表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳳凰傳  作者: 桃花鳥 彌 (とき あまね)
18/37

《三》赤絲再逅(えにし ふたたび)-5-

その時、不覚にも世凰(シーファン)はその侵入に気づかず、寝台の上で浅い眠りに微睡(まどろ)んでいた。

 ふいに身辺に忍び寄って来る気配(けはい)を感じて思わず飛び起きた時には、すでに相手は寝台の脇近くに、ひっそりと(たたず)んでいた。

 殺気(さっき)は全く感じられなかったが、もしもこれが刺客(しかく)であったなら、彼の命はとうに無かったであろう。

〈何たる()()だ、世凰(シーファン)!!〉

 (おのれ)の拳士としての確実な(おとろ)えに愕然(がくぜん)とした世凰(シーファン)は、同時に突き放した自嘲(じちょう)をも、我が身に()びせかけるのだった。

 侵入者は、音も立てずにさらに近づくと、(とこ)の上に半身(はんしん)を起こした世凰(シーファン)の前に(ひざまず)き、一礼して覆面(ふくめん)を取った。

 まだ若い、野性味(あふ)れる美女である。

「お久し振りでございます、(フェン)様!」

 ことさら感情を押し殺し、冷たく()え渡る美貌には全く見覚(みおぼ)えはなかったが、(すず)やかなその声音(こわね)に、確かに聞き覚えがあった。

「あなたはもしや、(リェン)小父上(おじうえ)の屋敷でお会いした方では!?・・・」

(おぼ)えていて下さいましたか!(うれ)しゅう存じます」

 押さえた声音(こわね)に女心がちらりと(のぞ)いて、(わず)かに彼女の表情が(やわ)らいだ。

 言うまでもなく、(ウー)(チュイ)(リン)である。

斯様(かよう)な御無礼の振舞(ふるまい)を、お許し下さいませ。正面からでは、とてもお目通り(かな)うまいと存じましたゆえ」

 相変わらずの歯切れの良さで、彼女は非礼を()びた。

「やはり、あなたでしたか!あの折りの厚情、私は決して忘れてはおりません。今改めて、あなたに御礼申し上げねばならない」

 世凰(シーファン)は、素早く寝台から降り立ち、彼女に向かって丁重に頭を下げた。

 (ろく)に礼も言わずじまいだったあの夜のことが、心の片隅に、ずっと引っかかっていたのである。

「そのようなことなさいますな、(フェン)様!」

 (チュイ)(リン)は、即座に彼を押し(とど)めた。

「それならば、(わたくし)の方が余程(よほど)に、あなた様へお礼申し上げねばなりませぬ」

 だが、その詳細は()えて語ろうとはしなかった。

「申し遅れました。(わたくし)(フェイ)の頭領・(ウー)(チェン)(クン)の娘にて、(チョウ)改め(ウー)阿孫(アスン)の妻・(チュイ)(リン)と申します」

 彼女は改めて名乗りを上げ、それに(ともな)驚愕(きょうがく)の事実をも、彼に伝えた。

 世凰(シーファン)は息を()んだ。

「あなたが阿孫(アスン)の!?では、では阿孫(アスン)は・・・生きているのですね!?」

 彼は我知らず、自分も(チュイ)(リン)のすぐ側にしゃがみ込み、その肩に手まで置きながら、()き込んで(たず)ねた。

 まるで無意識のうちの行動であったとは言え、人妻の身でありながら命()けて恋()がれる男の顔を間近に見、吐息(といき)()れ、さらに、その体温をも感じ取ってしまった(チュイ)(リン)の胸中たるや、果たしていかばかりのものであったろう!?

〈抱かれたい!!このひとに・・・ただ一度だけでよいから!〉

 突如として身の内に()き立った女の激情に、さしもの彼女としたことが(あやう)く押し流されそうになり、ほんの一瞬、目を伏せた。

 しかし、すぐに()(ひょう)のように光る双眸ひとみを上げた彼女は、きっぱりと答えたのである。

「はい!御安心下さいませ。我が夫・阿孫(アスン)は、確かに存命しております」

 そして(チュイ)(リン)は、(フェン)家焼き打ちの際、世凰(シーファン)(あと)を追う(はず)が、予想だにせぬ成り行きで阿孫(アスン)を救うに至ったこと、彼の大方(おおかた)の回復を待って、共に千江(チェンチァン)郡に立ち戻り、阿孫(アスン)を見込んだ父のたっての(すす)めで、一月前に彼と夫婦(めおと)(ちぎ)りを結んだことなどを、手短に話して聞かせた。

「そうだったのですか・・・」

 世凰(シーファン)は深く感じ入り、大きく嘆息(たんそく)した。

 まさに(くす)しき因縁(いんねん)、と言わねばなるまい。この(チュイ)(リン)という女がどんな事情で、緋賊(フェイツェイ)とはいえ、仮にも豪族の娘の身から妓女(ぎじょ)にまで落ちたのかは知らぬが、その彼女が、世凰(シーファン)仇敵(きゅうてき)(かか)わる情報をもたらしただけでなく彼の命も救い、さらに阿孫(アスン)をも救って、その妻となったとは!

 人の世の(えにし)というものは、かくも不可思議で、また、(あや)深きものなのであろうか?

 世凰(シーファン)の心情を知ってか知らずか、(チュイ)(リン)は再び()()えとした表情に戻り、(ふところ)から一通の分厚い書状を取り出して、彼に手渡した。

「本日まかり越しましたのは、(ひとえ)に、夫・阿孫(アスン)よりのこの書状をお届け致すためにございます。御返事はいりませぬゆえ、何卒(なにとぞ)御一読頂きますように」

 そして彼女はすっくと立ち上がった。

「無事役目を果たしました上は、長居(ながい)は無用。これにて御免(こうむ)りまする。御身(おんみ)(くれ)ぐれもお(いと)い下さいませ。いづれまた、必ずお目にかかります」

 (チュイ)(リン)はあくまでも事務的にそう言い残して立ち去ろうとした。

(チュイ)(リン)殿、と申されましたね。あなたには、まことに何とお礼を申し上げてよいか解らぬ。この上ながら阿孫(アスン)のこと、どうかよろしくお頼み致します」

 心からの謝意と願いを()めて、世凰(シーファン)は再び、低く(こうべ)を垂れたのだった。

「どうぞお顔をお上げになって、世凰(シーファン)様!・・・」

 (チュイ)(リン)の声はなぜか、先程までとは打って変わった女らしいものになっている。

「この(チュイ)(リン)はあの()、命よりも大切なものを、あなた様にお救い頂きました。あなただけは・・・あなた様だけは、いつの日も気高(けだか)く誇り高く、そのお顔を上げていて下さいませ!」

 訴えるように彼を見つめた()がしっとりと濡れて、このところ、ひどく敏感になっている世凰(シーファン)の心の琴線(きんせん)に、何かが(かす)かに()れた。

(チュイ)(リン)殿!?」

 彼は(チュイ)(リン)()から、その『何か』を読み取ろうとしたが―その作業は、彼女の次の言葉で、永久に中断されることとなったのである。

「あの方を・・大切になさって下さいませ。先ほど厨房(ちゅうぼう)にて、一心に、あなた様のための薬湯(やくとう)(せん)じておいででした。まこと、あなた様にふさわしき御方と、お見受け致しましてございます」

(メイ)(ミン)のことを言っているのだ!〉

 そう思った途端(とたん)世凰(シーファン)(たちま)ちにして身も世もなく狼狽(ろうばい)し、(チュイ)(リン)の心を(さぐ)るどころか、(むし)ろ彼自身の胸の内を、彼女に露呈(ろてい)する破目(はめ)になってしまった。

 (ほお)が、首筋が、自分でも(あき)れるくらいの速さで紅潮してゆくのが良く解る。

 その様子を見守る(チュイ)(リン)の、女の感情が複雑に交錯(こうさく)する表情さえも、彼の目にはまるで入らなかった。

 (ウー)(チュイ)(リン)が、一陣(いちじん)の風となって窓から去って行った(あと)に、(ほど)無く、薬湯(やくとう)(ささ)げ持って(しつ)に入って来た(メイ)(ミン)は、寝台の側で真っ赤になって立ち尽くしている世凰(シーファン)を見つけ、一体どうしたのだろう?と、首を(かし)げたことだった。


 (メイ)(ミン)の父・(パイ)民雄(ミンシオン)は、一介(いっかい)の地方豪族ではあったが、なかなかに剛直(ごうちょく)気性(きしょう)の持ち主で、そのうえに義侠の気風(きふう)をも(あわ)せ持った(ひと)(かど)の人物であった。

 それゆえ、一人娘の(メイ)(ミン)がお(たず)ね者として(シュエン)軍に追われる(フェン)世凰(シーファン)という若者を(ハイ)(フォン)山の山荘に(かくま)っている、という報告を家臣の一人から受けた時も、多少驚きはしたものの、(かえ)ってその家臣に向かって(かた)く口止めしたくらいである。

「そのまま、そっとしておくがよい。決して、騒ぎ立ててはならぬぞ。他言(たごん)も無用じゃ!」

 以前、娘が(あやう)いところをその若者によって救われ、どうやら事無きを得た経緯(いきさつ)を、彼はついぞ忘れることなく、深い恩義に感じていたからだ。

 そのような正義感(あふ)れる若者が何故(なぜ)謀反人(むほんにん)』などと呼ばれて追われるに至ったのか、彼には少なからず、納得出来かねるものがあった。

 そこで民雄(ミンシオン)は、多くの人材を動かして手広く情報を()き集め、そのあたりの事情を詳細にわたって調べ上げてみた。

 その結果、(フェン)世凰(シーファン)は全くの潔白であり、奸物(かんぶつ)共のために()(ぎぬ)を着せられているに過ぎぬ、と判明して、彼は大いに憤慨(ふんがい)したのである。

 さらに彼は、細やかな情報活動の副産物として、若者の(たぐ)()れな逸材(いつざい)振りをも、(あわ)せて知ることとなった。

 こうなると断然、民雄(ミンシオン)としては、この不遇(ふぐう)の貴公子を放っておくことが出来なくなった。

 彼は何度か山荘を訪れ、回復途上にある世凰(シーファン)を見舞いかたがた、彼と語り合った。

 そしてますます、深みに(はま)った。

 その絶世の美貌もさることながら、彼の持つ内面の素晴らしさが、民雄(ミンシオン)を圧倒したのである。

 ()かる状況にあってさえ少しも(そこ)なわれぬ(まぶ)しいほどの貴質を、侠気(きょうき)(たた)えて躍動(やくどう)する熱い血の激しさを、()(あた)りにして思い知るにつけ、彼はこの若者の存在すべてに、もうぞっこん、()れ込んでしまったのだった。

 それ(ばか)りか、民雄(ミンシオン)は、娘・(メイ)(ミン)の恋まで知った。

 彼が掌中(しょうちゅう)(たま)の如く愛してやまぬ一人娘は、こともあろうに、世にも(まれ)なる(すぐ)れた若者を『初恋(・・)』の相手に選んだのである。

 今年ではや二十四になろうかという彼女にとって、余りにも遅すぎる初恋の(おとず)れではあったが・・・。

〈それも、よかろう〉

 民雄(ミンシオン)は思った。

 (メイ)(ミン)はこれまで、ずっと『男嫌い』で通っていた。

(パイ)家の(ひい)様は、変わり者よ。殿御(とのご)()れると、総毛(そうけ)()つそうな!』などと人に噂もされ、彼女自身もまた『私は一生、お嫁などにはまいりません。いつまでも、お父様のお側に置いて頂きとうございます』そう公言して(はばか)らぬ、そんな娘であった。

 その(メイ)(ミン)が今、ひょっとしたら命をも()けて、一人の青年に恋()がれている。

 民雄(ミンシオン)はそこに、(じん)()では計り知れぬ、稀有(けう)(めぐ)り合わせを感ぜずにはいられないのだ。

―もしや、宿縁とでも呼べるものではあるまいか?―

 (フェン)世凰(シーファン)という若者に(めぐ)()うために、(メイ)(ミン)は我知らず、一人として男を寄せつけようとせぬ『男嫌いの、風変わりな娘』を通し続けて来たのではなかったか?

 彼女の夫となるべく運命が定めた、この世でたった一人の男―それが、もしも本当に彼であるのなら、娘にとって、また父親にとっても、どんなに喜ばしいことだろう!!

 年齢的には、確かに(メイ)(ミン)よりも二才下、それだけを取ってみればs、双方どちらかの()い目であると言えなくもない。

 だがしかし、娘の将来を(たく)すには充分すぎるほど充分な逸材(いつざい)ではあった。

 実に手前(てまえ)勝手(がって)で、はたまた思い込みも(いちじる)しいこの期待に、民雄(ミンシオン)は、我ながら苦笑してしまったのだが、やはり心のどこかに、捨てきれぬ望みとして持ち続けている。

 娘を思う、ごく当然の親心だった。

 けれども彼は、世凰(シーファン)に対して一度もその話題を持ち出したことはなかったし、これからも決して、そうしようとは思わない。

 もしも万一、そういう(えにし)を持って生まれついたものならば、周囲であれこれと騒ぎ立てるまでもなく、自然の成り行きで結ばれもしようし、又、そうでないなら、(メイ)(ミン)には何とも不憫(ふびん)だが『ゆきずりの(かた)(こい)』で終わるであろう・・・。

 (こと)に、今の世凰(シーファン)大望(たいもう)を抱く身、このようなことで彼の心を乱してはならぬ。

 民雄(ミンシオン)は、娘のたに何もしてやれぬ歯痒(はがゆ)さ、もどかしさに大いに苛立(いらだ)ちながらも、黙って彼らを見守ろうと決心したのだった。

 

 (パイ)家の山荘に身を寄せてから三月(みつき)余り、やがて、夏もその終わりを迎えようとする頃には、世凰(シーファン)の傷は、もう完全に()えていた。

 先日、(チュイ)(リン)がもたらした阿孫(アスン)の書状には、(いま)わしいあの日から今日(こんにち)に至るまでの、彼自身の運命の変遷(へんせん)とその心情(しんじょう)とが、こと(こま)かに(つづ)られていた。

 (フェン)家と世凰(シーファン)への不忠(ふちゅう)()び、いつの日か、世凰(シーファン)が見事、本懐(ほんかい)()げんことを(せつ)に願い、その折には必ずや、命を()しても()(さん)じんとの決意が誠心誠意吐露(とろ)された文面は、世凰(シーファン)の胸の奥までじんと()み通り、深い溜息(ためいき)すら()れさせた。

 忠義心(あつ)()(スン)は、傷ついた身で、いつの日も彼の安否(あんぴ)気遣(きづか)い続け、妻・(チュイ)(リン)の助けを借りてようやくその消息を(つか)み得るや、(ただ)ちに書状を届けさせたのであろう。

 阿孫(アスン)のいる(チェン)(チアン)は、遠い北の果てだった。

阿孫(アスン)よ。もう私のことなどは忘れて、そなたはそこで、(チュイ)(リン)殿と静かな余生(よせい)を送るがよい・・・」

 (はる)かなる阿孫(アスン)に向かって、世凰(シーファン)は、心からそう語りかけずにはいられなかった。

 彼は心中(しんちゅう)近々(ちかぢか)(パイ)家を去ることを決意していた。

 だが、旅立つその前に、ぜひともしておかねばならぬことがある。

 今日(きょう)の日まで、彼が悶悶(もんもん)と悩み苦しみ、それでもなお断ち切れぬ思いを確認して、改めて心に誓った()()(ひと)への愛を、伝えねばならない。

〈あなたが好きです。(メイ)(ミン)殿。多分、あなたも私を・・・そう信じても、いいですよね!?〉

 翡翠(ひすい)(かんざし)由来(ゆらい)について先日語って聞かせた時、彼女の表情はおろか、全身をまで()たした深い安堵感(あんどかん)を、みるみる瞳に()き上がった涙の美しさを、彼は忘れない。

 そして何よりも―世凰(シーファン)は、あの日自分が演じてしまった不様(ぶざま)(きわ)まる狂態を、薄々(うすうす)記憶していた。

 思い出すのもおぞましい悪夢に(さいな)まれ、心身共に、ありとあらゆる恥部(ちぶ)(さら)け出してしまったであろう我が身を、(メイ)(ミン)は温かいその胸で、丸ごと受け止めてくれたに違いないのだ。

〈あれは確かに、彼女だった!〉

 けれど彼女は、一言(ひとこと)も、何も語ろうとはしないし、侍女たちに聞き出そうとしても、(メイ)(ミン)に堅く口止めされているらしくて、何も()らしてはくれない。

 そうまでして、自分の名誉を守ってくれる(メイ)(ミン)

 しかも、決して気持ちを押し付けようとはせず、ただ黙って側にいる・・・。

『一緒に生きたい。生きて欲しい!』

 もしも、そう告げたなら、彼女は何と答えるのだろう?

〈私には、あなたしかいない!だからせめて、この想いを伝えて()きたいのです。そして、(かな)うものならば、(メイ)(ミン)、いつの日か、あなたを我が妻に!!・・・〉

 しかし、()るぎないその想いの一方で、いざ自分の身の行末(ゆくすえ)を思う時、世凰(シーファン)の心は()れるのだ。

 よしんば首尾(しゅび)よく本懐(ほんかい)()げたとしたところで、その(あと)は!?・・・生涯追われる身となるであろう我が運命に、この先、安息(あんそく)の日々が(めぐ)って来るとはとても思えない。

 そのように過酷(かこく)な渦の中に(メイ)(ミン)を巻き込むことが、果たして、彼女にとっての幸せと言えるのだろうか?

 けれども、彼の激しい恋心は、当然自らに課すべき分別(ふんべつ)すら飛び越え、猛然と()け出してしまった。

 若さは純粋、()つエネルギッシュだ。

 さらにその上、少なからず自分勝手でもある。

 それが恋愛(こい)ならば、なおのこと。

 必ずしも相手にとっての幸せにはつながらないと頭では解っていても、所詮(しょせん)(ほとばし)る情熱の前に理性など無力、(さえぎ)るものは、すべて敵!

 困難が大きければ大きいだけ、(かえ)って(ふる)い立ち、満身(まんしん)創痍(そうい)となろうとも、ひたすら愛する者を求めて突き進まずにはいられないのだ。

 世凰(シーファン)とて、同じであった。

 心を決めた彼は、亡き姉に向かってこう語りかけた。

(ねえ)さま!今こそ、世凰(シーファン)は旅立ちます。あなたと父上の御無念をこの手で晴らし、見事、本懐(ほんかい)()げるために!

そして、あなたが生前(せいぜん)、そう望んで下さったように、一人の男として―姉さま、あなたからも!・・・」

〈ひとまずは、胡北(フーペイ)郡に身を隠そう〉

 彼はそう思っていた。

 二日後、世凰(シーファン)は、(メイ)(ミン)にだけ行き先を告げると、(チュー)(リン)(パイ)民雄(ミンシオン)に会うため、人知れず山荘を(あと)にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ