め続けたのである。

 彼の足取りは(よう)として知れず、生死のほどさえも定かではなかったが、(シュエン)軍が今なおその行方を詮索(せんさく)しているのを知って、彼の存命(ぞんめい)を確信するに(いた)った。

 その(フー)(ルン)(もと)を、一月(ひとつき)ほど前、見知らぬ美しい尼僧(にそう)が訪れた。

 彼女は余計な事は一切語らず、ただ、世凰(シーファン)の存命とその潜伏(せんぷく)先を彼へ()げたのみで、自らの名前すらも明かさぬまま、早々(そうそう)に立ち去って行った。

 突然、()って()いたようにもたらされた情報が、果たして信用出来得るものかどうか、(フー)(ルン)ならずとも逡巡(しゅんじゅん)するのは無理からぬことである。

 だが、尼僧(にそう)の澄み切った(とび)(いろ)(ひとみ)に加えて、その真摯(しんし)な態度が、彼に行動の開始を決断させた。

 彼は仲間たちにその情報を伝えて彼等の意志を確認すると、自分は一足先に故郷を()ち、一路(いちろ)胡北(フーペイ)郡・(ティエン)(ヤオ)山へと旅を続けて来たのだった。

 北方からの行商人を(よそお)った彼は、(ティエン)(ヤオ)山一帯の村村で例の妖怪騒ぎを聞きつけ、内心苦笑はしたものの、それによって、はっきりと世凰(シーファン)の消息を(つか)み得たのである。

 そして、つい先日、(ふもと)の里に到着した彼は、そこですべての商品を捨て()で処分し、今日(きょう)こそ山へ登る積もりで宿を出たところで偶然、丁度(ちょうど)、村を出ようとしていた世凰(シーファン)の後姿に目を()めた。

 随分(ずいぶん)身をやつしてはいるが、とても唯者(ただもの)とは思えぬ身のこなし、見覚(みおぼ)えのある体つきから、(たず)ねる相手に違いないと直感して(あと)を追って来たのだという。

「そうだったのか・・」

 世凰(シーファン)は、火影(ほかげ)に照らし出された(フー)(ルン)の、日焼けして一段と精悍(せいかん)さを増した顔をしみじみと(なが)め心から礼を言った。

「ありがとう、(フー)(ルン)!それほどまでに私のことを気にかけてくれて、本当に(うれ)しい」

「よせよ、水臭(みずくさ)い。照れるじゃないか!」

 そう言って、(フー)(ルン)(おだ)やかに笑う。

「そうそう、その尼僧(にそう)から、君に伝言を頼まれたのだった。何でも『()()()()御無事(ごぶじ)ゆえ、何卒(なにとぞ)ご心配なきよう』と言うのだが、何の事やら、俺にはさっぱり(わか)らぬ。君には、何か心当たりがあるのか?」

阿孫(アスン)のことだな〉

 いとも簡単に、世凰(シーファン)は納得してしまった。

 (あと)になって考え合わせてみれば、この時に、彼がまだ(パイ)()(メイ)(ミン)の運命の激変を知らなかったという事が、尼僧(にそう)(チュイ)(リン)の言葉に対する誤解を(しょう)じさせたのであるが、物事が食い違う時とはそういうものなのだろう。

 所詮(しょせん)世凰(シーファン)といえど人の子、致し方はあるまい。

 (フー)(ルン)(たず)ねられた彼は、(チョウ)阿孫(アスン)の身に起こった出来事を、(あま)さず彼に話してやった。

「なるほど・・ではあの尼僧(にそう)は、阿孫(アスン)の奥方の仮の姿だったのか。(フェイ)の一族、しかも頭領(とうりょう)の娘と聞けば、奔放(ほんぽう)な目の光も、身ごなしの(あざ)やかさも、いちいち納得がゆく。それにしても、あれほどの女を妻に迎えるとは、阿孫(アスン)の奴も、なかなかやるではないか!」

 してやったりとばかりに、大形(おおぎょう)(ひざ)を打って見せる(フー)(ルン)

 二人は楽しそうに声を立てて笑ったが、世凰(シーファン)には、今日の日までずっと、心に()かってならぬことがあった。

 で、彼はそれを口にしたのである。

「なあ、(フー)(ルン)。本当に(つら)いが、これだけは聞いておかねばならぬ。あの時に生き()びることが出来た者は、何人だったのだろう?」

「うん、そのことだが・・・」

 さすがの(フー)(ルン)も、(しば)しの沈黙を余儀(よぎ)なくされたようだったが、ややあって、重い口を開いた。

「ともかくも脱出できたのは、十一人だったと聞いている。だが、そのうちの五人は途中で…だから今生き残っているのは、君と俺を入れても、八人という訳だな」

「八人・・・そうか、気の毒な事をしてしまった・・・」

 世凰(シーファン)は、犠牲となった多くの朋友(とも)たちを思いやり、身を着られるような悔恨(かいこん)の情を禁じ得なかった。

 彼らは二人共、暗澹(あんたん)たる気分に沈み込み、声も無く項垂(うなだ)れてしまう。

「ところで世凰(シーファン)!」

 重苦しい気分を振り払おうと(フー)(ルン)が、努めて明るい口調で呼びかけ、顔を上げた世凰(シーファン)に向かってこう言った。

「残った仲間は皆、(すで)に傷も()えて、君が立ち上がる日を心待ちにしているよ。そして、また一緒に闘おうと意気(いき)(さか)んだ。もうじき彼らも、ここに集まって来るだろう!」

「ありがとう」

 世凰(シーファン)は、素直に頭を下げた。

「君たちの気持ちは、身に()みて嬉しい。どんな感謝の言葉も無力なくらいに、本当にうれしい!だが・・・」

「だが!?」

「だが、もうこれ以上、君たちに犠牲を()いる訳にはいかない!すべては、所詮(しょせん)(フェン)()私怨(しえん)に過ぎぬこと。この世凰(シーファン)の身一つで、行うべき事なのだ」

「君はまったく()って水臭(みずくさ)い奴だぞ、世凰(シーファン)!」

 (フー)(ルン)語調(ごちょう)は、思わず強くなっている。

「なるほど、我々は確かに赤の他人かも知れぬ。だがな、その他人である男同士の(きずな)というものが、しばしば血縁(けつえん)をも()()るのだと言うことを、世凰(シーファン)、君が知らぬ(はず)はあるまい!!我ら八名はもとより、死んで行った者たちもすべて、それによって結ばれ合っていたのではなかった?それだからこそ、彼らも笑って死ねたのではなかったのか!?ましてや、この(ヨン)(フー)(ルン)は、君と親友の(ちぎ)りを()わした仲。君のために死ねるのならば、まさに本望(ほんもう)だ!!」

「しかし、私は、もうこれ以上・・・・・」

 一人(いちにん)たりとも、朋友(とも)を死なせたくはない!!―世凰(シーファン)はそう言いたかったのだが、(フー)(ルン)は言わせなかった。

「この解らず屋め!!」

 語気が一段と激しい。

「いいか!言うまでもない事だが、どんなに(すぐ)れた人間であろうと、個人の力など、たかが知れたものだ。だが反対に、たとえ取るに足りぬ人間同士であっても、こころをひとつにし、一丸となって事にあたるならば、必ずそれ相応の、いや、時として思い()けぬほどの大きな力を発揮することも、(あなが)ち不可能とは言えまい。考えてもみろ、君は今、いわば(シュエン)朝そのものを敵に回しているのだぞ。仲間が多いに越したことはないではないか。それとも君は、自分を、強大な敵をたった一人で倒せるほど神に近い人間だと思っているのか!?自惚(うぬぼ)れるのも、いい加減にしろ!!」

 彼の言葉が終わらぬうちに、世凰(シーファン)(ほお)が、きっと紅潮(こうちょう)した。

自惚(うぬぼ)れてなどいない!!」

 純粋な怒りのために、その切れ長の()が、漆黒(しっこく)の炎となって燃え上がる。

 こういう時、彼の美貌(びぼう)は、言語を絶するまでの燦然(さんぜん)たる輝きを放ち、しばしば見る者を圧倒した。

 その間、(わず)か数十秒、という()()く短い時間ではあったにせよ、彼らは確かに(にら)み合った。

 けれども双方の目の中に、憎悪(ぞうお)の色はまるで無い。

 それぞれが相手の為を思う余りの(いさか)いであることは、互いに身に()みて、よく(わか)っていたからだ。

「なあ、世凰(シーファン)

 本来の(おだ)やかな口調(くちょう)に戻って、(フー)(ルン)が緊張の糸を切った。

「何も言わずに、我々の(こころざし)を受け入れて欲しい。そして力を合せ、事を()()げようではないか。それがひいては、死んで行った者たちへの(はなむけ)にもなると思うのだ。な、そうさせてくれ!」

 世凰(シーファン)も、もう逆らわなかった。

「よく(わか)った。改めて君たちの厚情(こうじょう)、この身にありがたく受けさせて頂く。よろしく頼む!」

 そう言って彼は、ちょっとはにかみながら謝った。

「済まなかった、(フー)(ルン)

「なあに、お互い様さ。俺の方こそ、ちいっとばかり言い過ぎちまった!」

 彼らの心に、再び温かいものが(かよ)い合う。

「そうと話が決まったところで、世凰(シーファン)、今度は君の話を聞かせてくれ!」

 (フー)(ルン)()われるままに、世凰(シーファン)は、今日までの経緯(いきさつ)を包み隠さず彼に語るのだったが、彼が許嫁者(いいなずけ)(パイ)(メイ)(ミン)の名を口にした時、(フー)(ルン)の表情が(にわ)かに(くも)ったのを、照れ臭さに(ほお)を赤らめて()し目がちに話す世凰(シーファン)は、少しも気づかなかった。


 その夜更(よふ)け―

世凰(シーファン)は目を閉じても少しも寝つくことが出来ず、まんじりともせずに(フー)(ルン)に背を向け、(わら)(むしろ)()いただけの(ゆか)に横たわっていた。

 思いもよらぬ(フー)(ルン)との再会にはじまって、彼と共に胸の内を語り尽くした興奮による神経の昂りが、まだ(おさ)まっていないのかも知れない。

今夜は(こと)(さら)に、忘れ得ぬ人々への様ざまな想いが、胸に去来(きょらい)し続けた。

亡き父や姉、阿孫(アスン)(リエン)老人、そして(パイ)民雄(ミンシオン)(メイ)(ミン)―。

(メイ)(ミン)!〉

 彼はひとしおの想いと共に、その名を叫ばずにはいられない。

 心中深く、(ひそ)やかにではあっても・・・果たして自分は本当に、あの(ひと)のすべてを、この腕で抱き取ってやれるのだろうか!?

 そういう日が、現実に訪れて来るのだろうか?

「うれしい!!」

 別れる日の朝、彼の愛の告白に一声叫ぶなり、無防備に体ごと胸に飛び込んで来た。

 いじらしい(メイ)(ミン)!!

 彼女の顔が、声が、何よりも、(たお)やかに熱いその体の感触が、心に焼き付いて離れない。

 せめてひと時なりとも()いてくれ、とまで口にしたあの(ひと)を、自分は指一本触()れてもやらずに、置き去りにしてしまった。

 もしかしたら、それは彼女にとって、この上もない(むご)い仕打ちだったのかもしれない。

世凰(シーファン)!お前はあの時、何故(なぜ)ためらった!?何を(おそ)れた!?〉

 今さらながらに、()やまれてならなかった。

 無性(むしょう)に、彼女が恋しい。

〈許して下さい!私は・・私は臆病(おくびょう)でした・・〉

 若い血の騒ぎに、(あや)うく身も心も(さら)われそうになり、彼は指を()む。

 強く強く、左手の薬指を()む。

 そして同時に、深い溜息(ためいき)もつくのだった。

 その時、ふと目覚めた(フー)(ルン)は、(かたわ)らで背を向けている世凰(シーファン)のまんじりともせぬ様子に気づいて『眠れないのか、世凰(シーファン)?』そう声をかけようとしたが、やめてしまった。

 何かしら、そっとしておいてやりたい気がしたからである。

 声を掛ける代わりに、(フー)(ルン)は、じっと彼の背を見つめた。

何処(どこ)まで運命に(もてあそ)ばれるのだろう、この男は!?〉

 もともとが細身である上に、少なからず着痩(きや)せもするその背中が、そう思って見れば、痛痛(いたいた)しいほどに華奢(きゃしゃ)で、また(はかな)い。

 (フー)(ルン)はとうとう、世凰(シーファン)に話しそびれてしまっていたのだ。

 彼が(ほお)()めて幸せそうに語ってくれた、妻となるべき(パイ)(メイ)(ミン)が、(シュエン)軍のために断崖(だんがい)から身を(おど)らせ、(みずか)らの命を()った、というその噂を・・・。

 それを世凰(シーファン)の耳に入れなかったことが、果たしてよかったのかどうか、(フー)(ルン)自身にも解らない。いづれ真実を知った時に彼が受けるであろう衝撃が、いかばかりのものであるか、想像もつかぬ。

 それを考えれば(あるい)は、今夜話しておいた方が(かえ)ってよかったのではないか、とも思うが、しかし、(フー)(ルン)にはとても言い出せなかった。

〈許してくれよ、世凰(シーファン)!気の毒にな・・・〉

 彼は、そっと胸中(きょうちゅう)で、世凰(シーファン)()びたのである。

 けれど、その(メイ)(ミン)が実は生きていて、ただひたむきに彼のあとを(した)い、苦難の旅路を(かさ)ねているということまでは、いかな(フー)(ルン)といえど、知る(よし)とてなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ